FEATURE

「ACK ART GUIDE」で巡る、秋の京都を彩るアート

曼殊院門跡、瑞雲庵、MtK Contemporary Art、Nonaka-Hill京都、両足院、京都アンプリチュード

アートフェア

京都・建仁寺の塔頭、両足院で、クサカ シオとジョナス ウッドによる新作展が12月10日(水)まで開催中
京都・建仁寺の塔頭、両足院で、クサカ シオとジョナス ウッドによる新作展が12月10日(水)まで開催中

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文・写真:中島良平

秋の京都を舞台に、魅力的なアートの展示の数々が開催されている。11月初頭に開催されたアートフェア「Art Collaboration Kyoto(ACK)」では、同時期に京都で楽しめる現代アートプログラムの数々を「ACK ART GUIDE」という冊子で紹介し、フェアへの来場とあわせて多様なアート展を楽しんでほしいと促していた。これもACKがテーマとする「コラボレーション」のひとつのかたちだといえるだろう。同冊子からピックアップし、取材した展示をいくつか紹介したい。京都らしいユニークヴェニューで、紅葉と相まって新たな魅力を放つアート展に足を運んでみてはいかがだろうか。

キャリー・ヤマオカ「Inside Out/Outside In」@曼殊院門跡

洛北の名刹、曼殊院門跡。キャリー・ヤマオカ「Inside Out/Outside In」が12月3日まで開催中
洛北の名刹、曼殊院門跡。キャリー・ヤマオカ「Inside Out/Outside In」が12月3日まで開催中

叡山電鉄で出町柳駅を出発し、4つ目の修学院駅で降りる。東へ15分ほど歩き、向かった先が曼殊院門跡(まんしゅいんもんぜき)だ。延暦年間(782〜806)、天台宗を開いた伝教大師・最澄により比叡の地に創建され、現在は洛北屈指の名刹として知られるこの門跡で展示を行うのは、ニューヨークを拠点に活動を続けるキャリー・ヤマオカ。絵画や写真、彫刻など複数のメディアを横断し、物質性とその変化、微かに視認できる触覚性に向けられた関心から制作を行ってきた彼女の、25年にわたる制作活動が会場で網羅される。ニューヨーク州のグレンコーヴで生まれ、10代を日本で過ごした日系アメリカ人アーティストにとって日本初の個展だ。

《Cast bag (blue)》2025 型取りした青いウレタンの作品が周囲の景色を映し出し、独自の存在感を放つ
《Cast bag (blue)》2025 型取りした青いウレタンの作品が周囲の景色を映し出し、独自の存在感を放つ

展覧会タイトルが示す通り、曼殊院という「内と外」が交差する空間に呼応し、外光を受け止めて表情を変える作品を点在させた。それも、素材や色、形などもさまざまに手がけられた作品を。光や風、内と外の空気の変化、天候など、一定ではないあらゆる要素を含む建築的環境において、作品との出会い、曼殊院で受ける印象など、鑑賞者の体験そのものが作品の構成要素となることが示されている。

《Koolpop no.9 (ongoing)》2001/2025 窓から松の木越しに見えるのが、反射フィルムの貼られたレジン製の作品。建物を移動しながら、別の角度から見たときにはまたその印象が変化する
《Koolpop no.9 (ongoing)》2001/2025 窓から松の木越しに見えるのが、反射フィルムの貼られたレジン製の作品。建物を移動しながら、別の角度から見たときにはまたその印象が変化する
展示風景より
展示風景より

傾斜のある参道を進み、山門を前にしたときから、ヤマオカの表現と曼殊院の環境が呼応するインスタレーションの体験が始まる。門跡に足を踏み入れ、建物内を歩き、ヤマオカによる造形物を目にすることで、その呼応を体感することになるはずだ。

キャリー・ヤマオカ「Inside Out/Outside In」
曼殊院門跡

606-8134 京都府京都市左京区一条寺竹ノ内町42
会期:2025年11月12日(水)〜12月3日(水)
https://kiangmalingue.com/exhibitions/carrie-yamaoka-inside-out-outside-in/

「能楽×現代美術:もののけたちの囁き」@瑞雲庵

洛北エリアの上賀茂神社からほど近くには、歴史的な旧家や蔵による風情ある町並みが残されている。そこに位置する築100年以上の古民家「瑞雲庵」は、かつて両替商の住宅だった建物。

瑞雲庵外観
瑞雲庵外観

公益財団法人 西枝財団がこの場所で「瑞雲庵における若手創造者支援事業」を実施しており、秋季企画として採択されたのが、アーティストのヤマガミユキヒロがデジタル/テック・クリエイティブのコミュニティSPEKTRAと手を組み、能楽師の林喜右衛門の特別協力を得て手がけた「能楽×現代美術:もののけたちの囁き」だ。

