イギリスを代表するデザイナー、
テレンス・コンランの美学をひも解く
「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」が、東京ステーションギャラリーにて1月5日(日)まで開催

Photo: David Garcia / Courtesy of the Conran family, Conran Foundation and Conran IP LTD.
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イギリスの生活文化に大きな変化をもたらし、デザインブームの火付け役にもなったサー・テレンス・コンラン(1931-2020)は、テキスタイルや家具のデザインからそのキャリアをスタートさせ、やがて、レストラン、住居、都市開発と、デザインする対象はライフスタイル、社会全体へと広がった。そして、彼の思想とデザインはイギリスに留まらず、日本も含めて世界中に浸透し、今なお高い人気を誇る。
東京ステーションギャラリーで開幕した「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」は、そうしたコンランの人物像と美学に迫る日本初の展覧会だ。
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- テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする
開催美術館:東京ステーションギャラリー
開催期間:2024年10月12日(土)〜2025年1月5日(日)

Photo © Estate of Raymond Williams / Courtesy of the Conran family, Conran Foundation and Conran IP LTD.
サー・テレンス・オルビー・コンラン Sir Terence Orby Conran(1931-2020)
ロンドン南西部サリー州イーシャーに生まれる。セントラル・スクール・オブ・アーツ・アンド・クラフツ(現セントラル・セント・マーチンズ)でバウハウスやアーツ・アンド・クラフツに影響を受け、ブリティッシュ・ポップアートの旗手エドゥアルド・パオロッツィにテキスタイル・デザインを学ぶ。テキスタイル、食器、家具のデザインを手がけるうち起業に目覚め、ライフスタイルショップ「ハビタ」や「ザ・コンランショップ」の経営で成功を収めた。その他、レストラン事業や出版業、都市開発まで多才を発揮。デザイン奨励と社会貢献を目的に1989年、世界初のデザイン・ミュージアムを設立。デザイン分野での功績と文化事業が評価され、1983年に英国王室より騎士(Knight Bachelor)に叙勲、サー(Sir)の敬称を許された。2020年、自邸バートン・コートで88年の生涯を閉じる。西新宿の「ザ・コンランショップ」日本初出店から今年で30年を迎える。
幼少期の作品から「ザ・コンランショップ」ができるまで
最初の3階展示室では、コンランの学生時代のスケッチからキャリアの前半の作品を紹介し、自身の名を冠した「ザ・コンランショップ」を開業するまでの歩みを振り返る。

コンランは、ロンドン南西部サリー州イーシャーに生まれ、1948年にセントラル・スクール・オブ・アーツ・アンド・クラフツ(現セントラル・セント・マーチンズ)に入学。バウハウスやアーツ・アンド・クラフツに影響を受ける。テキスタイルのデザインを学ぶと、20代でテキスタイルや家具のデザインをする会社を立ち上げる。
1956年には、テーブルウェアを手掛けるミッドウィンター社から食器のパターン・デザインを依頼され、「チェッカーズ」シリーズをはじめ多くの人気デザインを生み出した。コンランがデザインしたテキスタイルや家具は、軽やかで心地よい。決して派手ではなく、シンプルな造形と少しの遊び心が感じられるパターンは、日常生活に馴染みつつ、ほんの少し生活に彩りを加える。

コンランの関心は、「モノ」のデザインに終わらず、そうした品々を使う「生活」へと向かう。そして1964年、ライフスタイルショップ「habitat(ハビタ)」が誕生する。「ハビタ」では、商品の在庫を店内に積み重ねて陳列し、種類の豊富さをアピールした。今では当たり前の光景となったこのディスプレイだが、当時としては画期的であった。「ハビタ」のチェーン化も成功し、さらに実業家としての手腕を発揮する。そして1973年、より上質なライフスタイルを提案する「ザ・コンランショップ」がオープンした。
「食」を、「街」を、デザインする

