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内覧会レポート

“明るく照らされた岩“を意味するヨーロッパの小国、リヒテンシュタインから届いた芸術の至宝。その質の高い作品の数々に胸を打たれる、必見の展覧会。芸術の粋にたっぷりと酔いしれたい。

フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー 《磁器の花瓶の花、燭台、銀器》1839年、油彩・板 所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン © LIECHTENSTEIN.The Princely Collections, Vaduz-Vienna
フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー 《磁器の花瓶の花、燭台、銀器》1839年、油彩・板
所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン © LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna

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Bunkamura ザ・ミュージアム(渋谷)にて、2019年10月12日(土)より、「建国300年 ヨーロッパの宝石箱リヒテンシュタイン 侯爵家の至宝展」の開催が始まった。

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「建国300年 ヨーロッパの宝石箱リヒテンシュタイン 侯爵家の至宝展」
開催美術館:Bunkamura ザ・ミュージアム
開催期間: 2019年10月12日(土)~2019年12月23日(月)

さて、「リヒテンシュタイン」とは?
日本人には、あまり耳馴染みが無いと思われるが、国の名前であり、人の名前でもある。というのも、世界で唯一、侯爵家(君主)の家名が国名となり、「リヒテンシュタイン侯国」となった経緯がある。

スイスとオーストリアに挟まれた、アルプス山脈に位置する小国、リヒテンシュタインについて知るために、まず、歴史上の3つの年に注目したい。

フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー《イシュル近くのヒュッテンエック高原からのハルシュタット湖の眺望》1840年、油彩・板 所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン © LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー《イシュル近くのヒュッテンエック高原からのハルシュタット湖の眺望》1840年、油彩・板所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン
© LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna

1つ目は、「1130年」。
すでに12世紀初めには、リヒテンシュタイン家に連なる者の名前として、「フーゴ1世」(?-1143)という名前が、1130年の文書に登場している。

オーストリアのウィーン南方に、“明るく照らされた岩塊”(リヒテンシュタイン)の上に高くそびえるように築かれた、今でもウィーンに現存する城があり、その築城を手掛けたのが、フーゴ1世だと考えられている。そこから、家名を取った「リヒテンシュタイン家」の系譜が900年近くもの歴史を経て、今に続いている。

ぺーテル・パウル・ルーベンスと工房《ペルセウスとアンドロメダ》1622年以降、油彩・キャンヴァス 所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン ©LIECHTENSTEIN.The Princely Collections,Vaduz-Vienna
ぺーテル・パウル・ルーベンスと工房 《ペルセウスとアンドロメダ》1622年以降、油彩・キャンヴァス
所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン ©LIECHTENSTEIN.The Princely Collections,Vaduz-Vienna

2つ目は、「1608年」。
リヒテンシュタイン家が、「侯爵家」の爵位を与えられた年である。芸術品の収集癖のあった神聖ローマ皇帝ルドルフ2世※に仕えていたリヒテンシュタイン家のカール1世(1569-1627)が、世襲制侯爵位を授与されて、最初のリヒテンシュタイン侯となった。

カール1世は、ルドルフ2世の影響も受けて本格的な美術品収集に着手しており、リヒテンシュタイン侯爵家のコレクションの歴史は、この頃から400年以上に及び、現在、約3万点もの、ヨーロッパ屈指のコレクションを形成している。

※神聖ローマ帝国皇帝として君臨したハプスブルク家のルドルフ2世(1552-1612)は、稀代の収集家として、また芸術の庇護者として知られており、Bunkamura ザ・ミュージアムでは、2018年に「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」も開催している。

3つ目は、「1719年」。
17世紀後半には、リヒテンシュタイン侯爵家がそれまでに築き上げてきた財力によって、ヨハン・アダムス・アンドレアス1世(1657-1712)が、現在のリヒテンシュタイン侯国の北部にあたるシェレンベルグ男爵領と南部のファドゥーツ伯爵領を購入した。

今からちょうど300年前にあたる1719年、神聖ローマ皇帝カール6世は、それらの領地を神聖ローマ帝国内の領邦国家として自治権を付与し、アントン・フロリアン1世侯(1656-1721)の代に、「リヒテンシュタイン侯国」が成立している。

