FEATURE

キュレーターが語る
話題の展覧会の作り方
VOL.05 神奈川県立近代美術館

神奈川県立近代美術館 企画課長 長門佐季氏

インタビュー

神奈川県立近代美術館 葉山の中庭にて。同館企画課長の長門佐季氏。
Photo : Yoshiaki Tsutsui
神奈川県立近代美術館 葉山の中庭にて。同館企画課長の長門佐季氏。
Photo : Yoshiaki Tsutsui

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構成・文 藤野淑恵

日本初の公立の近代美術館として1951年に鎌倉の鶴岡八幡宮境内に開館した神奈川県立近代美術館。2016年に「鎌倉館」と呼ばれ親しまれた建物を閉館し、現在は1984年に新設された鎌倉別館と、2003年に開館した葉山館の2館で運営されている。葉山館で現在開催中の「生誕110年 香月泰男展」を担当した企画課長の長門佐季氏に話を聞いた。
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神奈川県立近代美術館 二代目館長、
土方定一に評価された香月泰男の
54年ぶりの開催となる記念すべき展覧会

逗子駅から「海岸回り」のバスでおよそ20分、右手に海を望みながらの神奈川県立近代美術館 葉山への道のりは、葉山マリーナ、森戸海岸と次々に風光明媚な景色が連なる。三ヶ丘のバス停で降車し、海風と波の音に誘われるように中庭に進むと、2016年に鎌倉館から移設され、現在は葉山館のシンボルとなったイサム・ノグチの一対の彫刻作品《こけし》に迎えられる。眼下に広がるのは、砂浜に穏やかな波が打ち寄せる一色海岸。晴れた日には富士山も望むことができる。

神奈川県立近代美術館 葉山
神奈川県立近代美術館 葉山

神奈川県立近代美術館では現在、「生誕110年 香月泰男展」が開催中だ。太平洋戦争とシベリア抑留の体験を主題とするシベリア・シリーズで評価を確立した香月泰男だが、今回の展覧会では東京美術学校(現・東京藝術大学)で描いた自画像や、ゴッホや梅原龍三郎らの影響を受けながら画風を模索した若き日の作品、さらに故郷の山口県三隅で台所の食材や庭の草花など身の回りのモチーフを色彩豊かに描いた作品、そして近年修復を終えたシベリア・シリーズ全57点が一堂に展示され、香月の作品の多彩な魅力と画業の全容をたどる展覧会となっている。同時開催されているコレクション展「内なる風景」では、香月が師事した藤島武二、生前に親交のあった髙山辰雄、香月と同様シベリア抑留体験をもつ澤田哲郎らの作品が同館の所蔵作品から展示されている。香月展を担当した企画課長の長門佐季氏は語る。

「神奈川県立近代美術館で香月の展覧会を開催するのは、1967年に開催した髙山辰雄との二人展『髙山辰雄・香月泰男』以来今回が2回目。54年ぶりの展覧会となります。当時は、まだシベリア・シリーズは完結していなかったわけですが、ちょうどシベリア・シリーズの画集が出るタイミングだったんですね。香月が50歳代半ばで、一番乗りに乗った時期、脚光を浴びた人気現存作家だった時代です。現存作家の二人展はそれまでも何度か開催されていた、当館のシリーズ企画のような展覧会で、当時の館長 土方定一が香月泰男を高く評価していて、同様に評価していた髙山辰雄と香月の二人の作家を取り上げた。当時は現存作家の新作を含んだ展覧会でしたが、今回はそれから50年以上の月日を経て、生誕110年の回顧展―――随分と時間が開いてしまいましたが、その間に山口県立美術館がシベリア・シリーズを所蔵して『香月泰男室』を開設し、香月泰男の故郷に香月泰男美術館が開館し、香月泰男の研究は継続的に続いていました。弊館も香月の作品を5点所蔵しており、今回もそのうち3点を展示しています。」

