FEATURE

「書画同一」を自在に実践する孤高の画家
婁正綱の世界を伝える AWATA COLLECTION

SMBC ART HQ Part3「婁正綱展 - AWATA COLLECTION -」が
三井住友銀行東館1階アース・ガーデンにて、2025年10月25日(土)まで開催

内覧会・記者発表会レポート

MBC ART HQ Part3「婁正綱展 - AWATA COLLECTION -」会場風景
MBC ART HQ Part3「婁正綱展 - AWATA COLLECTION -」会場風景

内覧会・記者発表会レポート 一覧に戻るFEATURE一覧に戻る

文:森聖加

「SMBC ART HQ」は、株式会社三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)によるアートプロジェクトのひとつで、その第3弾となる展覧会「婁正綱展 - AWATA COLLECTION -」が東京・丸の内の三井住友銀行東館1階「アース・ガーデン」ではじまった。会場にはトリドールホールディングスの粟田貴也氏による「AWATA COLLECTION」から、中国出身の書画家 婁正綱(ろうせいこう)の作品約23点が並ぶ。都市のただなかに現れる「水」を想起させる静謐な作品群が、観る者を未知の内面世界へと導く。

展示風景
展示風景
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
SMBC ART HQ Part3「婁正綱展 - AWATA COLLECTION -」
開催美術館:三井住友銀行東館1F アース・ガーデン
開催期間:2025年9月30日(火)〜10月25日(土)

都市の真ん中に出現した「もうひとつの宇宙」

コレクションの生みの親である粟田貴也氏は、トリドールホールディングス代表取締役社長 兼 CEOとして経営の最前線に立ちながら、芸術に深く魅了された人物のひとりだ。2022年、婁正綱との偶然の出会いから、作品に魅せられ収集を開始。婁の作品のみで形成された「AWATA COLLECTION」は、その結晶として2024年、プライベートギャラリー 「Gallery L(ギャラリー・エル)」の開設にまで至った。「婁正綱展 - AWATA COLLECTION -」は、前衛書からアクリル絵画におよぶ、婁の創作の軌跡を網羅する Gallery L 所蔵の作品群から2018年以降に制作された約23点を展示する。

《Untitled 2025》
《Untitled 2025》

会場でとりわけ目を引くのが、新作の大型作品《Untitled 2025》で、高さ10m × 幅8.1mもある。自然のなかで、婁が自在に筆を振るったという迫力の作品は、絵の主題は異なれど、まるで仏堂に掛けられる絵曼荼羅のように、宇宙の真理を描き出しているかのようだ。

婁正綱という存在。「書画同一」の現代的実践

婁正綱は1966年、中国・黒竜江省に生まれた。幼少期より書の才を発揮し、父の指導のもとで頭角を現し、才能は若くして師を超える域に達した。1986年に日本へ移住し、90年代前半にはニューヨークに滞在。世界の多様な美術と交わったのちに再び日本へと戻る。しかし以降は、表舞台から距離を置いて、独り筆をとる時間を選んだ。現在は相模湾を望む伊豆のアトリエで、自然のなかに身をひたし、創作を続けている。

婁正綱
婁正綱

石橋財団アーティゾン美術館 新畑泰秀氏は婁について次のように話す。「婁正綱は私が2023年に手掛けた『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開』の最後のセクションで紹介した現代作家のひとりです。あるとき私は婁に、『書から絵画へと移られたのですか?』と尋ねたことがあります。彼女は幼少期から書と絵をずっと続けてきた、と教えてくれました。中国には“書画同一”という考えがあり、婁の作品は現代においてそれを体現しているのです。カンバスの上にアクリルという新しい素材を用い、中国の書に通じるスタイルで、西洋とも日本のものとも一線を画した独自の地平を確立しています」

沈黙の中に響くもの ――作家の言葉から

展示風景
展示風景

婁自身は、創作についてこう述べる。「私にとって創作とは、自己表現ではなく、自己を超えてゆく行為です。筆を取るとき、私は『描こう』としているのではありません。私の内側にあるものが、私を通して自然に流れ出るのを、ただ許しているだけなのです。(中略)作品は、私から観る人への一方通行ではなく、むしろ観る人の人生と静かに交わる“場”であってほしい。私の沈黙は、作品にとっての余白であり、そこに他者の呼吸や記憶が染み込むことで、初めて絵は完成に近づくのだと信じています」

アーティストは、作品に対する「説明」や「意味付け」を沈黙のなかでそっと退ける。鑑賞者が作品と対峙することで、自己の内面に出会い、それぞれの記憶や感情を呼び覚ますことを喜びとするのだ。

人生と芸術的感性との交差点で。粟田貴也氏のまなざし

展示風景
展示風景

粟田氏が婁との出会いを振り返り、作品の魅力を語る言葉が作品の本質を知るカギとなるかもしれない。「2022年の出会いから伊豆のアトリエを訪れる機会に恵まれ、婁先生と一日を過ごしました。作品はもちろんですが、先生の人となりや生きざまに触れ、大きな感銘を受けたことがコレクションのきっかけです。アトリエの窓からは相模湾を望むことができるのですが、作品は光り輝く大海原のように、あるときは先生の故郷である黒竜江省の漆黒の闇に浮かぶ雪景色のように見えます。婁先生の作品は、見る角度、見る時間、見る心によって全然変わって見えます。常に、新鮮な気持ちで向き合うことができるのです」。婁作品との出会いは、粟田氏に経営者としての日常にも変化をもたらし、イマジネーションの無限の広がりを実感させている。

《Untitled 2023》
《Untitled 2023》

婁正綱は、書と絵、西洋と東洋、個と普遍といった境界を軽々と越えながら、独自の表現を切り拓いてきた。その作品は、観る者に「意味」を押し付けるのではなく、「あなたは何を感じるのか」と静かに問いかける。作品は、私たち自身の「心」を映し出す鏡となることだろう。

展示風景
展示風景

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
三井住友銀行東館1階アース・ガーデン
東京都千代田区丸の内1-3-2
開館時間:平日9:00~18:00 /土日祝13:00~18:00
休館日:会期中無休
https://www.smfg.co.jp/company/art/0929.html

FEATURE一覧に戻る内覧会・記者発表会レポート 一覧に戻る

FEATURE一覧に戻る内覧会・記者発表会レポート 一覧に戻る