FEATURE

アートな旅で「愛知」の魅力に迫る。
徳川美術館と、せとものの街 瀬戸市を巡る

家康の遺品や大名道具の数々を所蔵する徳川美術館(名古屋市)と
瀬戸物(せともの)」という呼び名の由来となった焼き物の街・瀬戸市へ、

アートコラム

国宝 源氏物語絵巻 橋姫 絵 徳川美術館蔵 ※現在は展示されていません。徳川美術館にて開催中(2018年12月16日まで)の「特別展 源氏物語の世界―王朝の恋物語―」より
国宝 源氏物語絵巻 橋姫 絵 徳川美術館蔵 ※現在は展示されていません。
徳川美術館にて開催中(2018年12月16日まで)の「特別展 源氏物語の世界―王朝の恋物語―」より

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尾張徳川家歴代の遺愛品を、美しい保存状態で今に伝える徳川美術館

江戸幕府を開いた徳川家康の生誕の地、そして日本が世界に誇る大手自動車メーカー トヨタのお膝元、といえば、そう、愛知県である。

味噌カツや手羽先にひつまぶし、派手な結婚式の風習、といった一般的に知られるイメージばかりがつい浮かびがちであるが、今回のアートコラムでは、尾張徳川家とゆかりの深い、歴史ある美術館と、瀬戸焼で知られる愛知県瀬戸市のアートをめぐりながら、「愛知県」の魅力に触れてみたい。

愛知県名古屋市には、尾張徳川家に往時より伝えられた数々の「大名道具」を収め、1935年に開館した歴史ある美術館、徳川美術館がある。尾張徳川家第19代当主、徳川義親(とくがわよしちか 1886 - 1976年)によって、1931年(昭和6年)に設立された公益財団法人徳川黎明会が運営する私立美術館である。

徳川園の入口(かつての尾張徳川家名古屋別邸の表門、通称「黒門」)
徳川園の入口(かつての尾張徳川家名古屋別邸の表門、通称「黒門」)

収蔵品は、徳川家康の遺品をはじめ、初代義直(よしなお 家康9男)以降の尾張徳川家の歴代当主やその家族らの遺愛品を中心に、総数は1万件余りにおよぶ。

「源氏物語絵巻」をはじめとする国宝9件、重要文化財59件、重要美術品46件を含む収蔵品の数々は、保存状態の優れたものが多く、明治維新や第二次世界大戦の混乱などによって多くの大名家の伝来品が散逸してしまった中で、徳川美術館の収蔵品は大名家のコレクションとして、唯一まとまった状態で存続してきた。

何世紀もの時を経ながらも、尾張徳川家の所蔵品として、極めて質の良い状態で今日まで保存されてきた、ということは特筆すべきことである。

菊折枝蒔絵調度(きくおりえだまきえちょうど) 「貝合せ」の遊びに使う合貝(あわせがい) 江戸時代 19世紀 俊恭院福君所用
菊折枝蒔絵調度(きくおりえだまきえちょうど)「貝合せ」の遊びに使う合貝(あわせがい) 江戸時代 19世紀 俊恭院福君所用

現在では、国庫補助金などによる保存修復が行われる作品もあるが、古くは平安時代にさかのぼる絵巻や屏風、江戸時代の貝合わせなどの遊び道具に至っても、収蔵品の保存状態が大変良いことに驚く。展示室を進むごとに、平安時代や室町時代、江戸時代の各時代にさかのぼって、人々の思いや暮らしが、より鮮明に思い浮かべられ、豊かに往時をしのばせてくれる。

所蔵品には、武家のシンボルである武具や刀剣、戦国武将らの間で流行した茶の湯の道具のほか、「書院飾り」といわれる空間を飾り付けるための花生・香炉・香合・天目・茶入・文房具などがある。

また、「能」の装束や道具、大名やその夫人たちのプライベートな生活の場である「奥」で用いられた「奥道具」、そして、今からおよそ千年前の11世紀初頭、紫式部によって著された『源氏物語』を絵画化した、国宝「源氏物語絵巻」がある。

