FEATURE

オーストラリア最大級のアートフェア
「シドニー・コンテンポラリー」

富裕層だけでなく多様な人々が楽しめる、今年8回目を迎えた豪アートフェアをレポート

アートコラム

アートフェア「シドニー・コンテンポラリー(Sydney Contemporary)」会場風景 
Photo: Sydney Contemporary
アートフェア「シドニー・コンテンポラリー(Sydney Contemporary)」会場風景 
Photo: Sydney Contemporary

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2024年9月5日(木)〜9月8日(日)にかけて、オーストラリア最大級のアートフェア「シドニー ・コンテンポラリー」が開催された。今年で8回目の開催で、オーストラリアとニュージーランド、アジア各国から、85を超えるギャラリーと、400人以上のアーティストによる1,000点以上のアート作品が集まった。

「シドニー・コンテンポラリー」アートフェアの様子。Photo: Sydney Contemporary
「シドニー・コンテンポラリー」アートフェアの様子。Photo: Sydney Contemporary

Works On Paper 部門が拡大、同部門の売上は昨年の2倍以上に

シドニー・コンテンポラリーは、油絵や彫刻の販売だけではなく、インスタレーションの展示やキッズブース、Works On Paper 部門といった比較的購入しやすい紙面上に描かれた水彩画やプリント作品の販売ブースもあり、富裕層だけではなく多様な人々が楽しめるイベントだ。

Works On Paper 部門で販売された、セルマ・クルサードの作品。
Selma Coulthard,
Works On Paper 部門で販売された、セルマ・クルサードの作品。
Selma Coulthard, "Watarrka (Kings Canyon) Landscape", NT WAC386-23, Watercolour on paper, 64 x 99.5cm

特に、今年は Works On Paper 部門が拡大され、6つの主要ギャラリーが加わった結果、同部門の売上は昨年の2倍以上となった。キュレーションを担当したのは、The Print Council of Australia(オーストラリア印刷評議会)のディレクター、アッキー・ヴァン・オグトロップ(Akky van Ogtrop)氏で、版画、水彩画、ドローイング、アーティスト・ブック、写真、ZINEなど、国内外の作品がバライティ豊かに紹介された。

アートフェア「シドニー・コンテンポラリー」の会場、工場跡地のキャリッジワークスの屋根に設置された、巨大なテナガザルの彫刻。
リサ・ロート(Lisa Roet)《スカイウォーカー・ギボン》 Photo: Yuya Yamazaki
アートフェア「シドニー・コンテンポラリー」の会場、工場跡地のキャリッジワークスの屋根に設置された、巨大なテナガザルの彫刻。
リサ・ロート(Lisa Roet)《スカイウォーカー・ギボン》 Photo: Yuya Yamazaki

会場は、キャリッジワークスという工場跡地を利用したアートスペース。会場に到着してまず目に入るのは、屋根に座る巨大なテナガザルの彫刻だ。これは、リサ・ロート(Lisa Roet)が制作した《スカイウォーカー・ギボン》という高さ9メートル、幅20メートルの作品で、シドニー・コンテンポラリー史上最大のインスタレーションというから驚きだ。霊長類を中心に様々な形態の作品を制作するロートだが、この作品では森林伐採のために近年発見されたテナガザルの新種に着目し、私たちに地球環境への倫理的責任を問いかける。

アナング族による世代を超えた槍作り技術共有プロジェクトで制作されたインスタレーション《Kulata, Miru, Tjara(多くの槍)》
APY Gallery,
アナング族による世代を超えた槍作り技術共有プロジェクトで制作されたインスタレーション《Kulata, Miru, Tjara(多くの槍)》
APY Gallery, "Kulata, Miru, Tjara", 2024. Photo: Sydney Contemporary

会場内に入ると、他にも存在感のあるインスタレーションが展示されていた。岩に映像を映すシャン・ターナー・キャロル(Shan Turner-Carroll)の《Bodies on a Rock》や、アナング族による世代を超えた槍作り技術共有プロジェクトで制作されたインスタレーション《Kulata, Miru, Tjara(多くの槍)》など、見応えのある作品を鑑賞することができた。

オーストラリアン・ギャラリー(Australian Galleries)

グレアム・ドレンデル(Graeme Drendel)の作品。人気のない田舎の平原に、給水タンクだけが描かれている。
Graeme Drendel,
グレアム・ドレンデル(Graeme Drendel)の作品。人気のない田舎の平原に、給水タンクだけが描かれている。
Graeme Drendel, "Monument 2", 2024, oil on canvas, 198x244 cm Australian Galleries Melbourne & Sydney, Australia

さて、肝心のアートフェアでの販売作品をいくつか紹介しよう。老舗のオーストラリアン・ギャラリー(Australian Galleries)では、イタリア・ルネッサンスの具象絵画に影響を受けたグレアム・ドレンデル(Graeme Drendel)の作品を "Static and Silence" と題して展示した。彼は、幼少期を過ごしたマリー地方(南オーストラリア州)の荒涼とした平原にモチーフを置き、作品を構成している。田舎の給水タンクやシーツの乱れたベッドなどの物体が、平原の中で存在感を持って描かれており、描かれていない人物の存在について考えさせられる作品だ。

アート・レヴェン(Art Leven)


アボリジナル・アートを専門とするギャラリー、アート・レヴェン(Art Leven)のブースでは、ノーザンテリトリー準州ラジャマヌに住むワルピリ族のアーティスト、リリー・イリディンガリ・ジュラ・ハーグレイブス・ヌンガレイ(Lily Nungarrayi Yirringali Jurrah Hargraves, 1930-2018)の作品が展示された。 活動初期、限定された色彩で儀式を細密に描いていたヌンガレイだが、時間の経過とともに、非常に色彩豊かで躍動感あふれるスタイルへと変化していったという。

