FEATURE

誰もが童心に帰れる“森”へ
「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」

コスチューム・アーティスト ひびのこづえの個展が、そごう美術館(横浜)で開催中

内覧会・記者発表会レポート

そごう美術館「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」会場風景(2021年10月10日まで開催)
そごう美術館「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」会場風景(2021年10月10日まで開催)

FEATURE一覧に戻る

現在、そごう美術館(横浜)で、コスチューム・デザイナーのひびのこづえさんによる、「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」が開催されている。コロナ禍で、気軽に人と会う機会が減り、移動や旅も制限されて、不自由さを感じる日々が続く中で、会場を訪れるだけで、心が解放されて明るい気持ちになるような、魅力的な展覧会である。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」
開催美術館:そごう美術館
開催期間:2021年9月10日(金)~2021年10月10日(日)

展覧会タイトルの「森に棲む服」とあるように、ひびのこづえのオリジナリティーあふれる衣装と、豊かな色彩のめくるめく世界は、人間も含めた動物たちの賑わいが聞こえてきそうな、まさに“森”である。コスチュームの1点1点はまるで有機体。細部まで生命力を宿した作品が生い茂る“森”。そこに放たれるエネルギーに触れているのは、不思議と心地よい。

コスチューム・アーティスト ひびのこづえ(そごう美術館 展覧会会場にて)
コスチューム・アーティスト ひびのこづえ(そごう美術館 展覧会会場にて)

ひびのこづえは、1958年に静岡県生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科を卒業後、1988年よりコスチューム・アーティストとして活動を開始。以後30年以上第一線で、演劇やダンス、映画、テレビなど多くの分野で数々の作品を制作してきた。なかでも、野田秀樹演出の舞台衣装やNHK Eテレ「にほんごであそぼ」の衣装、セットデザインはよく知られている。

「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」そごう美術館 展示風景(2021年10月10日まで開催)
「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」そごう美術館 展示風景(2021年10月10日まで開催)
「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」そごう美術館 展示風景(2021年10月10日まで開催)
「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」そごう美術館 展示風景(2021年10月10日まで開催)

会場を見渡せば、カエル、マンモス、クモ、ライオン、サイ、キリン、イソギンチャク、アオムシ、などさまざまな生き物がコスチュームや生き物バルーンなどの作品となって、森の中にひしめいている。展示されているコスチュームは、舞台衣装やダンスパフォーマンスのための衣装、テレビ番組や映画の衣装やセットデザインなどさまざまだが、どんな小さな糸口からも、インスピレーションをひらめかせ、ストーリーを紡ぎだし、奇想天外で自由できらめいた作品を生み出す。ひびのこづえというアーティストにはどんなルーツがあるのだろうか?

「子どもの頃は、とにかく一人遊びが大好きで、あまり人と話すことも好きではなくて、雲や植物と話したりするような、そんな子供時代でした。自分が『表現』をしはじめてから、いろんな人に作品を見てもらうためには、やはり人とのコミュニケーションが大事なんだなということに気づきはじめました。でも、なかなかうまくいかない。けれど、徐々に『人に服を着せたい』と思う気持ちが強くなってきて、自ら人にオファーをする、ということもやっとするようになってきました。」

本展のメインヴィジュアルにも登場するダンサーのアオイヤマダへも、ひびのが自らオファーしたという。アオイヤマダは、オリンピックの閉会式でもソロでパフォーマンスを披露した、現在21歳の注目のダンサーである。

アオイヤマダ
アオイヤマダ

近年、ひびのは、自身が手掛ける衣装とダンサーとのコラボレーションによるダンスパフォーマンスのイベントを展開し続けてきた。2018年4月に市原湖畔美術館(千葉市)で開催された「60 (rokujuu) ひびのこづえ展」では、衣装の展示と同時にダンスパフォーマンスを展覧会の会場内で披露している。その際の展覧会のタイトルにあった「60 (rokujuu)」は、ひびのの年齢を表している。60歳になる直前に、本当に自分のやりたいことを見つけた、という。それが、「人に本当の服を着せる事だった」と話している。(「60 (rokujuu) ひびのこづえ展」展覧会レポートより)

今回の展覧会に合わせて作り上げてきたダンスパフォーマンスが、新作「ROOT:根」である。1枚ずつ服を脱ぎ、脱皮を繰り返しながら踊ることで、違う生きものに変異していく、という構想で、森に住む巨大なカエルから産み落とされた赤い身体から、耳が5つの頭、黒いイボイボの半身、ピンク色の丸でできた体毛、放射状に広がる腰、5つの尾を持つ尻、柄柄の肌が生まれていく。そして最後は人となり、身体から根が生え、森に土に還ることで、生命の流れに思いを巡らす、といった作品である。(※今回会期中に新作パフォーマンスが披露される予定であったが、緊急事態宣言の延長に伴い、9月中は中止となっている。)