本展のタイトルにある、「建国300年」というのは、「リヒテンシュタイン侯国」が誕生した1719年からの300年である。

ヤン・ブリューゲル(父)《市場への道》1604年、油彩・銅板 所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン © LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
ヤン・ブリューゲル(父)《市場への道》1604年、油彩・銅板 所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン © LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna

リヒテンシュタイン侯爵家の世界有数の規模を誇るコレクションは、リヒテンシュタインの首都ファドゥーツにある侯爵家の城だけでなく、ウィーンに所有する宮殿にも収蔵されている。

本展は、そのリヒテンシュタイン侯爵家が所有する、3万点にも及ぶコレクションの中から、ルーベンス、ヤン・ブリューゲル(父)、クラーナハ(父)を含む北方ルネサンス、バロック、ロココなどの油彩画と、ヨーロッパでも有数の貴族の趣向が色濃く反映された、ウィーン窯を中心とする優美な陶磁器、合わせて約130点のいずれも質の高い芸術品の数々、全7章で構成される。

Bunkamura ザ・ミュージアムでは、各章ごとのコンセプトに沿って、壁紙や作品の背景に、時に鮮やかな色選びや縞などの模様を用いるなど、展示に合わせた世界観の作り出し方に趣向が凝らされているが、今回の展示も、侯爵家の高貴な雰囲気を臨場感をもって表現している。リヒテンシュタインの至宝の魅力が引き出された展示で、未知の小国から届いたヨーロッパの宝石箱の中身をたっぷりと堪能したい。

(左)ルーカス・クラーナハ(父)《聖バルバラ》1520年以降、油彩・板 所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン ©LIECHTENSTEIN.The Princely Collections,Vaduz-Vienna(右)マルコ・バザイーティ《聖母子》1500年頃、油彩・板 所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン © LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
(左)ルーカス・クラーナハ(父)《聖バルバラ》1520年以降、油彩・板/(右)マルコ・バザイーティ《聖母子》1500年頃、油彩・板
いずれも所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン © LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna

リヒテンシュタイン侯爵家の歴史や、貴族生活の雰囲気を肖像画や絵画で紹介する第1章に続き、第2章では、クラーナハ(父)やルーベンスといった北方芸術の巨匠や、イタリア・ルネサンスやバロックの宗教画が紹介されている。

会場の展示を鑑賞していると、リヒテンシュタイン侯爵家のコレクションの多様さのなかに、コレクションの持つ一貫したセンスや趣向、侯爵家コレクションならではの醸し出される雰囲気が感じられてくるのではないだろうか。

たとえば、第2章の展示で観られる、ジロラモ・フォラボスコの《ゴリアテの首を持つダヴィデ》(1670年頃)、グイド・レーニの《マグダラのマリア》(1615-1616)や《読書する福音書記者聖ヨハネ》(1640年頃)、シモーネ・カンタリーニの《少年の洗礼者聖ヨハネ》(制作年不詳)などは、暗い背景から浮かびあがるように描かれた人物像や、ダヴィデ、聖ヨハネ、マグダラのマリア、いずれの作品も、あどけなさの残る年頃の人物像で描かれたものが展示されている。

また、《東方三博士の礼拝》が描かれた2作品に共通する敬虔な雰囲気、聖母マリアが描かれた絵画は、いずれも凛とした姿と静謐な美しさが感じられる。

いずれの作品にも画面に満ちた力を感じ取ることができ、それらの質の高い作品の数々から、アートファンにとっては新しい視野の広がりが感じられるのではないだろうか。

また、第4章の「磁器―西洋と東洋の出会い」では、景徳鎮や有田焼などの東洋の陶磁器にヨーロッパで金具を取り付けるなど、ヨーロッパ人の趣味に合わせて作り替えられた、珍しい作品の数々が登場する。さらに、それらの陶磁器作品が、絵画の中に、果物や植物、鳥などと共に描かれた静物画が、陶磁器作品とともに鑑賞できる、その競演は必見である。