《兎》1939年 油彩、カンヴァス 香月泰男美術館蔵
《兎》1939年 油彩、カンヴァス 香月泰男美術館蔵
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「生誕110年 香月泰男展」
開催美術館:神奈川県立近代美術館 葉山
開催期間:2021年9月18日(土)~2021年11月14日(日)

※コロナウィルス感染防止策として、密を避けるため入場制限を行う場合があります。
最新情報は、美術館ウェブサイトにてご確認ください。

「穏やかな海と突き抜ける広い空のブルーに囲まれた
『神奈川県立近代美術館 葉山』で邂逅する
香月泰男の水の青、空の青の魅力」

今回の展覧会ポスターを飾る《青の太陽》1969年、そして《日本海》1972年(ともにシベリア・シリーズ、山口県立美術館蔵)や《水鏡》1942年(東京国立近代美術館蔵)、《モロッコ羊飼》1973年(香月泰男美術館蔵)に見られる、香月の「青」に強く惹かれるという長門氏は、重い、暗いと捉えられがちなシベリア・シリーズの中でも、晩年の再び色が戻ってくる作品にも注目することで、香月の画業の最初と最後、様々なものが繋がってくる感覚を見てもらえると嬉しいと語る。

「香月の展覧会では代表作であるシベリア・シリーズがどうしてもメインになるのですが、初期の作品がこれだけ多数、しかもシベリア・シリーズと合わせて展示される機会は、これまであまりなかったと思います。香月といえばシベリア主題の作品や、東京国立近代美術館の所蔵作品で今回の展覧会でも展示している《水鏡》の印象が強いのですが、実は結構変化に富んでいる。そして、個人的には香月は『青』だと思っています。水の『青』から空の『青』、香月の『青』っていいな、と。香月泰男美術館で初期の作品や晩年のウィットに富んだ愛らしい作品を見ると、ああこういうところに香月の本質があるんだと再確認できて、これを展示しないでシベリアだけをご覧いただくのは違うんじゃないかと。そうした作品は見ていてもとても楽しいですし、今回の展覧会では作家の初期の色彩や造形感覚を大切に位置付けています。」

《青の太陽》1969年 油彩、方解末、木炭、カンヴァス 山口県立美術館蔵 *シベリア・シリーズ
《青の太陽》1969年 油彩、方解末、木炭、カンヴァス 山口県立美術館蔵 *シベリア・シリーズ

近年は大きな展覧会が開催される機会が少ない香月だが、本来はもっと頻繁に取り上げられるべき作家、と語る長門氏。直近で開催された回顧展は2004年、東京ステーションギャラリーほかで開催された「没後30年 香月泰男展」で、この展覧会は多くの来場者を集め全国を巡回した。その後、2007年から6年間の長期にわたりシベリア・シリーズが修復作業に入ったこともあり、展示の機会がなかったという。今回の展覧会はシリーズ全57点すべての修復が終わって初の所蔵館以外でのお披露目であり、宮城県美術館(会期終了)、神奈川県立近代美術館、新潟市美術館、練馬区立美術館、足利市立美術館の5会場を巡回する。

「70年代、シベリア・シリーズで一躍人気作家になった時期をご存知の方は、“待ってました、香月”という感じですが、20年近くも東京でまとまった展覧会が開催されないと、特に若い世代には、知らない、見たことがないという方がいらっしゃるんです。やはり10年に1度程度は作家をきちんと取り上げないと、素晴らしい作品に触れる機会がないまま忘れられてしまう。私たちは新しいものを次々やることに目を向けがちですが、繰り返しやることで次の世代、また次の世代に伝えていくということも大事。日本の近現代美術は私の専門分野ですが、そこは課題ですね。」

