FEATURE

豊かな自然とアートが繋がる街
軽井沢で訪れたい、おすすめ美術館特集

この夏、軽井沢(長野県)で訪れたい、おすすめ美術館4選

アート&旅

(左上)軽井沢現代美術館 (左下)軽井沢千住博美術館
(中央)リヒター・ラウム(Richter Raum) 中庭にある野外彫刻作品「ストリップ・スカルプチャー・カルイザワ」
(右)軽井沢安東美術館 展示室5
(左上)軽井沢現代美術館 (左下)軽井沢千住博美術館
(中央)リヒター・ラウム(Richter Raum) 中庭にある野外彫刻作品「ストリップ・スカルプチャー・カルイザワ」
(右)軽井沢安東美術館 展示室5

アート&旅 一覧に戻るFEATURE一覧に戻る

都心からわずか1時間ほどの距離でありながら、その美しい自然と清澄な気候で古くから人々を魅了し続け、多くの芸術家にインスピレーションを与えてきた軽井沢。避暑地としてはもちろん、都心からの移住者も多いこの地には、近年、新たに魅力的な美術館が誕生している。2022年10月に開館したのは、藤田嗣治の作品のみを展示する「軽井沢安東美術館」、そして2023年7月には、世界的に活躍を続ける現代アートの巨匠、ゲルハルト・リヒターの作品を展示する「リヒター・ラウム」がオープンしている。最注目の美術館とともに、現在軽井沢で訪れるべき、おすすめの美術館を紹介したい。今年の夏はうだるような都会の喧騒を離れ、軽井沢でアートとの出会いを楽しんでみてはいかがだろうか。

藤田嗣治に魅せられた夫婦による私設美術館。 洗練された空間でありながら、ぬくもりに満ちた軽井沢安東美術館

軽井沢安東美術館 外観
軽井沢安東美術館 外観

軽井沢駅北口から、5分ほども歩けば、大きな美しい池のある約4万6000平方メートルもの広さの矢ケ崎公園が見えてくる。雄大な浅間山と離山の眺めが堪能でき、四季折々の景観も見応えのあるこの公園の斜め向かいに、2022年8月に話題の美術館が開館した。エコール・ド・パリの時代にフランスで活躍した画家、藤田嗣治の作品のみを収蔵・展示する美術館である。

多くの日本企業の再生に携わってきた実業家、安東泰志氏が妻の恵氏とともに、約20年にわたって収集してきたコレクションを展示している。その作品は欧州を席巻した乳白色の婦人像をはじめ、中南米滞在時・戦中戦後の作品、聖母子象、猫、少女、工芸品に至るまで、約200点にのぼる。

軽井沢安東美術館 展示室5
軽井沢安東美術館 展示室5

来館者にも自分たちの自宅に招かれたような感覚で展示を楽しんでほしいという夫妻の考えから、美術館は東京にある安東邸と同じく中庭を中心にした作りになっている。外壁には2人が過ごしたというイギリスから取り寄せたハンドメイドのレンガが使われ、展示室ごとに異なる壁色を使用するほか、年代やテーマごとに作品をより深く楽しめるよう、天井の形状や照明方法も部屋ごとに変化させている。設計は磯崎新アトリエ出身の建築家、武富恭美が手掛けている。

また、館内にはこだわりの一杯を楽しめる HARIO CAFE が併設されている。7月26日からは、同スペースにて、夕方からレストラン「Y Farm Restaurant」としての営業が始まり、ディナーが楽しめるようになった。1階の「サロン ル ダミエ」では、演奏会も定期的に行われているので、気になるイベントに合わせてお出かけしてみるのも良いかもしれない。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
軽井沢安東美術館|Musée Ando à Karuizawa
389-0104 長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢東43番地10
開館時間:10:00〜17:00
休館日:水曜日 ※水曜日が祝日の場合は開館、翌平日が休館となります。
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
現在、軽井沢安東美術館で開催中の特集展示:
「夏の特集展示2024 戦争の時代 日本における藤田嗣治 日常から戦時下へ」
開催美術館:軽井沢安東美術館
開催期間:2024年7月25日(木)〜9月24日(火)

そこはまるで、ゲルハルト・リヒターのアトリエ。 リヒター・ラウム Richter Raum が軽井沢の森の中にオープン

Photo: ToLoLo studio
Photo: ToLoLo studio

現代アートの巨匠、ゲルハルト・リヒターの作品を世界で唯一常設展示する美術館。リヒターを日本国内に広めた立役者でもある和光清氏が運営する六本木のギャラリー、WAKO WORKS OF ARTの所蔵作品を中心に、リヒターの協力のもと、20点あまりの作品を展示している。

部屋の構成や内装、窓の大きさや配置された家具など、ドイツのケルンにあるリヒターのアトリエをほぼ忠実に再現しており、そこでリヒターが制作をしているかのような空気感を味わえる。

現在メインの部屋には、ドイツのナチス政権が第二次世界大戦中にユダヤ人に対して行ったホロコーストを主題とする『ビルケナウ(フォト・ヴァージョン)』ほか、グレイミラー(ガラスにグレーの塗料が塗られた作品。展示室では、鑑賞者の姿がそこに映し出される)や写真作品が展示されている。1年に1〜2回程度、作品や展示構成を入れ替えながら公開していく予定だ。

《Strip Sculpture Karuizawa》(2023)  ©︎ 2023 Gerhard Richter / Wako Works of Art、Photo: ToLoLo studio
《Strip Sculpture Karuizawa》(2023) ©︎ 2023 Gerhard Richter / Wako Works of Art、Photo: ToLoLo studio