展示風景より
展示風景より
入口で渡された行燈を片手に、暗い展示空間を探りながら歩く
入口で渡された行燈を片手に、暗い展示空間を探りながら歩く

古民家の軋む廊下の音や、突然差し込んでくる光、あるいは、木の葉のざわめきから何かの存在を感じることは誰しもあるだろう。それを「もののけたちの囁き」とヤマガミは表現する。着想のきっかけとなったのは、鵺(ぬえ)という妖怪が主題となる能楽作品。「夜に奇妙な声で鳴く鳥」であるトラツグミをかつては鵺と呼んでいたが、何を境に普通の鳥が妖怪へと姿を変えたのだろうか…!?

建物奥の蔵では、ヤマガミが鉛筆で緻密に描いた能舞台の絵の上に、映像を投影するインスタレーションを展開
建物奥の蔵では、ヤマガミが鉛筆で緻密に描いた能舞台の絵の上に、映像を投影するインスタレーションを展開

瑞雲庵の広間では、点灯していた古いランプがチカチカと突然消えてしまうかもしれない。行燈を手に歩いていると、能楽の演目にちなんだ掛け軸などのお宝とも呼べる骨董や、緻密に描かれたもののけの姿と文字の描写でその存在を感じさせるヤマガミのドローイング作品などが古民家内に点在する。昼に自然光が差し込む古民家の美しさを感じながら、もしくは夕方すぎ、行燈を片手に暗闇の中をぞくぞくしながら、「もののけたちの囁き」に耳を傾けてほしい。

展示風景より
展示風景より
「能楽×現代美術:もののけたちの囁き」
瑞雲庵

603-8074 京都府京都市北区上賀茂南大路町62-1
会期:2025年11月1日(土)〜11月30日(日)
https://www.yamagamiyukihiro.net

ボスコ・ソディ「火」@MtK Contemporary Art

平安神宮などで知られる岡崎地区に移動する。京都市京セラ美術館裏手、京都市動物園と道を挟んで向かいに位置する MtK Contemporary Art は、アーティストの鬼頭健吾がディレクターを務める現代アートギャラリー。そこで現在開催されているのが、メキシコ出身のアーティスト、ボスコ・ソディの個展「火」だ。

展示風景より
展示風景より

赤はエネルギー、火、そして高潔の色である。
火は人類の進化とともにあり、私たちのDNAに息づいている。
生命の本質である火のエネルギーについて語りたい。
——ソディの展覧会ノートより

壁に並ぶのは、立体的に物質感を備えた作品。フレームに入ったものも、むき出しで架けられたものもある。火のエネルギーを平面に収めようとして、しかし収まり切らずに物質感を備えた絵画とでも呼びたくなる圧を備えている。中央の丸い作品は、太陽のようであり、フレームに収められた黒い作品は、燃え尽きる前のエネルギーをまだ蓄えながらも燻る岩のようでもある。展示空間で作品を前に、そこにうごめくエネルギーを感じとってほしい。

展示風景より
展示風景より
ボスコ・ソディ「火」
MtK Contemporary Art

606-8334 京都府京都市岡崎南御所町20-1
会期:2025年11月12日(水)〜12月13日(土)
https://mtkcontemporaryart.com

アダム・アレッシ「Pepper」@Nonaka-Hill京都

祇園に向かおう。古美術商が軒を連ねるエリアの新門前通から路地に入ると、その奥に町家をリノベーションしたアートギャラリー Nonaka-Hill 京都が位置する。現在個展を開催しているのは、ニューヨークを拠点に絵画やドローイング、彫刻など多様なメディアで制作を続けるアダム・アレッシ。ヴィクトリア朝末期、唯美主義、初期モダニズムなどの時代思潮が交錯する、世紀末的な交差領域から着想して生まれた作風で特徴づけられるアーティストだ。

展示風景より
展示風景より

今回の個展で発表されるのは、コントラストの強いセピア調を基調とした作品の数々。映画や歴史の一場面に登場するおなじみの人物や、幻想的な世界に立ち現れる架空の人物たちがモチーフとなっている。京都の街並みから町家に入り、古民家の構造を残したハイブリッドな展示空間に、過去と現在、現実と幻想といったものが目眩くせめぎ合うアーティストの作品が並び、来場者たちを幻惑へと誘う。

展示風景より
展示風景より
展示風景より
展示風景より
アダム・アレッシ「Pepper」
Nonaka-Hill 京都

605-0088 京都府京都市東山区新門前通西野町201-4
会期:2025年11月13日(木)〜12月20日(土)
https://www.nonaka-hill.com

