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ジョニー・デップ監督が描く、芸術家の野心と破滅 
映画『モディリアーニ!』

破天荒な役者が、夭折の芸術家モディリアーニの人生を決定づけた〈3日間〉を映像化

映画レポート・映画評

映画『モディリアーニ!』場面写真より アメデオ・モディリアーニ(中央/リッカルド・スカマルチョ)
映画『モディリアーニ!』場面写真より アメデオ・モディリアーニ(中央/リッカルド・スカマルチョ)

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文:森聖加

アメデオ・モディリアーニ(1884–1920)は20世紀初頭のパリで活動したイタリア出身の画家・彫刻家だ。細く長い首や顔、うつろなアーモンド形の瞳をもつ人物像は、いまや20世紀美術を象徴するイメージのひとつとして知られている。しかし生前に、その名声を得ることはなかった。

映画『モディリアーニ!』(2026年1月16日劇場公開)は、あのジョニー・デップが約30年ぶりにメガフォンを取った話題作。結核に侵され、アルコールとドラッグに依存し、創作も生活も行き詰まった末の〈3日間〉。成功を渇望する芸術家の姿を、デップ監督はどのようにすくい取ったのか――。

成功を追い求め、もがき続けるモディリアーニ

1916年、戦争の影がパリの街を覆うなか、モンパルナスには芸術と混沌が渦巻いていた。アンリ・マティス、マルク・シャガール、藤田嗣治(レオナール・フジタ)――世界中から集まった才能がこの街で刺激し合い、互いを高め合った時代だ。そのなかに、イタリア出身でユダヤ人のアメデオ・モディリアーニもいた。仲間たちからは「モディ」と呼ばれ、成功を追い求める情熱を持ち創作を続けながらも、酒と薬、そして女におぼれ、自堕落な日々と過ごしている。

女性にもてたモディリアーニ。本作では作家やジャーナリストとして活躍したベアトリス・ヘイスティングスと過ごした時間が描かれる
女性にもてたモディリアーニ。本作では作家やジャーナリストとして活躍した
ベアトリス・ヘイスティングスと過ごした時間が描かれる

当時、モディリアーニの絵はほとんど評価されていなかった。才能はある。けれど画壇で認められることはなく、作品は売れない。金がない。彼は日々、限界の中にいた。映画の冒頭では、のちに美術市場で高値を取引される作家が、わずかな日銭のためにブルジョワ階級に絵を売り込もうとする姿が描かれる。猥雑さと美しさ、狂気とユーモアが同居するその空気は、デップも敬愛するというエミール・クストリッツァ作品にも通じる劇場的演出で、観客を瞬時に画面に引き込む。

“作るか、死ぬか”――72時間の狂騒

ジョニー・デップは、モディリアーニの人生のすべてを網羅しようとはせず、彼がもっとも混乱し、激しく揺れ動いた、わずか〈72時間〉に焦点を絞った。警察から追われる身であることから、芸術家としての成功を諦めて、パリを去ることを考える激動の3日間だ。

画面からは“異臭”さえ漂ってくるかのよう。スーティン(右手前)とユトリロ(右奥)、そしてモディリアーニらは創作に懸命に取り組むが、なかなか陽の目を見ない。
画面からは“異臭”さえ漂ってくるかのよう。スーティン(右手前)とユトリロ(右奥)、そしてモディリアーニらは創作に懸命に取り組むが、なかなか陽の目を見ない。

その日も、画家仲間のシャイム・スーティン(ライアン・マクパーランド)やモーリス・ユトリロ(ブリュノ・グエリ)と酒を浴びるように飲みつづけた。そして恋人でありミューズでもあるベアトリス・ヘイスティングス(アントニア・デスプラ)との暮らしでは、愛と理想の実現を語り合うけれど、現実は彼が思うようには進まない。

最後の望みをかけてモディリアーニは、画商レオポルド・ズボロフスキー(スティーヴン・グレアム)の助言に従い、著名アメリカ人コレクターのモーリス・ガンニャ(アル・パチーノ)との面会を目指す。映画は息もつかせぬテンポで、成功への渇望と自己破壊衝動が入り混じるモディリアーニの内面を描き出していく。

ジョニー・デップ監督
ジョニー・デップ監督

ジョニー・デップが描くむき出しのモディリアーニ

ジョニー・デップが描いたのは、「伝説の天才」ではない。“創造せずには生きられない男”としてのモディリアーニだ。デップにとって彼は、時代やジャンルを超えた「パンク・ロックアーティスト」なのだという。

演出は、一貫して感情に近い。歴史的説明や美術史的整理よりも、衝動や混乱、焦燥といった生々しい感覚を優先する。その選択は本作を伝記映画ではなく、極限状態に置かれたひとりの人間の内面劇へと押し出した。

モディリアーニの作品が、なぜ革新的だったのか。なぜ評価されなかったのか。本作はそんな問いには答えない。観客は「理由」ではなく、作家の葛藤と格闘の中へ放り込まれる。それは、これまで描かれてきたモディリアーニとは異なり、評価されないままに削られていく“身体としての芸術家“の姿だ。

アル・パチーノ扮するモーリス・ガンニャ
アル・パチーノ扮するモーリス・ガンニャ

『モディリアーニ!』の誕生には、画商のモーリス・ガンニャを演じるアル・パチーノの存在が大きい。1997年の映画『フェイク』での共演時、パチーノはデップに初めてモディリアーニの話をしたそうだ。彼の人生を決定づけた3日間に焦点を当てるアイディアもパチーノによりもたらされたものという。

獣と化した芸術家が見つけるものとは――?

「獣と化せば、人間としての苦痛から逃げられる」。かつて自身が主演した映画『ラスベガスをやっつけろ』で引用された言葉が、本作を制作にあたりしっくりきた、とデップは語る。モディリアーニが自らを“獣”へと変える72時間。どん底まで堕ちていく肉体と精神。映画の中で芸術家が眠るシーンはほとんどない。眠ること、立ち止まることが死を想起させる男の生をそのまま映像化した結果だからだろう。

愛し、壊し、迷い、それでも作り続ける。混沌とした時代と街の中で燃え尽きるように生きた芸術家の、短くも濃密な3日間。その狂気と切実さが、観る者を否応なく映画の渦へと引きずり込んでいく。

映画『モディリアーニ!』
監督 ジョニー・デップ
脚本 ジャージー・クロモウロウスキ、マリー・オルソン・クロモロウスキ
出演 リッカルド・スカマルチョ、アントニア・デスプラ、ブリュノ・グエリ、ライアン・マクパーランド、スティーヴン・グレアム、ルイーザ・ラニエリ、アル・パチーノ
配給 ロングライド、ノッカ
©︎Modi Productions Limited 2024
『モディリアーニ!』公式サイト https://longride.jp/lineup/modi/
2026年1月16日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
『モディリアーニ!』本国オリジナル日本語字幕付き予告/映画配給会社ロングライド

森聖加

フリーランス編集者、ライター。書籍『歌と映像で読み解く ブラック・ライヴズ・マター』の編集、クエストラヴ著『ミュージック・イズ・ヒストリー』の監訳を担当(藤田正との共監訳/いずれもシンコーミュージック・エンタテイメント刊)などで、音楽を中心とするポップ・カルチャーの視点からアメリカ黒人の歴史と文化を発信する。ほかにアート、建築、ホテルなどの分野をクロス・カルチュラルの視点でわかりやすく伝えることをモットーに取材を続ける。

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