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美術館紹介

フランク・ステラ、マーク・ロスコといった20世紀アメリカ美術の巨大な作品群のコレクションが特徴的なDIC川村記念美術館。マーク・ロスコの《シーグラム壁画》による「ロスコ・ルーム」誕生秘話も紹介

フランク・ステラ、マーク・ロスコといった20世紀アメリカ美術の巨大な作品群のコレクションが特徴的なDIC川村記念美術館。マーク・ロスコの《シーグラム壁画》による一室、「ロスコ・ルーム」誕生秘話も紹介

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立体的なダンボールや鉄やフェルト、エナメル塗料といったさまざまな素材を色彩豊かに組み合わせた、いくつもの巨大な作品が悠然と展示されている。

東京都内の美術館ではお目にかかれないような、数メートルに及ぶ圧巻の巨大作品のひとつひとつが、街のような、人格のような、策略のような、未来のような、いろんな顔をしながら我々を見ている。

フランク・ステラ(1936-)の大型作品群
フランク・ステラ(1936-)の大型作品群

ここは、フランク・ステラの世界的なコレクションで知られる、千葉県佐倉市にあるDIC川村記念美術館のコレクション展示室である。彼が手掛けた作品《トムリンソン・コート・パーク(第2ヴァージョン)》 は、抽象美術=ミニマル・アートの先駆と見なされている。

1936年にマサチューセッツ州ボストン郊外のモールデンに生まれたフランク・ステラは、1954年、ニュージャージー州にある名門プリンストン大学に入り美術史を学んだ。早くもその5年後の1959年には、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された「16人のアメリカ人」展に招待され、「ブラック・シリーズ」と呼ばれる作品を4点出品し、当時のアートシーンに大きなインパクトを残している。それは、矩形のカンヴァスに、黒で塗りつぶす部分とわずかな余白の部分で、シンプルなラインを浮かび上がらせた幾何学的なストライプの模様を描いた作品シリーズであった。

この、ストライプで描いたシリーズは、絵画における要素をできる限りそぎ落とし、最小限に=「ミニマル」に切り詰めていった表現であり、フランク・ステラは、ドナルド・ジャッド、ソル・ルウィットらとともに、1960年代にアメリカで展開した「ミニマル・アート」の先駆者として知られる。

しかし、ここに展示されているステラの作品は、矩形のカンヴァスに描く発想から飛び出し、表現したい形そのものを蛍光塗料などの力強い色を多色使いで表現したり、段ボールやフェルト、アルミニウム板などの素材を用いた、立体的な躍動感ある、大型の作品へと変化を遂げている。

人の心を揺さぶる圧倒的な力を持った、世界的にも有名な芸術家の作品に、その芸術を創造したフランク・ステラの生まれ故郷とは遥か遠く離れた、ここ日本で出会うことのできる好運をもたらしてくれる場所こそが、「美術館」である。

DIC川村記念美術館は、世界トップシェアの印刷インキメーカーのDIC株式会社の創業家第2代社長 川村勝巳氏(1905~1999)が、1970年代初頭から、ピカソ、ブラック、カンディンスキー、マレーヴィッチ、ジョゼフ・コーネルなど20世紀美術を中心にコレクションを充実させていき、フランク・ステラやモーリス・ルイスといったアメリカ現代絵画にも早い時期に着目し、収集を始めたという。

印象派とエコール・ド・パリ(101展示室)
印象派とエコール・ド・パリ(101展示室)

やがて、川村勝巳氏が夢見ていた美術館設立の構想が現実のものとなった。その際、西欧絵画の名品に加えて、第3代社長 川村茂邦氏(1928~1999)が深い関心を寄せていた戦後アメリカ美術の充実が図られて、フランク・ステラの諸作品やマーク・ロスコの壁画作品やなど、アメリカ美術史に残る名品の数々を収集し、今日のコレクションの礎が形作られた。

日本には、企業の創業者、実業家らが所有していた芸術作品のコレクションの展示・公開のために開館した美術館が多くある。

エル・グレコ、ゴーギャン、モネ、マティスなどの西洋美術を中心にコレクションしている大原美術館(岡山県倉敷市)は、実業家 大原孫三郎によって1930年に開館。日本・東洋の古美術品のコレクションを中心としている根津美術館(港区南青山)は、実業家 初代根津嘉一郎により、1941年に開館。120点におよぶ日本随一の横山大観コレクションで知られる足立美術館(島根県)は、実業家 足立全康によって1970年に開館している。

それ以降も、1979年に品川の私邸を美術館として開館した現代美術を中心とする原美術館(品川)、サルバドール・ダリの絵画・彫刻・版画などの作品約340点を所蔵する諸橋近代美術館(福島県)、写実絵画専門の美術館で2010年に開館したホキ美術館(千葉県)、ポーラ・オルビスグループのオーナーであった鈴木常司が数十年にわたって収集した美術品約9500点もの作品を所蔵する2002年9月開館のポーラ美術館(箱根)、工作機械メーカーであるヤマザキマザックの創業者である山崎照幸が収集した美術品コレクションを公開展示する2002年9月に開館したヤマザキマザック美術館(愛知県)などがある。

