FEATURE

日本人の死生観・来世観を辿る美術が
問いかけてくる、「今をどう生きるか?」

凄惨な場面がときにコミカルに描かれた地獄や極楽の美術を紹介する
「地獄絵ワンダーランド」が三井記念美術館にて開催。

内覧会・記者発表会レポート

『水木少年とのんのんばあの地獄めぐり』より「閻魔大王」 2013年水木プロダクション蔵 通期展示 © 水木プロダクション
『水木少年とのんのんばあの地獄めぐり』より「閻魔大王」
2013年水木プロダクション蔵 通期展示 © 水木プロダクション

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死後の世界とは?

極楽へ行けるか、地獄へ落ちるか、その裁きを下す閻魔大王は有名であるが、実は死後の世界の入り口には、閻魔大王だけでなく、10人もの王がいて、それぞれの役割に沿って裁きを下すのだそうである。今、この世を生きている人は、だれも凄惨な地獄の光景を観てきた人はいないと思うが、絵画や彫刻など美術作品に表された地獄のイメージは、驚くほど詳細に渡って、多様に表現されている。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「地獄絵ワンダーランド」
開催美術館:三井記念美術館
開催期間:2017年7月15日(土)~2017年9月3日(日)

地獄と極楽の美術を通じて、日本人が抱いてきた死生観・来生観を辿る「地獄絵ワンダーランド」が、三井記念美術館で開催される。中でも、近世以降、民間で描かれたコミカルな地獄絵や、水木しげるの色彩豊かな原画が楽しめる「のんのんばあ地獄めぐり」などにも焦点をあてて、“楽しみながら”地獄の世界を巡ることができる展覧会である。

『水木少年とのんのんばあの地獄めぐり』より「表紙」 2013年水木プロダクション蔵 通期展示 © 水木プロダクション
『水木少年とのんのんばあの地獄めぐり』より「表紙」
2013年水木プロダクション蔵 通期展示 © 水木プロダクション

日本人の地獄のイメージの元となった源信の「往生要集」

展覧会を構成する第一章では、水木しげるの少年時代に、子守役として時々自宅に来た近所のおばあさんの案内によって地獄を巡る、という絵本「水木少年とのんのんばあの地獄めぐり」の原画が展示されている。凄惨な地獄絵図が、コミカルに色彩豊かに描かれていて、楽しい地獄のワンダーランドが待っている。

続いて、日本人の地獄のイメージの元になっているといわれている、平安時代の天台宗の僧である源信が記した「往生要集」の紙本全6冊が、前後期に分かれて3冊ずつ展示されている。

六道(天、人、阿修羅、畜生、餓鬼、地獄)の様相や、人の死後49日の間に、次の転生先を決めるために裁きを行う閻魔大王などの10人の王などが詳細に描写され、その後の日本人の浄土思想や、死後世界のイメージに絶大な影響を与えた書物である。

江戸時代に描かれて流行した、絵入り版の往生要集も、細部にわたって、想像力豊かに地獄の様子が描かれていて、驚かされる。

往生要集 源信著 紙本墨摺 6冊鎌倉時代・建長5年(1253) 龍谷大学図書館蔵 前期・後期各3冊展示
往生要集 源信著 紙本墨摺 6冊鎌倉時代・建長5年(1253)
龍谷大学図書館蔵 前期・後期各3冊展示

さらなる“地獄”のイメージの広がり

第二章から第四章では、死後の裁きを与える十人の王を描いた十王図や、さらにイメージが広がっていった地獄世界が描かれた「草双紙」「黄表紙」などが紹介されている。

「一百三升芋地獄」山東京伝作 紙本墨摺 1冊 江戸時代 早稲田大学図書館蔵 後期展示
「一百三升芋地獄」山東京伝作 紙本墨摺 1冊 江戸時代
早稲田大学図書館蔵 後期展示

こちらは、「芋地獄」なる未知なる地獄の存在を聞き、その様子を探るべく冥界へと旅立った豪傑・朝比奈三郎義秀の物語、謡曲「朝比奈」に基づく、山東京伝による黄表紙「一百三升芋地獄」である。

擬人化された芋たちが、品種ごとに様々な責め苦を受けている模様が挿絵となっており、ユーモアたっぷりに描かれている。挿絵も京伝自身によるものである。

また、歌舞伎役者の死後、その追善や訃報のために制作された「死絵(しにえ)」と呼ばれる浮世絵も紹介されている。人気絶頂の最中に謎の死を遂げた、歌舞伎界のスーパースターであった八代目市川團十郎(1823~54)の死絵や、四代目尾上菊五郎と、偶然にも後を追うように同じ日に亡くなった妻てうの夫婦一組が、相合傘で仲睦まじく肩寄せ合いながら、三途の川を渡る道中を描いた作品などが展示されている。

地蔵十王図 紙本着色 13幅のうち10幅 江戸時代 東京・東覚寺蔵 通期展示
地蔵十王図 紙本着色 13幅のうち10幅 江戸時代
東京・東覚寺蔵 通期展示

東京都葛飾区の東覚寺が所蔵する「地蔵・十王図」は、仏画とは思えない「へたうま」さで、地獄の凄惨な場面を絵書きながら、コミカルで愛嬌さえ感じる十王図である。この先に落ちていく地獄の世界さえ、もしかして、楽しいのではないかと勘違いしそうである。

弥陀二十五菩薩来迎図 絹本着色 1幅 室町時代 京都・知恩院蔵 前期展示
弥陀二十五菩薩来迎図 絹本着色 1幅 室町時代
京都・知恩院蔵 前期展示

地獄ではなく“極楽浄土”に行くには?

最後の第五章では、これまでの六道の世界とは対極にある、あこがれの極楽浄土が、一体どのような場所か、イメージができる作品が紹介されている。

人々は、釈迦如来の教えに導かれつつ、極楽浄土に往生することを切に願い、阿弥陀如来を念じた。

できれば、死のときには、真っ逆さまに地獄に落ちていくのではなくて、この来迎図のように、多くの菩薩様を伴った阿弥陀様にお迎えに来ていただきたいものである。

それは、「心」次第であるという。
第三章では、「心」字の周囲に十界や六道といった「あの世」を表した曼荼羅や観心十界法図が紹介されているが、生前の「心」がけが来世を決定する最大の要因であることを示している。

どのような「心掛け」を持ち、「今をどう生きるか」、“地獄絵ワンダーランド”に入り込めば、自ずとそれは、誰の胸にも迫ってくる問いになるのではないだろうか。

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「地獄絵ワンダーランド」
開催美術館:三井記念美術館
開催期間:2017年7月15日(土)~2017年9月3日(日)

参考文献:
「特別展 地獄絵ワンダーランド」図録 NHKプロモーション発行

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