FEATURE

若手アーティストの作品と出会える
「ARTISTS' FAIR KYOTO」

アーティスト主導のアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO 2026」が京都で開催
【前編】京都国立博物館 明治古都館

アートフェア

臨済宗大本山 東福寺の展示風景より。左の巨大なこけしは、もはやAFKのシンボルとなったYotta《花子》(2011〜)、右奥がヤノベケンジ《宇宙猫涅槃像 SHIP CAT (NIRVANA)》(2026)
臨済宗大本山 東福寺の展示風景より。左の巨大なこけしは、もはやAFKのシンボルとなったYotta《花子》(2011〜)、
右奥がヤノベケンジ《宇宙猫涅槃像 SHIP CAT (NIRVANA)》(2026)

アートフェア 一覧に戻るFEATURE一覧に戻る

文・写真:中島良平

【前編】京都国立博物館 明治古都館
【後編】臨済宗大本山 東福寺
(近日公開)

アーティストが主導するアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO(AFK)」が9回目を迎えた。ディレクターを務めるアーティストの椿昇が、アーティストがアートで生活していける仕組みを作ることを目指してスタートしたこのアートフェア。京都国立博物館 古都館で若手アーティストが展示販売を行い、臨済宗大本山 東福寺では、その出品アーティストを推薦したアドバイザリーボードに名を連ねる作家たちが作品を展示する。1895年竣工、1869年に国の重要文化財に指定された近代建造物と、京都五山の一つに数えられる名刹がアートの展示空間に変わる。前編として、メイン会場である京都国立博物館 古都館の模様をレポートする。

京都国立博物館 明治古都館
京都国立博物館 明治古都館
開催情報
ARTISTS' FAIR KYOTO(AFK)
会期:2026年2月21日(土)〜2月23日(月)
会場:京都国立博物館 明治古都館、臨済宗大本山 東福寺
https://artists-fair.kyoto

アーティストの椿昇がAFKを創設した動機は怒り

「AFK」のディレクターを務めるのは、アーティストの椿昇。1989年にアメリカで開催された「アゲインスト・ネイチャー」展では、作品の出品に加えて展覧会タイトルの銘々まで行い、2001年の「第1回 横浜トリエンナーレ」では50メートル超のバルーンによる巨大バッタなどを手がけた人物だ。2005年より教授を務める京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学)では、卒業制作展をただ作品を見せるのではなく、展示販売を行うアートフェア形式に変えたことでも話題を呼んだ。「AFK 2026」の開会式で椿は、自身の若い頃の経験を交えながらこう語る。

「雑誌が『これからアートでオシャレになる』と記事にしたり、散々騒いでいましたが、横目で見ながら何か違うとずっと思っていました。展覧会に呼ばれるようになっても、なかなかアートだけでは食べていけなかった。何かおかしい。江戸時代には人々が普通にアートを所有していました。お芝居を見に行くにしても、もし満席で入れなかったら、隙間からみんなが見れていたという。開かれていたんです。明治になって変わったのです。官製が敷かれ、公募団体や大学ができて、権力が大衆を管理するようになり、作品を所有するという原始的で原理的で楽しい喜びが奪われました。本物のご飯を奪われて、蝋細工の食品サンプルを見させられるようになったのです。鑑賞教育という名の、本当の悲劇です。現状、1点の作品が5万円を超えると、手軽に購入することは難しいでしょう。ですから、1点3万円から5万円程度の価格で、若手アーティストが展示販売する機会を作り、来場者が購入して身近なところでアートと暮らそうという提案をしようと思って始めました」

記者発表で熱弁を振るう椿昇
記者発表で熱弁を振るう椿昇

出品アーティストを推薦するアドバイザリーボードに名を連ねるのは、椿昇をはじめ、名和晃平やヤノベケンジ、加藤泉、ミヤケマイ、薄久保香などすでにキャリアを積み国内外で活躍するアーティストたち。出品アーティストの出品料は無料で、作品の売上金の100%を手にすることができる。若手のアーティストが制作を続けられる状況を作りたいという椿の強い思いが込められており、最初は京都府の助成金を得ることからスタートし、スポンサー探しを続けると、賛同者からの支援が集まった。現在は、椿が「大学の就職活動でもお世話になっている」というマイナビをリードパートナーに迎えて開催されている。「設営などはすべて少人数の手弁当ですが、規模が今以上に大きくなってもそのDIYの精神は捨てません」と、椿はハングリー精神の重要性を説く。