いずれも企業の創業者や実業家が関心を寄せ、愛好し、収集しつづけた作品が、美術館のコレクションを特徴づけ、立地や美術館建築などとともに美術館の個性を形作る。創業者や実業家らの生きた時代の流行なども反映されるであろう。

サイ・トゥオンブリーの彫刻作品を新たに収蔵し、2016年9月に新設された「トゥオンブリー・ルーム」
サイ・トゥオンブリーの彫刻作品を新たに収蔵し、2016年9月に新設された「トゥオンブリー・ルーム」

DIC川村記念美術館では、モネやピカソ、マティス、シャガールなどの印象派やエコール・ド・パリ、マグリット、マックス・エルンスト、カンディンスキー、ジョアン・ミロ、マン・レイなどの抽象主義やシュールレアリスム、ジャクソン・ポロックやアンディ・ウォーホル、サイ・トゥオンブリーといった第二次世界大戦以降の欧米絵画、瀧口修造、斎藤義重、李禹煥、若林奮ら現代日本美術といった、幅広いジャンルに渡る作品のコレクションは、約1000点以上にもおよぶ。

DIC川村記念美術館 庭園、エントランス

その中でも、フランク・ステラ、マーク・ロスコといった20世紀アメリカ美術のまとまった作品群のコレクションは、それらの作品の巨大さにおいても、DIC川村記念美術館の存在を印象的なものにしている。

千葉県佐倉市の佐倉駅から無料シャトルバスで20分ほどのところに位置するこの美術館は、隣接するDIC総合研究所と合わせて約30ヘクタール(9万坪)もの広大な敷地内にある。よく手入れの行き届いた、池を取り囲む緑豊かな庭園では、水辺に遊ぶ白鳥やあひるの姿が愛らしい。

吹き抜けになったエントランスを進むと、菊花のような装飾性の天井や枡目が菱形に並んだ小窓から光が差し込み、教会内部のような荘厳さを感じさせ、これから出会う芸術作品への期待感が高まってくる。各展示室は、ジャンルごとに館内の空間がデザインされている。フランク・ステラの大型作品群の展示室やマーク・ロスコの《シーグラム壁画》による一室は、それぞれ同じ作家の作品群によって統一的に展示されており、展示室そのものがひとつのアートである。

マーク・ロスコ(1903-1970)の《シーグラム壁画》にまつわる逸話が興味深い。

マンハッタンに新しくできるシーグラム・ビル内のレストラン「フォー・シーズンズ」に飾るために、作品制作の依頼を受け、およそ一年半を費やし、マーク・ロスコは、《シーグラム壁画》と呼ばれる30点の絵画を完成させた。ところが、一足早くオープンした店を訪れたロスコは、その雰囲気に幻滅し、契約を破棄してしまう。行き場をなくした作品群は、1970年にロンドンのテイト・ギャラリー(現テイト・モダン)にうち9点が寄贈され、1990年には7点がDIC川村記念美術館に収蔵されることとなった。

マーク・ロスコの《シーグラム壁画》による一室、ロスコ・ルーム
マーク・ロスコの《シーグラム壁画》による一室、ロスコ・ルーム

以降、このふたつの美術館ではそれぞれの《シーグラム壁画》のために一部屋を設け、常時公開している。アメリカ、ワシントンDCのフィリップス・コレクションにあるロスコ・ルーム、ヒューストンのロスコ・チャペルを合わせると、ロスコの作品のみで出来上がった空間は、世界に4カ所のみ存在している。

このような芸術作品が海を越えて、眼前に存在している事実は、奇跡的なことのようにも思える。美術館の役割は、企画展や特別展を開催することのみのように、一般的には思われがちだが、各美術館がどのようなコンセプトや方向性を持って、コレクションを形成しているか、といったことは、美術館の個性を形作ると同時に、後世にどのような文化遺産を残し、未来に受け継いでいくべきか、という美術館運営者らの思いの反映ともいえる。

最初の妻・鴇田とみへの手紙と写真

2016年9月17日から藤田嗣治の展覧会「レオナール・フジタとモデルたち」が開催されている。

風景画や戦争画、壁画や挿絵など多岐に渡るジャンルで才能を発揮してきたフジタの画業の中でも中心を占めていた人物画について、描かれた「モデルたち」をテーマに取り上げている。

初期から晩年までの作品を、描かれたモデルに関する資料を交えて紹介することで、フジタの思考とモデルに注がれた眼差しを再検討する、という新たな試みをする企画展である。その試みは、まさに成功していて、充実した貴重な資料とともに、はっきりと絵の中のモデルたちの輪郭が浮かび上がってくると同時に、フジタへの親近感がわき、作品から伝わってくる世界がいっそう広がり、存分に楽しむことのできる完成度の高い展覧会であった。

この美術館の敷地内には、木立のなかを数百メートルにわたって続く自然散策路がある。美術鑑賞で心豊かな時間を過ごしたあとは、その余韻にゆっくりひたりながら、自然散策を楽しみたい。

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DIC川村記念美術館|Kawamura Memorial DIC Museum of Art
〒285-8505 千葉県佐倉市坂戸631
開館時間:9:30~17:00
定休日:月曜日

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