FEATURE

新年を告げる国際的アートフェア ART SGと
シンガポールの街全体のアート体験

ART SG(アート・エス・ジー)が、マリーナ・ベイ・サンズ内で開催

アートフェア

ART SGの会場はマリーナ・ベイ・サンズ内のサンズ・エクスポ&コンベンションセンター。マリーナ・ベイ・サンズは3つのタワーの上に船のような「スカイパーク」が乗った外観と屋上のインフィニティプールで知られるシンガポールを代表するランドマーク。ホテルだけでなく高級ショッピングモール、レストラン、劇場、美術館(アート・サイエンス・ミュージアム)、カジノなどの施設を有する統合型リゾートだ。Courtesy of Marina Bay Sands
ART SGの会場はマリーナ・ベイ・サンズ内のサンズ・エクスポ&コンベンションセンター。マリーナ・ベイ・サンズは3つのタワーの上に船のような「スカイパーク」が乗った外観と屋上のインフィニティプールで知られるシンガポールを代表するランドマーク。ホテルだけでなく高級ショッピングモール、レストラン、劇場、美術館(アート・サイエンス・ミュージアム)、カジノなどの施設を有する統合型リゾートだ。Courtesy of Marina Bay Sands

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構成・文:藤野淑恵

世界の主要アートフェアの中で新年を祝福するかのようにトップを切って幕を開けるのが、東南アジア屈指の国際都市、シンガポールで2023年から開催されているアート・エス・ジー(ART SG)。2026年は1月23日〜25日に一般公開、1月22日にはプレビューおよびヴェルニサージュが行われる。会場はマリーナ・ベイ・サンズ内、サンズ・エクスポ&コンベンションセンター。ART SG は、同時期に開催されるシンガポール・アート・ウィークとともに、都市全体を舞台にアート体験を提案するイベントとして存在感を高めてきた。

アートフェア情報|シンガポール
ART SG(アート・エス・ジー)
会期:2026年1月23日(金)〜25日(日)
プレビューおよびヴェルニサージュ:1月22日(木)
会場:マリーナ・ベイ・サンズ内 Marina Bay Sands Expo and Convention Centre

シンガポールから年初のアートカレンダーを飾る ART SG

国際的なアートフェアの開催地として思い浮かぶ都市はどこだろう。アートバーゼルの開催地であるスイスのバーゼル? 或いは、そのアートバーゼルが開催されるアジアのアートマーケットの拠点、香港? アートメディアであるフリーズによるフリーズ・ロンドン&フリーズ・マスターズの開催地ロンドン? またはそのフリーズのアジアの拠点、ソウルかもしれない。7、8月の夏休み期間を除いて一年中埋め尽くされている世界各地のアートフェアのカレンダー。その1ページ目である新年1月の主要なアートフェアが、東南アジアの都市国家シンガポールで開催されるアート・エス・ジー(ART SG)だ。

ART SG 2025 の会場風景。 Courtesy of ART SG
ART SG 2025 の会場風景。 Courtesy of ART SG

初開催から4年。東南アジアの存在感を高めるアートフェア

日本が一年で最も寒さの厳しい季節を迎える頃、常夏のシンガポールはアートの熱気に包まれる。世界の主要アートカレンダーのトップを切って開催されるART SG、そして同時に開催されるシンガポール・アート・ウィークのために集まったアーティスト、アート関係者、コレクターたちの放つパワーと躍動感がその理由だ。2023年のスタートから4年目を迎える現在、ART SGは世界のアートカレンダーの中で欠かせない存在へと進化を遂げている。

ART SG 2025 VIPプレビューの会場風景。 Courtesy of ART SG
ART SG 2025 VIPプレビューの会場風景。 Courtesy of ART SG

国際的なメガギャラリーから東南アジアのショーケース、日本の実力派までが集う

2026年はホワイト・キューブ(White Cube:ロンドン、香港、パリ、ソウル、ニューヨーク)、タデウス・ロパック(Thaddaeus Ropac:拠点ロンドン、パリ、ザルツブルク、ソウル)など世界のトップギャラリーが出展。日本からは小山登美夫ギャラリー、Ota Fine Artsなど国際的なアートフェアに常連の著名ギャラリーの他、アーティストの村上隆が設立した カイカイキキ・ギャラリー(Kaikai Kiki Gallery)や、彫刻や工芸に焦点を当てるライトハウス・コールド・カナタ(A Lighthouse called Kanata)、日本美術を幅広く紹介する夢工房ギャラリーなど個性豊かなギャラリーも揃う。エスティーピーアイ(STPI:シンガポール)、サリバン+ストランプフ(Sullivan+Strumpf:シンガポール、シドニー、メルボルン)、リチャード・コー・ファインアート(Richard Koh Fine Art:シンガポール、バンコク、クアラルンプール)など、東南アジアの現代アートを紹介・発信する拠点となる現地ギャラリーも見逃せない。