そして、記者発表に続き、「マイナビ ART AWARD」授賞式を開催。リードパートナーであるマイナビの支援で、出品作家の中から特に優れたアーティストを選出する「マイナビART AWARD」は、国立新美術館 学芸課長の神谷幸江、京都国立近代美術館 主任研究員の牧口千夏、文化研究者で実践女子大学准教授の山本浩貴、AFKディレクターの椿昇が審査委員となり、最優秀賞1名と優秀賞4名を選出した。

左より、ディレクターの椿昂、株式会社マイナビ 代表取締役 社長執行役員 粟井俊介、優秀賞 白旗花呼、最優秀賞 中西凛、優秀賞 リベッカ・ドローレン、優秀賞 高橋凛、優秀賞 伊地知七絵、京都府 西脇隆俊知事
左より、ディレクターの椿昂、株式会社マイナビ 代表取締役 社長執行役員 粟井俊介、優秀賞 白旗花呼、最優秀賞 中西凛、優秀賞 リベッカ・ドローレン、優秀賞 高橋凛、優秀賞 伊地知七絵、京都府 西脇隆俊知事

受賞作家の展示を中心にレポート

早速展示を見て行こう。最優秀賞受賞作家の中西凛(推薦者:Yotta)は、可食性素材である洋菓子で手がけた彫刻、そのレシピであるドローイング、映像作品を組み合わせたミクストメディアの作品だ。文化研究者の山本浩貴はこう話す。

「自身の生命をつなぐと同時に、往々にして他者の生命を奪う『食す』という行為に本質的に内在する生と死、美しさと残酷さ、永続性と儚さ、といったさまざまな矛盾や二項対立が、そのチャーミングな洋菓子が作られてから、部分的に解体されるプロセスを記録した映像を通して見事に描き出されていました。可愛らしいお菓子が、その内側から血や臓物を想起させるチョコレートが流れ出し、その目玉がくり抜かれることで突如としておぞましく不気味なものへと変容していく様子が鑑賞者をゾッとさせます。日常で見過ごさせれるそうしたグロテスクな瞬間を捉える中西さんの感性が、これからどのように発展していくのか審査員一同、楽しみにしています」

中西凛の展示風景
中西凛の展示風景

優秀賞の展示を順に紹介したい。白旗花呼(推薦者:池田光弘)の作品を講評するのは、国立新美術館 学芸課長の神谷幸江。長く描かれてきたジャンルのひとつである女性のポートレートを白旗がどのように形にしているか。南アフリカ出身のアーティストで、雑誌の写真など特定のモデルを持たずに女性像を描くことで、ジェンダーや人種差別などの問題を浮かび上がらせるマルレーネ・デュマスを思い出したと神谷は話す。

「マルレーネ・デュマスがアノニマスな女性を描き、暴力的とも言える社会の問題を暴き出したのとは逆には、白旗さんにおいては、自分というセルフポートレートを描いていきながら、社会の中における自分というものを匂わせていく。女性がどのような強さを持ちえるかということを描くことにチャレンジしており、絵画が持つ強さを感じさせる作品でした」

白旗花呼の展示風景
白旗花呼の展示風景

アメリカ出身のリベッカ・ドローレン(推薦者:オサム・ジェームス・中川)は、ジェンダー問題への意識を写真表現に込める。講評するのは椿昇。

「これまでにジェンダー、女性問題を取り上げる作家はこれまでに大勢出てきましたが、それをアップデートした作品だと感じます。リベッカさんは彫刻もされるし、建築的なアプローチもしながら、写真というメディアに引きこもらずに開いていっている。開いていくと通常は弱まるものですが、リベッカさんの作品は強靭さを持っている。男性と女性という問題を超えて、普遍的な人間性について、荒野で人間はどうやって生きていくのか、ということに意識を向けさせるような強さが作品にあります。写真を通じて神々しい光の体験をしたような感覚を覚えました」

