FEATURE

日本国内の名品からシュルレアリスムの拡がりを体感
いま問い直す「革新をもたらす力」

「拡大するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ」が、
大阪中之島美術館にて、2026年3月8日(日) まで開催

内覧会・記者発表会レポート

展示風景より、右から ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》1957年 大阪中之島美術館、ルネ・マグリット《王様の美術館》1966年 横浜美術館
展示風景より、右から ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》1957年 大阪中之島美術館、
ルネ・マグリット《王様の美術館》1966年 横浜美術館

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文:中島文子

激動の20世紀に世界に大きなインパクトをもたらした芸術運動、シュルレアリスム。その広がりを、絵画、写真、広告、ファッションなど表現媒体の異なる多彩な作品群から考察する展覧会、「拡大するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ」が大阪中之島美術館で開幕した。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「拡大するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ」
開催会場:大阪中之島美術館 4階展示室
前期:12月13日(土)〜2026年1月25日(日)
後期:2026年1月27日(火)〜3月8日(日)

開催期間:2025年12月13日(土)〜2026年3月8日(日)

シュルレアリスム(超現実主義)というと、幻想的で不可思議な絵画や写真のイメージを思い浮かべる方が多いかもしれない。実際、視覚芸術の分野で語られることが多いが、この運動が特殊なのは、一貫した表現様式を持たない、という点だ。シュルレアリストが優先したのは、常識や理性から人間を解放し、社会に変革をもたらそうとする精神であり、この動向は芸術の域にとどまらず、より日常に近いシーンへと波及していくこととなった。

本展は、視覚芸術から人々の生活領域まで視野を広げ、シュルレアリスムがどのように社会に受け入れられていったのか、その実態を探る。シュルレアリスムに重要なインスピレーションを与えたマルセル・デュシャンのオブジェ、マックス・エルンスト、ルネ・マグリット、サルバドール・ダリ、マン・レイなど代表的な作家たちの作品、気鋭のファッションデザイナー、エルザ・スキャパレッリのドレス……日本各地の美術館が所蔵する貴重な優品が集結した展覧会の見どころをレポートする。

構成の妙で迫る、新たなシュルレアリスム像

シュルレアリスムは、フランスの詩人アンドレ・ブルトンが1924年に発表した「シュルレアリスム宣言」で定義づけた動向。背景には第一次世界大戦による破滅的状況があり、行き過ぎた合理主義に対する懐疑から、新しい方法で分断した世界を再統合しようとする動きが起こった。フロイトの精神分析学の影響を受け、無意識や夢に着目したシュルレアリストの実践は当初文学の傾向として現れたが、やがて様々な表現媒体に拡張していくことになる。

アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』(初版本)1924年 岡崎市美術博物館
アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』(初版本)1924年 岡崎市美術博物館

本展は「オブジェ」「絵画」「写真」「広告」「ファッション」「インテリア」の表現媒体をキーワードにした6つのパートで構成されている。「オブジェ」「絵画」「写真」の前半部分でシュルレアリスムの理論に触れ、後半の「広告」「ファッション」「インテリア」で日常に根差した、多様な媒体への展開を示す。その特徴を端的に示しているのがプロローグだ。会場に入るとすぐに、天井からぶら下げられたオブジェの影が目に入り、展示ケースには、本展を要約しているかのように、バリエーションに富んだ作品が並ぶ。少し俯瞰的に見ることで、鑑賞者が思うシュルレアリスムと対比することができる。

展示風景より、「プロローグ」にはジョルジオ・デ・キリコ《福音書的な静物 I》、サルバドール・ダリ《スプーン付き椅子》、エルザ・スキャパレッリの「サーカス・コレクション」からショッキング・ピンクのイブニングドレスなどが並ぶ
展示風景より、「プロローグ」にはジョルジオ・デ・キリコ《福音書的な静物 I》、サルバドール・ダリ《スプーン付き椅子》、
エルザ・スキャパレッリの「サーカス・コレクション」からショッキング・ピンクのイブニングドレスなどが並ぶ