「展覧会を作る人になりたい。
メトロポリタン美術館のゴッホ展を見て
意識しはじめたキュレーターへの道」

学芸員資格を取得するための博物館実習が、鎌倉の神奈川県立近代美術館だったという横浜生まれの長門氏は、子どもの頃から馴染みのあった同館で今日までキュレーターとして仕事をしてきた。父の仕事のためにカイロに住んだ子どもの頃から、美術館、博物館は親しく足を運んだ場所だったが、美術館で仕事をしたいと意識したのは高校生のとき。当時ニューヨーク在住の父親を訪ねた際、たまたま訪れたメトロポリタン美術館で開催されていたゴッホ展で強烈なインパクトを受けた。「こんな展覧会を作る人がいる」「展覧会を作る人になってみたい」と思ったという。それから学芸員という仕事を意識し、資格を取得。大学では美学を専攻し、美術については美術館での仕事の中で、諸先輩に学び、作品と接しながら、自身の関心や興味を深めた。

「ゴッホ展の作品はもちろん印象に残っていますが、どちらかというと展示風景への興味から入ったんです。こんなふうに作品をセレクトして並べる人がいるんだ!と。子どもの頃に住んだカイロは治安がよくなかったので、美術館は子どもを遊ばせるには安全でちょうどいい場所だったのでしょう。当時の私はもちろん言語も、歴史的な背景も理解していませんでしたが、絵や彫刻などの作品がダイレクトに伝えてくれるものが多くて、妄想を広げて楽しんでいました。美術って解説や情報がなくても、作品そのものが伝えてくれますよね。そんな子どもの頃の経験から、解説や情報なしで見ていただきたいという思いがあります。理想だといわれればそれまでですが、もっと自由に見ていただく場としての美術館を作れるといいなと思っています。」

松本竣介 《橋(東京駅裏)》1941年 油彩、カンヴァス 神奈川県立近代美術館蔵
松本竣介 《橋(東京駅裏)》1941年 油彩、カンヴァス 神奈川県立近代美術館蔵

神奈川県立近代美術館で仕事をする長門氏の仕事の中では、日本の近現代美術が大きなポジションを占める。香月泰男と一歳違いの松本竣介は、同館が優れたコレクションを所蔵していることもあり、これまで何度も展覧会を担当してきた。2022年には、香月より一年遅れて生誕110年となる松本竣介展を考えている。香月も松本も長門氏から見るとちょうど祖父母世代の作家。明治の末から大正初に生まれて、昭和の戦争期を過ごしたこの時代の作家たちは、どこか身近であり惹かれるものがある。

「松本竣介も香月と同様、当館で二人展を開催した作家です。1958年、島崎雞二との二人展『島崎雞二・松本竣介』でした。戦後も画業を続けた香月と違い1948年に早逝した松本は、無名ではなかったものの一度は名前が忘れられそうになっていた。それを当館が取り上げたという経緯があります。現在開催中のコレクション展でも、代表作の《立てる像》を展示していますし、2011年に生誕100年展を開催した後も、テーマや形を変えながら定期的に所蔵品の展覧会を開催しています。松本竣介は収蔵点数も多く、代表作も所蔵しているので、先輩方から引き継ぎながら繰り返し展覧会を開催し、広め、深めている作家の一人です。来春の松本竣介展も、コレクションが中心の展示を考えています。繰り返すことに意味があるのですが、ただ名品を並べるだけでは面白くない。研究者が多い作家なのでなかなか難しいのですが、切り口を変え、自分の好奇心も含めて何か新しい発見ができればと思います。」

神奈川県立近代美術館 葉山のホワイエにて長門佐季氏。背景の壁画《女の一生》は、旧鎌倉館の喫茶室のために田中岑が制作した作品。
Photo : Yoshiaki Tsutsui
神奈川県立近代美術館 葉山のホワイエにて長門佐季氏。背景の壁画《女の一生》は、旧鎌倉館の喫茶室のために田中岑が制作した作品。
Photo : Yoshiaki Tsutsui

