FEATURE

ルーヴル・ランスからアンリ・マティス美術館まで
アートで巡るオー・ド・フランス地方

パリから1時間、訪ねてみたい北部フランスの珠玉のアートの目的地。「ルーヴル・ランス」、「リール美術館」、
「ラ・ピシーヌ」、「オルティヨナージュ・フェスティバル」、「コンデ美術館」、「アンリ・マティス美術館」

アート&旅

2024年12月に全面リニューアルしたルーヴル・ランス「時のギャラリー」の展示風景。
ポール・ドラローシュ《若き殉教者》1855年(左)、コンスタンス・マリー・メイヤー・ラマルティニエール《幸福の夢》1819年(右)に加え、南アフリカ出身の現代アーティスト、ザネレ・ムホリのブロンズ彫刻作品《ムホリV》(手前右)2022年が「眠り、夢、死の三部作」として競演するコーナー。©Louvre-Lens Frederic Iovino
2024年12月に全面リニューアルしたルーヴル・ランス「時のギャラリー」の展示風景。
ポール・ドラローシュ《若き殉教者》1855年(左)、コンスタンス・マリー・メイヤー・ラマルティニエール《幸福の夢》1819年(右)に加え、南アフリカ出身の現代アーティスト、ザネレ・ムホリのブロンズ彫刻作品《ムホリV》(手前右)2022年が「眠り、夢、死の三部作」として競演するコーナー。©Louvre-Lens Frederic Iovino

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構成・文:藤野淑恵

ルーヴル美術館初の別館として2012年に開館した「ルーヴル・ランス(Musée du Louvre Lens)」。「時のギャラリー(Galerie du Temps)」の斬新な展示方法や詩情あふれるSANAA建築の評判に心を躍らせながらも、未だ訪問を実現できていない人は多いのではないだろうか。私もその一人だ。
シャンパーニュ地方の大聖堂のあるランス(Reims)ではなく、かつて炭鉱産業で栄えた後に衰退した北の街ランス(Lens)。初めて聞いた時はイメージさえ思い描けなかったその場所が、必ず訪れたい美術館のある街としてウィッシュ・リストに加わったのは、オープン間もない頃。SANAAの西沢立衛が語るルーヴル・ランスのコンセプトや魅力に触れる機会を得たときだっだ。

SANAAの代表作にあげられるルーヴル・ランス。アルミで仕上げられた外壁に、ランスの空と景観が風景画のように柔らかに映し出される。© 2024 Musée du Louvre-Lens Manuel Cohen
SANAAの代表作にあげられるルーヴル・ランス。アルミで仕上げられた外壁に、ランスの空と景観が風景画のように柔らかに映し出される。© 2024 Musée du Louvre-Lens Manuel Cohen

ルーヴル・ランスだけじゃない。オー・ド・フランスに点在する魅力的なアート・ディスティネーション

パリから電車で北へ1時間、ブリュッセルからはわずか35分、ロンドンからはユーロスターで1時間20分のアクセスというオー・ド・フランス地方は、ヨーロッパ北部の交通と文化の中心に位置する。「オー(Hauts)」とはフランス語で「高み、上方」の意味。まさにフランスの「上方」にあるこの地方は、リールとアミアンという2つの都市を中心に、史跡と現代建築、チーズやシャルキュトリーなどの地域の食、独自のビール文化、豊かな自然と壮大な景観など、フランスの他の地方とは一味異なる独自の魅力を持つエリア。そしてその魅力の真髄ともいえるのが、各地に点在する美術館などのアートスポットだ。

フランス観光開発機構の主催で先頃開催されたオー・ド・フランス(Hauts-de-France)地方の発表会には、来日したルーヴル・ランスのアナベル・テネーズ館長が登壇。オープンから時を経てさらに充実度を増したことを知り、その思いはさらに強いものになった。さらに、この地方にはランス以外にも珠玉のアートの目的地が点在するという情報も得た。ここではルーヴル・ランスを含め、新たに私のウィッシュ・リストに加わったオー・ド・フランス地方のアート・ディスティネーションをご紹介しよう。

ルーヴル・ランスの中心を占める展示室「時のギャラリー」。古代から現代に至る5000年の芸術の歴史を辿る。2024年12月に展示作品が全面的にリニューアルされた。©Manuel Cohen
ルーヴル・ランスの中心を占める展示室「時のギャラリー」。古代から現代に至る5000年の芸術の歴史を辿る。2024年12月に展示作品が全面的にリニューアルされた。©Manuel Cohen

