アートフェア「ACK(Art Collaboration Kyoto)」にみる、
コラボレーションが広げる可能性
国立京都国際会館を会場に、コラボレーションをテーマとするアートフェア「ACK」が開催

広島平和記念資料館の設計にも携わった大谷幸夫。
文・写真:中島良平
国内と海外、行政と民間、美術とその他の領域といった様々なチャンネルでのコラボレーションを実現しながら、アートを通じて新たな可能性を開く機会を創出するアートフェア「ACK(Art Collaboraiton Kyoto)」。2021年に初めて開催され、今年で5回目を迎えるこのフェアのメインコンテンツが、「ギャラリーコラボレーション」と「キョウトミーティング」だ。国内のギャラリーと海外のギャラリーが2軒で1ブースを共有するのが、「ギャラリーコラボレーション」。今年は29のブースが設けられた。そして「キョウトミーティング」では、京都にゆかりのある国内外のアーティスト、作品を紹介する。
会場内で展開される企画展などのキュレーションには、「2050 —未来へのまなざし—」というテーマが設けられた。そこには、「平等性と差異の認識」「長期的な時間認識」「コラボレーティブ・インテリジェンス」という3つの思いが込められ、未来をどのように創造するか、あるいは、未来をまなざすために過去をどう参照するか、という視点が出品者に共有されたという。会場をレポートしたい。

《Diffused Space》(2004)が出迎えてくれる。
京都で成立するアートフェアとは
2021年のスタート以来、着実にその認知度が国内外で高まっているACK。前提として、世界にはアートフェアが乱立していて、日本のマーケットは国際的に見ると微細な規模に過ぎない。しかも、京都は文化度が高いにしても、ローカルな場所だ。「京都でアートフェアを開催する」ということが決まった段階からチームに参画し、現在はシニアマネージャーとして出展ギャラリーとのコミュニケーションから会場全体のディレクションまでに携わる鈴木秀法に話を聞いた。
「ACKの立ち上げの際には、日本のギャラリストの方々に意見を伺いました。その中で見えてきた課題があります。もし日本のマーケットに国際的なフェアを作り、メガギャラリーが参加してくれたとしましょう。でもその後、日本のアート界に何が残るのか、という疑問がありました。日本でのアートの土壌が育つのかと考えると、あまり想像できない。一方で、日本のギャラリストの皆さんが海外のフェアに参加したときのブランディングの難しさであったり、何年もかけてようやくギャラリーを覚えてもらえる厳しさであったり、言語の壁であったり、そういうものを経験されてきているわけです。そこであるギャラリストの方から出てきたキーワードが『コラボレーション』でした」

ACKでは、日本のギャラリーをホストと位置づけ、そこにゲストとして海外のギャラリーがやってきてタッグを組み、一つのブースで展示を行う座組を設定。「ホスト」「ゲスト」という呼び名にも込められているが、日本の画廊が海外の画廊を日本にお迎えするようなシナリオができあがった。日本のオーディエンスとコミュニケーションをとり、作品の魅力やギャラリーの個性を伝えていくためには、日本のギャラリストが適任だ。さらには、商習慣や税制などさまざまなルールも把握している。また、日本のギャラリーが自らのつながりで組んだギャラリーが参加するので、日本では知られていないけど魅力的な作品、作家が多く日本にやってこられるチャンスにもなる。
「ギャラリーコラボレーションのブースは、一定の秩序は保ちながらも、壁や格子の配置、出入口の数や位置などをそれぞれユニークに設計しています。これにより、他のフェアに参加するときとは異なるリズムが生まれるようにしています。さらにそこで他のギャラリーと同居するとなると、ズレが生まれるでしょうし、話し合う必要が出てきますよね。そうすると、同じブースで展示した作家のことをよく知り、自分のギャラリーで扱いたいと思うようになる機会にもなりますし、これをきっかけに、日本のギャラリーがパートナーを組んだ相手の国で知られるきっかけになることもある。この場所がみんなのハブになって、つながりが広がっていくようなことを目指していて、それは、着実に育ちつつあることを実感しています」
では、「ギャラリーコラボレーション」から、いくつかのブースを紹介したい。
思文閣(京都)×Mendes Wood DM(サンパウロ)
昨年のACKで知り合い、今回の共同での参加を決めた両ギャラリー。パウラ・シエブラという若手の女性ペインターがコラボレーションの出発点となった。思文閣がアーティスト・イン・レジデンスの仕組みを設けて彼女を迎え入れ、シエブラは京都の自然や文化を触れながら作品を制作した。そこで生まれた作品を軸に、展示構成が考えられた。