ART SG の「PLATFORM」セクションには多様な背景を持つアーティストによる大規模なインスタレーションが登場する。写真は2025年に展示された北京出身のアーティスト、Bingyiの作品「 Maze of Mind」。Courtesy of INKstudio
ART SG の「PLATFORM」セクションには多様な背景を持つアーティストによる大規模なインスタレーションが登場する。
写真は2025年に展示された北京出身のアーティスト、Bingyiの作品「 Maze of Mind」。Courtesy of INKstudio

ART SGの会場は、国際的なギャラリーがそれぞれの主要なアーティストプログラムの作品を紹介する「GALLERIES」、新進〜中堅アーティストに焦点を当て、個展や2人展を含むプログラムを展開する「FOCUS」、過去10年以内に設立された若いギャラリーを中心に、ART SGのために特別に制作された新進気鋭作家による新作を紹介する「FUTURES」、
現代アートの最新動向を紹介する大規模でサイトスペシフィックなインスタレーションを展開する「PLATFORM」などのセクションに分かれて構成される。今年から南アジア地域現代美術にスポットを当てる「SOUTH ASIA INSIGHTS」も新設された。

1973年マレーシア生まれのアン・サマットも「PLATFORM」に登場。伝統的なマレーシアの織物技法と日常の素材を融合させたトーテム的なアートワークで知られるアーティストだ。 Courtesy of ART SG
1973年マレーシア生まれのアン・サマットも「PLATFORM」に登場。伝統的なマレーシアの織物技法と日常の素材を
融合させたトーテム的なアートワークで知られるアーティストだ。 Courtesy of ART SG

S.E.A. Focusとの併催で国際性と地域性の連携が強化

ART SG とシー・フォーカス(S.E.A. Focus)の初併催も大きな話題だ。S.E.A. Focus は、シンガポールを中心に東南アジアの現代美術に特化して2019年に創設され、東南アジアの才能豊かなアーティストを世界的な舞台に引き上げることを目的としてスタートしたプラットフォーム&アートフェア。東南アジアや各国の作家、キュレーター、ギャラリーが交差するシンガポールで、グローバルなアートフェアとして評価を得てきた ART SG と、東南アジアの地域的な文脈に沿って現代アートの理解を深める場を築いてきた S.E.A. Focus。2つのフェアの国際性と地域性の相乗効果に期待したい。初の共催となる今年は、両フェアを合わせて30以上の国と地域から100軒を超えるギャラリーが出展する。

S.E.A. Focus 2025の会場風景。2026年はART SGと初めて併催される。Courtesy of ART SG
S.E.A. Focus 2025の会場風景。2026年はART SGと初めて併催される。Courtesy of ART SG
アートフェア情報|シンガポール
S.E.A. Focus(シー・フォーカス)
会期:2026年1月23日(金)〜26日(日)
プレビューおよびヴェルニサージュ:1月22日(木)
会場:マリーナ・ベイ・サンズ内 Marina Bay Sands Expo and Convention Centre

シンガポール・アート・ウィークで広がる、街全体のアート体験

1月にシンガポールに向かうべき理由は、ART SG と S.E.A. Focus のためだけではない。時を同じくして開催されるシンガポール・アート・ウィーク(SAW)の1週間は、一年で最も充実した展覧会、インスタレーション、パフォーマンス、イベントがシンガポールで開催されるタイミングでもある。ナショナル・ギャラリー・シンガポール(National gallery Singapore:建国50周年記念のプロジェクトのひとつとして2015年にオープンした東南アジア最大の美術館)や、ギルマン・バラックス(Gillman Barracks:国際的な現代アートギャラリーや飲食店が集まる複合文化施設)などの必見のアートスポット各所やマリーナベイ・サンズを巡回するSAWシャトルバスに乗り込めば、アート・ウィーク巡りは自在だ。都市の中に点在する重要なアート拠点に足を運ぶことで、アートフェアだけでは見えないシンガポールのアートの輪郭が立ち上がってくる。

伸びやかな緑に囲まれた複合文化施設、ギルマン・バラックス内に進むアートバス。ART SG が開催されるシンガポール・アートウィーク期間に主要アートスポットを巡回する。2026年は午前11時から 午後8時まで(金・土は 午前11時から午後10時半まで)運行。
伸びやかな緑に囲まれた複合文化施設、ギルマン・バラックス内に進むアートバス。ART SG が開催されるシンガポール・アートウィーク期間に主要アートスポットを巡回する。2026年は午前11時から 午後8時まで(金・土は 午前11時から午後10時半まで)運行。
施設情報|シンガポール
Gillman Barracks(ギルマン・バラックス)
住所:9 Lock Road, Singapore 108937
営業時間:火曜日~土曜日 11:00〜19:00、日曜日 11:00〜18:00
定休日:月曜・祝祭日

