サンタモニカ空港から始まるLAのアートウィーク
、フリーズ・ロサンゼルス(FRIEZE LA)
アートフェアから始まる、都市とアートの旅へ|フリーズ・ロサンゼルス【前編】

構成・文:藤野淑恵
ロサンゼルス西部、海からほど近いサンタモニカ空港。通常は小型機やセスナが発着するローカル空港の一角に、「FRIEZE LOS ANGELES」(フリーズ・ロサンゼルス:以下、FRIEZE LA)の巨大なテントが設営される。西海岸特有の青く澄んだ空には、絶え間なく飛行機雲が線を引く。プレビューの時間が近づくにつれ、広大な駐車場へと車が次々と吸い込まれていく。黒いSUVや低く構えたスポーツカーが列をつくり、LAのエネルギーが一点へと集まっていくかのような光景が現れる。
空と滑走路のあいだで開かれるフェア

高い空、強い光、通る風――FRIEZE LA は都市のコンベンションセンターで開かれるフェアとは異なり、LAという水平に広がる都市そのものを背景に展開するアートフェアだ。滑走路の隣で世界各地のトップギャラリーが作品を並べ、コレクターやギャラリストが行き交う。この独特の環境の中で2月26日から3月1日まで開催された FRIEZE LA 2026 には、世界各地から約100のギャラリーが集まった。
- アートフェア情報|アメリカ・ロサンゼルス
FRIEZE LOS ANGELS(フリーズ・ロサンゼルス)
会期:2026年2月26日(水)〜3月1日(日)
会場:サンタモニカ空港
https://www.frieze.com/fairs/frieze-los-angeles
FRIEZE LAは、サンタモニカ空港に設置された巨大な特設テントを中心にメインの「Galleries」セクション、新進ギャラリーを紹介する「Focus」セクション、そして空港の敷地を活用した屋外インスタレーション「Frieze Projects」によって構成されている。ディレクターはフリーズ・ロサンゼルスとフリーズ・ニューヨークを統括するクリスティン・メッシネオ。2026年は世界各地から約100のギャラリーが参加した FRIEZE LA は、同時期に開催されるロサンゼルスのアートウィーク「Frieze Week」の中心となるイベントでもあり、毎年、期間中は市内の美術館やギャラリー、アートスペースで多くの展覧会やイベントが催される。

Los Angeles 2026. Image by Casey Kelbaugh/CKA. Courtesy of Frieze.
FRIEZE LA を形作るロサンゼルスのギャラリーシーン
際立っていたのは、LAのローカルギャラリーの存在感だ。出展ギャラリーの約半数にあたる45以上のギャラリーがロサンゼルスに拠点を持つ。ロンドンやニューヨークのフェアが国際色の強い構成になるのに対し、 FRIEZE LA では都市のギャラリーシーンそのものがフェアの骨格を形作っているといえる。会場には、デイヴィッド・コルダンスキー・ギャラリーやロバーツ・プロジェクトなど、ロサンゼルスを代表するギャラリーが国際的なギャラリーと混ざり合うように並ぶ。LAにも拠点を持つ世界的なブルーチップギャラリーの存在感とともに、ローカルの厚みが可視化されているのは、このフェアならではの特徴だ


メインのGalleriesセクションには世界各地のギャラリーが並ぶが、入口付近にはLAのローカルなアートシーンを代表するギャラリーが来場者を迎える。テント内部は半分の高さの壁によってブースが区切られ、視界が完全に遮られない設計だ。通路を進み奥へ向かうにつれて、ペース・ギャラリー、ハウザー&ワース、ガゴシアン、デイヴィッド・ツヴィルナーといったメガギャラリーのブースが現れる。日本のタカ・イシイギャラリーも、このメインセクションにブースを構える。日本からはもうひとつ、アーティストの村上隆率いるカイカイキキ・ギャラリーも出展した。
Roberts Projects(ロバーツ・プロジェクト)

Taka Ishii Gallery(タカ・イシイギャラリー)

畠山直哉、野口里佳の写真作品や、竹林玲香のペインティング(写真中央)などを展示した。編集部撮影
個展形式が際立つ展示構成
会場を歩いていると、複数の作家を並べるサロン形式よりも、一人の作家に焦点を当てたソロ展示が目立つことに気づく。訪問者がより作品とアーティストに集中できるよう、すべての出展が個展形式で構成されたアートバーゼル・カタールを取材した直後だったこともあり、こうした展示形式の採用がとりわけ印象に残ったのかもしれない。ハウザー&ワースやホワイト・キューブといったメガギャラリーでも個展形式の展示が行われており、フェア全体として一人の作家に焦点を当てる構成が強く印象に残った。
Hauser & Wirth(ハウザー&ワース)

Frieze Los Angeles 2026. Image by Casey Kelbaugh/CKA. Courtesy of Frieze.
303 Gallery(303 ギャラリー)

303 Galleryはベルリンに拠点を置くアーティスト、アリシア・クワデの個展を開催。物質や重力、時間といったテーマを扱うユーモラスな彫刻作品が並んだ。プレビューの午後にブースを訪れたクワデは、「グローバル市場へのユーモラスでアイロニカルなコメントであり、何かが逆転しているような状況への考察でもある」と語る。最適化を志向する現代への皮肉と、時間から逃れられない人間の在り方が重ねられた作品は、ミニマルな展示空間の中で不思議な存在感を放っていた。ロサンゼルスのヴァリアス・スモール・ファイヤーズでは、独学で絵画を学んだ1940年生まれのLA在住アーティスト、ジェシー・ホーマー・フレンチのソロ展示を展開。2025年のフリーズLA開催直前にロサンゼルスを襲った山火事を想起させる作品の前には、多くの来場者が足をとめ、見入っていた。
Various Small Fires(ヴァリアス・スモール・ファイヤーズ)

