ポジティブに、やっかい者を見つめ直す。
「ゴミうんち展」展覧会ディレクター
佐藤 卓氏、竹村眞一氏インタビュー Vol.1
企画展「ゴミうんち展」が、21_21 DESIGN SIGHTで2025年2月16日(日)まで開催中

構成・文・写真:森聖加
「ゴミうんち展」展覧会ディレクター佐藤 卓氏、竹村眞一氏インタビュー
Vol.2 【後編】「自然界も人間界も、世界は面白いことに満ちている」はこちら
「クサいものには蓋」「とりあえず水に流してしまおう」などと、普段の生活では常にやっかいものとして扱われてきた、ゴミとうんち。東京・赤坂の21_21 DESIGN SIGHT(トゥーワントゥーワン デザインサイト)で開催中の企画展「ゴミうんち展」は、なんとかしなきゃと思いつつ、誰もがつい目を背けてきた問題に正面から向き合う、意欲に満ちたデザインの展覧会だ。展覧会ディレクターの佐藤 卓氏と竹村眞一氏に展示に込めた思いを聞いた。
- 美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
- 企画展「ゴミうんち展」
開催美術館:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
開催期間:2024年9月27日(金)〜2025年2月16日(日)
佐藤 卓氏 プロフィール
グラフィックデザイナー、21_21 DESIGN SIGHTディレクター・館長。1979年東京藝術大学デザイン科卒業、81年同大学院修了。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザインをはじめ、ポスターなどのグラフィック、商品や施設のブランディング、企業のCIを中心に活動。NHK Eテレ「デザインあ」「デザインあ neo」総合指導、著書に『塑する思考』(新潮社)、『マークの本』(紀伊國屋書店)など多数。毎日デザイン賞、芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章他受賞。
竹村眞一氏 プロフィール
京都芸術大学教授、NPO法人ELP(Earth Literacy Program)代表、「触れる地球」SPHERE開発者。人類学的な視点から地球環境に関する研究・啓発活動を行い、環境教育デジタル地球儀「触れる地球/SPHERE」を企画開発(経産省グッドデザイン賞・金賞、キッズデザイン賞最優秀・内閣総理大臣賞)。東日本大震災後、政府の「復興構想会議」専門委員。国連アドバイザーとして『国連防災白書』デジタル版監修(2012 〜2019)。東京都環境審議会委員。著書に『地球の目線』(PHP新書)、『宇宙樹』(慶應大学出版会;高校の国語教科書に収録)などがある。

本展アートディレクションは岡崎智弘、会場構成は大野友資(DOMINO ARCHITECTS)
ゴミとうんちがつながった瞬間、身体的な、自分ごとになった
――今回、お話を伺うにあたり、驚いたことがありました。プレスプレビューでの記者会見の音声をアプリで文字起こしをしたら、「うんち」が伏字(***)になっていたんです。
佐藤卓さん(以下、佐藤):へぇ! 知りませんでした。
竹村眞一さん(以下、竹村):AIは人間の思考や習慣の反映ですからね。それは、人間の問題ですね。
佐藤:人間がゴミやうんちを排除してきたから、言葉も排除されますね。それだけ、嫌なものとされているのでしょう。
――記者会見でも佐藤さんは「どうして、うんちは体から出た途端に排除されるのか」と話されました。「ゴミうんち展」を企画した、そもそものきっかけをお話ください。
佐藤:ゴミについては大量生産品のデザインに関わっていることもあり、大量に資源を使い、大量にゴミが生まれて、それらはその後どこに行くのだろう?と改めて着目しました。昆虫採集ならぬ、「デザイン採集」という個人的なプロジェクトも行なってきましたし、ゴミの来し方、行く末に対する思いを常に抱えながら、デザインの仕事を続けてきたんです。
竹村さんとは、21_21 DESIGN SIGHT(以下、21_21)で企画展「water」展(2007年)、「コメ展」(2014年)をご一緒しています。毎回、私たちを取り巻く環境で起きている面白い話題を教えて頂き、私の視野も広がりました。そして、ゴミをテーマに展示をしたいという長年の思いがあふれ、時が来た、と行動に移しました。今回も竹村さんと進めたかったので、関係者に話を振る前に相談に行きました。すると、最初の段階で「佐藤さん、ゴミ、うんち、CO₂はとっても大切なテーマですね」とおっしゃられたのです。すでに「ゴミうんち」という2つが繋がったワードになっていました。その音が衝撃的で、この段階で「(展覧会は)できる!」と思いました。ゴミにうんちが付くことで、途端に身体と直接的に関係あることば、自分ごとになったからです。