建築ユニットSANAAの代表作のひとつ。 ランドスケープと一体になったルーヴル・ランスの魅力

今日、オー・ド・フランス地方のアート・ディスティネーションを象徴する存在は、2012年に開館したルーヴル美術館の別館、ルーヴル・ランスだ。かつての石炭採掘場に建てられたこの美術館は、ユネスコ世界遺産にも登録された「ノール・パ・ド・カレの炭田地帯」の再生プロジェクトの一環として誕生した。設計を手がけたのは妹島和世と西沢立衛による日本の建築家ユニットSANAA。

この地方特有の灰色の静かな自然光が、ルーヴル・ランスの壁面に周囲の風景を幻想的に映す。©muse du Louvre-Lens – Philippe Chancel
この地方特有の灰色の静かな自然光が、ルーヴル・ランスの壁面に周囲の風景を幻想的に映す。
©muse du Louvre-Lens – Philippe Chancel

ゆるやかな敷地の勾配に沿うように建つ地上1階、地下2階の低層建築には、太陽高度が低いこの地域独特の静かな光が反射する。妹島和世はこの光の美しさをフェルメールの絵画に例えた。アルミニウムの外壁とガラスにランスの風景が映り込む建築は、ランドスケープと一体となって息づいているかのようだ。「降り注ぐ自然光を浴びながら建物内部の緩やかなスロープを歩いていると、まるで森の中にいるような感覚になる」――かつてインタビューで妹島はそう語っている。

ルーヴル・ランスの建築は日が暮れると昼とは異なる表情を見せる。©musee du Louvre-Lens  Frederic Iovino
ルーヴル・ランスの建築は日が暮れると昼とは異なる表情を見せる。©musee du Louvre-Lens Frederic Iovino

2024年に全面刷新した「時のギャラリー」。 特別展示室では企画展も開催される

ルーヴル・ランスの心臓部であり、そのアイデンティティを象徴するのが「時のギャラリー」。壁の区切りのない約3000平方メートルの空間には、古代から近代に及ぶ美術作品が展示されている。紀元前4千年紀の文字の発明から始まり、20世紀までの作品群で巡る展示構成は、「美術史の流れ」を体感するものだ。

2024 年 12 月、「時のギャラリー」はルーヴル・ランスの開館以来初となる大規模な展示替えを行い、全面的にリニューアルされた。新たに国立考古学博物館、ケ・ブランリ=ジャック・シラク美術館、国立ギメ東洋美術館からの特別貸与された国有コレクション、さらに 7名の現代アーティストの作品も加わり、先史時代の作品から現代の視点まで、時系列的にも地理的にも幅広く網羅された 250 点の作品が公開されている。

フランシスコ・デ・ゴヤ《ルイス=マリア・デ・シストゥエ・イ・マルティネス(1788‐1842年)の肖像》©Musee du Louvre Dist GrandPalaisRmn – Philippe Fuzeau
フランシスコ・デ・ゴヤ《ルイス=マリア・デ・シストゥエ・イ・マルティネス(1788‐1842年)の肖像》
©Musee du Louvre Dist GrandPalaisRmn – Philippe Fuzeau

ルーヴル所蔵のマスターピースと現代アート。新たなアプローチの展示も

新しく展示された作品の中には、フランシスコ・デ・ゴヤの《ルイス=マリア・デ・シストゥエ・イ・マルティネス(1788‐1842年)の肖像》もある。青い服を着て犬の紐を持つ、通称《青い服の子供》とも呼ばれる本作は、イヴ・サン=ローランとピエール・ベルジェのコレクションで、2009年にピエール・ベルジェによりルーヴル美術館に寄贈され話題となったものだ。冒頭のメイン画像で紹介した「眠り、夢、死の三部作」のように、現代アーティストの作品がルーヴル所蔵の歴史的な作品と結び付けられて展示されるコーナーも加わり、リニューアル後は「時のギャラリー」のアプローチをさらに進化させている。

特別展示ギャラリーで開催中の「GOTHIQUES ゴシック」展 の展示風景( 2026年1月26日まで)。©Laurent Lamacz
特別展示ギャラリーで開催中の「GOTHIQUES ゴシック」展 の展示風景( 2026年1月26日まで)。©Laurent Lamacz