国宝「源氏物語絵巻」の「額面装」と「巻物装」を同時に公開

現在開催中の特別展「源氏物語の世界 -王朝の恋物語―」では、国庫補助金によって保存修復が行われた、国宝「源氏物語絵巻」(平安時代12世紀)が展示されている。現在は、修復が終わった場面とともに、これから修理される予定の作品を合わせて観ることができる。

国宝「源氏物語絵巻」は、江戸時代以来、3巻の巻物の形で尾張徳川家に伝わったが、紙の傷みや絵の具の剥落などの損傷が著しかったため、1932年(昭和7年)に、保存を目的として、糊でつながれていた紙の継ぎ目をはがして巻物装を解き、額面装に改装された。

「額面装」の国宝「源氏物語絵巻」

しかし、額面装の場合、本紙が常時空気にさらされ、また台紙や箱の反りなどの問題も含め、本紙に張力がかかった状態となっていたため、後世にまで保存するには適さないと判断され、再度、巻物装に戻すための修復が行われることになった。

「巻物装」の国宝「源氏物語絵巻」

2012年(平成24年)から最新の修復技術による保存修理に取り組み、額面装を巻物装に戻し、絵一場面ごとにその場面を説明する詞書とともに一巻の巻物に仕立て変えている。現在の展示では、修理前の「額面装」作品と「巻物装」へと改装された作品の両方を鑑賞できる、最初で最後の機会となっている。

格式の高さを存分に感じさせる、尾張徳川家の大名道具の数々を所蔵する徳川美術館。保存状態の良さには目を見張るものがあり、美術品として質が高く貴重なものばかりである。実際に当時、大名家の生活の中で使われていた道具であったことには、さらにロマンを掻き立てられる。世界に誇れる稀有な存在の美術館であろう。愛知県を訪れる際には、ぜひ徳川美術館を訪れて、ゆっくり鑑賞してみていただきたい。

「企画展 徳川慶勝の幕末維新」も同時開催中。
企画展 徳川慶勝の幕末維新
開催美術館:徳川美術館
開催期間:2018年11月3日(土・祝)~2018年12月16日(日)

東海道沿線観光サイト Japan Highlights Travel愛知特集ページ「徳川美術館」

「瀬戸物」(せともの)という名称の由来の地。千年に渡って、やきもの文化が根付く、愛知県瀬戸市。

「瀬戸」といっても瀬戸内海ではなく、愛知県の瀬戸市である。「瀬戸」とは、「狭い海峡」「狭くて川の流れが急となった場所から、開けたところ」といった土地の性質を表す意味があり、愛知県名古屋市から北東に約20キロのところに、瀬戸市がある。

瀬戸市は、「瀬戸物」(せともの)という名称の由来の地として知られる。千年以上も前から、やきものが作られ、瀬戸市全体で陶磁器関連の産業が盛んとなって、今に至るまで、やきもの文化が根付いている。

瀬戸市内では良質な陶土が豊富に採取され、粘土や釉薬、顔料などの原料から生産道具の製造に至るまで、ほぼ全てをメイドイン瀬戸で賄うことができるという点は、全国的にもまれである。

瀬戸でしか見ることのできない風景として、窯道具を積み上げて作られた「窯垣」と呼ばれる石塀があり、窯垣をつないだ細く曲がりくねった路地が数百メートル続く「窯垣の小径」がある。その昔は、陶磁器を運ぶメインストリートで、現在でも窯屋の邸宅が建ち並び、せとものの街の風情を楽しむことができる。

瀬戸蔵ミュージアム
瀬戸蔵ミュージアム

瀬戸市内には、やきもの工場や商家、懐かしい昭和の街並みが復元された、「瀬戸蔵ミュージアム」がある。瀬戸焼の総合博物館として、瀬戸焼の歴史と文化にふれることができる。

瀬戸蔵ミュージアムのほか、やきものに関連する施設では、愛知県陶磁美術館、瀬戸市美術館、瀬戸染付工芸館、新世紀工芸館などがある。

古来よりある「練り込み」の技をうけつぎながら、3代にわたり、それぞれの魅力ある作風を確立してきた「水野教雄陶房」を訪ねて。

愛知県瀬戸市「水野教雄陶房」にて 水野教雄(みずののりを)氏(左)とご子息の水野智路(みずのともろ)氏(右)
愛知県瀬戸市「水野教雄陶房」にて 水野教雄(みずののりを)氏(左)とご子息の水野智路(みずのともろ)氏(右)

