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内覧会レポート

国民的アイドルが表現する芸術の新境地、「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」の魅力を紐解く

© FREESTYLE 2020 SATOSHI OHNO EXHIBITION
© FREESTYLE 2020 SATOSHI OHNO EXHIBITION

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想像力や好奇心、創造性は、本来、人間が誰しも持っているものであろうか?
人がこの世に生を受けてからは、家族、学校、教員、友人、職場、上司など様々な人間社会における環境や関係性によって自己形成されながら、大人になっていく。その過程で、自らが本来的に持っていた素質や感性が十二分に引き出されて、個々人の能力や表現力として備わり、アイデンティティーを持った唯一無二の人間として確立していく、ということは、そう簡単なことではないであろう。

人間が生まれもった素質や内に秘めた力によって、必ずしも自己が形成されるとは限らず、幼少期に自由に発揮されていた豊かな感性は、社会に適応させるうちに他者と同質のものとなり、その素質や能力が活かされたり、訓練される機会のないまま、すべなく、自己の内部深くに眠らせているかもしれない。良かれ悪しかれ、人は、社会環境に対して、自己同一化を図って生きている存在である。

本来的に人間がうちに秘めているものを、創造性として、表現として取り出し、形にしたものが人の心を揺さぶるとき、それは「芸術」なんだろうと思う。

現在、「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」が、六本木ヒルズ展望台 東京シティビューにて開催されている。

それは、前置きした、社会環境に対する自己同一化から自らを解放したような、作家に内在するものを自由に取り出して表現に昇華することを試みた、芸術のカタチであった。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」
開催会場:六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー
開催期間:2020年9月9日(水)~2020年11月8日(日)

大野智さんといえば、言わずと知れた国民的アイドルグループである嵐のメンバーであり、リーダーでもある。

「アイドル」の発信する芸術は、エンターテインメントの延長にあるようなものかと漠然とイメージして足を運んだ内覧会で、会場で目にした展示作品に出会って、そうではないことにすぐ気づかされた。

むしろ、「芸術家とはこういうことか」と思わされた表現がそこにあった。それは、この作家が見ているものは、社会であり、人々であり、それらをつぶさに観察し、世界に広く目が向いていることを感じさせた。世界といっても、国境という人間が引いた線引きの無い、地球上の人類や文化、あるいは宇宙にまでも、見開かれた目を感じさせた。

「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」展示作品 © FREESTYLE 2020 SATOSHI OHNO EXHIBITION
「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」展示作品 © FREESTYLE 2020 SATOSHI OHNO EXHIBITION

ヘッドフィギュアという、褐色の肌色の、手中に収まる小さな頭部のみのフィギュアが、何体も並んだ作品がある。

一体、これらの発想はどこから湧いて出てきたのであろうか?その頭部は、みな天を仰いでいて、表情や髪型、帽子などの装飾が一体一体異なっていて、それぞれに個性が溢れ、強烈な存在感がある。

実際の展示空間には、自由に遊び心が加えられて、摩訶不思議さと面白さがあった。この作品の発想源に思いをめぐらせてみたとき、作家が、アイドルであり、ある程度、テレビ越しに人となりを見知った人物であるということが、普段と異なる鑑賞体験につながった。

どんな芸術でも作家自身について知ることは、作品を観る際の大きな手助けとなり、作品の捉え方の幅を広げ、より深めてくれるものである。

国民的アイドルグループの一員として華々しい活躍を続ける大野智さんという人に抱いていたイメージから想像される範疇をかるく飛び越えた領域に、その表現性があった。その差異にこそ、「芸術家」たる姿が読み取れるのではないだろうか。

「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」展示作品 © FREESTYLE 2020 SATOSHI OHNO EXHIBITION
「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」展示作品 © FREESTYLE 2020 SATOSHI OHNO EXHIBITION

何点か見られた抽象画は、狂騒的に、勢いよく乱雑に、迷いなく筆を走らせたようであるが、その色選び、どこかに余白を残している画面構成、線の太さの強弱などがこの作品を特徴づけている。画面に叩きつけたエネルギーと同時に、その余白の用い方には、作家の内面性が垣間見える。

「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」展示作品 © FREESTYLE 2020 SATOSHI OHNO EXHIBITION
「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」展示作品 © FREESTYLE 2020 SATOSHI OHNO EXHIBITION

一方で、極細ペンを用いて巨大なキャンバスに仕上げた細密画がある。横幅2273mm、縦1620mmという大作だ。細密画といっても、そのモチーフやタッチが面白い。

ウサギがいるかと思えばコブラやサソリなどの動物、漢字やアルファベットなどの文字、植物、人物、骸骨、顔のパーツに建築物、不思議の国のアリスかと思わせるような物語のモチーフも潜んでいる。一見、脈絡のなさそうなモチーフたちが、細密画のなかに集合し、一つの世界観として成り立っている。

細部を埋め尽くす造形も星やハートがあるかと思えば、細胞のような奇妙な形の反復やそれらが増殖して変形したような形状が見られる。

「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」展示作品(部分) © FREESTYLE 2020 SATOSHI OHNO EXHIBITION
「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」展示作品 © FREESTYLE 2020 SATOSHI OHNO EXHIBITION

アニメのようなタッチでコミカルな雰囲気がある一方で、生命や地球の縮図のような、何か生命観や神秘性を宿らせた、深みのある作品世界である。

「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」では、絵画40点、フィギュアなどの立体作品約130点、写真約10点、その他習作や映像作品が展示されている。

会場では映像作品が楽しめる。大野智さんが、高いスキルで振付師としても活躍されていることを知り、それがパフォーマンスとして映像芸術となっており、その多才さに脱帽する。

国民的アイドルという唯一無二の存在感が発信する「芸能」と、作家としての力量を見せる「芸術」、その双方を味わえることで増幅する魅力が、貴重な鑑賞体験を生む展覧会である。

文・小林春日

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「FREESTYLE 2020 大野智 作品展」
開催会場:六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー
開催期間:2020年9月9日(水)~2020年11月8日(日)

大野智 プロフィール

1980年11月26日生まれ。東京都出身。1999年、嵐のメンバーとして『A・RA・SHI』でCDデビュー。歌唱力とダンスに定評があり、嵐コンサート内の楽曲振付も数多く手掛ける。その一方で、2008年2月に10年にわたって創作してきた一連の作品をまとめた作品集『FREESTYLE』を発売すると同時に、初の個展『FREESTYLE』を開催。以降、創作活動においても、独創的かつ多彩な才能を遺憾なく発揮し続けている。

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