「時のギャラリー」同様、企画展も見逃せない。現在、特別展示ギャラリーではテネーズ館長の総監修による展覧会「GOTHIQUES ゴシック」が開催中だ。 12 世紀か ら 21 世紀までゴシックの全体像を紹介する本展では、ゴシックの夜明けから 19 世紀のネオ・ ゴシック隆盛、現代のゴスカルチャーまでを網羅する。また、ガラスのパビリオンでは、ブラジル人アーティスト、ソニア・ゴメスのフランス初公開展となる大規模展覧会「Raio de Sol」が開かれている(2026年1月12日まで)。再生布を素材に、手仕事と身体性を重ね合わせたテキスタイル作品は、美的感覚と共に社会意識を映し出し、かつてテキスタイル文化の中心地として栄えたオー・ド・フランス地方の記憶と呼応する。

ルーヴルに次ぐ規模と質。北の都が誇るリール美術館のコレクション

リール美術館2Fの印象派ギャラリーの展示風景より、クロード・モネの2作品。《ヴェトゥイユ、朝)》1901年 、《ロンドン国会議事堂》1904年 ©Palais des Beaux Arts Lille Galerie Peintres Impressionistes
リール美術館2Fの印象派ギャラリーの展示風景より、クロード・モネの2作品。
《ヴェトゥイユ、朝)》1901年 、《ロンドン国会議事堂》1904年
©Palais des Beaux Arts Lille Galerie Peintres Impressionistes

ここからはオー・ド・フランス地方に点在する知られざるアートの目的地を紹介しよう。

北フランスの中核都市であるリールはオー・ド・フランスの首府。ベルギーやイギリスへと向かうフランス北部の玄関口で、街のランドマークである鐘楼は世界遺産にも登録されている。その中心に建つ、ベル・エポック期に新古典派様式で建てられた華やかな外観が印象的な「リール美術館(Palais des Beaux-Arts de Lille)」は、1809年に創設されたフランス有数の美術館。ナポレオン時代に地方へ芸術を広める目的で設立され、今日ではルーヴルに次ぐ規模と質を誇る。収蔵品は7万点に及び、古美術・中世美術・近代美術まで美術史を横断するコレクションを有する。

リール美術館のエントランスに設置されたガエターノ・ペッシェ作のシャンデリア。直径7メートルもの巨大なシャンデリアで、12,000枚以上の色ガラスのタイルで構成されている。©PBALille MW
リール美術館のエントランスに設置されたガエターノ・ペッシェ作のシャンデリア。直径7メートルもの巨大な
シャンデリアで、12,000枚以上の色ガラスのタイルで構成されている。©PBALille MW

見どころのひとつが、2階に広がる絵画ギャラリー。交易都市としてフランドル文化の影響を色濃く受けたリールらしく、ルーベンスやファン・ダイクなどの壮麗な宗教画に加え、モネ、ピサロ、ドガといった印象派の名作が充実している。古典と近代が響き合うこの空間を象徴するのが、美術館エントランスのアーチ型天井からに吊り下げられたガエターノ・ペッシェによる色彩豊かなモザイクガラスのシャンデリアだ。大規模改修で新設されたこの巨大なアートピースは、歴史的建築に現代の生命を吹き込み、リール美術館を伝統と革新の交差点として際立たせている。

アール・デコ様式のプールが美術館に。ルーベのラ・ピシーヌ

ルーべの「ラ・ピシーヌ(La Piscine)」では、ステンドグラスから射す光に照らされたプールのそばで、ロダン、クローデル、ピカソの彫刻作品を鑑賞できる。©Stéphane Bouilland
ルーべの「ラ・ピシーヌ(La Piscine)」では、ステンドグラスから射す光に照らされたプールのそばで、ロダン、クローデル、ピカソの彫刻作品を鑑賞できる。©Stéphane Bouilland

リール郊外の街、ルーベは19~20世紀にかけて繊維産業で栄えた町。ここには1930年代のアール・デコ建築をそのまま残し、2001年に誕生した美術館「ラ・ピシーヌ(La Piscine)」(正式名称はMusée d’art et d’industrie André-Diligent)がある。1932年にリール出身の建築家アルベール・バエの設計により建てられたアール・デコ様式のプールが、当時ルーベの人々に愛された「フランス一美しいプール」の趣をそのままに展示室として甦った。