プロローグを抜けて、本展は第1章「オブジェー『客観』と『超現実』の関係」から展開する。ここでまず注目したいのはマルセル・デュシャンのレディメイドの作品だ。「レディメイド(既製品を用いた作品)」という言葉は、1915年にデュシャンがニューヨークで雪かきシャベルを購入し、その柄に「折れた腕の前に」と書き込んだときに本人が命名した。この時はまだシュルレアリスムの誕生前で、デュシャンがダダイストとして認識されていたときの話だ。

展示風景より 第1章「オブジェ」の入り口(左上)にあるのは、マルセル・デュシャン《瓶乾燥器》1914/1964年(シュワルツ版 ed. 6/8) 京都国立近代美術館
展示風景より 第1章「オブジェ」の入り口(左上)にあるのは、マルセル・デュシャン《瓶乾燥器》
1914/1964年(シュワルツ版 ed. 6/8) 京都国立近代美術館

ものが本来の文脈(主体)から離れ、別の文脈(客体)で立ち現れることで、常識が揺さぶられる。世界の見方を変えたレディメイドは、シュルレアリスムの理論を示す重要なオブジェとして位置づけられることになった。デュシャン、フランシス・ピカビアと共にニューヨーク・ダダの運動に携わったマン・レイもまた、メトロノームと写真から切り抜いた目のイメージを合体させた《不滅のオブジェ》など、レディメイド作品を発表している。

展示風景より、右からマン・レイ《贈物》、《不滅のオブジェ》
展示風景より、右からマン・レイ《贈物》、《不滅のオブジェ》
フランシス・ピカビア《黄あげは》1926年 大阪中之島美術館
フランシス・ピカビア《黄あげは》1926年 大阪中之島美術館

オブジェを媒介に、鑑賞者は主観と客観の間で揺れながらも、何か新しい気づきを得るかもしれない。壁にあるテキストも手がかりにしながら、じっくり作品と向き合ってみてほしい。

展示風景より、奥でライトが当たるのはジャン(ハンス)・アルプ《植物のトルソ》、本展では各所にあるテキストが展示を印象的に演出している
展示風景より、奥でライトが当たるのはジャン(ハンス)・アルプ《植物のトルソ》、
本展では各所にあるテキストが展示を印象的に演出している

「見る行為」を挑発する視覚芸術

第2章「絵画―視覚芸術の新たな扉」では、バリエーションに富んだ名作の数々が展示されている。ルネ・マグリットの《レディメイドの花束》と《王様の美術館》、2つの大作が並ぶ様は見応え十分だ。すべて国内の作品だけで成立している事実に改めて驚きを感じる。

展示風景より、右から ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》1957年 大阪中之島美術館、ルネ・マグリット《王様の美術館》1966年 横浜美術館
展示風景より、右から ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》1957年 大阪中之島美術館、
ルネ・マグリット《王様の美術館》1966年 横浜美術館

シュルレアリスムの絵画は、その外見から様式的な共通点を見出すことが難しい。オートマティスム(自動筆記)の手法で無意識の世界を表出しようとした作品、リアルな精緻さで現実的にはありえない光景を描いた作品、さらに集団実験的な作品もある。コラージュ、フロッタージュ(こすり出し)、デカルコマニー(転写・写し取り)など、新しい技法に好奇心を持って取り組んだ画家たちの表現の変遷を見るのも興味深いだろう。

展示風景より、右からマックス・エルンスト《毛皮のマント》、イブ・タンギー《失われた鐘》、サルバドール・ダリ《幽霊と幻影》
展示風景より、右からマックス・エルンスト《毛皮のマント》、イブ・タンギー《失われた鐘》、サルバドール・ダリ《幽霊と幻影》
オスカル・ドミンゲス《無題──デカルコマニー》1953年 横浜美術館
オスカル・ドミンゲス《無題──デカルコマニー》1953年 横浜美術館

19世紀に登場した写真や映像は、視覚芸術の可能性を広げる媒体として芸術家たちに刺激を与えた。第3章「写真―変容するイメージ」では、被写体をありのままに写す、という本来の役割から飛躍した、シュルレアリスムの写真術に焦点を当てる。特に頭角を表したのは、もともと画家として活動していたマン・レイだ。カメラは使わず、印画紙の上に直接物体を置き、光を当てて物体の形を焼き付ける「レイヨグラフ」、露光過多によってモノクロ写真の明暗を反転させる「ソラリゼーション」など、「写真とはこうあるべき」という固定観念を覆す表現を次々生み出していった。

