「デザインの先生」は、世界の6人の巨匠。
〈良いデザイン〉の未来像を描く展覧会
企画展「デザインの先生」が21_21 DESIGN SIGHTで2026年3月8日(日)まで開催中

内覧会・記者発表会レポート 一覧に戻るFEATURE一覧に戻る
構成・文・写真:森聖加
デザインを名に冠し、デザインを通して世界を見つめ、考える、さまざまな企画を展開してきた21_21 DESIGN SIGHT(トゥーワン トゥーワン デザインサイト)。2025年11月からはじまった 企画展「デザインの先生」は、開館から17年を経たいま、同館があらためてデザインの原点に立ち戻り、その本質に迫る展覧会だ。手本とする「デザインの先生」は、20世紀を代表する世界の6人の巨匠たち。創造力と創作の姿勢から〈ホンモノのデザイン〉を探る。
- 美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
- 企画展「デザインの先生」
開催美術館:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2
開催期間:2025年11月21日(金)〜2026年3月8日(日)
深澤直人が選んだ6人の“デザインの先生”
企画展「デザインの先生」は、デザインとは何かという根本的な問いに向き合う。21世紀に入ってから“デザイン”という言葉は幅広い場面で認知され、使われるようになった。一方で、具体的に「何が良いデザインなのか」、その本質が見えにくくなっているのではないか。そんな思いが、館長 佐藤卓氏(グラフィックデザイナー)をはじめとする21_21 DESIGN SIGHTのディレクター陣にはふくれ上がっていた。日常の細部に目を向け、生活をより良くするための観察や思考から出発する――こうしたデザインの基本を改めて捉え直すことで、創造性の未来を考えるきっかけを提示する。

同館ディレクターの深澤直人氏(プロダクトデザイナー)は、自身が強い影響を受け、尊敬してやまないデザイナーを“デザインの先生(=マエストロ)”に選んだ。その先生とは、ブルーノ・ムナーリ(1907-1998)、アキッレ・カスティリオーニ(1918-2002)、エンツォ・マーリ(1932-2020)、マックス・ビル(1908-1994)、オトル・アイヒャー(1922-1991)、ディーター・ラムス(1932-)の6人。前者3人はイタリア出身、後者3人はスイスやドイツで活躍した。

“先生”の多くと親交があった深澤氏は、振り返って次のように話す。「彼らは“超える必要のない人たち”であり、優れた作品だけでなく、デザインとは何かを考えるうえで揺るぎない指針を示してくれました。6人のデザイン観は古びるどころか、いま、その重要性が増しているといえるでしょう」
6人それぞれの個性と思想の広がり
本展では、川上典李子氏(ジャーナリスト、21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクター)と田代かおる氏(ライター、インディペンデント・キュレーター)が展覧会ディレクターを務めている。ふたりは「デザインの先生」6人に共通する資質として、人々の暮らしや幸福に対する深い関心、専門分野の枠を越えた広い視野、そして思想に裏づけられた美意識を挙げた。「先生」たちにとってのデザインとは、社会や生活をいかに豊かにできるかを問い続けた営みだった、というのだ。

例えば、アーティスト、デザイナー、絵本作家、教育者など、多彩な肩書きをもつブルーノ・ムナーリは、遊び心と実験精神に満ちたアイデアで、創造することそのものを喜びとしていた。代表作の「読めない本」は、文字どおり“読む本”ではなく、紙質・形・切り抜き・色など、ページそのものを子どもたちに“体感”させる本。「旅行のための彫刻」は折りたたんで持ち運び可能な彫刻で、その創作にはユーモアと自由な発想があふれる。

Ernst Scheidegger,max bill / pro litteris
マックス・ビルは造形芸術から建築、タイポグラフィまで統合的に手がけたスイスの巨匠だ。合理性と数学的構築を美として成立させた人物であり、ウルム造形大学の初代学長として教育にも大きく貢献した。展示では、素材用途、生産工程にいたるまで視野にいれる「プロダクトフォルム」という考え方と、生活文化・日常文化を「環境形成」と名付けて統合的に捉えてデザインに取り組んだ姿勢が丁寧に紹介されている。

ビルとともにウルム造形大学の創設にかかわったオトル・アイヒャーは戦後ドイツのデザイン界をけん引。環境や社会、文化にまで視野を広げたデザインを実践し、1972年のミュンヘンオリンピックではデザインリーダーとしてプロジェクトを率いた。その際に彼が構築したピクトグラム(絵記号)の体系は、現在の標準的なアイコンの原型となっている。
本展ではウルム造形大学でビルとアイヒャーに学び、長年にわたって親交を深め、日本のデザイン教育の大きな礎を築いた、向井周太郎氏(1932–2024)の視点も合わせて紹介。日本における巨匠たちの思想の広がりをより深く照らし出している。
「よいデザイン」を知り、生活を考える出会いの場に
展示会場を締めくくる廊下には、カスティリオーニの言葉が静かに並び、創造の厳しさと希望をそっと語りかけてくる。展示はこれから新たにデザインに親しもうという人には驚きを、デザインに詳しい人にはより深い気付きを届けてくれるはずだ。細部まで神経の行き届いた研ぎ澄まされたデザインの実物を目の当たりにすれば、目の前の景色がふっと広がるような、新たな視界が開けてくることだろう。
