5.0
未知の画家の素晴らしい作品群
これまで「甲斐荘楠音」という名も、「かいのしょうただおと」という難しい読みも知りませんでした。でもポスターで見る絵は記憶にあります。調べて見ると、2021年に東京国立近代美術館で開催された「あやしい絵展」のポスターを飾ったのが甲斐荘楠音の作品でした。何かあやしげな絵を描く画家なのだろうとの予備知識で観に行きましたが、会場に並べられている作品の素晴らしさに驚きました。確かに描かれた女性は妖艶なものもありますが、写実を重視する画力のある画家であることが分かります。こんなうまい画家の名があまり知られていないのはなぜでしょうか。パンフレットには1940年頃に画業を中断し映画業界に転身したことがその原因と描かれています。
会場の後半には映画で使われた衣裳とポスターがずらっと並んでいました。後期高齢者の私が子供の頃に熱中していた東映時代劇の衣裳制作に彼が携わっていたことを初めて知りました。若い人は名も知らないでしょうが、あの大俳優市川歌右衛門が旗本退屈男シリーズで纏っていた衣裳が並べられています。シリーズの前半はまだ白黒フィルムのはずですが、こんな絢爛豪華な衣裳で演技していたのですね。
衣裳もすばらしいのですが、映画のポスターに魅入ってしまいました。東映時代劇のスター男優の名と、大川恵子、桜町弘子等の憧れの「お姫様女優」の名を思い出しました。今の人には全くわからないレトロな思い出です。
最後に飾られていたのは、晩年に画業に復帰してからの「虹のかけ橋」と未完の大作「畜生塚」です。大げさかもしれませんが、「畜生塚」はピカソの「ゲルニカ」級の感動作品です。未完に終わったのは残念ですが、今回この絵が観られて良かったです。