ステンドグラスから光が注ぎ、プールサイドに並ぶ彫刻がプールの水面に映るアール・デコの空間は、えもいわれぬ美しさ。ラ・ピシーヌの改修を手がけた建築家のジャン=ポール・フィリッポンはガエ・アウレンティとともにオルセー美術館の改修を手がけたことでも知られる。展示の中心はエミール・ベルナールやピエール・ボナール、カミーユ・クローデルなどの絵画や彫刻作品。さらに、かつて繊維産業で栄えたルーベの歴史を物語る産業製品やテキスタイルコレクションも充実する。ルーヴル・ランス同様、ラ・ピシーヌは産業と街の記憶をアートに変換した成功例といえるだろう。

パリの2倍の規模を誇るアミアンのノートルダム大聖堂。ファサードを彩る光のショー、クローマ

アミアンの大聖堂のファサードを彩る光のショー、クローマ。ゴシック建築のファサードを色とりどりに染め上げられる。
© Teddy Henin Amiens
アミアンの大聖堂のファサードを彩る光のショー、クローマ。ゴシック建築のファサードを色とりどりに染め上げられる。
© Teddy Henin Amiens

リールから南へ向かうと、ユネスコ世界遺産に登録された「アミアンのノートルダム大聖堂
(Cathédrale Notre-Dame d'Amiens)」がそびえ立つアミアンの町に辿り着く。水と緑に包まれた穏やかな風景を持ち、北のヴェネツィアとも呼ばれるこの街は、SF作家ジュール・ヴェルヌが晩年を過ごしたことでも知られる。パリのノートルダムの約2倍の全長145メートル、高さ42メートルに及ぶアミアンの大聖堂は、フランス・ゴシック建築の最高傑作とされるもの。夏の7月と8月、そしてクリスマスシーズンの12月には、ファサードを彩る光のショー「クローマ(Chroma)」が開催されカテドラルの外壁がプロジェクションマッピングによって色彩豊かに染め上げられる。

水上庭園でアートとエコロジーが交差する、オルティヨナージュ・フェスティバル

アミアンで毎年開催されるアートイベント、オルティヨナージュ・フェスティバル。水上庭園に点在するアート作品を小舟で巡る趣向が楽しい。©Anne-Sophie FLAMENT
アミアンで毎年開催されるアートイベント、オルティヨナージュ・フェスティバル。水上庭園に点在するアート作品を小舟で巡る趣向が楽しい。©Anne-Sophie FLAMENT

アミアンの街を流れるソンム川とアヴル川の合流地に広がる「オルティヨナージュ(Hortillonnages d'Amiens)」は、中世の野菜畑として開かれた約300ヘクタールの水上庭園。無数の小島と運河が織りなす風景が、今も地元の農家によって守られながら、毎年春から夏にかけて「オルティヨナージュ・フェスティバル(Festival des Hortillonnages )」
」へと姿を変える。ランドスケープデザイナー、ビジュアルアーティスト、建築家たちが自然環境をテーマに作品を制作し、来場者は小舟に乗って水上を巡りながらインスタレーションや彫刻を鑑賞するこのフェスティバルは、アミアンの風物詩であり、都市と自然、アートとエコロジーが交差する貴重なイベントとなっている。

シャンティイ城──コンデ美術館が伝える 王侯貴族の類稀なるアートコレクション

フランスで最も有名な歴史ある城のひとつ。シャンティイ城の庭園は、ヴェルサイユ宮殿の造園家として有名なアンドレ・ル・ノートル の設計によるフランス式庭園。© J.Houyvet
フランスで最も有名な歴史ある城のひとつ。シャンティイ城の庭園は、ヴェルサイユ宮殿の造園家として有名なアンドレ・ル・ノートル の設計によるフランス式庭園。© J.Houyvet