長い間連綿とやきものがつくられてきた瀬戸市では、「ものづくり」の文化や精神が根付き、現在では、やきものづくりに限らず、ものづくりに携わる人々を惹きつける土地となっている。

そういった土地柄もあり、瀬戸焼の作品にも、新しい風が吹きこまれ、魅力的な作り手たちが多く登場している。

水野教雄陶房(愛知県瀬戸市)
水野教雄陶房(愛知県瀬戸市)
3代目 水野智路(みずのともろ)氏
3代目 水野智路(みずのともろ)氏

瀬戸市内にある「水野教雄陶房」では、陶芸家の水野教雄(みずののりを)氏が、初代水野双鶴氏に継ぐ2代目として、2010年瀬戸市指定無形文化財「陶芸練り込み」 保持者に認定されている。

そして、現在、3代目となる、水野教雄氏のご子息、水野智路(みずのともろ)氏が、その「練り込み」技法を用いて、あらたな作風の作品を手掛けている。SNSなどでも情報を発信して人気が広がり、話題を呼んでいる。

「練り込み技法」とは、中国の宋の時代からあるといわれる歴史ある技法である。色の異なる粘土を模様が現れるように様々な形で練り込んで、一方向に同じ模様の層となるように塊をつくる。それをさらに組み合わせたり、様々な形状に仕上げながら、ひとつの作品として、あらかじめ設計した模様が表現されるように、創り上げていく。

「NEWモスク」水野教雄
「NEWモスク」水野教雄

こちらは、2代目の水野教雄氏が、古来からある紋様ではなく、自身のアイデアで、練り込みの技法を用いて手掛けた最初の作品である。

白とブルーグレーの2色による縞と市松模様が、立方体の両側面を残して、上下左右の4つの面を構成している。その内側には、うねうねとアイボリーの四角い棒状のものが、下から湾曲して突き出て、壁面や天井をわずかに押し出している。

筆などで描いた作品と違い、練り込み技法による作品は、紋様が形状のカーブに添って、膨らみや歪みが生まれるため、縞や市松の紋様に表れた三次元的な表情が面白く仕上がっている。

第35回日本新工芸展「日本新工芸会員賞」受賞作品「春を待つ」水野教雄
第35回日本新工芸展「日本新工芸会員賞」受賞作品「春を待つ」水野教雄

こちらは、水野教雄氏が、第35回日本新工芸展で「日本新工芸会員賞」を受賞された作品「春を待つ」である。

独創的な創意と技術の見事さに感銘を受ける堂々たる芸術作品であるが、その右隣の壺のような、愛らしい魚が右に左に並んで泳ぐ、魅力的な紋様の作品も、同様に 水野教雄氏の作品である。

こちらは、3代目水野智路(みずのともろ)氏が披露してくれた、パンダ柄の練り込みの制作過程である。パンダ柄は、練り込み技法によって四角い棒状につくられ、更に棒状のパンダを、耳の向きを順番に回転させながら寄せ集め、円柱の形に仕上げている。その円柱のどこをスライスしても、同じ模様が現れる。このパンダ柄の作品は、お皿やボールやカップとなって、この工房に展示されていた。

水野教雄陶房には、3代に渡ってそれぞれに異なる作風のバラエティーに富んだ数々の作品と、豊かな創意であらたな挑戦を試みてきた創作にかける心意気に満ちていて、陶芸の未来を明るく照らすような空間であった。

時代に沿った発想で、伝承技法を未来へと導く陶芸家 水野智路氏 インタビュー
(東海道沿線観光サイトJapan Highlights Travelより)

今回は、尾張徳川家とゆかりの深い愛知県名古屋市の徳川美術館と、せとものの街、愛知県瀬戸市を巡った。人々が歴史や伝統に誇りを持ち、大切にしながら、これまで守り伝えてきた遺産をどう未来につなぐか、ということに前向きに取り組む姿が印象的であった。

※参考: 徳川美術館ウェブサイト 瀬戸市公式サイト 瀬戸市観光情報公式サイト

※関連外部リンク: 瀬戸市美術館 瀬戸染付工芸館 新世紀工芸館

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