展示風景より、左はマン・レイ《ねじとりんご》、右の2点は《レイヨグラフ》
展示風景より、左はマン・レイ《ねじとりんご》、右の2点は《レイヨグラフ》

詩やオブジェ、絵画と同様に、写真もひとつの媒体に過ぎない。異なる媒体を横断し、遊びのように自由な発想で新しいことを実践したマン・レイに続くかのように、20世紀は前衛的な写真作品がたくさん生まれた。死後にアンフォルメルの先駆者として評価されるヴォルスは、1930年代にシュルレアリストと交流し、オブジェを被写体とした写真作品を手がけている。物質の質感を生々しく伝える写真は、視覚以上の感覚を呼び覚ます強度を保つ。

ヴォルス《美しい肉片》1939年 個人蔵
ヴォルス《美しい肉片》1939年 個人蔵

アバンギャルドな映画で知られるルイス・ブニュエルが、サルバドール・ダリとの共同脚本で監督した短編映画『アンダルシアの犬』も見ることに対して挑発的に働きかける。取りとめのないシーンと違和感の連続、そして純粋な恐怖。ショッキングな映像は、まさに受動的に生きる人々を覚醒させる狙いがあった。

参考出品 ルイス・ブニュエル、サルバドール・ダリ『アンダルシアの犬』1929年公開 映像提供:神戸映画資料館
参考出品 ルイス・ブニュエル、サルバドール・ダリ『アンダルシアの犬』1929年公開 映像提供:神戸映画資料館

「日常を変える」シュルレアリスム

シュルレアリスムで繰り広げられた旺盛な創作活動は、美術の規範から離れるほど、その表現は自由になり、訴求力を増していった。担当学芸員の國井綾氏が「『芸術界にとどまらないシュルレアリスム』が本展の1番の特徴」というように、シュルレアリスムの拡がりを大衆に近いシーンから感じることで、単なる芸術運動と言い切れない違った側面が見えてくる。

本展の第4章目以降は、社会に展開したシュルレアリスムを紹介する。第4章「広告―『機能』する構成」では、マックス・エルンストやジョアン・ミロ、サルバドール・ダリなどが手がけたポスターの他、『ハーパース・バザー』誌の表紙を紹介。デペイズマン(転置)やコラージュなど、シュルレアリスムでよく見られる手法が広告で多用されていることを示す。

展示風景より、『ハーパース・バザー』誌の表紙が並ぶ
展示風景より、『ハーパース・バザー』誌の表紙が並ぶ

デペイズマンは「本来あるべき場所にないものを出会わせて違和を生じさせる」手法だ。ロートレアモンの有名な詩句「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘の偶然の出会いのように美しい」で表されるように、違和感がある光景は人の目を妙に惹きつける。シュルレアリスムが常識を揺さぶる動力となる一方で、大衆に愛されながら、その政治性は次第に失われ、批判していたはずの資本主義や商業主義に吸収されていった展開も理解できる。

展示風景より
展示風景より

「違和」が喚起するもの

この「違和」というキーワードは、「ファッション」と「アート」という相容れない2つの分野を結びつける上でも重要な要素だったのではないだろうか。シュルレアリスムの手法がファッション誌や服飾そのものに取り入れられただけでなく、シュルレアリストもまたファッションに関心を持った。

展示風景より、右はポール・デルヴォー《階段》
展示風景より、右はポール・デルヴォー《階段》

衣服は本来身体と別のものであるのにも関わらず、非常にパーソナルなものでもある。というのも他人からしたら、裸のその人と出会うことはないのだから、客観的に見ると装いはその人の身体の一部なのだ。変身願望や性的欲望、個人的な欲求を喚起するものとしてもファッションの効力は強い。

展示風景より、右からモーリス・タバール《ジャルダン・デ・モード》、ヴォルス《パリ万国博にて》
展示風景より、右からモーリス・タバール《ジャルダン・デ・モード》、ヴォルス《パリ万国博にて》

第5章「ファッション―欲望の喚起」で大きな見どころとなっているのが、パリで活躍したイタリア人デザイナー、エルザ・スキャパレッリの作品だ。同時代に生きたガブリエル・シャネルとよく比較される彼女は、シンプルシックなシャネルの服とは逆の、斬新かつ奇抜なデザインで人々を驚かせた。ショッキング・ピンクやトロンプルイユ(だまし絵)、そしてダリやジャン・コクトーとのコラボレーション、世界で最も尖ったデザイナーの登場は相当な事件であったに違いない。