彼女の作品を軸に、日本の1950年代以降に活躍した前衛書家である森田子龍や、日本画家である堂本印象、シエブラ以外のブラジル人アーティストによる作品も加わっていった。京都の自然にインスパイアされたブラジル人アーティストの表現を起点に、日本の書家は日本の空気の流れからどう影響されたか、日本画家の場合はどうだったかといった問いがヒントとなり、展示構成が成り立っていったようだ。


MISAKO & ROSEN(東京)×Galerie Max Mayer(ベルリン)
「ACKの中でもスーパーコラボレーションみたいなブース」だとMISAKO & ROSENを主宰する美紗子・ローゼンは話す。まず、両ギャラリーが共同で紹介しているアーティストであるJ. パーカー・ヴァレンタインの絵画を一緒にブースで展示することを決めた。

フン・ティエン・ファン《Volkswagen 7》(2025)
そして方針が決まった。壁面を飾る平面作品に対し、両ギャラリーが紹介したい彫刻作家を打ち出す展示というコンセプトだ。MISAKO & ROSENは、ちょうど紹介したいドイツ拠点の作家がいると、ベトナム系ドイツ人のフン・ティエン・ファンが思いついた。そしてマックス・マイヤーからは、今一番推していきたい作家として、陶芸作家のニコラス・グアニーニの名が挙がった。「J. パーカー・ヴァレンタインのブースをつくり、そこに彫刻を置く、というプランをマックス・マイヤーと共有しました」。

東京画廊+BTAP(東京)×GENE GALLERY(上海)
共同で日本、中国、韓国、イランの作家による作品を展示するグループ展を企画した。東京画廊+BTAPからは、1954年の具体美術協会の結成にも加わった関根美夫から、画廊で扱う最年少の作家で新たな書を追求するAyako Someyaまでを選出。

代表である山本豊津は、「東京画廊が創業から75年を迎えるわけだから、今日にどういう形でこれまでの取り組みを伝えられるかを考え直す機会にもなる」と、展示について話す。そして、北京にも拠点を置くなど、アジアでのつながりを築き上げてきたことで、上海のギャラリーと共同でのグループ展を実現した。

奥中央の陶芸作品は京都を拠点とする近藤高広、奥右がハオ・シン《Airy》(2024)。
プーヤンと近藤は東京画廊より、チャンとハオはGENE GALLERYより。
WAITING ROOM(東京)×MANGROVEGALLERY(深圳)
土取綾香、川内理香子、ホウ・ジエという、線表現を軸に制作を展開する3名のアーティストを紹介する。MANGROVEGALLERYのディレクターがWAITING ROOMを訪れた際に、土取綾香の作品を気に入り、一緒にACKに参加することが決まったという。そこから「線表現」をキーワードに、WAITING ROOMから川内理香子、MANGROVEGALLERYからホウ・ジエの参加が決まった。例えば川内は鉛筆のドローイングを出発点に作品制作を開始した作家だが、鉛筆の線も物質としてとらえ、針金によるドローイング作品を発表したこともあるように、立体と平面の境界にとらわれることなく線の表現を行う。今回発表された石彫作品も、やはり彼女にとっては線表現のひとつのあり方なのだというように、線の捉え方に着目して楽しみたいブースだ。


小山登美夫ギャラリー(東京)×CHRIS SHARP(ロサンゼルス)
二人の個展を並べるような形式で展示を構成するブースもいくつかある。そのひとつが小山登美夫ギャラリーとクリス・シャープだ。意図的に一見すると似たトーンの作品の作家を組み合わせたのかと思いきや、実際には、お互いに紹介したい作家の名前を出し合っていくなかで、気がついたら作品のサイズや色調が似たふたりの展示となったという。
幼少期の思い出や日常的な感動などを想像力によってヴィジュアル化し、刺繍など異なる手法を使ったかと思わせるマチエールの画面をアクリル絵具のみで生み出す風能奈々の作品。一方の八木恵梨は、古典的なグラフィックや日本の民話や文様などを参照しながら独自の表現言語の獲得を目指し、パネルにグラファイトと水彩で、食をモチーフにした繊細な世界を生み出す。それぞれの作品にじっと目を凝らすと、小さな画面から大きな想像の広がりが生まれる作品だと感じられる。


