広重の代表作を極上の摺りで味わう
「広重 ―摺(すり)の極(きわみ)―」が、あべのハルカス美術館にて2024年9月1日(日)まで開催
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「東海道五拾三次」や「名所江戸百景」などで世界的な人気を誇る浮世絵師、歌川広重(1797‐1858)。その画業を総覧する大規模な展覧会が、あべのハルカス美術館で開催されている。フランスのレスコヴィッチコレクションの協力などにより、世界的に希少な初摺り作品を展示。風景画の代表作を中心に、花鳥画や美人画、役者絵、絵封筒など、初期から晩年までの多彩な作品約330点が揃う(前期・後期で入れ替え)。
- 美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
- あべのハルカス美術館開館10周年記念「広重 ―摺の極―」
開催美術館:あべのハルカス美術館
開催期間:2024年7月6日(土)〜9月1日(日) ※会期中、展示替えがあり
前期:7月6日(土)~8月4日(日)、後期:8月6日(火)~9月1日(日)
歌川広重は、寛政9(1797)年、八代洲河岸(現在の東京丸の内)の定火消同心の家に生まれた。子どもの頃から絵が得意で15歳頃に歌川豊広に入門。20代半ばで家督を親族に譲り、浮世絵師として独立した。雌伏期を経て、37歳の時に保永堂版「東海道五拾三次」を手がけ、大ヒット。風景画で独自のスタイルを確立し、数々の名所絵シリーズの名作を生み出した。その作品の数々は海を渡り、日本だけでなく海外の美術愛好家も魅了し続けてきた。
同展は、ポーランド出身のフランス人コレクター、ジョルジュ・レスコヴィッチ氏のコレクションを中心に、摺り、保存状態ともに極めて良好な作品が揃っているのが見どころの一つ。レスコヴィッチ氏は、「広重は私にとって特別なアーティスト。私が所蔵する初摺りの広重の展覧会が日本で開催されるのは夢のようだ」と、内覧会で語った。
広重が風景画を本格的に制作する前の雌伏期に手がけた珍しい役者絵や美人画に始まり、広重の三大揃物といわれる「東海道五拾三次(保永堂版)」「木曾海道六拾九次」「名所江戸百景」各シリーズの名作の数々を希少な初摺りで鑑賞できる。
また広重の代表的な揃物として、日本各地の名所を紹介した「本朝名所」や、上方三部作とも呼ばれる「近江八景」「京都名所」「浪花名所図会」、また「東都名所(一幽斎がき)」や「江戸近郊八景」、「東都八景(扇面)」の全作品が、前期、または後期にそれぞれ展示される。失われてしまった日本の風景や人々の営みが情趣豊かに表現され、江戸時代を旅しているような気持ちに。
最晩年の代表作「名所江戸百景」シリーズは、竪判を生かし、風景を俯瞰した構図や、近景をクローズアップした構図が多いのが特徴だ。鳥のような高い視点で描かれた広重作品について、浮世絵の研究者で同館館長の浅野秀剛氏は、「定火消同心だった広重が、火の見櫓から江戸の町を眺めていたことが影響しているのではないか」と、話している。
広重は名所絵だけでなく花鳥画でも腕を振るった。代表的な短冊判を中心に、扇面形、団扇絵などさまざまな形の花鳥画が数多く制作されている。
また、珍しい大判3枚続の美人画作品や、滑稽本「東海道中膝栗毛」を題材にした戯画風の作品、文芸作品と融合した名品「和漢朗詠集」のほか、絵封筒や絵双六、千社札、幕絵など、広重の幅広い仕事ぶりを知ることができる。
浅野館長は、「広重の制作点数は約1万点に上り、その中から300点を選ぶのは大変なこと」と話し、「広重の風景画の代表作のほぼすべて、またあまり知られていない珍しいものも出展し、初期から晩年までの広重の全体のイメージを再現しました。巡回はしませんので、ぜひご覧ください」と、話している。