“アート”なホテルが京都に誕生。
日比野克彦、内田デザイン研究所、アトリエ・オイ、寺田尚樹、
安藤雅信ら、アートに囲まれて暮らすように過ごす、至福の時間と空間。
アートコラム
自宅に飾るにはなかなか手の届かない、芸術家やアーティストたちの作品が、生活空間にさりげなくあったら、それは心を満たしてくれる、贅沢で豊かな、とっておきの時間をもたらしてくれることでしょう。
京都市内にそんなアート好きな人の夢を実現してくれる、新しいコンセプトのホテルが昨秋に誕生した。京都の中心市街地、四条通と五条通には挟まれた通りに点在する5棟を一つのホテルとした、ENSO ANGO(エンソウアンゴ)※である。
※2020年3月1日(日)より、「ENSO ANGO」は「THE GENERAL KYOTO ザ ジェネラル京都」に名称が変更になりました。
「ENSO ANGO」に、「FUYA I〈麩屋町通I〉」、「FUYA II〈麩屋町通II〉」、「TOMI I〈富小路通I〉」、「TOMI II〈富小路通II〉」、「YAMATO I〈大和大路通I〉」と通りの名を続けた名称の各棟それぞれを、滞在者は自由に回遊することができ、ヨガ、ランニング、坐禅、職人によるトーク会、おばんざい教室など、棟によって異なる様々なアクティビティに参加することができる。
これらホテルの各棟には、まるでギャラリーのように、アート作品が通路やロビー、レストランやバー、そしてすべての室内にも飾られている。
現代美術家である日比野克彦をはじめ、陶作家の安藤雅信、インテリアデザイナー 内田繁の創設した内田デザイン研究所、建築からプロダクトまで手掛けるスイスのデザインスタジオ アトリエ・オイ、建築家・デザイナーの寺田尚樹といった国内外で活躍するアーティストらによって、各棟のコンセプトから、内装、アート作品に至るまで、ENSO ANGOというホテル全体のコンセプトのもとに、それぞれのアーティストの世界観が表現されている。
現代美術家 日比野克彦の代名詞的な作品である“段ボールアート”が「食」をテーマに、エントランスやラウンジ、全客室で迎えてくれる「TOMI I〈富小路通I〉」
現代美術家の日比野克彦が手掛けたのは、「TOMI I〈富小路通(とみのこうじどおり)Ⅰ〉」である。京野菜などの “段ボールアート”による日比野ワールドが展開されている。
1958年岐阜県生まれの日比野克彦は、東京藝術大学に在学中に、“段ボールアート”で注目を浴び、国内外で個展・グループ展を多数開催する他、舞台美術、パブリックアートなど多岐にわたる分野で幅広く活動中である。また、現在では、東京芸術大学美術学部教授や岐阜県美術館の館長も務めている。
「食」をテーマにしたキッチンなどがある「TOMI I〈富小路通Ⅰ〉」では、日比野は京都の食材の残像である、京野菜などの段ボールを使用して、「京都」と「食」の関係を再編成し、壁面に構成した。
エントランスやラウンジ、全客室にまで、洗練された空間に、ポップな印象の日比野克彦の“段ボールアート“による壁画が小気味よくマッチしている。
全客室29室、ベッドサイドには、獅子唐や茄子、トマトや長ネギといった京野菜などの段ボールを使って作られた、日比野克彦の段ボールアートが展示されており、美味しく楽しい夢を見そうである。
日比野克彦(アーティスト・東京藝術大学教授・岐阜県美術館館長)
東京藝術大学大学院修了。在学中に「段ボール」を用いた作品で注目を浴び、国内外で個展・グループ展を多数開催する他、舞台美術、パブリックアートなど多岐にわたる分野で活動中。近年は、「明後日朝顔プロジェクト」など、各地で一般参加者とその地域の特性を生かしたワークショップを多く行っている。現在、わが国で最も人気の高い現代アートの顔とも言える存在。1982年第3回日本グラフィック展大賞、1983年第30回ADC賞最高賞、第1回JACA展グランプリを受賞。1986年シドニー・ビエンナーレ、1995年ヴェネチア・ビエンナーレに出品、1999年度毎日デザイン賞グランプリを受賞。2016年に平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞(芸術振興部門)受賞。
日本の伝統の技を独自のアイデアで必然のアート作品に昇華させた、秀逸な才能を魅せるスイスのデザインスタジオ、アトリエ・オイによる「TOMI II〈富小路通II〉」
「TOMI I〈富小路通I〉」と同じ通り沿いにある、「TOMI II〈富小路通(とみのこうじどおり)II〉」は、スイス出身のオーレル・エビ、パトリック・レイモン、アルマン・ルイの3人による、建築デザイン事務所「アトリエ・オイ」が手掛けている。
