甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性
東京ステーションギャラリー|東京都
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あやしさだけではない甲斐荘楠音の魅力
甲斐荘楠音についてあまり詳しくはなかったものの、一度生で見てみたいと常から思っており、この度25年ぶりの大回顧展が開かれると知りとても楽しみに伺いました。結果、期待以上の素晴らしい展覧会でした。
気になっていた『横櫛』は新旧二点並べての展示で一緒に鑑賞できるようになっていたり、デッサンと完成した絵が一緒に展示されている作品があったり、モデルの写真(中には甲斐荘自身がモデルとなったポートレート写真もあった)と作品がともに展示されていたりして、どのように作品が形作られるのか、制作過程を垣間見られる展示方法が非常に興味深かったです。
またスクラップブックや歌舞伎を見に行って書いたスケッチ、甲斐荘が仲間とともに女装して撮影したポートレート作品たちも興味深く、天才甲斐荘の芸術の源をのぞき見た気がしました。
特に印象的だった『横櫛』や『花宵』『舞ふ』などの婀娜っぽくて妖しげな、美しさだけではない女性たちの心の内に巣食う暗い部分までも表現した作品が、強い魅力を放っていてその場に立ち尽くしてしまいました。今も心を囚われているような気さえします。
またポスターになっている『春』の女性の物憂げでみずみずしさも感じる表情が特に好きで、ポストカードを購入しました。デロリな絵だけではなく、このように美しく魅力的な作品もたくさんありました。
それとあまり期待していなかった甲斐荘が手掛けた時代劇衣装が思いのほか面白く、長時間見入ってしまいました。美術品として飾られるにふさわしい衣装たちが、甲斐荘の舞台美術家としての仕事がいかに素晴らしいものであったかを物語ってくれていました。
最後に展示された『虹の架け橋』『畜生塚』八曲一隻屏風は言い表すことのできない感動がありました。またその制作年数の長さに驚き、長年筆を入れ続けた甲斐荘の胆力や衰えることのない芸術への情熱に心が熱くなりました。
甲斐荘の絵は、人間の内に秘める様々な側面を表現することで、人の一生や、大正デカダンスの空気までも感じることのできる素晴らしい作品群でした。
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