展示風景より、エルザ・スキャパレッリのイブニング・ドレス
展示風景より、エルザ・スキャパレッリのイブニング・ドレス
展示風景より、エルザ・スキャパレッリのコスチュームジュエリー。ガラスや合金など新しい素材を取り入れ、自由で独創的なデザインを生み出した。
展示風景より、エルザ・スキャパレッリのコスチュームジュエリー。
ガラスや合金など新しい素材を取り入れ、自由で独創的なデザインを生み出した。

ショッキング・ピンク然り、「ショッキング」はスキャパレッリを象徴する言葉だ。女性の上半身が香水瓶となった《ショッキング》は代表的な作品として世に知られるようになった。

展示風景より、エルザ・スキャパレッリの香水瓶の数々
展示風景より、エルザ・スキャパレッリの香水瓶の数々

芸術と日常の境界を越える、シュルレアリスムの拡がりを追ってきた本展は、第6章「インテリア―室内空間の変容」で締めくくられる。室内空間の描写はジョルジオ・デ・キリコ、ルネ・マグリット、ポール・デルボーなどシュルレアリスムの絵画でもよく見られるが、ここで注目したいのは、家具やタペストリー、内装、実際の空間デザインに関わる部分だ。メレット・オッペンハイムが制作したオブジェ《鳥の足のテーブル》は空間に違和感をもたらしつつも、生活にある家具としてきちんと成立している。

展示風景より、手前はイサム・ノグチ《コーヒー・テーブル》
展示風景より、手前はイサム・ノグチ《コーヒー・テーブル》

また、機能美や合理性を追求するモダニズムの流れに逆らうかのように、有機的形態に目を向けたジャン・アルプやジョアン・ミロの作品も紹介されている。シュルレアリストたちと交流のあった彫刻家、イサム・ノグチの自然を尊重した有機的なデザインも、当時の空気感を共有していたことの表れといえるのではないだろうか。

展示風景より、右からジャン(ハンス)・アルプ《灰色の上の黒い形態の星座》、マックス・エルンスト《偉大なる無知の人》、ジョアン・ミロ《無題『カイエ・ダール』9巻1-4号所収ステンシル》によるタペストリー
展示風景より、右からジャン(ハンス)・アルプ《灰色の上の黒い形態の星座》、マックス・エルンスト《偉大なる無知の人》、
ジョアン・ミロ《無題『カイエ・ダール』9巻1-4号所収ステンシル》によるタペストリー

シュルレアリスムが展開した創造的行為は、人々が当たり前としている世界をひっくり返すような挑戦的な試みだった。その誕生から100年が経過したいま、シュルレアリスムの「革新をもたらす力」をどう受け止めることができるのだろうか。展示を巡りながら、私たちの生きている日常や社会、あるいはもっと遠くの世界、様々な視点で考えてみることができるだろう。

展示風景より、中央にあるのはサルバドール・ダリ《抽き出しのあるミロのヴィーナス》
展示風景より、中央にあるのはサルバドール・ダリ《抽き出しのあるミロのヴィーナス》

近現代の美術作品とデザイン作品の豊富なコレクションを特徴とする大阪中之島美術館で本展を開催することについて、館長の菅谷富夫氏は、「生活から人のありようを考えるという姿勢でデザイン作品を収集している美術館として必然だった」と話す。視覚芸術からファッション、インテリアまで、ここまで幅広い分野のシュルレアリスムの名品が集結する機会はめずらしい。ここでは紹介しきれなかった貴重な作品が多数展示されているので、ぜひ会場に足を運んでみてほしい。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
大阪中之島美術館|NAKANOSHIMA MUSEUM OF ART, OSAKA
530-0005 大阪府大阪市北区中之島4-3-1
開場時間:10:00〜17:00(最終入場時間 16:30)
会期中休館日:月曜日、12月30日(火)、12月31日(水)、2026年1月1日(木・祝)、1月13日(火)、2月24日(火) ※2026年1月12日(月・祝)、2月23日(月・祝)は開館

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