(左)フェルディナント・キュス《バラとアンズのある静物》1826-1850年、油彩・キャンヴァス
(右)ウィーン窯・帝国磁器製作所ゾルゲンタール時代/フェルディナント・エーベンベルガー 《金地薔薇文カップと受皿》1798年頃、硬質磁器
(左)フェルディナント・キュス《バラとアンズのある静物》1826-1850年、油彩・キャンヴァス/(右)ウィーン窯・帝国磁器製作所ゾルゲンタール時代/フェルディナント・エーベンベルガー 《金地薔薇文カップと受皿》1798年頃、硬質磁器
(左)ウィーン窯・帝国磁器製作所/ 絵付け:ヨーゼフ・ニッグ《白ブドウのある花の静物》
1838年、硬質磁器(右)ウィーン帝立磁器製作所、ゾルゲンタール時代《盛花格子文絵皿》1805年、硬質磁器、エナメルの上絵付、鍍金/レオポルト・パーマン(1783-1816)
(左)ウィーン窯・帝国磁器製作所/ 絵付け:ヨーゼフ・ニッグ《白ブドウのある花の静物》 1838年、硬質磁器/(右)ウィーン帝立磁器製作所、ゾルゲンタール時代《盛花格子文絵皿》1805年、硬質磁器、エナメルの上絵付、鍍金/レオポルト・パーマン(1783-1816)
(画像4点とも)所蔵:リヒテンシュタイン 侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン
© LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna

最終章の第7章「花の静物画」は、今回のメインヴィジュアルがそうであるように「花」が本展覧会のもう一つのテーマともいえるほど、花特集の章になっており、花愛好者には、ひときわ楽しい展示である。

ヨーロッパの静物画のなかでも特に人気の主題であった、花の静物画。侯爵家コレクションには、花を描いた作品が多く収蔵されており、そこには、絵画だけでなく、陶板画や磁器の絵柄として描かれたものも含まれている。

本展のメインビジュアルとなっている作品を描いたのは、細密な描写を得意とした画家 ヴァルトミュラー。当代の人気画家が描いた繊細かつ華やかな作品である。

ウィーン窯・帝国磁器製作所 アントン・デーリング イグナーツ・ヴィルトマン《金地花文ティーセット》 1815年、硬質磁器、金地、線刻、一部研磨、エナメルの上絵付
ウィーン窯・帝国磁器製作所 アントン・デーリング イグナーツ・ヴィルトマン《金地花文ティーセット》 1815年、
硬質磁器、金地、線刻、一部研磨、エナメルの上絵付

特に最終章、一番最後の展示となる、豪華なティーセット《金地花文ティーセット》は、細部までじっくりと鑑賞したい。

侯爵家のティータイムのために使われたこのティーセットは、蓋付きの大きなポットが2つと小さめのティーポット、3頭のスフィンクスが脚になっている砂糖入れ、鉢、12客のティーカップからなる。ティーカップの受け皿も含めて、すべて異なった絵柄で、白、青、紫などの雪割草が、繊細かつ愛らしく描かれており、その上品さと優雅さにうっとりしてしまう。

400年もの間、リヒテンシュタイン侯爵家が代々、守り、受け継いできた芸術作品の数々。しかしながら、これらの芸術作品が国を救った時代もあったという。戦争が勃発し、戦中、そして戦後にも受難が続き、すべての経済的手段を取り上げられてしまったリヒテンシュタイン侯爵家にとって、唯一の財産であったのが、価値あるコレクションだけであった。

それらを売却しなければならない時代を経て、現侯爵のハンス・アダム2世によって、経済力が強化され、手放したコレクションを再び買い戻したり、重要な新規購入品を迎え入れるようになったのである。

そういった歴史的な背景にも、思いを馳せながら鑑賞してみると、また違った角度からも本展を楽しめるのではないだろうか。

リヒテンシュタイン侯爵家が、400年もの間、渡り守り伝えてきた芸術作品が、ここ日本で味わえる貴重な機会である。侯爵家のコレクションから約130点の質の高い作品が一堂に会した本展覧会で、芸術の粋をたっぷりと味わいたい。

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「建国300年 ヨーロッパの宝石箱リヒテンシュタイン 侯爵家の至宝展」
開催美術館:Bunkamura ザ・ミュージアム
開催期間: 2019年10月12日(土)~2019年12月23日(月)

※参考文献:「建国300年 ヨーロッパの宝石箱リヒテンシュタイン 侯爵家の至宝展」図録 発行:TNCプロジェクト

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