Takuro Someya Contemporary Art(東京)×TKG+(台北)
グラフィティに用いられるエアロゾル・ライティングを発展させ、「クイックターン・ストラクチャー」を生み出した大山エンリコイサムと、紙や布、刺繍を切り、縫い、織り込むというゆっくりと丁寧な作業を通して、言葉では言い表せない感情を形にしようと試みる台湾のジャム・ウー。ファウンド・オブジェクトをどのように扱うか。イメージの重なり合いから生まれる時間感覚や触覚への刺激が双方に共通し、展示空間にハーモニーが奏でられる。


無人島プロダクション(東京)×ROH(ジャカルタ)
二人展形式ではあるが、一方の作家の作品が並ぶ壁面に、もう一方の作家の作品を混ぜ込みながら展示を行ったブースもある。身近な道具や既製品を素材に、その用途や意味を再構築して形にする八木良太とマルト・アルディの作品が並ぶ、無人島プロダクションとROHのブースだ。スピーカーを重ねて仏塔を思わせる作品から音を奏でる八木と、大量生産されるものと人間の関わりに美学を読み取り、レディメイドの再構成によって視覚的な美を生み出すアルディ。無人島プロダクションのディレクターである藤城里香は、「仲良くスペースを共有しながら二人で展示構成を考えているのが印象的でした」と語る。すでに東京の無人島プロダクションで八木とアルディの二人展が開催され、ACKが終了後には、ジャカルタのROHでも行われるというから、両ギャラリーの信頼関係の深さが伝わってくる。


「キョウトミーティング」からは3つのギャラリーのブースを紹介したい。
KANEGAE(京都)
京都市北部、里山と奥山の境界に位置する美山で、爆発的に増加するシカやイノシシの存在にフォーカスしたのが古美術や工芸を扱うKANEGAE。肉は食用として消費されるが、皮やツノをどう処理するか。いや、処理ではなく、作品の素材になるはずだ。展示タイトルは、「WHAT ARE MATERIALS TODAY? 現代素材問答」。アーティストとファッションブランドのT.Tが美山に赴き、自然と人間の住環境の境目について、産業の課題について、あるいはそこに提起するメッセージを発信できるアートの可能性について考え、制作を行った。

GALLERY SIDE 2(東京)
花澤武夫による個展形式で展示を実施。坂本龍一や小澤征爾、スライ・ストーンなど、この数年内に亡くなった、花澤が尊敬する人物をイコンのようなスタイルの肖像画に描いたシリーズ《Requiem 2025》を制作。そこに、京都の和菓子をモチーフに、京都の空気を閉じ込めたイメージで香壺(こうご=香道の道具)を制作し、弔いの意を込めた。着想源は、マルセル・デュシャンの《Air de Paris》だという。

画面下に3点並んでいるのが、和菓子がモチーフの香壺。上の中央に見える箱状の作品は、京都の老舗喫茶店のマッチ箱をモチーフにしたレリーフ。

京都の老舗喫茶店のマッチ箱をモチーフにしたレリーフ。
RASTER(ワルシャワ)
京都を拠点とする田中和人、ベルリンを拠点とするスワヴォミル・エルスナー、ワルシャワを拠点とするヤネク・シモンの3人の作品を展示。異なる文化的視点から、芸術的表象を分析し、批評するアプローチを取る3人。異なるメディアで制作する3名の作品から共通点を読み取ると、その関係性が浮かび上がってくる。

アーティストのコラボレーションの相手は、ギャラリーやアーティストのみではなく、企業も含まれている。京都高島屋S.C.、SGC、集英社、ジンテック、大丸松坂屋といった企業が関わった展示をそれぞれ紹介したい。

こちらは水戸部七絵の作品。


《知らない思い出》と題するインスタレーションを手がけた。

その手前のスペースでは、子ども向けのワークショップも実施される。

手前の大型絵画は、桜井孝身《ドラゴンシリーズI-IV》(1994)

アートを通じたコラボレーションには多様な形がある。他者との関わりができることによって、そこでのズレや揺らぎも生じ、予定調和からはずれた何か、想定外の成果が手に入れられるに違いない。そんな可能性に対してオープンなACKの会場を訪れてみてはいかがだろうか。