FEATURE

動物と鳥の楽園を“枡目描き”で描いた、
伊藤若冲の《樹花鳥獣図屏風》

この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩 Vol.06
静岡県立美術館 / 伊藤若冲《樹花鳥獣図屏風》

名画・名品

伊藤若冲 《樹花鳥獣図屏風》 18世紀後半(江戸後期)
紙本着色、六曲一双屏風 (画像上)右隻 137.5×355.6cm (画像下)左隻 137.5×366.2cm
伊藤若冲 《樹花鳥獣図屏風》 18世紀後半(江戸後期)
紙本着色、六曲一双屏風 (画像上)右隻 137.5×355.6cm (画像下)左隻 137.5×366.2cm

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この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩

私たちが普段、美術館や博物館に足を運ぶときは、あるテーマの企画展や特別展などを鑑賞しに出かけることが多いのではないだろうか。多くの美術館や博物館では、各館のコンセプトに沿って、絵画や彫刻、版画、工芸など様々な作品を収蔵している。それらの作品の購入や寄贈により、形成されていくコレクションがどのようなものか、あるいはそれらの所蔵作品がどのような変遷を経ているかなども、各美術館や博物館の個性や特徴を知って、より深く鑑賞を楽しむ手掛かりとなるのではないだろうか。
「この名画・名品を観に行きたい!美術館散歩」では、そんな美術館・博物館の収蔵作品から注目すべき作品を1点ずつご紹介していく。

伊藤若冲といえば、美術史家の辻惟雄氏による著書「奇想の系譜」(初版1970年)で取り上げられたことを機に注目されるようになりました。2000年に京都国立博物館で開催された特別展「没後200年 若冲」によって人気に火がつき、もはや、アート好きな人であれば、その名を知らない人はいないでしょう。2006年には、東京国立博物館でプライスコレクション「若冲と江戸絵画」展が、2016年には東京都美術館で「生誕300年記念 若冲展」が開催されるなど、“若冲ブーム”が巻き起こりました。その人気は衰えることはなく、その後も様々な研究によって、知られざる若冲の魅力が少しずつ明らかになるなど、今後も目を離すことのできない存在です。

京都の青物問屋の長男として生まれ、若くして家業を継いだ若冲、本格的に画業に専念するようになったのは40歳を過ぎてからでした。相国寺に寄進した《動植綵絵》30幅(1758~1766年頃作)などの代表作や、大根を入滅する釈迦に見立てて野菜や果物で涅槃図を描いた《果蔬涅槃図》など、高い技術力や独自の個性が発揮された作品などが見られる中で、晩年に描いたと考えられている作品のひとつに、驚異的な描法による屏風絵の作品があります。それは“枡目描き”と呼ばれる技法で約1cm角の枡目によって動物と鳥の楽園を描き上げた作品《樹花鳥獣図屏風》で、一双で11万6,000個を越える細かな方眼が確認されたそうです。

果たしてそれは、一体どんな作品なのでしょうか?《樹花鳥獣図屏風》を所蔵する静岡県立美術館の学芸課長 石上充代さんにお話しをお伺いしました。



はじめは、一隻屏風のみだった。
10年以上を経て、対になる屏風として改めて収蔵品となった《樹花鳥獣図屏風》

現在は一双屏風として知られる《樹花鳥獣図屏風》ですが、初めは〈動物図〉(右隻)の存在しか知られていませんでした。1982年、一隻屏風として当館がこれを購入しましたが、伊藤若冲という絵師を知る人もまだまだ少ない頃で、子供たちも楽しめる作品であり、日本美術に親しむきっかけにしてもらいたい、ということが収蔵の大きな理由だったそうです。

10年以上を経て〈鳥図〉が発見され、調査の結果〈動物図〉と対になる屏風であると判断されたために当館で購入、その後、六曲一双《樹花鳥獣図屏風》として改めてコレクションに登録されることとなりました。

特異な描法「枡目描き」による作品の魅力
伊藤若冲 《樹花鳥獣図屏風》 右隻(部分)
伊藤若冲 《樹花鳥獣図屏風》 右隻(部分)
身近なものから空想上のものまで、多種多様な鳥獣が花樹で彩られた平和な空間に群れ集う情景は、それだけで見る人を楽しませてくれますが、さらにその世界を特別なものにしているのが、枡目描きと呼ばれる特異な描法です。枡目描きによって画面の隅々まであまねく鮮やかな色彩が行き渡ることで、描かれた世界は現実から軽やかに解き放たれ、その前に立つ私たちの心をも浮き立たせてくれます。

初めは“筆者不詳”であった。若冲と作品の関係は!?
以前から、展示の際にはお客様の注目を集める屏風でしたが、若冲ブームの現在、作品の認知度は格段に上がり、当館コレクションの中でも1、2を争う人気作品となりました。しかし、伊藤若冲がこの屏風の制作にどの程度関与したかということについて、実は確かなところは分かりません。若冲その人が筆を執って描いたにしてはやや鈍いところがあるため、当館コレクションとなってからも、作者名の表記は、初め“筆者不詳”、次いで“伊藤若冲派”として、伊藤若冲とするのは避けていました。ただ、曖昧な表記が誤解を招くことも多くなったため、現在は“伊藤若冲”で統一しています。制作総括者としての伊藤若冲、というような意味ですが、若冲とその作品についての研究が今後さらに進展していく中で、この屏風の位置付けについてもまた明らかにされていくものと思います。

(静岡県立美術館 学芸課長 石上充代)



今回ご紹介の名画、伊藤若冲の《樹花鳥獣図屏風》は、現在開催中の企画展「ストーリーズ 作品について学芸員が知っていること」
(2021年5月16日まで開催)で観ることができます。ぜひこの機会に足を運んでみてはいかがでしょうか?

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
STORIES ストーリーズ 作品について学芸員(わたしたち)が知っていること
開催美術館:静岡県立美術館
開催期間:2021年4月6日(火)〜2021年5月16日(日)
静岡県立美術館
静岡県立美術館
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
静岡県立美術館| Shizuoka Prefectural Museum of Art
422-8002 静岡県静岡市駿河区谷田53-2
会館時間:10:00〜17:30(最終入館時間 17:00)
定休日:月曜日 ※ただし月曜日が祝日・振替休日の場合は開館し、翌日休館。年末年始、その他展示替期間等

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