FEATURE

コスチューム・アーティスト ひびのこづえさんが生み出す、
物語に満ちた作品世界に、心ときめかせずにはいられない。

「60 (rokujuu) ひびのこづえ展」では、ひびのさんの衣装によるダンスパフォーマンスを体感できる

展覧会レポート

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文・小林春日

子どもの頃は、無限の想像力で、頭の中に自由な世界を創造していた。頭の中で思い描くことは、誰にも制限されない。限りない色の選択肢で想像の世界を彩り、果てしなく続く想像の旅に出て、あらゆるものに出会って、楽しんだり、不安になったりもした。

すっかり大人になった今、幼いころには宝物のように感じた沢山のものや、全身で喜びを感じたできごとの数々。あんなにもきらめいていたものたちを、いったいどこに忘れてきてしまったのだろうか。

市原湖畔美術館で開催されている「ひびのこづえ展」を、そんなことを思いながら、自分の中に長いこと眠っていたものを一気に呼び覚まされたような、感動を味わいつつ鑑賞した。

ひびのこづえ展 市原湖畔美術館
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
60 (rokujuu) ひびのこづえ展
開催美術館:市原湖畔美術館
開催期間: 2018年4月6日(金)~2018年6月24日(日)
ひびのこづえ展 市原湖畔美術館

ひびのこづえさんは、コスチューム・アーティストであり、広告、演劇、ダンス、バレエ、映画、テレビなど、その発表の場は多岐にわたる。現在は、NHK E テレ「にほんごであそぼ」のセット衣装も担当している。また、中村勘三郎主演の歌舞伎「コクーン歌舞伎・三人吉三」「野田版 研ぎ辰の討たれ」、現代劇の野田秀樹作・演出の「足跡姫」など多数の舞台衣装を手掛けるなど、幅広く活躍されている。

ひびのこづえ展 市原湖畔美術館

現在、千葉県市原市にあるその名の通り湖のほとりにあり、景観の美しい市原湖畔美術館にて 「60 (rokujuu) ひびのこづえ展」が開催中である。ひびのさんの新作含む約50点が展示されている。

ひびのこづえ展 市原湖畔美術館

ざわめきか歌声か、音の響きを感じる色彩による、意表を突く造形の数々が市原湖畔美術館ならではの展示空間を踊っている。

また、展示室内に舞台を作り、ひびのさんの衣装作品とダンサーのコラボレーションによる、ダンスパフォーマンス公演の開催、という斬新な試みがなされている。

このダンスパフォーマンスが、衝撃的であった!

ひびのさんは、展示されているだけでは分からないので、コスチュームを着てダンサーに踊ってほしい、と考えて、「60 (rokujuu) ひびのこづえ展」の開催期間中に、展示室内の劇場にて、全10回のダンスパフォーマンス公演の開催を企画した。

ひびのこづえ展 市原湖畔美術館
ダンサー 島地保武氏 (写真:長塚秀人)

この日は、ひびのさんの衣装6点を纏ったり脱いだり戯れたりしながら、ダンサーの島地保武氏が、パフォーマンスを繰り広げた。

鍛えられた美しい肉体が魅せる力強い表現を間近に見ることができた。そのダンスはまるで、肉体が言葉を持って話しかけてくるようで、思わずこちらも全身の耳を傾けてしまう。そして、天井から吊るして展示されていた衣装を外し、肉体がまとったときの躍動は、まるでつぼみだった花が開花して、その花咲く姿を地上にお披露目するようである。衣装が顔をのぞかせて、その表情を観客に差し向けるのを見るようであった。

ひびのこづえ展 市原湖畔美術館
写真:長塚秀人

島地保武氏は、ドイツ・フランクフルトのザ・フォーサイス・カンパニーに2006年から2015年まで所属し、メインパートを踊っていたダンサーである。2013年にバレエダンサー 酒井はなとのユニットAltneuを結成し、2014年に 「NHKバレエの饗宴」に出演するなど、国内外で活躍中である。

ひびのさんによると、「FLY、FLY、FLY」と題したこの日のダンスは、前日に出来上がったばかりなのだそう。ダンスは、緻密に時間通りにはなっておらず、毎回踊りが変わっていくであろう、とのこと。

ひびのさんが最初にダンサーの島地保武さんに、どんな服が着たいかと聞いてみたところ、島地さんからは、「家」というキーワードがでてきたそうである。ひびのさんは、今回の展覧会に「60」というタイトルをつけた。これは、この4月にご自身が60歳という区切りの年齢を迎えたため、その年齢の数字を冠しているのだが、「人生の分かれ道」、みたいものを感じていたそうである。

「そこで、島地さんから出てきた『家』というテーマが、すごくはまった。
『家』って家族とか、そこから人生が見えたり、
人生は、生まれて、死んでいく、というストーリーがあり、
そういうものを、そこまで説明的ではなくとも、ダンスにできないかな、という。
最初に楽しい家があって、そこからだんだんみんな巣立って行ったり、誰かが亡くなっていったり。
でも最後の衣装は「羽」なんですけど、飛び立っていって、
またいつかはそれも消えていく、でもまた・・・
っていう風にしたいな。」

そんな風に語ってくださった。
ひびのさんのそんな思いと、ダンサーの島地氏による表現をひびのさんの衣装がつなぎ、川瀬浩介氏による音楽が会場を包み込んだ公演は、忘れがたい鑑賞体験となった。

ひびのこづえ展 市原湖畔美術館
写真:長塚秀人

※そのほかには、ホワイトアスパラガス(谷口界とハチロウによる現代サーカスカンパニー)と川瀬浩介氏による「WONDER WATER」、ダンサーの引間文佳さんと川瀬浩介氏による、「Humanoid LADY 市原湖畔美術館ver.」の公演が予定されている。

ひびのこづえ展 市原湖畔美術館
コスチューム・アーティスト ひびのこづえさん

最後にひびのさんが、展覧会に寄せたメッセージを紹介する。

2018年4月に、“還暦”と呼ばれる年齢を迎えることになった。
30代直前でこの仕事をスタートしたときから、
クリエーターとして常に年齢の限界に怯えながらいた。
30代の私なら60代の私を“時代遅れ”と馬鹿にしていただろう。
でも私は60代直前でやりたいことを見つけた。
それは人に本当の服を着せる事だった。

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60 (rokujuu) ひびのこづえ展
開催美術館:市原湖畔美術館
開催期間: 2018年4月6日(金)~2018年6月24日(日)

参考:市原湖畔美術館 WEBサイト

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