FEATURE

世紀の大発見!
伊藤若冲・円山応挙の合作がお披露目

2025年に大阪中之島美術館で開幕の「日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ !」で公開予定

内覧会・記者発表会レポート

(左)伊藤若冲「竹鶏図屏風」寛政2(1790)年以前 二曲一隻 紙本金地墨画
(右)円山応挙「梅鯉図屏風」天明7(1787)年 二曲一隻 紙本金地墨画
(左)伊藤若冲「竹鶏図屏風」寛政2(1790)年以前 二曲一隻 紙本金地墨画
(右)円山応挙「梅鯉図屏風」天明7(1787)年 二曲一隻 紙本金地墨画

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2024年10月2日、都内会場で世紀の新発見となる作品が初公開された。江戸時代中期の京都画壇を代表する円山応挙と伊藤若冲、2人の合作だ。2025年6月に大阪中之島美術館で開催される「日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ !」での展示を前に、報道陣の前にお披露目された。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!」
開催美術館:大阪中之島美術館
開催期間:2025年6月21日(土)〜8月31日(日)

研究者たちが夢見た若冲と応挙の接点を示す作品

今回新たに発見された作品は、伊藤若冲(1716-1800)の「竹鶏図屏風」と円山応挙(1733-1795)の「梅鯉図屏風」。どちらも金地水墨の二曲一隻の屏風だ。

伊藤若冲の「竹鶏図屏風」と円山応挙の「梅鯉図屏風」の二曲一隻の屏風の前で
解説を行う本展覧会の監修者・山下裕二氏
伊藤若冲の「竹鶏図屏風」と円山応挙の「梅鯉図屏風」の二曲一隻の屏風の前で
解説を行う本展覧会の監修者・山下裕二氏

展覧会の監修者で、本作の調査を行った明治学院大学教授・山下裕二氏は、「同時に同じ場所から発見されたこと、屏風の神の継ぎ目の位置などが全く同じであること、制作年(落款に基づく)が近く、左右の絵が対になることを想定した構図であること」などから、発注者が金屏風を用意し、両者に依頼したのだろうと推測する。

モチーフは、若冲が鶏、応挙が鯉、とそれぞれが得意とした代名詞的画題だ。応挙の鯉は、写生で極めた立体感ある表現で表されている。淡く丁寧なタッチで表された清らかな水中世界と、画面右から縦横に伸びる梅の枝ぶりの闊達さの対比が心地よく、それによって空間の立体感、奥行きを感じさせる。『平安人物志』(近世における京都在住の文化人・知識人の人名録)で、当時の画壇の筆頭として名を残す応挙の確かな腕が冴えわたる。

一方で若冲の鶏は、尾羽を振り上げて見返る勇壮な雄鶏をはじめ、「これぞ若冲」と言うに相応しい、生命力に満ち溢れたエネルギーが画面いっぱいにみなぎっている。左上部に描かれた竹に注目すると、若冲のトレードマークとも言える斑点や穴の開いた病葉が描かれており、隅々まで「若冲らしさ」が見て取れる。

本作の実見のため会場を訪れた美術史家・辻惟雄氏(右)。
著書『奇想の系譜』で若冲を再発見した辻氏も、本作の発見に驚きと喜びを隠せない様子。
本作の実見のため会場を訪れた美術史家・辻惟雄氏(右)。
著書『奇想の系譜』で若冲を再発見した辻氏も、本作の発見に驚きと喜びを隠せない様子。

同じ時代に、共に京都で活躍した若冲と応挙だが、不思議なほどに両者の接点を示す作品や文献資料はなかった。唯一の資料として、天明8年に、儒者の皆川淇園(みながわきえん)が応挙と呉春(円山応挙の弟子で四条派の祖)と共に京都・石峰寺に若冲を訪ねたという記録が残るが、その時に若冲と応挙が対面したかは改めて検証する必要があるとのこと。本作は、応挙の方が先に描かれていることから、山下氏は「応挙が『自分はこういう絵を描きますよ』ということを若冲に報告しに行ったのでは」と想像を巡らせる。研究者たちが夢見た、若冲と応挙の邂逅。その接点をうかがわせる大発見に胸が躍る。

最新技術で若冲の幻の「枡目描き」屏風が蘇る

また今回はもう1点、若冲に関する注目作品が公開された。若冲が「枡目描き」と呼ばれる手法で描いた大作「釈迦十六羅漢図屏風」のデジタル推定復元だ。

伊藤若冲「釈迦十六羅漢図屏風」デジタル推定復元 2024年 八曲一隻 TOPPAN株式会社制作
伊藤若冲「釈迦十六羅漢図屏風」デジタル推定復元 2024年 八曲一隻 TOPPAN株式会社制作

「釈迦十六羅漢図屏風」は、昭和8年刊行の図録に白黒の図版画像として掲載されて以降、行方不明(焼失の可能性が高い)となった幻の作品だ。それを山下氏監修のもと、入念な調査に基づいてTOPPAN株式会社がデジタル技術を駆使して復元した。

