FEATURE

皇室伝来、めでたいもの尽くしの展覧会で
新しい年のよろこびと繁栄を願う

「瑞祥のかたち」が皇居三の丸尚蔵館で2025年3月2日(日)まで開催

内覧会・記者発表会レポート

《小栗判官絵巻》巻八上(部分) 岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀) 紙本着色  【展示期間:1/4~2/2】
《小栗判官絵巻》巻八上(部分) 岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀) 紙本着色 【展示期間:1/4~2/2】

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構成・文・写真:森聖加

2025年の幕が開けた。東京・千代田区の皇居三の丸尚蔵館では、新春に相応しい、めでたいもの尽くしの展覧会「瑞祥(ずいしょう)のかたち」が2025年3月2日(日)まで開催中だ。日本古来の縁起のよい、さまざまなかたちに親しみながら、新しい年の前途を祈り、福を招いてはいかがだろう。

《宝船「長崎丸」》江崎栄造 大正5年(1916)【通期展示】
かつて日本では正月二日や節分の夜に、枕元の下に宝船を描いた絵を置くとよい夢が見られるとされていた。万が一、悪い夢を見た時には絵を川に流して幸(さち)を願った。宝船は福を招き入れ、災いを日常から流し去るための仕掛けだ。
《宝船「長崎丸」》江崎栄造 大正5年(1916)【通期展示】
かつて日本では正月二日や節分の夜に、枕元の下に宝船を描いた絵を置くとよい夢が見られるとされていた。万が一、悪い夢を見た時には絵を川に流して幸(さち)を願った。宝船は福を招き入れ、災いを日常から流し去るための仕掛けだ。
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「瑞祥のかたち」
開催美術館:皇居三の丸尚蔵館
開催期間:2025年1月4日(土)〜3月2日(日)
※出品作品は全て 皇居三の丸尚蔵館収蔵の作品

宝船に乗って「瑞祥のかたち」に親しみ、蓬莱山を目指す

瑞祥とは、めでたいことが訪れるきざしをいい、古くから人はさまざまな造形に幸福を願う思いを託してきた。蓬莱山(ほうらいさん)、富士山、寿老人、松竹梅、鶴と亀、宝船、そして鳳凰や獅子などの霊獣が代表的なかたちだ。展示では皇室伝来の書跡・絵画・工芸品の中から、瑞祥のモチーフが盛り込まれた作品を並べる。

展覧会会場のはじまりは、《宝船「長崎丸」》から。大正5年11月に大正天皇の福岡県下行幸の際に、長崎県から献上されたべっ甲細工だ。県を代表する農産物や水産加工物をふんだんに積み込んだ豪勢な船で、吉祥尽くしの展示室=大海原へと漕ぎ出だすことになる。

《小栗判官絵巻》巻八上(部分) 岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀) 紙本着色  【展示期間:1/4~2/2】
《小栗判官絵巻》巻八上(部分) 岩佐又兵衛 江戸時代(17世紀) 紙本着色 【展示期間:1/4~2/2】

まず、観覧者は古代中国において不老不死の仙人が住むと考えられた神の山のひとつ、蓬莱山へ。蓬莱山は亀の上に乗った宝の島として描かれるが、展示での見どころは、岩佐又兵衛(いわさまたべえ)による代表的絵巻物《小栗判官絵巻(おぐりはんがんえまき)》。都、京都の貴族の子として生まれた主人公小栗と、関東の豪族の娘照手(てるて)の波乱にとんだ恋愛物語が鮮やかな筆で描かれている。前期公開の巻八上では、無断で婿入りした小栗に腹を立てた照手の父横山が、小栗を宴に招いて殺害を企てるシーンを公開。男たちがまとう着物の柄に代表される描写の細やかさと同時に、座敷の広縁に置かれた蓬莱山をかたどる、松と橘の生えた岩山を背負う大きな亀のつくりものに注目したい。

展示風景。左は《寿老人松鶴竹亀之図》野口幽谷 明治22年(1889)頃 絹本着色 三幅 【展示期間:1/4~2/2】
展示風景。左は《寿老人松鶴竹亀之図》野口幽谷 明治22年(1889)頃 絹本着色 三幅 【展示期間:1/4~2/2】