中庭にある屋外彫刻作品「ストリップ・スカルプチャー・カルイザワ」は、軽井沢のために制作された、リヒターの世界初の屋外彫刻作品。庭に作品を置くなら何が良いかと聞かれたリヒターが自ら新作を提案し、91歳の時に完成させた。上から見て十字型をした高さ約5mの立体作品には、色彩の帯とそれを覆うガラスに樹々や空や雲が映り込み、時間帯や天気、季節によって、まったく異なった表情を見せてくれる。ケルンの森を彷彿とさせる緑多き場所に建つこの空間で作品をじっくり鑑賞することで、リヒターの思考そのものに入り込むような体験が出来るかもしれない。

リヒター・ラウム
住所:〒389-0102 長野県軽井沢町軽井沢1323-1475
開催中の展覧会:
特別企画展「ゲルハルト・リヒター ビルケナウ(フォト・ヴァージョン)」
会期:2024年5月25日(土) 〜 9月28日(土)
開館時間・休館日:シーズンによって異なります。事前予約制のため、HPをご覧ください。
https://www.richterraum.jp/

コレクターのおもてなし心を感じるアットホームな美術館、軽井沢現代美術館

企画展示室の様子
企画展示室の様子

草間彌生や奈良美智、村上隆、荒川修作など、海外で評価の高い日本人アーティストの作品を展示する美術館。元美術雑誌の編集者であった、故・谷川憲正氏の30年以上にもわたるコレクションを中心に、その美意識により選び抜かれた油彩、立体、彫刻など、さまざまなジャンルの作品をテーマに合わせて展示している。

今でこそ市民権を得ている現代アートだが、谷川氏が収集を開始した当初は、美術評論家や一部の好事家以外の人々への知名度は決して高くなく、周囲からも「変わっている絵」「エキセントリック」という言葉が多かったという。

「Untitled」2015年 キャンバスにアクリル 162×260cm ロッカクアヤコ
「Untitled」2015年 キャンバスにアクリル 162×260cm ロッカクアヤコ

木々に囲まれた丘の上にある美術館は、元鉄道会社の保養施設であった建物をリノベーションして作られている。館内には自然光が差し込み、1階の奥行き50mのメイン展示室、2階企画展示室、ギャラリーの3つにわかれ、2階のギャラリーでは版画作品や彫刻などの、販売も行われている。1階のミュージアムショップ内には、一枚板の大テーブルが用意され、ゆっくりとアート鑑賞の余韻に浸ってもらいたいという美術館のおもてなしの心も感じることが出来る。2008年の夏に開館したが、2025年秋に惜しまれつつ閉館することになった。日本の現代アートを紹介した先駆的な美術館である軽井沢現代美術館。閉館する前に、穏やかな自然に囲まれた心地よい空気の中で、現在世界的に幅広く活躍する現代アートの作家らの作品を堪能してほしい。

展示室の様子(現在の展示内容とは異なります)
展示室の様子(現在の展示内容とは異なります)
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
軽井沢現代美術館|THE MUSEUM OF CONTEMPORARY ART, KARUIZAWA
389-0111 長野県北佐久郡軽井沢町大字長倉2052-2
開館時間:10:00〜17:00
休館日:火曜日 水曜日 (GW、祝日・夏期は無休) ※冬期休館あり ※2025年秋、閉館予定
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
現在、軽井沢現代美術館で開催中の特集展示:
「海を渡った画家たち -初期のコレクションより-」
開催美術館:軽井沢現代美術館
開催期間:2024年4月25日(木)〜11月24日(日)

建築家、西沢立衛による建築設計の魅力が際立つ空間で、 千住博の代表作を心ゆくまで堪能できる、軽井沢千住博美術館

Photo: 阿野太一  ©軽井沢千住博美術館
Photo: 阿野太一 ©軽井沢千住博美術館

1995年の第46回ヴェネチア・ビエンナーレでは、東洋人として初めて絵画部門での名誉賞を受賞し、現在はニューヨークを拠点に世界的に活躍する日本画家、千住博の1978年以降の初期作品から最新作までを楽しめる美術館。流れ落ちる滝を壮大なスケールで描いた「The Fall」をはじめ、絵本「星のふる夜に」の原画など、40点あまりが展示されている。作品には森、桜、崖など多様なモチーフが描かれ、いずれも「時間」という概念を様々な形で表現している。

Photo:阿野太一  ©軽井沢千住博美術館
Photo:阿野太一 ©軽井沢千住博美術館

美術館は軽井沢の自然地形を生かし、かつての土地の起伏のまま斜面に建てられている。やわらかな曲線を描くガラス窓で構成された館内には自然光が降り注ぎ、さわやかな軽井沢の空気を感じさせる。外の緑が建物と一体となっており、まるで美術館自体が軽井沢の森の一部になったかのよう。ユニークな建物の設計を手掛けたのは、建築家ユニット・SANNAの西沢立衛。また、美術館の周囲や建物内に設けられているカラーリーフガーデンには、150種類以上にもなる色とりどりのカラーリーフプランツが植えられており、なかなか見ることのできない珍しい植物に出くわすかもしれない。

軽井沢千住博美術館
住所:〒389-0111 長野県北佐久郡軽井沢町長倉815
開催中の展覧会:「チキュウ・ウチュウノキセキ」
会期:2024年3月1日(金)~12月25日(水)
開館時間:9:30〜17:00 (最終入館は16:30まで)
休館日:火曜日(祝日の場合、GW、7月〜9月は開館)、12月26日〜2月末日は冬期休館
https://www.senju-museum.jp/

※各美術館の開館情報や開催中の展示については、美術館の公式サイトなどでご確認ください。

FEATURE一覧に戻るアート&旅 一覧に戻る

FEATURE一覧に戻るアート&旅 一覧に戻る