FEATURE

「GALLERIA MIDOBARU(ガレリア御堂原)」で
アート・建築・食を通じて触れる別府の風土と魅力

アート&旅 | HOTEL SELECTION VOL.02

アート&旅

GALLERIA MIDOBARU(ガレリア御堂原)ロビー。
別府の街を一望できる開放感のある空間で、注目すべき日本人アーティストによるアート作品が出迎えてくれる。
GALLERIA MIDOBARU(ガレリア御堂原)ロビー。
別府の街を一望できる開放感のある空間で、注目すべき日本人アーティストによるアート作品が出迎えてくれる。

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構成・文 小林春日

“湯けむり”という言葉を耳にすると、温泉好きな人は、たちまちに旅情に誘われるのではないだろうか。大分県別府市は、別府八湯といわれる8つある温泉地が有名だ。別府駅から、硫黄山とも言われる鶴見岳(標高1375メートル)の麓に向かうと、そこかしこから湯煙が立ち上がる光景に出会う。もう温泉好きには夢のような世界である。

別府で有名な観光スポット、7か所ほどの自然湧出の源泉をめぐる「地獄めぐり」。7か所の「地獄」のうち、国の名勝に指定されている「海地獄」。GALLERIA MIDOBARU(ガレリア御堂原)から車で10分程度。
別府で有名な観光スポット、7か所ほどの自然湧出の源泉をめぐる「地獄めぐり」。7か所の「地獄」のうち、国の名勝に指定されている「海地獄」。GALLERIA MIDOBARU(ガレリア御堂原)から車で10分程度。

その先、標高300メートルほどの鶴見岳の麓にある堀田温泉地区に、2020年12月、この土地らしい魅力を反映させた温泉宿「GALLERIA MIDOBARU(ガレリア御堂原)」が誕生した。この温泉宿に表現された、“その土地らしさ”を彩るものの一つが、大巻真嗣、青木美歌などの現代作家や写真家らによって、この宿泊空間のために制作されたアート作品の数々である。

別府の街を一望しながら源泉掛け流しの半露天風呂を楽しめる客室と、九州の大地の恵みをふんだんに取り込んだ、洗練された美食が味わえるレストラン、そして、建築やアートを堪能できる「GALLERIA MIDOBARU」の魅力を紹介する。

GALLERIA MIDOBARU 外観。『GALLERIA MIDOBARU』を開業したのは、1900年に別府市内で『関屋旅館』の開業から始まった株式会社関屋リゾート(代表取締役 林 太一郎)。2005年に半露天風呂付客室のデザイナーズ旅館『別邸 はる樹』、2015年に『テラス御堂原』を開業し、現在3施設を展開している。
GALLERIA MIDOBARU 外観。『GALLERIA MIDOBARU』を開業したのは、1900年に別府市内で『関屋旅館』の開業から始まった株式会社関屋リゾート(代表取締役 林 太一郎)。2005年に半露天風呂付客室のデザイナーズ旅館『別邸 はる樹』、2015年に『テラス御堂原』を開業し、現在3施設を展開している。

大地から岩盤がせり出してきたようなイメージで設計されたGALLERIA MIDOBARU。建築設計及び空間デザインは、大分県を拠点に活動する、光浦高史率いるDABURA.m Inc. による。

GALLERIA MIDOBARU 外観。赤褐色の外壁の色は、この土地の地中の土色に近づけて表現している。
GALLERIA MIDOBARU 外観。赤褐色の外壁の色は、この土地の地中の土色に近づけて表現している。

ホテルの下には堀田断層がある。ずれながら連なったような、別府の断層や地質をイメージした、プリミティブさとモダンさを感じさせる建物である。

建物の外壁の色や質感は、この地を実際にボーリングした時の土の色にできるだけ近づけるため、コンクリートに酸化鉄の粉を顔料として混ぜ、練りこんで仕上げている。外観は路地の多い別府の町のイメージを反映し、また室内と屋外、棟から棟への境界を感じさせない建築構造のため、天候や季節を直接的に感じられ、別府という風土が強く印象づけられる宿泊体験につながる。

ホテルの建物内に一歩足を踏み入れれば、別府湾を見渡せる景色とともに、早速アートの世界にひたれる、開放感あふれるロビー空間が出迎えてくれる。

大巻真嗣 (中央上)「ゆだま」(ポジティブ)、(右下壁面)「エコーズクリスタライゼーション」(ネガティブ)
大巻真嗣 (中央上)「ゆだま」(ポジティブ)、(右下壁面)「エコーズクリスタライゼーション」(ネガティブ)

ロビー空間を照らす、天井からつるされた巨大な球状の照明は、大巻真嗣(おおまきしんじ)による作品「ゆだま」である。大巻が堀田温泉地区に滞在した際の印象「朝日がとても綺麗だった」ことがインスピレーションの源となっている。朝日の向こう側、宇宙やモノの始まり、そこから光が放たれたるような、モノの起点として、また温泉地ならではの“湯玉”も意味している。

右手前にある、平面状の円形の作品と対になっており、太陽と月、陽と陰といった、相対する二つの世界、「ポジティブ」と「ネガティブ」として表現した作品である。「ゆだま」の球の表面は、花々や鳥などの動植物、踊りを踊る人々の姿や、別府観光の生みの親として知られる油屋熊八などをシルエットにした模様で表現しており、大地の力や、地の記憶というものを再現することを試みた。