幕末から明治時代にかけて活躍した南画家、野口幽谷筆の《寿老人松鶴竹亀之図》は、瑞祥のかたちのうち、寿老人、松、竹、鶴、亀を描いて長寿を願う。明治22(1889)年の嘉仁親王(よしひとしんおう、のちの大正天皇)の立太子礼に際して、皇后(昭憲皇太后)より拝領した作品という。極めて東洋的な画題にあって、寿老人の顔や衣服にさりげなく陰影が施されるなど西洋絵画に通じる表現が加えられている。

同展示室にはほかに、皇居・吹上御苑に発生したキノコ、マンネンタケを乾燥させて朽ち木の形に彫刻した黒檀の基台に植え込んだ珍しい置物もある。マンネンタケの別名は霊芝で、長寿のシンボル。バラエティに富んだ作品に驚くばかりだ。

霊獣たちの間をめぐって、いざ、霊峰富士を拝む

《陶彫唐獅子》 沼田一雅 昭和3年(1928)【通期展示】
《陶彫唐獅子》 沼田一雅 昭和3年(1928)【通期展示】

つづく展示室には、唐獅子や鳳凰、麒、鶴などさまざまな動物たちをあらわした作品が並ぶ。展示室正面に鎮座する沼田一雅の《陶彫唐獅子(とうちょうからじし)》にあるように、百獣の王をかたどった造形は、「唐獅子=中国のライオン」と呼ばれることも多い。もともとライオンは中国には生息しないが、奈良時代、インドやペルシアなどで生み出された造形がシルクロードを通り、中国を経て日本に伝わったことから、唐獅子と呼ばれるようになった。唐獅子は、狛犬とともに宮中になじみの深い瑞祥のかたちで、御所・紫宸殿や清涼殿に安置され、長く守護神としての役割を果たしてきた。

《狂獅子置物》明治時代(19世紀)【通期展示】
《狂獅子置物》明治時代(19世紀)【通期展示】

神秘的な力をもつ霊獣には想像上の動物も含まれるが、なかでも鳳凰は、優れた天子が世に現れる兆しとして古代中国で尊ばれた伝説の鳥だ。五色にきらめく羽をもち、日本では古くから高貴さのシンボルとして絵画や工芸作品の題材になった。

《七宝鳳凰図暖炉前衝立》 大正14年(1925)【通期展示】 もう一方の面には深紅の旭日が表されている
《七宝鳳凰図暖炉前衝立》 大正14年(1925)【通期展示】 もう一方の面には深紅の旭日が表されている
《旭日鳳凰図》 伊藤若冲 江戸時代、宝暦5年(1755) 絹本着色 一幅【展示期間:1/4~2/2】
《旭日鳳凰図》 伊藤若冲 江戸時代、宝暦5年(1755) 絹本着色 一幅【展示期間:1/4~2/2】

鳳凰を描く、皇居三の丸尚蔵館の収蔵品のなかでも人気の高い伊藤若冲《旭日鳳凰図》(いとうじゃくちゅう/きょくじつほうおうず)は前期に展示される。若冲自らによる賛に「九苞の彩羽(きゅうほうのさいう=九種類の羽)」とあるように、雌雄で描きわけられた極彩色の羽をじっくりと眺めたい。後期では対照的に真っ白な羽の鳳凰を描く、国宝《動植綵絵 老松白鳳図(どうしょくさいえ ろうしょうはくほうず)》が登場するのも楽しみだ。

《日出処日本》 横山大観 昭和15年(1940)【通期展示】
《日出処日本》 横山大観 昭和15年(1940)【通期展示】

宝船が行きつくクライマックスは、横山大観《日出処日本(ひいづるところにほん)》。朝陽に輝く霊峰富士は、大観の描いた2000点あまりの富士のなかでも最大級の作品。展示ケースは、縦2.3メートル、横幅は4.5メートルの本作にあわせて設計されているのだという。正面に据えられたソファに座って、時を忘れて眺めたい。

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皇居三の丸尚蔵館|The Museum of the Imperial Collections, Sannomaru Shozokan
100-0001 東京都千代田区千代田1-8 皇居東御苑内
開館時間:9:30~17:00(金曜・土曜日は20:00まで。ただし1月31日と2月28日を除く)
※いずれも入館は閉館の30分前まで
会期中休館日:月曜日、2月23日(天皇誕生日)※ただし2月24日(月・休)は開館し、翌火曜日休館

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