リベッカ・ドローレンの展示風景
リベッカ・ドローレンの展示風景

伊地知七絵は唯一、公募で選出された参加作家だ。出身地である沖縄の基地の問題、戦争の記憶をテーマとする伊地知の作品について、京都国立近代美術館 主任学芸員の牧口千夏は次のように話す。

「自身の記憶から作品を制作する若いアーティストが多いなかで、伊地知さんの作品は、ご自身が生まれた場所の記憶というものに目を向けられていて、社会への眼差しが審査において高く評価されました。刺繍で綴られた文字は読みやすく記されたものではありませんが、逆に、戦争などの傷を負った記憶というのは、じっくり目を凝らして読み取り、向き合うべきなのだと改めて感じさせられました。ご自身の感覚を用いて、戦争の当事者の記憶に光を当て、可視化するという重要な仕事をされたと思います」

伊地知七絵の展示風景
伊地知七絵の展示風景

髙橋凛(推薦者:田村友一郎)の作品展示スペースに選ばれたのは、トイレ。AFKのスタッフらとやりとりを重ね、トイレでできる展示の面白さを探究した姿勢を椿昇はヴィム・ヴェンダースがトイレの清掃人を描いた映画『PERFECT DAYS』を超えたと称える。

「アーティストにとって重要なのは出会いなんです。それと偶然性。たまたまそのときに会った人や、たまたま得た機会など、そういうことがトップアーティストには何回も訪れる。それを引くというのは、オープンハートで人の意見をどんどん取り入れるなど、コミュニケーションの大事さをわかっているからできるわけです。そしてトイレとのコミュニケーションもしっかりして、素晴らしい展示にしている。昔好きだったヴィム・ヴェンダースの『PERFECT DAYS』にガッカリしていたので、そのモヤモヤを綺麗に洗い流してくれて安らかな気持ちにさせてくれました」

髙橋凛の展示風景
髙橋凛の展示風景

計40名が参加しており、総じて購入意欲を掻き立てるレベルの高い作品が並んだが、いくつかの展示を紹介したい。ぜひ会場に足を運び、お気に入りの作家と出会ってほしい。

會見明也(推薦者:薄久保香)の展示風景
會見明也(推薦者:薄久保香)の展示風景
松岡日菜子(推薦者:保坂健二朗)の展示風景
松岡日菜子(推薦者:保坂健二朗)の展示風景
広瀬里美(推薦者:大巻伸嗣)の展示風景
広瀬里美(推薦者:大巻伸嗣)の展示風景
澤あも愛紅(公募)の展示風景
澤あも愛紅(公募)の展示風景

茶室 堪庵では、気鋭のアーティスト品川亮が展示

AFK2918、2019への出品経験があり、現在は国内外から注目を集めるアーティストとなった品川亮の個展が、明治古都館の裏手に位置する茶室 堪庵で開催されている。タイトルは、「ひとの多い方へ」。旅をテーマに、茶室全体を使って買い夕方展示を実現した。

品川亮「ひとの多い方へ」展示風景より
品川亮「ひとの多い方へ」展示風景より

京都国立博物館 明治古都館の展示は、2月23日(月)まで。ぜひ会場に足を運び、若手アーティストの表現と触れてほしい。後編は、臨済宗大本山 東福寺の展示の模様をお届けしたい。

開催情報
ARTISTS' FAIR KYOTO(AFK)
https://artists-fair.kyoto/
会期:2026年2月21日(土)〜2月23日(月)
会場・住所:
京都国立博物館 明治古都館|Kyoto National Museum Meiji Kotokan Hall
京都市東山区茶屋町527|527 Chaya-cho, Higashiyama-ku,Kyoto
臨済宗大本山 東福寺|Tofuku-ji Temple
京都市東山区本町15丁目778|15-778, Honmachi, Higashiyama-ku, Kyoto

FEATURE一覧に戻るアートフェア 一覧に戻る

FEATURE一覧に戻るアートフェア 一覧に戻る