ナンダ・ホッブス(Nanda \ Hobbs)


シドニーのギャラリー、ナンダ・ホッブス(Nanda\Hobbs)のブースに展示されたのは、タトゥー・アーティストとして刺青を20年以上彫り続けながら絵画制作を行なう本庄義男の作品。彼は、2020年と2022年、2024年の計3回、オーストラリアで最も権威ある肖像画のコンクール、アーチボルド賞のファイナリストに選出されている。オーストラリアでタトゥー・アーティストとして活動する中で、和彫りの注文が増えたことで、浮世絵を基にしたデザインを取り入れるようになったという。これが彼の絵画にも反映されており、伝統的な浮世絵の要素と現代的なタトゥー・アートの融合が見られるだろう。

サリヴァン+ストランプ(Sullivan+Strumpf)

シドニーを拠点に活動するアレックス・セトン(Alex Seton)の作品
Alex Seton,
シドニーを拠点に活動するアレックス・セトン(Alex Seton)の作品
Alex Seton, "Reality is Fabulous", Sullivan+Strumpf, Photo: Yuya Yamazaki

シドニー、メルボルン、シンガポールの各都市に拠点を構えるギャラリー、サリヴァン+ストランプ(Sullivan+Strumpf)のブースでは、シドニーを拠点に活動するアレックス・セトン(Alex Seton)の作品が展示された。彼の新作《Reality is Fabulous》では、日常的なファッションアイテムであるパファージャケット(ダウンジャケット)を通じて、人々が外界から自分を守ろうとする欲望をユーモラスに描き出している。

実は、パファージャケットの起源の一説に、1920年代にエベレスト登頂のためにオーストラリアで考案されたという説があるが、この断熱性に優れたアイテムは、ファストファッションとハイファッションの象徴でもある。セトンは、このジャケットを大理石を使用した彫刻作品に仕立てることで、現代の消費社会やAI時代における「本物」と「偽物」の曖昧さを表現している。

アルテリアル・ギャラリー(Artereal Gallery)

心理療法士としても活躍するアーティスト、ヌーラ・ディアマントポロス(Noula Diamantopoulos)による、テキストベースのネオンアート作品。
Noula Diamantopoulos,
心理療法士としても活躍するアーティスト、ヌーラ・ディアマントポロス(Noula Diamantopoulos)による、
テキストベースのネオンアート作品。
Noula Diamantopoulos, "here–Iam,IAm–here,amI–here?", 2016, neon, acrylic sheet, 83x100cm Artereal Gallery Sydney, Australia

シドニー近郊のロゼールのギャラリー、アルテリアル・ギャラリー(Artereal Gallery)のブースでは、心理療法士としても活躍するアーティスト、ヌーラ・ディアマントポロス(Noula Diamantopoulos)の作品が展示された。質問のみ、かつ手書きの対話を参加者と交わす「QUEST」というパフォーマンスでも知られる彼女は、近年テキストベースのネオンアート作品を制作している。ネオン作品では、言葉遊びやダブル・ミーニングを駆使し、我々に内なる対話や、内省的な悟りを促す。常に過剰な情報に振り回され、人と人とのつながりがますます希薄になる現代社会で、答えに追われ続ける我々へのユーモラスな皮肉とも解釈できる。彼女は、2016年に ”You Are. That Is. Creative” という書籍も出版しており、作品にも独自の心理学的アプローチが感じられる。

5日間で25,150人以上が来場、売上は約17,500万豪ドル

オーストラリアのジャズシーンで活躍する、シドニー在住のピアニスト マイク・ノック率いるトリオによる演奏。シドニー・コンテンポラリーでは、100を超える様々な充実したイベント・プログラムも開催。
Photo: Sydney Contemporary
オーストラリアのジャズシーンで活躍する、シドニー在住のピアニスト マイク・ノック率いるトリオによる演奏。
シドニー・コンテンポラリーでは、100を超える様々な充実したイベント・プログラムも開催。
Photo: Sydney Contemporary

あわせて、シドニー・コンテンポラリーでは、アーティスト・トーク、ワークショップ、デモンストレーション、ツアーなど、100を超える充実したイベント・プログラムも開催された。加えて、アート ナイトやフライデー・ナイトでは、DJによるライブ・パフォーマンスや、電子ハープ奏者のジェイク・メドウズの演奏、マイク・ノック・トリオによる演奏が行われた。来場者は、ポップアップバーでライブ演奏を聴きながら、アルコールドリンクを片手にアートを鑑賞、というなんとも贅沢な時間を過ごすことができた。

「シドニー・コンテンポラリー」アートフェアの様子。Photo: Sydney Contemporary
「シドニー・コンテンポラリー」アートフェアの様子。Photo: Sydney Contemporary

今年のシドニー・コンテンポラリーは、5日間で25,150人以上が来場し、約17,500万豪ドルの売上を記録した。2月には、1.7億豪ドル規模の芸術地区再開発が現在進行中のメルボルンにて、アート・フェアの開催が予定されている。今後もオーストラリアのアートに目が離せない。

シドニー・コンテンポラリー(Sydney Contemporary)
開催時期:2024年9月5日(木)〜9月8日(日)
会場:キャリッジワークス(Carriageworks)
245 Wilson St, Eveleigh NSW 2015, Sydney, Australia
公式HP: sydneycontemporary.com.au

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