FEATURE

母国の自然、日常の日々に美を見出した
スウェーデン絵画の世界

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」が、東京都美術館にて開催

展覧会レポート

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展示風景、東京都美術館、2026年
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展示風景、東京都美術館、2026年

展覧会レポート 一覧に戻るFEATURE一覧に戻る

ヨーロッパ北部、スカンディナヴィア半島に位置する国スウェーデン。インテリアやデザインの分野などで日本でも人気の高い国の1つだが、そんなスウェーデンの近代絵画の名作が集結した展覧会が東京都美術館で開幕した。

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」は、スウェーデン国立美術館の全面協力のもと、19世紀末から20世紀にかけてのスウェーデンで誕生した絵画を展観する。全てスウェーデン人作家による80点の展示作品により、北欧の地で育まれた独自の美の世界に触れる。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
開催美術館:東京都美術館
開催期間:2026年1月27日(火)〜4月12日(日)

スウェーデン近代絵画の夜明け

ニルス・ブロメール《草原の妖精たち》1850年(年記) 油彩、カンヴァス
ニルス・ブロメール《草原の妖精たち》1850年(年記) 油彩、カンヴァス

本展は、ニルス・ブロメール《草原の妖精たち》で幕を開ける。陽が沈む黄昏時、広い草原の中で輪になって踊る少女たち。薄い衣をまとい、あどけなくもどこか艶めかしさも感じさせる彼女たちだが、よく見ればその足は宙に浮いている。そう、彼女たちはこの地に宿る妖精なのだ。奥では馬に乗る2人の人物、そしてさらに奥にはグリップスホルム城(スウェーデン国王グスタヴ・ヴァーサが建設)のシルエットが小さく見え、この場所がスウェーデンであることを示している。現実と虚構が入り混じる幻想的な世界は、甘美な余韻を残す。

壮大で穏やかな風景、空の青さと光の輝き、可憐な少女たち、幻想的な神話の世界、まるでこれから見ていくこととなるスウェーデン絵画の世界を予感させるようで、展示室に入った瞬間から期待が高まる。第1章では、「スウェーデン近代絵画の夜明け」と題し、本作をはじめ19世紀前半から半ばにかけて、フランスやドイツで様々な芸術様式を学びつつも、母国の風景や土地に根付いた文化や神話などに目を向けた画家たちを紹介する。

イエーオリ・フォン・ローセン《大スーテン・ステューレのストックホルム入城》1864年(年記)油彩、カンヴァス
15世紀、「ブルンケバリの戦い」でデンマークに勝利した大スーテン・ステューレがストックホルムに入城する場面。フォン・ローセンは古い画法を研究し、まるで15世紀の画家が描いたかのように歴史的場面を描いた。
イエーオリ・フォン・ローセン《大スーテン・ステューレのストックホルム入城》1864年(年記)油彩、カンヴァス
15世紀、「ブルンケバリの戦い」でデンマークに勝利した大スーテン・ステューレがストックホルムに入城する場面。フォン・ローセンは古い画法を研究し、まるで15世紀の画家が描いたかのように歴史的場面を描いた。

スウェーデン近代絵画を代表する3人に注目

続いて本展は2章から6章まで、緩やかに時代の変遷を辿りながら、さまざまな切り口で展開していくのだが、ここで特に注目すべき3人の画家を紹介したい。その3人とは、アンデシュ・ソーン(Anders Zorn)、ブリューノ・リリエフォッシュ(Bruno Liljefors)、カール・ラーション(Carl Larsson)。それぞれの名前の頭文字から「スウェーデン画家のABC」として人気の高い3人だ。

