世界的建築家 隈研吾氏が「竹」「木」「紙」など、
緻密な対話を重ねてきた「素材」との物語。
様々な性質や表情を持つ“もの”との向き合い方から、隈の仕事の本質や思想が浮かび上がってくる。
内覧会・記者発表会レポート
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まるで、現代アートのインスタレーション!?
建築にまつわる展覧会というのは、建築物を展示室に持ち込むわけにはいかず、主に設計図やモックアップ、写真パネルなどが展示物となる。しかし、東京ステーションギャラリーで2018年3月3日から開催される、世界的建築家 隈研吾氏の約30年に及ぶプロジェクトを集大成した展覧会では、まるで現代アートのインスタレーションのような展示作品が多く見られる。
意外性に驚くとともに、まさにあらゆる素材で試みられた、さまざまな姿・形の成果物が、隈研吾氏の仕事の本質につながっていく。
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「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」
開催美術館:東京ステーションギャラリー
開催期間: 2018年3月3日(土)~2018年5月6日(日)
展覧会会場に入ると、お辞儀するようにしなった竹の壁。香り立つ竹の匂いとともに、竹に当たる陽の光や涼やかさやを感じさせるような、心地よい感じを与える。
「ナンチャンナンチャン」(2013年)という、光州デザインビエンナーレ(韓国)のためのインスタレーション作品を一部再現したものである。光州デザインビエンナーレでは、この竹の上を歩くことができる。
竹の床を踏むと、竹の端部までその力が伝わり、全体が振動するようになっている。さらに、歩いた振動が、音になって空間に響くような仕掛けになっていた。
隈研吾氏にとって「素材」は、材料の面白さや形などのビジュアルだけでなく、五感全部に訴えてくるものであり、音や質感、匂いなども大事にしている。
1964年の東京オリンピックの丹下健三氏が設計した代々木体育館を見て建築家を志した隈氏が、2020年に向けて携わる新国立競技場の設計
2020年のオリンピックに向けて、もっとも注目されている建築物である、新国立競技場。大きなスタジアムを、小径木の集合体としてデザインした。”木と緑のスタジアム”がコンセプトである。
屋根の庇(ひさし)の軒の部分を木材で覆うことによって、日本の建築が守り伝えてきた軒下の美を、現代にふさわしい表現にしようと試みている。
10歳のころに、東京オリンピック(1964年)で、丹下健三氏が設計した代々木体育館を見て建築家を志したという隈氏にとって、特別な思いがあるに違いない。完成が楽しみである。
直径4mmの細い竹ヒゴを曲げながら編んだ「香柱(こうちゅう)」。まるで踊っているような、神秘的な美しい姿。
2014年にロンドンのロイヤル・アカデミーの依頼を受けて制作された作品は、4mmΦの竹ヒゴを曲げながら編んで、匂いを発する雲のような透明な構造体である。
竹ヒゴと竹ヒゴとは、熱可塑性樹脂を用いて接合されており、竹ヒゴは床下から香料を吸い上げて、空間を特別な匂い(タタミとヒノキの香り)で満たすことになる。
ロンドンの王立芸術院にて開催された、世界中から招かれた6名の建築家たちによる展覧会(2014年1月25日~4月6日)に出展された作品の一部である。神秘的な美しさで再現されている。
まさかの!?言われなければわからない、素材の正体は、廃材となったLANケーブル(通称 もじゃもじゃ)
家具、照明器具、壁、天井をやわらかくすることを試みた、吉祥寺ハモニカ横丁の小さな焼き鳥屋のインテリアデザインである。
廃材となったLANケーブルを貼り付けることで、ふわふわしたものへと転生させた作品の一部を再現したものである。
存在感に迫力があって、まるで現代アートのような、わくわくさせる作品である。
工場現場で仮設のバリケードに用いる、水を流入するタイプのポリタンクからヒントを得て開発。
工場現場で仮設のバリケードに用いる、水を流入するタイプのポリタンクからヒントを得て、レゴブロック型のポリタンクからスタートし、水で重量を変化させる外壁システムを開発した。
2008年に、MOMAのHome Delivery展に展示されたWater Branch Houseを一部再現している。
隈研吾氏の仕事を、10種類の「物質」について、手法や形状で分類し、樹系図にまとめたもの
この展覧会では、10種類の材料(竹、木、紙、石、土など)をテーマにしながら作品を展示している。隈は、今回の展覧会を開催するにあたり、何十数年の中で、10種類くらいの物質と格闘してきたことに気が付いた。これまで付き合ってきた10種類くらいの物質について、樹形図としてまとめたものが、上の図である。
「1個の作品で1つのアイデアを試すと、ここが足りなかった、ここをもうちょっと直すともっと面白くなる、といった反省があり、それを次に活かしていった、そのトータルの流れを樹形図にしてみたものである。」と隈研吾氏。
続けて、こう語る。「建築家は、作品をつくっているが、われわれは1つの作品を作ろうというより、研究を続けてきて、そこで発見があったら、それに基づいて次の発見が生まれる、といった研究の連続です。」
今回の展覧会が開催される東京ステーションギャラリーは、隈研吾氏自身も、大好きな場所であるという。「大先輩の辰野金吾さんが制作した、オリジナルのレンガの壁がときどき見えてて、鉄骨とレンガによる構造のとても面白い建物であり、材料の復権を目指す我々にとって、もってこいの会場だなと感じている」と喜ぶ姿も見られた。
最後に、図録に寄せた「物質にかえろう」と題した隈研吾氏の文章から、重要な一節を紹介したい。
「20世紀という、猛スピードで、大きなヴォリュームの建築をつくらなければならなかった時代に、コンクリートという物質が、ぴったりとはまったのである。世界中がこの要請に駆られ、それまで建築がどうつくられていたかをすべて忘れて、コンクリートに走った。」
コンクリートという物質に塗りつぶされ、圧倒的に支配された時代、コンクリートで建築をつくるという大前提を誰も疑わなかったせいで、他の物質と向き合う人間がいなくなった、と隈氏は語る。
そこから、「物質」を取り戻したい、物質と人間を繋ぎたい、という思いで挑み、つくられてきたものが、この30年間の隈の仕事の本質である。
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「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」
開催美術館:東京ステーションギャラリー
開催期間: 2018年3月3日(土)~2018年5月6日(日)
参考文献:
「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」図録
隈研吾建築都市設計事務所 WEBサイト