ロマンティックで耽美な香り漂う、
心くすぐる「大正イマジュリィ」の世界
「大正イマジュリィの世界 デザインとイラストレーションの青春 1900s―1930s」が、
SOMPO美術館にて、2025年8月31日(日)まで開催

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「大正イマジュリィ」とは、1900~30年代に隆盛した、挿絵・ポスター・絵はがき・広告・漫画・写真など大衆的な図像を指す。西洋の芸術やアール・ヌーヴォー、アール・デコと日本の伝統を融合させた独特なデザインは、瞬く間に人々の心を捉えた。
SOMPO美術館で開幕した「デザインとイラストレーションの青春 1900s-1930s 大正イマジュリィの世界」では、そうした綺羅星のごとき“イマジュリィ”の数々を、12人の作家、9つのテーマという21章の構成で紹介する。
- 美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
- 「大正イマジュリィの世界 デザインとイラストレーションの青春 1900s―1930s」
開催美術館:SOMPO美術館
開催期間:2025年7月12日(土)〜8月31日(日)
文学の世界を飾る装幀・口絵のイマジュリィ
この記事では、多岐にわたる“イマジュリィ”の中でも、特に中核を担っていたメディアや作家を紹介したい。まず重要なのは、小説や歌集など文学にまつわる作品だ。展覧会も藤島武二による与謝野晶子『みだれ髪』の装幀から幕を開ける。

個人の主観を重視し、抒情的で感情的な表現が特徴のロマン主義文学の作品を飾る装幀や口絵のデザインに、アール・ヌーヴォー的な表現はぴたりとはまった。藤島の甘美でロマンティックな女性像や装飾的な図像は、歌集の魅力を余すところなく表現している。

他には『吾輩ハ猫デアル』をはじめ、夏目漱石の小説の装幀を数々手掛けた橋口五葉も、この時期の装幀デザインを牽引した重要な作家だ。また、西洋の芸術様式が積極的に取り入れられた一方で、大正時代は明治時代の急激な西洋化に対する“揺り戻し”の時代でもあった。江戸時代への懐古的な憧憬が起こる中で、小村雪岱は洒脱な線描で新しい“江戸イメージ”を作り上げた。

大正イマジュリィは最新のモードと共に

最新のファッションを提示する「百貨店」もまた、「大正イマジュリィ」の得意とする領域であった。その代表格が、杉浦非水による三越百貨店の仕事だ。手の込んだ華麗な装飾は、“新しい生活様式”を提案する百貨店の役割に大いに貢献したことだろう。

「大正ロマン」を代表する画家・竹久夢二も女性グラビア雑誌『婦人グラフ』(国際情報社刊)の表紙や挿絵を担当している。当時、同誌のデザインは、夢二の他に伊東深水、恩地孝四郎、蕗谷虹児といった、当時の人気作家たちが手掛けていた。それぞれの作家の個性と高い美意識によって表された女性像は、多くの女性の憧れになったに違いない。
JAZZ、舞台、楽譜―都市に溢れる音楽とイマジュリィ

近代化・西洋化にともなう都市の発展は、新たな娯楽の誕生でもあった。JAZZブームの到来、演劇・映画の興行が盛んになると、華やかな音楽の調べに相応しい、モダンで心浮きたつポスター、チラシ、書籍などのイマジュリィが街中を彩った。


広告などが蒐集されたスクラップブックは、当時のムードをそのまま今に伝えるタイムカプセルのようだ。
また、1915年にセノオ音楽出版社から『セノオ楽譜』が刊行される。その表紙デザインを1916~27年の間に270点も手掛けたのが竹久夢二であった。夢二は自身でも20曲以上も作曲しており、音楽と深く結びついた画家であった。そんな夢二の描く細身で儚げな女性や詩情豊かな図像は、音楽の世界へと誘う最良の装置として、その役割を果たしている。


少年少女のためのイマジュリィ
甘美な「大正イマジュリィ」は、何も大人たちだけのものではない。1900年代には女性運動などで、子どもが1人の人間として尊重されるべきという思想が芽生える。そうした風潮の中から、少年少女たちのための雑誌が刊行されるようになった。



「子どものイマジュリィ」の代表的な作家と言えば、高畠華宵だろう。1914年に『少年倶楽部』の挿絵を手掛けると、その作風は絶大な人気となった。流麗な線で描かれた美少年美少女は、妖艶なムードをまとい、見る人の眼をひきつけ、その後約20年もの間、少年少女向け雑誌の表紙・挿絵などを手掛けた。
イマジュリィの世界は京都にも

1923年に関東大震災が起きると、一時的にメディアも京阪に移り、情報の集積地が東京から京阪に移る時期があった。

中でも洗練された意匠で人気を博したのが、小林かいちだ。小林は、京都のさくら井屋で多くの絵はがき、絵封筒のデザインを手掛けた。着物の図案家でもあったという小林のデザインは、アール・デコ様式とも相まって、スッキリと洗練されつつも静かな抒情に満ちており、絵封筒という小さく細長い判型に独自の美を開花させている。

美術館所蔵の東郷青児と“イマジュリィ”
展覧会の最後には、SOMPO美術館のコレクションを代表する画家・東郷青児(1897-1978)が紹介されている。洋画家の東郷は、1915年、東郷は18歳の時の初個展で「未来派風」の前衛的な新人として注目され、翌年には二科展で二科賞を受賞する。1921年から7年間フランスに滞在、帰国後は油彩の他に装幀などの仕事も積極的に行っていた。本展では、美術館が所蔵する東郷の油彩画4点と共に、装幀の仕事を紹介し、東郷青児によるイマジュリィの世界に触れる。


まばゆいほどに華やかでロマンティックな“大正イマジュリィ“。本展を見れば、洗練された美意識に溢れ、それぞれの作家の個性が存分に発揮された作品の数々が、変貌を遂げる日本の街中で、人々の心と生活を潤していたことが感じられることだろう。