パリから北へおよそ50キロ、深い森に包まれたシャンティイは、フランス貴族文化の香りを色濃く残す街。かつてブルボン家の領地として栄え、競馬と絵画、そしてガストロノミーの街としても知られる。その象徴である「シャンティイ城(Château de Chantilly)」は、湖上に優美な姿を映すルネサンス様式の名城で、歴代の王侯貴族に愛された。壮麗な庭園はヴェルサイユを手がけたアンドレ・ル・ノートルの設計によるもので、幾何学的な水景が森の緑と見事に調和する。19世紀にはオーマル公爵が城を再建し、美術館としての基礎を築いた。芸術と自然、知性と美意識が一体となったこの城は、シャンティイを訪れる旅人を夢の世界へと誘う。

オーマル公爵の時代のまま保存された展示室。作品は門外不出というコンデ美術館のコレクションは必見。©Sophie Lloyd
オーマル公爵の時代のまま保存された展示室。作品は門外不出というコンデ美術館のコレクションは必見。©Sophie Lloyd

フランス最後の国王ルイ=フィリップの息子として生まれたオーマール公爵アンリ・ドルレアンは、類いまれな美術コレクターでもあった。彼が生涯をかけて収集した絵画、素描、写本、工芸品の数々の芸術作品を今に残すのがシャンティイ城内の「コンデ美術館(Musée Condé)」だ。そのコレクションは、フランス国内でも屈指の規模と質を誇り、ラファエロの《三美神》、プッサンの《アルカディアの牧人》、ヴァトー、アングルらのマスターピースが並ぶ。公爵の指示により作品の配置替えや持ち出しは禁止され、展示室はオーマル公爵の時代のまま。19世紀のフランスを代表するコレクターと美意識をそのまま体感できる。

アンリ・マティスが自身で構想した唯一の美術館が、生誕地カトー・カンブレジに

アンリ・マティス美術館の展示風景。右はマティスに遺贈されたマティス原画のタペストリー《リュートを持つ女性》
© FLAMENT Anne-Sophie Le Cateau-Cambrésis _ musée Matisse
アンリ・マティス美術館の展示風景。右はマティスに遺贈されたマティス原画のタペストリー《リュートを持つ女性》
© FLAMENT Anne-Sophie Le Cateau-Cambrésis _ musée Matisse

オー・ド・フランス地方のアートを巡る旅の終着点は、アンリ・マティスの故郷カトー・カンブレジにある「アンリ・マティス美術館(Musée Matisse Le Cateau-Cambrésis)」。マティスはベルギー国境に近いこの小都市に1869年に生まれ、少年時代をここで過ごした。世界的巨匠となった晩年も故郷への思いは深く、自分の作品を故郷の人々に残すことを希望した。1952年に開館したマティス美術館は、当時82歳だったマティス自らが設計構想に関わった唯一の美術館としても知られる。

アンリ・マティス美術館の展示風景。晩年を代表する切り絵作品も収蔵されている。
©Xavier Alphand Le Cateau-Cambrésis  musée Henri Matisse
アンリ・マティス美術館の展示風景。晩年を代表する切り絵作品も収蔵されている。
©Xavier Alphand Le Cateau-Cambrésis musée Henri Matisse

美術館は2024年11月にリニューアルオープンし、展示面積は1000平方メートル拡張された。新たに誕生したギャラリーや教育スペースでは、地域住民が参加できるプログラムも開催されている。絵画、彫刻、版画、デッサン、リトグラフ、さらに切り絵や教会装飾のための下絵など、マティスの画業を網羅する収蔵作品は、フランス国内のマティスのコレクションとしては、南仏ニースにあるマティス美術館やポンピドゥー・センターに次ぐ規模を誇るものだ。大胆で強い色彩が特徴とされ、「色彩の魔術師」と称されたマティス。その作品とは対照的な、静謐な灰色の光がさす生誕の地、オー・ド・フランスで、その作品と生涯に向き合ってみたい。

ルーヴル・ランスからはじまるオー・ド・フランスを巡るアートの旅。
炭田遺構の光、ゴシック建築の影、水上庭園を渡る風、
水面に映るアール・デコの輝き、古城に息づくオールドマスターの気配、
そしてマティスの故郷の色彩――。
それらが交差する風景の中で、アートは土地の記憶と静かに共鳴する。
美術館を訪ねる行為が、そのまま土地の時間と歴史たどる体験へと変わるこの地方を、次の旅のウィッシュリストに加えてみてはいかがだろう。
(敬称略)

取材協力:
オー・ド・フランス地方観光局 https://www.hautsdefrancetourism.com
フランス観光開発機構  https://www.france.fr/ja/

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