空間テーマを「陰影」に絞り、京都の技と彼らが日本でデザインした家具や照明や装飾品などによって、彼らなりの多彩な日本を表現している。
1階バーカウンターには、京都・清水焼の窯元で創作された光に透ける陶板をバックカウンターの照明として、再構成した作品が設置されている。
陶板を用いるアイデアと、プロペラのように2色の陶板を交互に配したグラフィカルな模様は、一見壁紙のように感じさせる平面性と、陰影によって浮かび上がる立体感とが同居した、繊細な陶板の表情が美しい、オリジナリティー溢れる照明作品となっている。
レストランには、京都の老舗和傘屋・日吉屋の和傘の技を応用して開発された、斬新なアイデアによるデザインの、オリジナルの照明器具が設置されている。
また、飛騨の伝統ある木工技術をつかってデザインした椅子とテーブルが、レストラン用とラウンジ用に使用されている。岐阜の温泉などの岩石にインスピレーションを得て、自然に磨かれたような滑らかな感触が表現されている。
ラウンジの天井から吊るされている白い折り紙のような作品は、世界遺産でもある本美濃紙を使ったモビールオブジェである。和紙のもつ柔らかさや儚さとモビールらしい自然な揺らぎが心地よい雰囲気を作り出している。
壁面には、香を放つパフューム扇子「EOLES(エオール)」をもとに、このラウンジのためにあらたにデザイン開発されたオリジナル壁面照明オブジェが飾られている。
アトリエ・オイは、以前より岐阜のものづくり産業との関わりが深く、「TOMI II〈富小路通II〉」では、アトリエ・オイによる、日本や岐阜における作品の集大成的構成が見られる。
日本の職人技を、 モダンで幻想的に、“陰影礼賛”の伝統美と用の美を兼ね備えながら、アート作品に見事に昇華させた、アトリエ・オイによる魅力的な空間が広がる。
アトリエ・オイ/atelier oï (デザイナー)
1991年、オーレル・エビ氏(Aurel Aebi)、アルマン・ルイ氏(Armand Louis)、パトリック・レイモン氏(Patrick Reymond)によりスイスのラ・ヌーヴヴィルで設立。「Oï」はロシア語のトロイカ(3頭立ての馬車)からとったもの。ジャンルの垣根を越えた多面的な経験から生まれるクリエイティビティには定評があり、様々な素材から、直感的でエモーショナルな親近感を生み出すデザインは彼らの大きな特徴となっている。Louis Vuitton、Bulgari、OMEGA、Rimowaなど、インターナショナルブランドとのプロジェクトを数多く手がける。ミラノ・サローネにて岐阜県との協働プロジェクトを発表し話題となる。スタッフはインターンを含め30数名。オイでのインターンシップはデザイン、建築を目指す若手の登竜門と言われている。iF Design Award、Red Dot Award - Product Design、Design Preis Schweiz など、受賞歴多数。
現代と日本文化を静謐な美しさで融和させた空間。茶室や立礼など、 “和”の文化を基調とした、内田デザイン研究所による「FUYA II〈麩屋町通II〉」
茶室や立礼、畳の空間がある“和”の文化を基調とした「FUYA II〈麩屋町通(ふやちょうどおり)II〉」は、インテリアデザイナー内田繁の理念を継承する、内田デザイン研究所によって手掛けられている。
中庭を臨むロビーには、世界の美術館にもコレクションされている、内田繁のオリジナルデザインによる立礼と茶室が配置されている。
立礼の「地蔵院卓」(写真右)は、2007年に内田繁がデザインしたリメイクの作品である。無垢の自然木を使用し、天然の曲線を活かしたデザインで、2008年の洞爺湖サミットでは、茶室とともに展示され、話題を呼んだ。
“Tatami Salon“と呼ばれる畳の部屋では、禅やマインドフルネスなどの講座や京都の文化などに親しめる企画などが行われている。
客室には、内田デザイン研究所の稲垣留美による2種類の壁掛けアート作品が飾られている。各階ごとに、青・赤・黄・茶・緑と配色の異なる壁掛けアート作品「EAリブアート」(右壁面)と、全室同色(黒)で2段の格子棚のような印象の個性的な壁掛オブジェ「EA格子アート」(左壁面・ベッドサイド)である。
エレベーターホールにも、黒・赤・黄・茶・緑それぞれの格子状のアートが飾られており、客室の作品と呼応させている。
内田デザイン研究所 (建築・インテリア・家具デザイン)