形づくった。各作家はその地形を手がかりに作品自体と展示の見せ方に工夫を凝らした
どういう展覧会にするかのビジョンは、はじめは全くありません。やれるかどうか考えようではなく、このテーマでやると決めてから何ができるかを探っていく。そういうアプローチがほとんどです。そこからディスカッションを重ね、コアとなる企画チームをつくりあげていきました。
――竹村さんはゴミについて問われた時、どんなふうに思われましたか?
竹村:私にとって、ゴミとうんちは、地球の物質循環においてはCO₂も含め一体のものです。私は人類学者として地球と人間の関係を考えるのが本職です。その視点からすれば、現代の人類社会のゴミやうんちの扱い方は人類史の中でも〈瞬間風速〉。多様にある選択肢の一つに過ぎません。実際、日本でも百数十年前の江戸では、うんちを見事に肥料として循環させていました。
「歴史を知るのは、未来をデザインするためである」とよく学生にも話をしますが、私たちが生きたわずか数十年の価値観や見方しか世の中にないとすれば、トランプならスペードだけでゲームをしているようなものです。ハートもダイヤもあるから複雑なゲームができる。現代の問題は情報過多のようでいて、実は情報過疎であること。歴史や他の文化を知ると、モノの見方や考え方、行動様式をリセットするための多くのオプションが手に入ります。すると、なんてもったいないことをしていたんだ、となる。

深めるためのヒントとなる資料がたっぷりと。探求の1歩がここからはじまる
私自身、日本を飛び出して世界を何十カ国も歩き、アマゾンの奥地へも行って異なる価値観や生き方の可能性を開いてきました。私たちはコロナウイルスの洗礼を受けましたが、人類が感染症などの病気に悩まされてきたのもほんの5000年前から。「ほんの」とあえて言いますが、猿と人類が分かれたのが500万年前。その最後の1000分の1の5000年前、都市文明の発達以降、人が集まって定住をはじめました。これは、人間と家畜のうんちの集中を意味します。
移動生活ではゴミ・うんちは人がその場所から離れれば、自然の循環に戻っていった。人が定住し、ゴミ・うんちを処理しきれないようになって問題が起こりはじめました。大きな時間のランドスケープのなかでさまざまな方法、可能性を知り、現状を相対化して見ることで、私はいつでも今の考え方を脱衣して、新しい考え方、社会のOSを着衣できると考えるモードで生きています。それまでのあり方に捉われる必要はないのです。
――展示室のひとつ《糞驚異の部屋》を観ると、圧倒的な選択肢があることを思い知らされます。
竹村:2つ目の前提として、ゴミうんち問題についてもさまざまなソリューションが生まれつつあること。私たちの世代は若い頃から環境問題に直面してきました。1960年代、70年代の公害問題から森林破壊、90年代になって地球温暖化が表面化し、潜在的に地球と人類の関係、環境問題を考えざるを得なかったのですが、それに対する解が何十年もありませんでした。2000年代を越えてエネルギーや廃棄物、水の問題で、世の中は技術的イノベーションによって社会OS、価値観の転換がはじまって、問題解決の形が空想ではなく、実現しつつあるものとして見えてきました。
しかし、解決の道があるのにアイデアは多くの人にシェアされておらず、もったいなかった。今ある「ゴミうんち」の見方が唯一ではないことを多くのアーティストの力を借り、展示は展示の方法で、本(コンセプトブック『ゴミうんち』)は本の方法で見せる。そうして具体的に社会を変えていく手本を見せることができるだろうと思ったのです。

――記者会見で話された「プラスチックの輪廻転生」という言葉にも衝撃を受けました。無機的なものと輪廻転生をくっつける発想に驚かされて。
竹村:私も「輪廻転生するプラスチック」というコピーを思いついた時にワクワクしました。木くずと天ぷら油の廃油、ともにゴミから作ったプラスチックの皿が非常に美しい、プラスチックとは思えない風合いになっています※。しかも軽くて割れないから介護施設などでも使っていただける。一食一食が大切な環境にありながら、体が不自由な方だからガラスや陶器のお皿は使えない、と安物のプラスチックを使っていたら残念ですよね。高齢者や障害を持った方への尊厳を守りながら、美しい食事を出せるのは素敵なことです。その皿が10年、20年後にベンチに生まれ変わり、文房具に生まれ変わったりする。これを実践するイノベーターがいるからワクワクします。さらに視野を引いてみると、皆さんがプラスチックに対立する自然物として連想する樹木ですが、これは3億年前にはいわゆる「プラごみ」だったんですよ。
※転生するプラスチックはコンセプトブック『ゴミうんち:循環する文明のための未来思考』(グラフィック社)に掲載
佐藤:この話が、すごく面白いんです。
竹村:いまでは木が森で倒れてもいろんなアクター、例えばシロアリ、ミミズ、キノコ、カビが寄ってたかって分解し土に返します。その土から養分を吸って木がまた育つサイクルです。でもそんな見事な循環システムが初めから整っていたわけではありません。海から生物が上陸したのが4億年前。陸上の森ができたころ、最初は重力に耐えられず、地衣類のようにペターッと地面に張り付くしかありませんでした。3億年前にセルロースとリグニンという、いわば自然界の「鉄筋コンクリートシステム」ともいうべき堅牢な構造をつくり上げました。木は垂直に立つようになり、太陽を求めて、ほかの木に覆い隠されないよう懸命に伸びて成長します。木が大きくなったはいいけれど、当時は倒れても分解するアクターがいなかったので、プラゴミと同様、分解されない地球のゴミとして溜まっていきました。

