東福寺をアートが埋め尽くす
「ARTISTS' FAIR KYOTO」
アーティスト主導のアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOT 2026」が京都で開催
【後編】臨済宗大本山 東福寺

文・写真:中島良平
9回目を迎えた「ARTISTS' FAIR KYOTO 2026」レポートの後編。京都国立近代美術館 明治古都館で展示販売を行うアーティストの推薦を行った、アドバイザリーボードに名を連ねる作家たちに加え、過去にAFKに出品したアーティストからも5名が選出されて出品する展覧会「AFK Resonance Exhibititon」を臨済宗大本山 東福寺で開催。屋外にも展示が広がり、歴史的空間と現代アートが境内各所で呼応する。

- 開催情報
ARTISTS' FAIR KYOTO(AFK)
メイン会場
会場:京都国立博物館 明治古都館
会期:2026年2月21日(土)~2月23日(月・祝)
時間:各日9:30~17:00(最終入場16:30)
AFK Resonance Exhibition 会場
会場:臨済宗大本山 東福寺
会期:2026年2月21日(土)~3月1日(日)
時間:各日9:00~16:00(最終入場15:30)
https://artists-fair.kyoto
方丈を埋め尽くす人気アーティストの作品の数々
京都五山の一つに数えられる名刹、臨済宗大本山 東福寺。その方丈が、大袈裟ではなくまさに現代アートで埋め尽くされている様子は圧巻だ。






昨年の最優秀賞受賞作家が、大書院で個展を開催
AFKのリードパートナーであるマイナビの支援により、優秀な参加アーティストを選出する「マイナビ ART AWARD」の昨年の最優秀賞を受賞したのは、染色した紙を貼り付けることで立体作品を作る「歪曲張り子」という技法で制作を行う本岡景太。受賞記念展が、東福寺の大書院で開催されている。今回はビニールプール、漫画週刊誌、辞書という素材を駆使し、新たな手法に挑んだ作品が発表された。絵画と彫刻、平面と立体という対となる要素を同居させ、その境界に揺らぎを与える技法が新たな次元に展開した。
「絵が使われているものを彫刻できないか、という発想から漫画を素材に選びました。漫画そのものの絵が彫刻となっていたり、漫画を使って絵を描いていたりすることで、絵と彫刻の間や、仮想と現実の間というものに意識を向かわせる作品にしました。ビニールプールについては、そこに描かれた絵や色を彫刻に取り入れられないかと考えたのが最初のきっかけでしたが、制作をしていくとプールという素材が強く、既製品と彫刻という対立をはらんだ造形物の塊となり、絵画と彫刻や二次元と三次元というものよりも、もっと大きな差異に目を向け、問題意識が大きくなってきたことが今回の作品に現れていると思います」



過去のAFK出品作家による作品展示も屋内外に展開
これまでの「マイナビART AWARD」受賞者より5組(名)を選出し、境内各所に作品を展示している。方丈でアドバイザリーボードの作品と一緒に展示されているのが、大学院を修了した2022年に公募で出品した木田陽子。手びねりの技術を駆使した陶芸作品5点を出品した。
「すべて異なる漢字や平仮名の一文字ずつの形から着想を得て作った作品です。大学で陶芸を学び始めたときから模索を続けているテーマです。決めた形と、アドリブでの創作への興味の辻褄を合わせながら、土を削り出して最終的な形を決めます。横から照明が当たり、風との響き合いを楽しんでいただける展示構成となっています」


残り4組(名)の展示は、屋外に繰り広げられる。《竹鳴林》(2026)の制作を進める黒川岳がAFK側にリクエストしたのは、自由になんでもできる広い場所。何十年も手つかずのまま放っておかれた竹林であれば何をしてもいいと、東福寺から許諾を得て、黒川は枯れた竹をまずひたすら切り倒し、外からの音を遮断するフェンスを築くことから作業を始めた。
「これだけ間引かれると、風が吹くと竹の葉がさわさわしている音だったり、鳥が鳴いている音だったり、キツツキのドラミングの音だったり、自分の足元の枯葉の音も含めて、多様な音に集中できる空間を作りました」
現在も制作は進行しており、会期終了後にも展示は継続を予定しているという。黒川の制作行為が、自然と東福寺の竹林整備の役目を果たしており、リジェネラティブを体現する場として東福寺の注目スポットになるのではないだろうか。そんな期待の高まる作品だ。



通天橋に向かうと、その手前で出会うのが、広瀬菜々&永谷一馬の作品《なぜ戦争があるの?(Why is there war?)》。ドイツを拠点に活動を続けてきた彼らが、子どもがドイツ語で発した問いの言葉「Warum gibt es Krieg?(なぜ戦争があるの?)」を亜鉛鋼材で形にした。永谷一馬は次のように話す。
「亜鉛鋼材は時間や環境によって酸化し、表情を変えていく素材です。素材の変化は、問いが固定された答えを持たず、時間や状況の中で揺れ動き続けることを示しています。格差が広がり、不安や恐怖、憎悪が蔓延する社会において、反差別、反戦、脱植民地主義などの意識に基づき、あらためて根本的な問いへと立ちかえる必要があると考えて制作した作品です」

韓国出身で、現在は京都を拠点に制作を続けるリュ・ジェユンの作品は、《こころの風景》と名づけられた陶芸作品。卵をモチーフとした造形は、ヘルマン・ヘッセの小説『デミアン』に、鳥は卵を割らないと世界を移動することができず、卵を割ることに成長を重ね合わせた描写がされていたことからインスパイアされて手がけた。この作品を購入した人だけが、卵を割り、なかに入っている鳥が何色のどんな鳥なのかを知ることができるという。
「コロナ禍で故郷に帰れない3年間があり、家族や友人ともずっと会えない時期が続き、孤独を感じました。これまでに、自由を感じさせる象徴として色々なジャンルで鳥がモチーフにされてきましたが、コロナ禍で、心理的に自分のなかでリアルにそれがわかるような瞬間があったので、それ以来、鳥をモチーフに制作するようになりました」


本堂南東角と通天橋奥の2箇所に作品を展示するのは、彫刻家の米村優人。陽の光を遮るものがなく、晴れの日は基本的に明るい通天橋奥の一角に設置したのは、「変なポーズしてめちゃめちゃ笑顔で自撮りしてる旅行者らしき人」をモチーフにした《喜ぶお前(lonely)》。「人と彫刻における公共性、曖昧な共存について考えていたときに、たまたまそのことを思い出してこの作品を作りました」

一方の本堂南東角は、日陰になる時間帯が長い場所。路上生活者、いわゆるホームレスをモチーフにした《横たわる男(wordressly)》を設置した。
「僕が小さい頃、地元では多くの路上生活者が自宅の近辺で生活をされていました。しかし、1998年には8000人以上いた路上生活者は、オリンピックの影響で強制退去を命じられ、2025年には700人弱まで減少しました。今回AFKにお声がけいただいて、一時的にこの場所に展示する、一時的にこの場所を所有すると考えたときのモチーフとして、旅行者と路上生活者というふたつを選びました。自分は人をモチーフにした彫刻を制作していますが、歴史的には権威的であったり、シンボリックであったりする人物が作られる分野ですが、自分の場合は、個人的な経験や場所の歴史などを読み解きながら、権威的ではない存在を彫刻に変換しようと試みています」

名刹にお参りし、仏に祈ると同時に、現代アートのメッセージを受け取る。そんな貴重な体験ができる臨済宗大本山 東福寺の展示は、3月1日まで。お見逃しのないように。