Photo: Alex Pareas, Courtesy of Conran and Partners
コンランの事業のもう一つの大きな軸が「食」だ。コンランは1980年代後半から本格的なレストラン事業に乗り出す。高級レストランからカジュアルなカフェまで、そのジャンルは多様で、特にモダン・ブリティッシュと称される新しい料理スタイルをイギリスの食文化に定着させた。コンランはレストランのコンセプトや内装だけでなく、そこで使う灰皿やマッチ箱といった細かいものまでデザインした。

ライフスタイルをデザインするコンランの手腕を頼りに、さらに大きなプロジェクトの依頼が来るようになった。それは、街全体を生まれ変わらせること、つまり都市開発だ。当時廃れていたシャッド・テムズ地区のレンガ倉庫街だったバトラーズ・ワーフを、集合住宅、レストラン、オフィス、美術館などを含む人気エリアに変えた。
実はコンランは、1994年に「ザ・コンランショップ」の1号店を新宿にオープンしたのを機に、日本でもさまざまなプロジェクトを手掛けている。例えば東京では、赤坂の「アークヒルズクラブ」の内装デザインや、六本木ヒルズのレジデンス棟などが挙げられるが、そうした日本とのつながりも本展で紹介されている。
再現展示で触れるコンランのアイデアの源
続く2階の展示室では、コンランの自邸「バートン・コート」の写真と共に、愛用の品や仕事道具などを展示し、コンランのデザインの源泉に触れる。

コンランは「バートン・コート」では菜園を作って作物を育てたり、隣接する工房「ベンチマーク」で作業したりと、仕事と日常生活が一体となって過ごしていた。大切にされた品々を見ると、コンランが日々の生活をいかに大切にし、そして遊び心と好奇心を持って過ごしていたかがうかがえる。自然の中で過ごすこと、家族との食事の時間、子どものような遊び心…。それらは、コンランが生み出す心地良いデザインの源泉であり、「よりよく生きる」ことの基本であると言っているかのようだ。


豊富なインタビューでひも解くコンランの「生き方」の美学
さて本展では、コンランの仕事仲間や彼を敬愛する人たちなど、関係の深い人物のインタビュー映像を見ることができる。彼らが語るコンランのエピソードや、彼が語った言葉から、コンランのデザイン、そして生き方に対する美学が浮かび上がる。
例えば、コンランの孫であるデザイナーのフィリックス・コンランは、「バートン・コート」でのコンランの思い出を語る。自然を愛し、日々の生活を大切にしてきたコンランの生き方は、祖父として、また偉大なデザイナーの先輩として、フィリックスに大きな影響を与えていたことがうかがえる。

左手前はトーマス・ヘザウィックが卒業制作として制作したガセボ(西洋風の東屋)。早い時期からヘザウィックの才能を見出したコンランがここで制作させた。
また、2012年のロンドン・オリンピックで聖火台のデザインをするなど現代のイギリスを代表するデザイナー・建築家のトーマス・ヘザウィックは、学生時代のコンランとの出会いを語る。コンランはヘザウィックを「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と称するほど高く評価しているが、2人の信頼と友情はコンランが亡くなるまで続いた。
「良いデザインとは98%の常識と、2%の美学から生まれる」
このコンランの言葉は、デザインの本質と言えるだろう。ここでの「常識」とは、「椅子なら座り心地が良い」という当たり前の機能や求められていることを指す。「Plain, Simple, Useful(飾らず、簡素で、役立つように)」を信条に、日常の生活に溶け込みながら、使う人の生活、そして心をカラフルにするコンランのデザイン。彼がデザインしたものは「モノ」ではなく、「美学」そのものかもしれない。
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- 東京ステーションギャラリー|TOKYO STATION GALLERY
100-0005 東京都千代田区丸の内1-9-1
開館時間:10:00〜18:00(最終入館時間 17:30)
会期中休館日:月曜日、11月5日(火)、12月29日(日)~2025年1月1日(水)
※ただし、11月4日、12月23日は開館