清酒発祥の地、奈良の老舗酒蔵を改修した
「NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち」で建築美と美酒に酔う
アート&旅 | HOTEL SELECTION VOL.07

構成・文:森聖加
710年の平城京遷都に伴い、飛鳥から都へ移された最初の寺院である元興寺(がんごうじ)。もとはその境内である「ならまち」は、今なお江戸から大正にかけての街並みが残るエリアだ。特に格子が印象的な町家が目を引く。奈良観光の中心として多くの人が訪れる興福寺、東大寺、春日大社などの寺社のみならず、奈良国立博物館という仏教美術好きには外せないスポットが点在する奈良公園は、目と鼻の先。風情がありながら、アクセスのよいロケーションに「NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち」はある。かつて地域には、春日大社から流れる水脈に沿っていくつもの蔵元が並んでいたといい、その家屋のひとつを再生させたのがこの宿。清酒誕生の地という奈良で、日本家屋の美しさと日本酒を存分に味わう旅に出た。

趣の異なる全8室。庭を愛でながらの滞在も
「NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち」は、明治元(1868)年創業の酒蔵、奈良豊澤酒造の日本家屋と蔵を改修し誕生した、世界初の、日本酒をテーマにした“SAKE HOTEL”だ。奈良豊澤酒造は昭和10(1935)年に移転するまでこの地で酒造りを行い、現代の名工・但馬杜氏が醸す酒を東大寺や春日大社をはじめ多くの寺社に奉納してきた。



ホテルの客室は酒米を保管していた蔵や、蔵元の家族が暮らしていた母屋、茶室を改修しているので、一つとして同じ間取りはない。趣の異なる8つの部屋がそろい、回を重ねての滞在も楽しめるようになっている。運営会社のバリューマネジメントが常に目指すのは、文化を紡ぐこと。そのため、ホテルに活用する歴史的建造物が最も輝いていた時代の暮らしや文化をゲストに楽しんでもらえるようにと、当時の人の息づかいや暮らしが見える建物、客室のデザインを大切にしている。「NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち」でも伝統的な日本家屋のしつらえを最大限に残しつつ、宿泊施設としての快適性を高めるために必要箇所にとどめる形で改修が行われた。

たとえば、もとは応接間として使われていた「103 KINOE」は、和室と板間がひと続きになった段差のないフラットなつくりの特別室。通り庭をのぞむ縁側には歩くとキュキュと音がする鶯張りの床が残され、室内の欄間も当時のままを引き継ぐ。現代の住宅では出会うことの少ない、欄間に施された松と鶴の彫り物に目を見張るばかり。すべての客室の冷蔵庫にインクルーシブでドリンクがセットされているので、「103 KINOE」や「104 TUTINOTO」など庭に面した客室では、夕食までの時間、日本酒をアペリティフにしながら贅沢なひとときを持つことができる。




一方、「101 HINOTO」は蔵を改装した客室で、その特徴である重厚な、漆喰の扉がゲストを迎える。1階にバスルームとリビング、2階が太い梁を活かしたベッドルームがある。2階へは昔ながらのはしご階段で上がり、ちょっとしたエンタテイメントのような体験も楽しめる。
1階にバスルームのある客室タイプでは檜風呂を設置。また、すべての客室に奈良豊澤酒造の酒粕が用意されていて、バスタイムは保温効果と美肌効果の高い酒粕風呂でゆったりと。ヒノキと日本酒の甘い香りに包まれながらの入浴で、心も身体もスーッとほぐれていく。日本酒をさまざまな形で味わい尽くせるようにしたもてなしが、細かなところに用意されているのだ。
奈良豊澤酒造の代表銘柄とともにフレンチと日本酒のペアリングを楽しむ
夕食は併設の「レストラン LE UN(ルアン)」でいただく。かつての酒蔵の通り土間で、台所として煮炊きに使われていた場所を改修した。吹き抜けの開放的な空間には太い梁が走り、壁には焼杉の板が張られて、ここでも日本の伝統的な家屋デザインが楽しめる。

系列ホテルのなかで唯一、カウンターキッチンをそなえる食の場で提供されるのは、「日本酒とのマリアージュ」がテーマの創作フレンチのコース。イタリアンを学び、フレンチに転向したシェフの技を間近に見、ときには会話も交わして、香りや音ともに五感で楽しむディナーだ。


コースは小前菜の盛り合わせにはじまって、パスタ、魚料理、肉料理、デザートにいたるまで地産地消の食材にこだわる。大和五条 てふファームから届けられる大和野菜や、大和牛、大和ポークといった奈良の食材をふんだんに用いながら、いずれの皿にも奈良豊澤酒造の日本酒や酒粕を巧みに取り入れて、独自の世界観をつくりだしている。料理はぜひ日本酒とのペアリングで楽しみたい。酒はもちろん、奈良豊澤酒造からのセレクト。代表銘柄、豊祝(ほうしゅく)にはさまざまなシリーズがあり、レストラン限定の酒も。
この日のメニューでは、フランス産の青カビチーズ、フルムダンベールを用いた新ジャガイモのニョッキには豊祝万来(ほうしゅくばんらい)、大和牛のローストには個性派の酒米、備前雄町を用いたパンチのある豊祝といった具合だ。日本酒は初めてという人や少量をいくつか楽しみたい人には、飲み比べのメニューもあるから気軽にトライすることもできる。春のメニューの締めは、奈良県特産のイチゴをくるっと巻いていただく苺大福。食と語らいのひとときはゆったりと過ぎていく。

ホテル、レストランともにゲストとの距離が近い“ほっこり”サービスを提供
茶粥と、粕汁と。大和食材を活かした料理で目覚める朝
「口福」に満たされて目覚める翌朝は、奈良の伝統郷土料理である茶粥ではじまる。「大和の朝は茶がゆで明ける」と言われてきたように、1200年も前から茶粥は僧侶の食事として奈良で食べ継がれてきた。ほうじ茶で炊いたお粥でスタートしたあとは、奈良県産 ひのひかりと古代米を混ぜた雑穀ごはんのほか、卵焼き、おぼろ豆腐など奈良の食材を活かした身体にやさしい献立が並ぶ。朝食でも奈良豊澤酒造の酒が素材として盛り込まれており、特に酒粕を使った「粕汁」が風味豊かで心までほかほかと温まる。

ホテル滞在の中でたっぷりと日本酒を体験できるホテルだが、蔵と日本酒についてのストーリーを深く知りたいゲストには、奈良豊澤酒造の酒蔵見学を体験することもできる(要予約)。まちの歴史や文化を深く知ることで、奈良の芸術体験もまた異なる目で捉えられるようになるはずだ。
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NIPPONIA HOTEL奈良ならまち| NIPPONIA HOTEL NARA NARAMACHI
ADDRESS 〒630-8345 奈良県奈良市西城戸町4
TEL 0120-210-289 (VMG総合窓口 11:00~20:00)
https://www.naramachistay.com/access/
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