私たちはいつもどこかでつながっている
出身地・大阪で16年ぶりとなる大規模個展
「塩田千春 つながる私(アイ)」が、大阪中之島美術館にて2024年12月1日(日)まで開催中
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文・赤坂志乃
ベルリンを拠点に国際的に活躍する現代美術家、塩田千春(1972年生まれ)。「生と死」という根源的な問いと向き合い、ものや場所に宿る記憶といった「不在の中の存在感」を糸で紡ぐインスタレーションで知られる。大阪中之島美術館で開催中の」「塩田千春 つながる私(アイ)」は、コロナ禍を経て気づいた多様な「つながり」をテーマに、インスタレーション6点を中心に、絵画やドローイング、立体作品、映像などが並ぶ。塩田の出身地・大阪で16年ぶりとなる大規模個展である。
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- 「塩田千春 つながる私(アイ)」
開催美術館:大阪中之島美術館
開催期間:2024年9月14日(土)〜12月1日(日)
「パンデミックを経て、多くの人とのつながりに気づくことができた。私たちはいつもどこかでつながっている。そんなことを再確認できる展覧会にしたい」という塩田千春。タイトルの「つながる私(アイ)」には、「私 / I」、「目 / EYE」、「愛 / ai」の3つの意味が込められている。約1700㎡、天井高6mの空間を生かした圧巻のインスタレーションは、本展の大きな見どころだ。
大阪中之島美術館の5階に上がると、目に飛び込んでくるのが、降り注ぐような赤い糸で結ばれた赤いドレスのインスタレーション《インターナルライン》(2022/2024)」。第二次世界大戦時、オーストリアの収容所にとらえられた囚人男性が、女性職員からパンをもらったことをきっかけに、戦後の混乱の中、女性を探しあてて結婚したという逸話がモチーフになっている。
「運命の赤い糸」を想起させる最初の作品をくぐり抜けて、展示室に入ると一転、水盤のある空間に白い糸を張り巡らせたインスタレーション《巡る記憶》(2022/2024)が広がる。ポトンポトンと糸の中から滴り落ちる水滴が、水面に波紋を描いて溶け込み、再び静謐な空間に吸い上げられて循環していく。
赤い家のインスタレーション《家から家》(2022/2024)は、塩田のホームタウン、大阪での展覧会に合わせて出品された。帰る場所としての〝Home〟を表した家型の作品。「この作品の赤は、血液の赤。血液の中には家族や国籍、宗教などいろんなものが含まれている。それらは居心地の良いものである一方、越えられない壁のようにも感じる」と、塩田はいう。
続いて、天井から吊られた白いドレスと赤いオブジェがくるくると回る、インスタレーション「多様な現実」(2022/2024)。塩田にとって、ドレスは第2の皮膚であり、人間の身体を表す。「私の中の宇宙と外の宇宙がつながって、多様な現実を表現している作品です」(塩田)。
壮大なスケールの「つながる輪」(2024)は、今展を象徴するもの。「つながり」をテーマに広く一般から募集したテキストメッセージ1500枚以上が赤い糸で編み込まれている。「いろんな人の人生が書かれていて、メッセージ一つひとつを大切に結んでいきたいと思った」。そう塩田が語るように、赤い糸によって目に見えないつながりが可視化されて宙に浮かび、軽やかに舞い上がっているように見える。
最も奥にある6つ目のインスタレーション《他者の自分》(2024)は、人体模型が糸で紡がれ、ドキリとする。本作は、「あいち2022」において元看護専門学校の解剖学標本室で発表した作品から新たに着想を得て会場で制作された。
「臓器移植をした友人がすごく魚が好きになり、その臓器の持ち主は魚が好きだったに違いないと話していた。臓器を移植するとどれだけその持ち主が自分の中に入ってくるのか」と、塩田。「自分ががんになって抗がん剤治療をしている時、自分の足は地に着いているけれど、身体はどこか違うところ、例えば宇宙につながっているような気がした。そんな気持ちも作品に込めている」
糸を使った大規模インスタレーションで世界を駆け回る塩田だが、これまでの歩みは平坦ではなかった。クロノロジーのコーナーには、自らの表現に悩んでいた20歳の頃に描いた2点の油彩画が展示されている。「あの時、絵に行き詰り、絵を描くことをやめて、糸で空間を編む表現に変えたから、これが塩田千春だといえる作品をつくれるようになった。当時の絵をあえて展示することで、自分のターニング・ポイントをあらためて確認できた」と、振り返る。
《地と血》(2013)は、自身の流産と父の死が重なり、外に出られないほど落ち込んでいた時期に制作された6チャンネルのビデオ作品。ちょうどその頃、塩田は2015年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表に選出された。当時の辛さや苦しみの中から、人が大切に握りしめられるものの象徴として無数の鍵を糸でつないだインスタレーション《掌の鍵》をヴェネチアで発表。世界中からオファーが来る転機となった。
現在、手がけている作品として、ベルリン在住の小説家・多和田葉子による小説『研修生(プラクティカンティン)』(読売新聞朝刊に掲載)に寄せた挿絵の原画も紹介されている。2023年11月25日の第1回から12月1日まで随時公開。最終的に361枚の原画が展示される予定だ。
学生時代から現在まで、30年以上にわたる多様な作品に触れることができる今展。塩田の代名詞ともいえるインスタレーションに使用した糸は、約3000玉(約230km)に上る。「生きるとは何か」「存在の不在とは何か」を問い続ける塩田千春の展示は、「つながる私」の心を揺さぶられる体験となるだろう。
グッズ売り場でぜひチェックしてほしいのが、かわいいイチゴ型のアクリルたわし「塩田千春の母&フレンズ特製!つながるたわし」(税込500円)。塩田千春の母とその友人がひとつひとつ手作りで編み上げたもので、塩田のインスタレーション作品に実際に使われた毛糸が再利用されている。その名も「つながる私」ならぬ「つながるたわし」。大きさが少しずつ違うのも手作りならではの魅力だ。
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- 大阪中之島美術館|NAKANOSHIMA MUSEUM OF ART, OSAKA
530-0005 大阪府大阪市北区中之島4-3-1
開館時間:10:00〜17:00(最終入館時間 16:30)
休館日:月曜日、10月15日(火)、11月5日(火)
※ただし、10月14日(月・祝)、11月4日(月・休)は開館