アンデシュ・ソーン《故郷の調べ》1920年(年記) 油彩、カンヴァス
アンデシュ・ソーン《故郷の調べ》1920年(年記) 油彩、カンヴァス

アンデシュ・ソーンは、当時から国際的に高く評価されており、イギリス、パリ、そしてアメリカと活躍の幅を広げていたが、やがて母国に戻ると、都市から離れ、自身が幼少期を過ごしたダーラナ地方で暮らした。そこでは、民俗音楽の保護に取り組むなど、近代化の中で失われつつある地方の文化に光を当てる。最晩年に描かれたこの《故郷の調べ》は、ダーラナ地方の民族衣装をまとってリュートを弾く女性が堂々たる姿で描かれている。大ぶりな筆致は、そのまま女性の力強さ(文化を守り伝えようとする画家の意志)を表すようでもある。

ブリューノ・リリエフォッシュ《カケス》1886年(年記) 油彩、カンヴァス
ブリューノ・リリエフォッシュ《カケス》1886年(年記) 油彩、カンヴァス

ブリューノ・リリエフォッシュは、早くから動物画家を志した画家で、クローズアップで鳥たちの姿を捉えた作品は、スナップ写真のような臨場感を感じさせる。生き物に対する慈愛に満ちた眼差し、素早い筆致で生き物の動的な姿を描き出す卓越した技量がうかがえる。

カール・ラーション《カードゲームの支度》1901年(年記) 油彩、カンヴァス
カール・ラーション《カードゲームの支度》1901年(年記) 油彩、カンヴァス

カール・ラーションは、自身の家族の日常生活を描いた水彩画でその名を広め、高い人気を得た。本展では、メインビジュアルに用いられている《カードゲームの支度》のほか、画家一家の家「リッラ・ヒットネース」での日常生活を描いた水彩画24点が収められた画集『ある住まい』の中から、《キッチン》(東京会場のみ)が展示されている。洗練された内装や調度品、そこでくつろぐ家族の心温まる光景が、シャープな線と淡く優しい色調で丁寧に描き出されている。

それぞれ得意とする画題や作風は異なるが、母国への愛、そこに住む人や自然に対する暖かな眼差しが感じられる。本展では多くの画家が紹介されているが、特にこの3人には注目だ。

パリで学ぶ、芸術村に集う

再び展示全体の紹介に戻ろう。1870年代後半より、スウェーデンの若き画家たちはフランスに出て、そこで新しい芸術の潮流に触れた。母国における歴史画を重んじるアカデミーの保守的な方針に不満を持つ彼らにとって、パリの最新の芸術様式、「人間や自然のありのままの姿」に美を見出す自然主義的な眼差しは、その後の制作活動の道標となった。第2章では、アーンシュト・ヨーセフソンや、リッカッド・バリなど、スウェーデンのアカデミーに対して反旗を翻した「オポネンテナ(=反逆者たち)」と呼ばれた画家たちの、意欲溢れる作品が並ぶ。

アーンシュト・ヨーセフソン《村人たちの噂話》1886年(年記) 油彩、カンヴァス
3人の老いた農婦たちが集まっているところに、若い農婦が鉢合わせた瞬間をドラマチックな構図で描く。それぞれの視線、表情から緊張感が伝わってくる。
アーンシュト・ヨーセフソン《村人たちの噂話》1886年(年記) 油彩、カンヴァス
3人の老いた農婦たちが集まっているところに、若い農婦が鉢合わせた瞬間をドラマチックな構図で描く。それぞれの視線、表情から緊張感が伝わってくる。

続く第3章では、パリに出たスウェーデン出身の画家たちが作った「芸術村」の活動に注目する。フランス・パリから南東に約70キロメートル離れたところに位置するグレ=シュル=ロワンという場所で、彼らはそれぞれ制作に打ち込んだ。そのメンバーには先ほど紹介した「スウェーデン絵画のABC」として紹介したリリエフォッシュやラーションもいた。ここでの制作が、やがて母国に戻った後にも大きな糧となっていることがうかがえる。

カール・ノードシュトゥルム《グレ=シュル=ロワン》1885-1886年(年記) 油彩、カンヴァス
カール・ノードシュトゥルム《グレ=シュル=ロワン》1885-1886年(年記) 油彩、カンヴァス