「旧鎌倉館の建築家、坂倉準三から繋がった
シャルロット・ペリアンの展覧会が、
ペリアンの故郷フランスでの展示へと広がる」

神奈川県立近代美術館では、日本の近代建築を代表する名建築として親しまれた旧鎌倉館の設計者 坂倉準三との繋がりから、建築やデザインの展覧会を開催する機会も多く、坂倉はもとより、ル・コルビュジェやジャン・プールヴェなどの展覧会も開催されている。1997年の坂倉展でサブ担当だった長門氏は、その流れからル・コルビュジエのアトリエで坂倉の同僚だったシャルロット・ペリアンの展覧会を企画した。2011年、鎌倉館の開館60周年記念でもあったこの展覧会は、その後、2013年にはフランスのサン=テティエンヌ・メトロポール近現代美術館でも開催され、2019年にはパリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンで開催されたペリアン回顧展の日本コーナーにも展示されるという広がりを見せた。

「97年の坂倉準三展のとき、当時存命だったペリアンからメッセージをいただきました。その後、ペリアンが1941年に日本で開催した展覧会『選択、伝統、創造展』について調査し、文章を書いたところ、そのことがたまたまペリアンの娘さんのペルネットの耳に入り、来日された際にお会いしてやりとりをする中で、鎌倉館でペリアン展を開催したいと直談判しました。それが2011年に実現した「シャルロット・ペリアンと日本」という展覧会です。その展覧会をそのままフランスでも開催したいとオファーされて2013年にリヨン近郊のサン=テティエンヌに持って行き、その流れでルイ・ヴィトン財団から2019年のシャルロット・ペリアンの回顧展への協力を依頼されました。ペリアンの回顧展は2005年にポンピドゥー・センターでも開催されていますが、そのときは日本で果たしたペリアンの仕事が抜けていた。ペリアン・アーカイヴには資料はあるものの日本語のものは深く読み解くことができないでいたので、私たちが調査研究し鎌倉で展示をした成果が、フランスで展開されたことは嬉しい流れでした。」

展覧会「シャルロット・ペリアンと日本」 開催期間:2011年10月22日~2012年1月9日
展覧会「シャルロット・ペリアンと日本」 開催期間:2011年10月22日~2012年1月9日

キュレーターの仕事は作品の調査、研究や展覧会の準備など多岐にわたるが、展覧会のための作品の貸し出しや、展示室での展示の準備など体力仕事も多い。今回の香月泰男展では作品の輸送のために、山口県長門市の香月泰男美術館から2泊3日でダブルキャビンの美術品専用のトラックに同乗した。シャルロット・ペリアンゆかりの4メートルを超えるタピスリーをフランスに輸送する際は、オーバーサイズで旅客機で運ぶことができず、乗客のいないエールフランスのカーゴ便に操縦士、副操縦士とともに乗り込んだ。

「旅客機で乗客が乗っている場所が全部荷物で。非常時に脱出するときのためにパラシュートの着用の仕方まで教えてもらいました。パラシュートなんて無理と思いながらも、面白かったです。パリに到着したら今度はシャルル・ド・ゴールから現地の運送専用車に10時間くらい同乗してサン=テティエンヌに行って。そういうのも楽しいです。調査研究や図録の編集業務などのデスクワークもありますが、会場での作品展示作業はほとんど肉体労働。かつて、日本の美術館学芸員は“雑芸員”と呼ばれていることがありました(笑)。最近は教育普及や広報などは分業するようになりましたが、私が仕事を始めた頃は担当学芸員が自らプレス資料や掲載用のポジフィルムを準備し、売り込みもしていました。何が仕事かわからなくなるときもありましたが、どれも楽しんでいます。」

「日本で最初の公立の近代美術館として、
美術館草創期からの貴重な資料を
アーカイブ化し、活用する」

2017年から本格的にスタートした神奈川県立近代美術館アーカイブ「KHA」は、長門氏が中心になって取り組んでいる仕事のひとつだ。日本で最初の公立の近代美術館として1951年に開館した同館は、コレクションに加えて、展覧会の資料、作家から寄贈された資料・蔵書などの貴重な資料を所有しており、それらを建築資料、展覧会資料、イベント資料、作家資料などの項目別にデジタルアーカイブ化し管理している。アーカイブはインターネットで2019年から公開しはじめ、研究や調査のための閲覧も受け付ける。KHAの取り組みのきっかけは、65年の歴史を持つ2016年の鎌倉館を閉館に加えて、同館が長年大切に育んでいた作家との深い関係性もある。