佐藤:その溜まった木が、長い年月を経て石炭になったんですって。こういう話をシャワーのように聞いたら、頭の中がぐるぐると覚醒するわけです。ああ、なんかできそうだ、となります。
竹村:その後、数千万年でカビやキノコが進化してさまざまなものを分解できるようになり、自然界ではゴミもうんちも存在しない、見事な循環を備えた地球になりました。私たちは自然界と人間界を対立構造で考えてしまうけれど、3億年前は人間と同じ問題に直面していたのです。そこにイノベーターが登場して問題が解決していきました。この繰り返しです。その次のページを僕らが書くだけだよ、というのが「ゴミうんち展」の主旨です。
こんな話はYouTubeやSNSを見ても出ていないでしょう。情報過多のわりに情報過疎というのはこういうことです。「ゴミうんち展」を見た子どもたちが大人になった頃には、私たちの提示したことが当たり前になって、いろんなモノの見方、オプションを手にしてもっとダイナミックな思考のゲームができるようになっていて欲しいのです。そうなれば、人類はもう少しマシな生き方をして地球すらもアップグレードできると思います。地球をさらに進化させる存在になり得るはずなのに、いま我々は何をやっているんだ、という意識もある。もったいなくて仕方ありません。だから「21_21 DESIGN SIGHT」の名前に込められたように、視力2.0を超えて、新しい物ごとの見方を提供していきたいと取り組んでいるのです。

佐藤:竹村さんの話を聞いていると、自分の頭がいつの間にか概念化して凝り固まってしまっていることに気づかされます。17年前の「water」展のときも水のことを知る方々にお会いし、学んで実験をしました。すでにその時から世の中はアップデートし、企業が研究開発を進めて新しい可能性がでてきているそうです。我々は普段の生活で触れてないので、鈍感になっています。だから驚くんです。下手をすると、小学校の時に学んだ平面の世界地図がいまだに頭に焼き付いている世代ですよ。あれ、ありえないんです。球体のものを平面にするなんて。それで竹村さんはデジタル地球儀「触れる地球/SPHERE」をつくりました。これは私から言わせればデザイナーの行為ですね。竹村さんは現代ではデザイナーと言われないかもしれない。けれども10年20年後にはデザイナーだ、という時代になっている気がするんです。
――佐藤さんは以前から、グラフィックデザイナーとしてモノだけではなく、仕組みをデザインするとおっしゃられています。
佐藤:仕組みも含めて、ですね。デザインは「間(あいだ)」を繋ぐものです。間は常に変化しますし、いろいろな間があります。だから、デザインはこの間しかやりませんという、デザイナーの概念すらも疑いたい。今まで誰も繋いでないところはどこか、ここを繋いだらどうなるんだろうか、と竹村さんと一緒に探っています。本当にね、面白いんですよ。ワクワクしてキリがありませんが、展覧会には締め切りがあり、オープンまでに見える形にしないとなりません。それでも、竹村さんと一緒に進めていると、そこで止まるわけではなく、準備しながらやらなきゃいけないことが次々に見つかるわけです。会期中にもいろいろ動かしたい部分が出てくるでしょう。私は展覧会という概念すらも変えたいと思っています。

会期中に成長する庭。造園ユニットveig(片野晃輔、西尾耀輔)による《漏庭》
――2回目に訪れたら、なんか前回と違うゾ、みたいな。
佐藤:展覧会の開催で何かがはじまって終わるのではなく、ある意味、気づきが生まれます。世の中に広がっていく、続いていくイメージですね。だから初日の日付は設定してもいいんだけど、あとは「~」でいいんじゃないですか(笑)?
――会場では最終日までやるけれども、世の中にずっと続いていくってことですね?
佐藤:「water」展もそうです。このときに、私の頭の中に水を見る視点が生まれたわけで、世の中を〈水〉という視点で見るモードが自分の中にあります。それは大変に豊かなことだと思っています。
――そして、「ゴミうんち」の視点もできてしまった。
佐藤:ゴミ・うんち、いろいろですね。ゴミうんちから広がって、微生物だったり、発酵食品だったり、一気にいろいろと繋がっていきます。世の中って、なんでこんなに面白いんだろうって思うくらい尽きることはありません。
竹村:3年後か、5年後ぐらいに「ゴミうんち展2」っていうのをやらせてもらいたいですね。
佐藤:「water」展2もやろうって話があるけれど、それも開催できていませんが(笑)。
竹村: 5年後に開いたら、とんでもなく面白いことができるというのも既にしっかりありますよ。
佐藤:タイトルは変わるかもしれません。映画でもシリーズ2、3となってくると、だんだんマンネリ化しますから、ね(笑)。
自然界も人間界も、世界は面白いことに満ちている。「ゴミうんち展」展覧会ディレクター佐藤 卓氏、竹村眞一氏インタビュー Vol.2(後編) に続きます。