「釈迦十六羅漢図屏風」デジタル推定復元を披露した会場の様子
屏風が開かれた瞬間に報道陣のボルテージも上がる。
「釈迦十六羅漢図屏風」デジタル推定復元を披露した会場の様子
屏風が開かれた瞬間に報道陣のボルテージも上がる。

小さな正方形の升目を用いて描く、ピクセルアート(ドット画)のような手法の「枡目描き」は、若冲の中でも特異な技法だ。「枡目描き」の屏風作品は、「鳥獣花木図屏風」(旧プライスコレクション、出光美術館蔵)や「樹花鳥獣図屏風」(静岡県立美術館蔵)が現存するが、本作は中でも「樹花鳥獣図屏風」と類似するとのこと。白黒図版しか残っていないため、彩色は推定によるものだが、唯一残る白黒図版や、他の若冲作品を参考にして色を割り出している。驚くのは、絵の具の盛り上がりまでも再現している点だ。デジタル復元でありながら、肉筆画さながらの迫力がある。

伊藤若冲「釈迦十六羅漢図屏風」復元 TOPPAN株式会社制作(部分)
伊藤若冲「釈迦十六羅漢図屏風」復元 TOPPAN株式会社制作(部分)

若冲・応挙に続く名作を―日本美術の新たな鉱脈を探す展覧会

伝岩佐又兵衛「妖怪退治図屏風」江戸時代(17世紀) 八曲一隻 紙本着色
伝岩佐又兵衛「妖怪退治図屏風」江戸時代(17世紀) 八曲一隻 紙本着色

この若冲の2つの注目作品が、大阪中之島美術館で2025年6月から開催される「日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ !」で公開される。今でこそ、若冲は日本美術のスター絵師として人気が高いが、そのきっかけは2000年の「没後200年 特別展 若冲」(京都国立博物館)で、それ以前は知る人ぞ知る存在であった。日本美術には、まだこうした「知る人ぞ知る」魅力を秘めた作品、作家が多い。「日本美術の鉱脈展」は次の若冲になる、新たな“鉱脈”を見つけ出す展覧会だ。

大阪中之島美術館は、開館以来、実にバリエーション豊かな展覧会を開催してきた。西洋の近代絵画から現代アート、日本美術でも近現代だけでなく「開創1150年 醍醐寺 国宝展」(2024年)のような仏教美術とその守備範囲は幅広い。そこには「従来の評価に風穴を開け、新たな見方・在り方を示す」という美術館のスタンスがある。

原田直次郎「素戔嗚尊八岐大蛇退治画稿」明治28(1895)年頃 油彩、カンヴァス 岡山県立美術館
須佐之男命(スサノオノミコト)の八岐大蛇退治の神話を題材に描いた作品だが、なぜか裏からカンヴァスを突き破って犬が顔を出している。一種の「だまし絵」的な作品に、山下氏も思わず「何ともキテレツ!全く意味不明」。
原田直次郎「素戔嗚尊八岐大蛇退治画稿」明治28(1895)年頃 油彩、カンヴァス 岡山県立美術館
須佐之男命(スサノオノミコト)の八岐大蛇退治の神話を題材に描いた作品だが、なぜか裏からカンヴァスを突き破って犬が顔を出している。一種の「だまし絵」的な作品に、山下氏も思わず「何ともキテレツ!全く意味不明」。

本展は、その美術館の方針を表明するように、これまで語られてきた日本美術のメインストリームから外れた作品・作家を多く取り上げる。個性的な作品を残すも、その伝記が伝わらっていない式部輝忠(しきべてるただ)や霊彩(れいさい)といった室町時代の水墨画。技量としては下手と言わざるを得ないが、イノセントな味わいに溢れた「素朴絵」。西洋の技法を取り入れた「近代絵画」や、“超絶技巧”として近年再評価が高まる「明治工芸」。そして大正・昭和期の個性的な画家から現代アーティストの最新作まで、幅広いジャンルを網羅する。この機会に知られざる日本美術の多様さに触れ、魅惑の1点を見つけてほしい。

本展を担当する大阪中之島美術館の主任学芸員・林野雅人氏は「開幕期間は、ちょうど大阪万博の期間。この機会に日本美術の魅力を国内の方はもちろん世界中の方に知ってもらいたい」と語った。

展覧会の監修を務めた山下裕二氏(左)と、企画を担当した大阪中之島美術館主任学芸員・林野雅人氏(右)
展覧会の監修を務めた山下裕二氏(左)と、企画を担当した大阪中之島美術館主任学芸員・林野雅人氏(右)

今回、若冲・応挙の合作という夢のような作品が発見されたように、日本美術の魅力はまだまだ尽きることはない。本展は、日本美術ファンにとっても、「日本美術って難しい」と思っている人にとっても、誰もが新しい発見をすることができる機会になりそうだ。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
大阪中之島美術館|NAKANOSHIMA MUSEUM OF ART, OSAKA
530-0005 大阪府大阪市北区中之島4-3-1
開場時間:10:00〜17:00(最終入場時間 16:30)
休館日:月曜日 ※祝日の場合は翌平日

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