目に見えない幻想の世界を描く

第4章では、前述のラーションをはじめ「日常生活」や身近な人々の姿を描いた画家たちが紹介されている。一方で目に見える世界ではなく、自分自身の内面世界、あるいは神話や民間伝承を題材にした作品も多く生まれた。第5章では、そうした現実とは違う世界が広がっている。

アウグスト・マルムストゥルム
左:《インゲボリの嘆き(エサイアス・テグネール『フリッティオフ物語』より)》1887年頃、油彩・カンヴァス
右:《フリッティオフの帰還(エサイアス・テグネール『フリッティオフ物語』より)》1880年代、油彩・カンヴァス
アウグスト・マルムストゥルム
左:《インゲボリの嘆き(エサイアス・テグネール『フリッティオフ物語』より)》1887年頃、油彩・カンヴァス
右:《フリッティオフの帰還(エサイアス・テグネール『フリッティオフ物語』より)》1880年代、油彩・カンヴァス

この2点の作品は、北欧に伝わる物語群(サーガ)の1つで、勇士フリッティオフの物語に着想を得て書かれたエサイアス・テグネール作『フリッティオフ物語』の挿絵として描かれた。一見するとまるでモノクロ写真のように見える不思議な油彩画だが、それもそのはず。本作は白黒印刷によるヘリオグラフ(画家が描いた絵を写真家が撮影し、その写真を用いて製版することでオリジナルの絵を忠実に再現できる技術)のため、モノトーンの色調と青味がかった紫色という限られた色数で描かれているのだ。本作の制作に画家は苦労したようだが、その労力もあり、想像上の物語が、目の前で起きているようなリアリティを伴って立ち現れている。

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展示風景、東京都美術館、2026年
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展示風景、東京都美術館、2026年

「スウェーデンらしさ」を求めて

最後の章となる第6章では、自国のアイデンティティを問い、より意識的に「スウェーデンらしさ」を追求し、新しい表現を模索した画家たちの作品で締め括られる。

左:グスタヴ・フィエースタード《川辺の冬の夕暮れ》1907年(年記) 油彩・カンヴァス
右:グスタヴ・フィエースタード《冬の月明かり》1895年(年記) 油彩・カンヴァス
左:グスタヴ・フィエースタード《川辺の冬の夕暮れ》1907年(年記) 油彩・カンヴァス
右:グスタヴ・フィエースタード《冬の月明かり》1895年(年記) 油彩・カンヴァス

こちらの2点は、一貫して冬のスウェーデンの風景を描いたグスタヴ・フィエースタードの作品。右の《冬の月明かり》では、雪が降り積もる森の光景が描かれているが、点描で表された雪の質感、北欧らしい蒼い夜空、しんと静まり返った雪景色が幻想的だ。

左の《川辺の冬の夕暮れ》では、雪が降り積もる川辺の様子が画面の上下にわずかに見えるのみで、画面の大部分は川の水面が描かれている。細やかに描かれた波紋は、静かな画面の中にささやかなリズムを生み、その揺らぎをずっと見ていると、まるで暗い川の底に吸い込まれていきそうだ。静謐かつ深遠な趣が漂う。

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展示風景、東京都美術館、2026年
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展示風景、東京都美術館、2026年

長らくイタリアやフランスを中心に語られてきた西洋美術の中で、スウェーデン絵画は様々な理由から取りこぼされてきたと言える。しかしそれは、他国に比べて優れた芸術が育まれなかったからではない。むしろ本展を見れば、国の内側で芳しいほどの豊饒な美の世界が醸成されていたことが分かる。まだ知らぬ美の世界が、スウェーデン絵画にあることをぜひとも確かめてほしい。

※展示作品は全てスウェーデン国立美術館蔵

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
東京都美術館|Tokyo Metropolitan Art Museum
110-0007 東京都台東区上野公園8-36
開室時間:9:30〜17:30(最終入室時間 17:00)
会期中休室日:2月23日(月・祝)は閉室

FEATURE一覧に戻る展覧会レポート 一覧に戻る

FEATURE一覧に戻る展覧会レポート 一覧に戻る