この新作パフォーマンスのダンサーに起用したのが、アオイヤマダである。

「ROOT:根」のデザイン画 ROOT:根 2021年(全12点)
「ROOT:根」のデザイン画 ROOT:根 2021年(全12点)

「今回の新作パフォーマンス『ROOT:根』のダンサーとして、アオイヤマダさんに、自分からオファーをしました。いつも、ものすごくドキドキしながらメールを書いて、10分くらいそれを眺めていたり、『おしちゃえ!』みたいな感じで、勇気を出してメールを送信する。いまだにそんなコミュニケーションの方法で、そのまま来ちゃったという感じですね。でも、そういう出会いが、なんだかおもしろいし、私自身、服を着たアオイさんを初めて見て、動いているところを見たときは、驚きもあったし、楽しくもありました。」

コスチューム・アーティストとして、長年の実績を積み重ね、これだけの活躍を続けながらも、子供時代から引っ込み思案でそのまま大人になっている、と語ることは意外性がありつつも、実は目の前に広がる作品世界とは大きく乖離しない。空の雲や植物など自然の世界とじっくり対話をし、豊かな想像力の世界を無限に広げていったのではないかと想像でき、瑞々しく感じられる。

「子どものときから興味があることがちょっとずつ形を変えながら今に至るのかな、という気がします。」
まさに幼少期からの感性が今と地続きであることが感じられる言葉を聞くと、作品世界を通じて、幼少期のひびの氏にも出会える感じがして、嬉しくなる。

そごう美術館「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」会場風景(2021年10月10日まで開催)
ダンスパフォーマンス「MAMMOTH」の映像と衣装の展示
そごう美術館「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」会場風景(2021年10月10日まで開催)
ダンスパフォーマンス「MAMMOTH」の映像と衣装の展示

今回の新作「ROOT:根」以外にも、「WONDER WATER」「FLY,FLY,FLY」「Piece to Peace」「MAMMOTH」など、14本のダンスパフォーマンスの映像が会場で楽しめる。実際にダンサーらが身に着けた衣装も展示されているので、映像と合わせて楽しみたい。

そして、特におすすめの展示は、「ARで服が動く森」である。展示されている衣装についたQRコードをスマホで読み取ると、目の前でダンサーがその衣装を身に着けて踊り出す様子が映像で観られる。

そごう美術館「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」 「ARで服が動く森」展示風景
衣装についたQRコードをスマホで読み取ると、ダンサーがその衣装を身に着けて踊る様子が映像で観られる。
そごう美術館「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」 「ARで服が動く森」展示風景
衣装についたQRコードをスマホで読み取ると、ダンサーがその衣装を身に着けて踊る様子が映像で観られる。
そごう美術館「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」 「ARで服が動く森」展示風景
衣装についたQRコードをスマホで読み取ると、ダンサーがその衣装を身に着けて踊る様子が映像で観られる。
そごう美術館「森に棲む服/forest closet ひびのこづえ展」 「ARで服が動く森」展示風景
衣装についたQRコードをスマホで読み取ると、ダンサーがその衣装を身に着けて踊る様子が映像で観られる。
「ARで服が動く森」 アオイヤマダによるパフォーマンス ※スマホの画像キャプチャー
「ARで服が動く森」 アオイヤマダによるパフォーマンス ※スマホの画像キャプチャー

「アオイヤマダさんに、ここ(会場)で撮ってもらったんですよ。照明も入れ込んでもらって、全部展示の衣装に着替えながら、その場で即興で動いてもらって、撮影しました。音楽はどうしようか、と思っていたら、『では、わたしやります』とアオイヤマダさんが音楽も担当してくれて、さらに映像ではコメントをつぶやいたりしていて面白いです。会場全体には、いろんな音が混じっているので、ぜひみなさん、音声を出して聞いてみてください。」
と、ひびの氏も一押しの展示である。美術館の館内だが、今回の会場では音声も出して楽しめる。

ここは、きっと誰もが童心に帰れる“森”である。この森に棲む服たちとともに、ひととき、森の住人になってみることをお薦めしたい。

ひびのこづえ プロフィール

1958年静岡県生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科視覚伝達デザイン卒業。
コスチューム・アーティストとして広告、演劇、ダンス、バレエ、映画、テレビなどその発表の場は、多伎にわたる。毎日ファッション大賞新人賞、資生堂奨励賞受賞 他 展覧会多数。1997年作家名を内藤こづえより改める。NHK教育テレビ「にほんごであそぼ」のセット衣装を担当中。サントリーBOSSシルキーブラックCM衣装、KIRIN「生茶 緑の野菜のブレンド茶plus」CM衣装担当。大塚愛「I's」PV衣装担当。歌舞伎「野田版 研ぎ辰の討たれ」衣装、野田秀樹作・演出「ザ・キャラクター」、「EGG」。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
そごう美術館|SOGO MUSEUM OF ART
220-8510 神奈川県横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店 6階(横浜駅東口)
開館時間:10:00~20:00(最終入館時間 19:30)
定休日:展示替期間中は休館

FEATURE一覧に戻る