「仕事を始めてすぐの新人の頃から麻生三郎や斎藤義重といった、日本の近代美術史に登場するような作家の展覧会を担当して、ご自宅を訪ねるなどのおつきあいさせていただきました。当館ではそれが当たり前で、作家ご本人やご家族と日常的な直接のおつきあいが非常に多いんです。そうしたやりとりの中で蓄積されていった貴重な資料を次の世代に活用してもらうにはどうしたらいいんだろう、日本で最初の公立の近代美術館として、アーカイブの残し方を先駆けて考えなければと。私たち学芸員は日々一生懸命に展覧会を作っているのですが、それが積み重なって、だんだんと歴史になって、気がつくといつの間にか研究対象になっている。展覧会のなりたちや経緯について知りたいという調査のリクエストをいただくたびに、関連資料は処分してはいけないなと。美術館草創期からのアーカイブを、今後も積極的に活用したいと考えています。」

「展覧会は『場』と『作品』と『人』。
その全てが揃って成り立っている。
それを鎌倉で教わりました」

これまでの仕事の中で印象に残る展覧会について尋ねると、10年の準備期間を経て2010年に開催に漕ぎ着いた「古賀春江の全貌」、2011年の「シャルロット・ペリアンと日本」、2015年春から16年にかけて開催した旧鎌倉館での最後の展覧会シリーズ「鎌倉からはじまった。1951-2016」のタイトルが上がった。

2015年から16年春にかけて開催した旧鎌倉館での最後の展覧会シリーズ「鎌倉からはじまった。1951-2016」
2015年から16年春にかけて開催した旧鎌倉館での最後の展覧会シリーズ「鎌倉からはじまった。1951-2016」

特に、鎌倉館の閉館まので最後の1年、鎌倉館での展覧会の担当を自ら希望し、パート1から3までの3本の展覧会を担当したことは、忘れられない経験になった。約1万5千件の所蔵作品を活用し、これまで鎌倉で美術体験をした来館者に、もう一度あのときのあの場所に戻ってもらえたら、と考えた。

「1970年の鎌倉のムンク展をみて学芸員になったという人が結構いらっしゃるんです。私にとってのニューヨークのゴッホ展のように、鎌倉での印象に残る展覧会を、それぞれにお持ちなんですね。展覧会って、同じように作品を並べることは二度とできないんです。コレクション展でも、同じ場所に同じ組み合わせで作品が並ぶことはまずない。そういう意味で、鎌倉に慣れ親しんでくださった方々にどうすれば思い出とともに作品を見ていただけるか考えました。この美術館でそれぞれの物語をお持ちの方々が閉館の展覧会を見て、それを私たちに語ってくださった。そんな経験をして、美術館っていい場所だなと改めて感じました。展覧会は『場』と『作品』と『人』と、全てが揃って成り立っている。それを鎌倉で教わりました。」

神奈川県立近代美術館 鎌倉別館
神奈川県立近代美術館 鎌倉別館

旧鎌倉館の閉館以降は、葉山館と鎌倉別館の2館体制となった。葉山の展示面積が1300平米、鎌倉別館はその三分の一程度で、立地はもちろん、雰囲気、天井の高さ、開催できる展覧会の規模などが異なり、それぞれの特徴を持つ。葉山では基本的に年間で企画展4本、コレクション展4本、鎌倉別館では企画展とコレクション展と合わせて3~4本の展覧会が開催されている。学芸員は両方の館展覧会を担当し、収蔵庫も両館にあるため、2館を往復しながら仕事を進めている。長門氏も一週間のうちに2、3日は鎌倉別館に行っている。