ジェシー・ホーマー・フレンチの個展を開催。編集部撮影
Jeffrey Deitch(ジェフリー・デイチ)

注目を集めていたブースの一つが、ロサンゼルスのギャラリー、ジェフリー・デイチ。紹介されていたのは、LAを拠点とする陶芸家シャリフ・ファラグの彫刻作品。白いレンジローバーを模した作品など、ユーモアと社会的な視点を併せ持つ彼の作品は多くの来場者の関心を集めていた。彼の作品は、ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)、ハマー美術館、現代美術館(MOCA)による共同プロジェクト「MAC3」によって購入された。都市の主要美術館が連携してフェアから作品を収蔵するこの取り組みは、ロサンゼルスのアートのエコシステムを象徴する動きと言えるだろう。
メインのGalleriesセクションの奥には、新進ギャラリーを紹介するFocusセクションが配置されている。このセクションには、設立12年以内のアメリカ拠点のギャラリーが参加し、若いアーティストによるソロ展示を中心に構成されている。キュレーションを担当したのは、ロサンゼルスを拠点に活動するキュレーター、エッセンス・ハーデン。2025年の「Made in L.A.」展の共同キュレーターとしても知られる存在だ。会場には15のギャラリーがブースを構え、新しい表現を紹介していた。
Superposition Gallery(スーパーポジションギャラリー)

Frieze Los Angeles 2026. Image by Gina Clyne/CKA. Courtesy of Frieze.
パートナー企業と、屋外プログラムがつくるフェアの広がり
メガギャラリーのブースが並ぶエリアの奥には、フリーズのパートナー企業によるスペースも設けられている。シャンパーニュブランド、ルイナールによる「RUINART ART BAR」では、日本のアーティスト川俣正の作品を展示。川俣は、同ブランドが展開するアートプログラム「Conversations with Nature」の2026年度のアーティストに選出されており、フランス・シャンパーニュ地方ランスにあるルイナールの拠点「4 Rue des Crayères」のパビリオンでインスタレーションが公開される予定だ。
また、会場エントランス脇には、フリーズのグローバル・リード・パートナーを21年にわたって務めるドイツ銀行によるウェルス・マネジメントラウンジも設けられていた。VIPクライアントに特別な体験を提供するこのラウンジでは、若手映画制作者を支援する「ドイツ銀行フリーズ・ロサンゼルス・フィルム・アワード」に関連するイベントも開催された。

テントの外では、空港の敷地を活用した屋外プログラム、フリーズ・プロジェクトが展開されている。滑走路に隣接する広大な敷地には、大型の彫刻やサイトスペシフィックなインスタレーションが点在し、来場者は屋外空間を歩きながら作品を体験することができる。こうした展示の一部は無料で公開されており、フェアのチケットを持たない人でもアクセス可能だ。また会場内にはロサンゼルスを拠点とするレストランのポップアップも並び、LAらしい開放的な雰囲気が広がる。グループや親子でパラソルの下でランチやドリンクを楽しむ姿は、この場所のリラックスした空気を映し出していた。

Frieze Los Angeles 2026. Image by Casey Kelbaugh/CKA. Courtesy of Frieze.

「SUNDAY GRAVY」のメニュー。
活発なマーケットの動きと地元美術館のコレクション収蔵
出展ギャラリーから具体的な販売事例も報告された。4日間の会期を通して多くの取引が成立し、マーケットの面でも活発な動きを見せた。複数の作品が100万ドル(約1億5000万円)を超える価格で売却された一方で、数万ドル(数百万円)から数十万ドル(数千万円)の中価格帯の作品にもコレクターの関心が集まったという。特に新しい表現を紹介するFocusセクションでは、展示作品の多くが完売したと報告されており、コレクターの関心が次世代のアーティストへも広がっている様子がうかがえる。
Pace Gallery(ペース・ギャラリー)

White Cube(ホワイト・キューブ)

Frieze Los Angeles 2026. Image by Casey Kelbaugh/CKA. Courtesy of Frieze.
先に触れたMAC3による収蔵のほかにも、フェアでは美術館による作品購入の動きが見られた。カリフォルニア・アフリカン・アメリカン博物館は、LAとNYに拠点を持つギャラリー、アナト・エブギからジェシカ・テイラー・ベラミーの作品を、フォーカスセクションに出展したLAのギャラリー、Sea Viewからゼノビア・リーの作品を購入している。アートフェアは単なる市場の場であるだけでなく、こうした公共コレクションへ作品が組み込まれる重要な機会でもある。
Anat Ebgi(アナト・エブギ)

世界各地のギャラリーやコレクター、キュレーターが集まるアートフェアであると同時に、ロサンゼルスのアートシーンを体感する入口でもある FRIEZE LA。会期中に市街で開催される数多くの展覧会やイベントを含めて「FRIEZE WEEK」と呼ばれる一週間は、都市全体がアートの熱気に包まれる特別な時間でもある。フェアの会場を後にすると、その広がりはロサンゼルスの街へと続いていく。

Frieze Los Angeles 2026. Image by Casey Kelbaugh/CKA. Courtesy of Frieze.
次回の後編では、フリーズウィークの期間にロサンゼルス各地で展開されたギャラリーやサテライトフェアの展示を巡りながら、ロサンゼルスのアートシーンの現在地を紹介する。