現代アートの現在地を映すギャラリーコンプレックスと、東南アジア美術を知るための最重要美術館

市街地から少し離れた緑豊かな一角に位置するギルマン・バラックスは、かつての軍施設を再活用した複合文化エリア。国際的な現代アートギャラリーを中心に、レストランやカフェも併設され、シンガポールの現代美術シーンを体感できる。一方、ナショナル・ギャラリー・シンガポールは、旧最高裁判所と旧市庁舎という二つの歴史的建築を改修して2015年に開館した東南アジア最大級の規模を誇る美術館。展示は国別・時代別に整理されるだけでなく、植民地期から現代に至る社会背景や文化的文脈を丁寧に織り込みながら構成されており、ヨーロッパや日本の美術史に親しんできた鑑賞者に新たな視座を与える。現在進行形のアートに触れた後、ナショナル・ギャラリーで時間を遡ることは、シンガポールでのアート体験を一層深めるだろう。

ナショナル・ギャラリー・シンガポールの内観。2026年1月9日から31日までの「Light to Night Singapore2026」の期間中は、華やかなプロジェクションマッピングで外観が彩られえる。期間中の金・土・日は入場料無料。
ナショナル・ギャラリー・シンガポールの内観。2026年1月9日から31日までの「Light to Night Singapore2026」の期間中は、華やかなプロジェクションマッピングで外観が彩られえる。期間中の金・土・日は入場料無料。
施設情報|シンガポール
National Gallery Singapore(ナショナル・ギャラリー・シンガポール)
住所:1 St Andrew’s Road, Singapore 178957
営業時間:10:00〜19:00(最終受付 18:30)

初開催「ザ・プリント・ショー・シンガポール」にも注目

シンガポール・アート・ウィーク2026 の一環として初開催となる「ザ・プリント・ショー・シンガポール」にも注目したい。世界の一流の版画出版社とギャラリーが一堂に会するこのフェアでは、ゲオルク・バゼリッツ(クヌスト・クンツ・ギャラリー・エディション)、ルイーズ・ブルジョワ(カロリーナ・ニッチュ)、草間彌生(オオタファインアーツ、リト&キム・カマチョ個人コレクション)、ソル・ルウィット(クラウン・ポイント・プレス)、村上隆(STPI)など、版画制作を制作活動の重要な一部とする著名な現代アーティストの作品が紹介される(カッコ内は出展ギャラリー名)。実力派ギャラリーから版画・エディション作品が集結するプリントアートフェアは、アート作品としての質の高さはもちろん、アクセシビリティの観点からも近年世界で大きな注目を集めている。現代アートフェアと同時期の訪問を可能にした貴重な機会となるだろう。

アートフェアとアートウィークが重なり合う、都市規模のアート体験

ART SG が初開催された2023年、取材のために久しぶりに訪れたシンガポールでは、日本では経験したことのない、アート・ウィークの街の活気に大いに目を見張った。街にはアートスポットを巡回する無料のアートバスが走り、サテライトフェアやオークション会場へのアクセスは容易で快適そのもの。観光地からビジネス街まで、あらゆる場所で遭遇するパブリックアートの数々も強く印象に残る。草間彌生やアントニー・ゴームリーなどの著名アーティストの作品も多数含まれるが、パブリックアートの設置はシンガポール政府の国家プロジェクトであり、通勤などの日常の動線でアートに触れることで、国民の文化レベルを底上げすることを掲げているということを後に知った。歴史的な建築自体が芸術作品のようなシンガポール・ナショナルギャラリーでは、東南アジアの近現代美術の宝庫であるコレクションの数々に出会えたことも新たな好奇心の扉を開く経験となった。

マリーナベイ・サンズに隣接するガーデンズ・バイ・ザ・ベイのザ・メドウに設置されたパブリックアート。空中に浮かんでいるかのような重さ7トン、全長10メートルの巨大な彫刻は英国人アーティスト、マーク・クウィンの作品『Planet』。
マリーナベイ・サンズに隣接するガーデンズ・バイ・ザ・ベイのザ・メドウに設置されたパブリックアート。空中に浮かんでいるかのような重さ7トン、全長10メートルの巨大な彫刻は英国人アーティスト、マーク・クウィンの作品『Planet』。

ART SG を起点に展開されるシンガポール・アート・ウィークは、アートフェアという枠を超え、都市全体でアートへと誘う魅惑的な試みといえる。アートフェア、ギャラリー、美術館、パブリックアート―――多層的なアート体験が重なり合う一週間が濃密なアート体験となることは間違いない。

藤野淑恵 プロフィール

インディペンデント・エディター。ファッション誌の編集部を経て、日経ビジネス「Priv.」、日経ビジネススタイルマガジン「DIGNIO」両誌、「Premium Japan」(WEB)の編集長を務める。現在はアートメディア、高級カード会員誌、ビジネス誌などにコントリビューティング・エディターとしてアートを中心としたコンテンツを企画、編集、執筆。

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