「11月27日から葉山で開催する矢萩喜從郎の展覧会は建築やデザインが中心でスケール感が大きいこと、さらに葉山館のサインやロゴ、シンボルマークを矢萩さんにデザインしていただいたこともあり、葉山のこの空間で見せたい展覧会です。11月23日から鎌倉別館で開催する写真家の今 道子さんは独自の世界観を持つ鎌倉在住で作家ですが、作品のイメージからいってもやはり鎌倉別館かと。展示作品の点数や規模感はもちろんあるのですが、青空が広がり抜け感のある葉山で見せたいとか、これは絶対鎌倉別館で見せたほうがいいとか、どちらが向いているかというような感覚的なものは、自然と学芸員同士で共有できています。」

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「矢萩喜從郎 新しく世界に関与する方法」
開催美術館:神奈川県立近代美術館 葉山
開催期間:2021年11月27日(土)〜2022年1月30日(日)

※コロナウィルス感染防止策として、密を避けるため入場制限を行う場合があります。
最新情報は、美術館ウェブサイトにてご確認ください。
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「フィリア―今 道子」
開催美術館:神奈川県立近代美術館 鎌倉別館
開催期間:2021年11月23日(火・祝)〜2022年1月30日(日)

※コロナウィルス感染防止策として、密を避けるため入場制限を行う場合があります。
最新情報は、美術館ウェブサイトにてご確認ください。

最近、日本のいくつかの近代美術館の館名から「近代」を外す動きがある。取り扱う作品や展覧会において、時代や傾向を限定することを回避するための流れであるが、「日本で最初の公立近代美術館」として開館した神奈川県立近代美術館における「近代」は、時代の限定ではなく、むしろ「モダン=現代」の意味での近代であり、過去を今もう一度見直す、今日の視点を持つことが最初の出発点だった。

「同時代を生きている現存の作家も100年経てば歴史になる。それを発見し、発掘したのが、まさに1967年の香月展です。近代といっても決して明治や過去だけを扱うのではなく、同時代も扱い、過去も現在の目でもう一度見直す。だから松本竣介も今の視点で何回も繰り返し取り上げる。今日的視点で過去を見るというのが二代館長 土方定一の教えです。なので扱っているのは近代に限らず、開館当初は考古の展覧会もやっています。今の目で見直す、捉え直す。そういう開館のときから流れる精神を、これからも継承したいと思います。」

美術館脇の小道から一色海岸に出ることもできる。海の向こうには富士山も望む素晴らしい眺望を満喫できるレストランカフェ(写真右手)の人気も高い。
Photo : Yoshiaki Tsutsui
美術館脇の小道から一色海岸に出ることもできる。海の向こうには富士山も望む素晴らしい眺望を満喫できるレストランカフェ(写真右手)の人気も高い。
Photo : Yoshiaki Tsutsui

VOL.05 神奈川県立近代美術館 葉山館/鎌倉別館
神奈川県立近代美術館 企画課長 長門佐季 氏

Saki Nagato Curator The Museum of Modern Art, Kamakura & Hayama

1993年より神奈川県立近代美術館に勤務。主任学芸員を経て2018年より現職。共著に『クラシック・モダン』(せりか書房、2004年)、『大正期新興美術資料集成』(国書刊行会、2006年)、『無辜の絵画 靉光、竣介と戦時期の画家』(国書刊行会、2020年)。担当・企画したおもな展覧会に「古賀春江の全貌展」(2010年)、「シャルロット・ぺリアンと日本」(2011年)、「生誕100年 松本竣介展」(2012年)、「生誕120年/没後100年 関根正二展」(2020年)などがある。

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美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
神奈川県立近代美術館 葉山|The Museum of Modern Art, Hayama
240-0111 神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1
開館時間:9:30~17:00(最終入館時間 16:30)
定休日:月曜日(祝日および振替休日の場合は開館)、展示替期間、年末年始 12月29日~1月3日
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
神奈川県立近代美術館 鎌倉別館|The Museum of Modern Art, Kamakura Annex
248-0005 神奈川県鎌倉市雪ノ下2-8-1
開館時間:9:30~17:00(最終入館時間 16:30)
定休日:月曜日(祝日および振替休日の場合は開館)、展示替期間、年末年始 12月29日~1月3日

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