インテリアデザイナー内田繁氏の創設したデザイン事務所。内田氏のデザイン理念を継承し、内外で幅広い活動を展開するほか、アートとデザインの境界を越える提案、新しい茶室のかたちなど、現代と日本文化を融和させたデザインの方法論が高く評価されている。近年では、ホテルのデザインから地域・社会・観光を再考するなど、歴史・社会・文化を統合するデザインを実践している。現在、長谷部匡氏が代表を務め、9名からなるディレクターとデザイナーの有機的統合から新たな活動を展開しつつある。
“京都が持つ古都と革新の両面を表現した“という、サビの中に華やぎを持つ、安藤雅信による陶立体のシリーズ作品が出迎える「FUYA I〈麩屋町通I〉」
「FUYA II〈麩屋町通Ⅱ〉」の通りを北にあがったところにある、「FUYA I〈麩屋町通I〉」のエントランスを進むと、安藤雅信による、陶立体の作品が出迎えてくれる。
まるでギャラリーに足を踏み入れたかのように、1階廊下の展示台に配置されている陶立体は、安藤雅信の「空気の形」シリーズの作品である。厳かさと温かみが混在した、安藤の作品の醸し出す世界観に魅了されつつ、期待に胸躍らせながら、内部へと進む。
ラウンジ内の展示スペースにある3つの陶立体(「空気の形」シリーズから)は、安藤雅信自身によって、壁面や置き位置の配置が構成されている。
そして、全16室の客室には、それぞれ異なる陶立体の作品が飾られている。
「FUYA I〈麩屋町通I〉」は、安藤雅信の作品世界をゆっくりと味わえる、まさにギャラリーのような空間となっている。そして、ENSO ANGOというホテルのコンセプトの中における陶立体の作品として、単体の作品を味わうのとは異なる、新たな空間が創出されている。
安藤雅信(陶作家・ギャルリ百草主宰)
武蔵野美術大学彫刻学科卒。現代美術作家から始まり、焼き物に軸足を移す。和洋問わず使用できる千種類以上の日常食器と茶道具、また「結界シリーズ」など彫刻的作品も制作。海外に発表の場が拡がっている。茶事教室「胡乱座」を通して新しい茶の湯と中国茶を提案。1998年古民家を移築し、生活に根付いた美術を模索するためにギャルリ百草開廊。2000年若手作家支援のためstudio MAVO開設。2010年「ギャルリ百草 美と暮らし」ラトルズ刊。
京都南座のすぐ裏手には、寺田尚樹によるユーモアあふれるアートが散りばめられた、モダンなミニマルコンセプトの棟、「YAMATO I〈大和大路通I〉」
祇園の近く、京都四條南座のすぐ裏手にあるのは、寺田尚樹によるアートが散りばめられた、バンクベッド形式の棟「YAMATO I〈大和大路通(やまとおおじどおり)I〉」である。
テラダモケイが製作した、ENSO ANGOオリジナルのジオラマ版添景が、各ベッドサイドのコントロールパネル脇に設置され、ジオラマの景色を見ながら休むことができる。いずれかの添景模型が各ベッドには、京都の四季を表した、春・夏・秋・冬の1種類ずつ設置されている。
フロントには、ENSO ANGO 1/100添景シリーズ・京都編「春夏秋冬」の4種類のそれぞれを縦に構成し、その添景の中のさまざまな人物が動きだし、徐々に変化していく様子をコマドリのように表現している寺田ならではのユニークなアートが展示されている。
1階には、滞在者でなくても利用できる隠れ家のようなバーもある。繁華街に添った立地で、遊び心にあふれた空間での滞在を楽しむことができる。
寺田尚樹(建築家・デザイナー)
明治大学工学部建築学科卒業後、英国建築家協会建築学校 (AAスクール)ディプロマコース修了。建築、インテリア、家具、プロダクト、サインなど、空間に関わる設計、デザインを手がける。2003年、テラダデザイン一級建築士事務所設立。2008年「1/100建築模型用添景セット」を制作、以後シリーズ化。2011年に独立したブランド「テラダモケイ」設立。現在、武蔵野美術大学非常勤講師、グッドデザイン賞審査委員、株式会社インターオフィス 代表取締役社長。
京都の街は、祇園、神社仏閣だけでなく、意外と美術館や博物館が充実しており、アート巡りも堪能できる街である。京都国立近代美術館、京都国立博物館、京都文化博物館、何必館、細見美術館、樂美術館、野村美術館、泉屋博古館 など、多くの美術館・博物館があり、歴史ある京都の街ならではの国宝や重要文化財を含む所蔵品を誇る美術館・博物館も多い。
ぜひ京都で、美術館・博物館を巡りながら、滞在先でもアートに浸る、特別な旅を楽しんでみてはいかがだろうか?
THE GENERAL KYOTO https://globalhotels.jp/
※「ENSO ANGO」は、2020年3月1日(日)より「THE GENERAL KYOTO ザ ジェネラル京都」にホテル名称が変更になりました。