クサカ シオとジョナス ウッド@両足院

祇園の両足院では、ロサンゼルスのデイヴィッド・コルダンスキー・ギャラリーとの共同企画で、陶芸の歴史に内在する理念を読み取り、彫刻的なアプローチで制作を行うクサカ・シオと、独特な色の配置を特徴とし、独自の技法で奥行きを生み出すペインティング作品で知られるジョナス・ウッドの二人展が開催されている。

両足院外観
両足院外観

過去にも二人展を開催してきたアーティスト夫妻であるふたりが、14世紀に建立された、京都で最も重要な禅寺のひとつとして知られる両足院の歴史や文脈を鑑みながら、新作を手がけるとともに展示作品を選定した。

展示風景より
展示風景より

両足院の広間の内装を曲面に表現したものや、宇宙人かと思わせるものまで、うつわのフォーマットを用いながらも、その立体的な造形に視覚表現を行うアプローチをとるクサカ。本展では、日本の縄文時代や古墳時代の陶芸に着想を得た作品から、宇宙船のイメージをかたちにしたものまでを展示し、離れた時空を接続させた。

一方のウッドは、ときとして点描などの新印象派を想起させる平面的な色の配置を行いながら、そのマチエールのコントロールによって、立体感を生み出す独自の技法で絵画を手がけている。その作品には、ときには皇居前から丸の内方面を眺めた景色であったり、ときには、クサカによる陶の表現を思わせるうつわであったりが描かれ、クサカとは異なるアプローチで異空間との接続を行っている。

展示風景より
展示風景より
茶室の展示風景より
茶室の展示風景より

禅寺の静謐の空間と、展示された作品に垣間見えるふたりのユーモア。絶妙なバランスの融合をゆっくり楽しみたい二人展だ。

クサカ シオとジョナス ウッド
両足院

605-0811 京都府京都市東山区大和大路通四条下る4丁目小松町591
会期:2025年11月13日(木)〜12月10日(水)
https://ryosokuin.com/news

伊藤若冲✖️岡崎京子「and flowers」@京都アンプリチュード ショールーム

最後に二条城そばの京都アンプリチュード ショールームへ。「京都の新しい資源を世界に届ける」をビジョンに掲げ、伝統工芸の技術や文化資源を用いて、新たな商品やインテリアデザインをかたちにして発信する京都アンプリチュード。京都中央信用金庫が設立したこの地域商社のショールームでは、伊藤若冲 × 岡崎京子「and flowers」が開催されている。主催は、集英社マンガアートヘリテージ。

ウィンドーにも作品を展示 ©︎Kyoko Okazaki /SHODENSHA Publishing Co.,Ltd. / Shueisha Inc.
ウィンドーにも作品を展示 ©︎Kyoko Okazaki /SHODENSHA Publishing Co.,Ltd. / Shueisha Inc.

1996年、交通事故により、執筆が困難となった岡崎京子。マンガの領域を大きく拡張した作家のひとりである岡崎の『pink』(1989・マガジンハウス)、『私は貴兄のオモチャなの』(1995・祥伝社)、『うたかたの日々』(2003・宝島社)よりセレクトした4点のイラストレーションを作品化した。採用した技法は、手漉きの越前和紙を用い、ガラス板を用いて、網点ではなくグラデーションにより色の濃淡を表現するコロタイプ印刷。繊細な描線が再現され、作家の手の動きが伝わってくるような作品に仕上がった。

展示風景より ©︎Kyoko Okazaki /MAGAZINE HOUSE Co., Ltd. / TAKARAJIMASHA, Inc. /Shueisha Inc.
展示風景より ©︎Kyoko Okazaki /MAGAZINE HOUSE Co., Ltd. / TAKARAJIMASHA, Inc. /Shueisha Inc.
展示風景より ©︎Kyoko Okazaki / TAKARAJIMASHA, Inc. / Shueisha Inc.
展示風景より ©︎Kyoko Okazaki / TAKARAJIMASHA, Inc. / Shueisha Inc.

そして、一緒に展示されているのが、京都に生まれた江戸時代の奇想の画家である伊藤若冲の「花卉(かき)天井図」。岡崎京子が描く女の子と花。そこにリンクするのは、奇想の画家による花の表現。集英社マンガアートヘリテージのキュレーションの妙が冴え渡る展示だ。

展示風景より
展示風景より
岡崎京子 × 伊藤若冲「and flowers」
京都アンプリチュード ショールーム

604-0053 京都府京都市中京区森ノ木町208-2
会期:2025年11月13日(木)〜12月18日(木)
https://mangaart.jp/ja/exhibitions/kyokookazaki-jakuchu-kyoto-2025

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