西野壮平「別府温泉世界地図」(部分)
西野壮平「別府温泉世界地図」(部分)

ロビーのフロント横、眺望を真正面にした壁面には、写真家 西野壮平による大型作品「別府温泉世界地図」が展示されている。なんと、2万5000枚もの撮影写真を元にコラージュされた別府温泉街の風景地図で、100湯以上の温泉や街並みや自然が映っており、間近で見れば、無数の物語が詰まっている。

男女を問わず、実際に温泉に入っている人たちに交渉して撮影した写真によって、いくつもの温泉の所在地を示している。温泉の街ならではの、裸の付き合いをするご近所同士、くったくのない笑顔をカメラに向ける人々、カメラがあろうがあるまいが普段通りに体をせっせと洗う男性など、温泉の街の日常が縮図となって、ユーモアたっぷりに表現されている。

2階にあるバー「HOT SPRING BAR」。右壁面には、草本利枝の5点の写真作品「another water」
2階にあるバー「HOT SPRING BAR」。右壁面には、草本利枝の5点の写真作品「another water」

ロビーのあるフロアから2階に上がれば、大分の特産品かぼすを使ったカクテルや地ビールなどもメニューに揃える「HOT SPRING BAR」がある。

バーの壁面を飾るのは、別府の有名な観光地、7つの地獄(源泉)をめぐる「地獄めぐり」の泉源を撮影した草本利枝による5点の写真作品である。7つの地獄とは、「海地獄」「血の池地獄」「龍巻地獄」「白池地獄」「鬼石坊主地獄」「鬼山地獄」「かまど地獄」であるが、それぞれの“地獄”はコバルトブルー(海地獄)や赤茶色(血の池)や灰色(鬼石坊主地獄)など特徴的な色を持つ温泉池である。自然に湧き出る温泉ながら、その豊かな色彩とこの土地の地質的な特徴を写真作品に表現している。

バーの壁面は、真鍮の板を温泉の湯(酸性の強い由布・塚原の湯と堀田温泉の硫黄泉の湯)で酸化させて、いぶして色出しした金属が用いられている。

天然温泉露天風呂の付いた客室は全35部屋で、家具などは、クリエイティブユニットgrafがプロデュースしている。オーシャンビューの部屋から別府の街と別府湾を一望することができる。

全客室についた、別府の街を一望できる源泉掛け流しの半露天風呂
全客室についた、別府の街を一望できる源泉掛け流しの半露天風呂

掛け流しの半露天風呂に用いられた無垢の大きな石をくり抜いた浴槽は、硫黄泉である堀田温泉の泉質との相性が良く、遠赤外線の効果でより体を芯からあたためるそうだ。堀田温泉は、湯布院・日田へ通じる昔からの交通の要衝で、江戸時代以降、温泉場として栄えた歴史を持つ。硫黄泉のお湯は、冷え性や軽い喘息の改善、疲労回復のほか、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症、末梢循環障害などにも良いとされ、古くからの湯治場でもある。

レストラン「THE PEAK」のメニュー例
レストラン「THE PEAK」のメニュー例
レストラン「THE PEAK」内でも、アート作品やインスタレーションに出会える。勝正光による鉛筆画は、レストランの内装に用いられている「センダン」の木の「年輪」を描いた作品のほか、「石」「葉」「地層」「湧水」を表現した鉛筆画など5点の作品がある。写真右は、島袋道浩によるインスタレーション作品「イワオ」
レストラン「THE PEAK」内でも、アート作品やインスタレーションに出会える。勝正光による鉛筆画は、レストランの内装に用いられている「センダン」の木の「年輪」を描いた作品のほか、「石」「葉」「地層」「湧水」を表現した鉛筆画など5点の作品がある。写真右は、島袋道浩によるインスタレーション作品「イワオ」

宿泊棟の隣に位置するレストラン「THE PEAK」にも、勝正光による鉛筆画「テロワール」(フランス語で土地を意味する)や島袋道浩のインスタレーション作品「イワオ」などのアートが随所に配されており、アートのある空間で美食を堪能できる時間が何とも心地よい。

このホテルの駐車場のある、地下5メートルほどのところから現れた岩を作品としてインスタレーションしており、作家曰く「土が1メートル堆積するのに約1万年かかると聞くので、5メートルの地中から出てきたイワオは、5万歳ぐらい。」

希望すれば、5万歳の地球の大先輩、イワオと一緒に食卓を囲むことができる。

THE PERKのシェフ今村隆三(1971年、大分県生まれ)は19歳で料理の道を志し大分県内のホテル、フレンチレストランで修行。その後イタリア料理に魅せられ渡伊。フィレンツェのガンベロロッソ掲載店「オステリア ダ サンテ」、サルデニア島の「カフェ ナウティルス」で修行。帰国後、県内のレストラン、ホテルでシェフを務め、2020年12月「THE PEAK/GALLERIA MIDOBARU」開業時にシェフに就任。
THE PERKのシェフ今村隆三(1971年、大分県生まれ)は19歳で料理の道を志し大分県内のホテル、フレンチレストランで修行。その後イタリア料理に魅せられ渡伊。フィレンツェのガンベロロッソ掲載店「オステリア ダ サンテ」、サルデニア島の「カフェ ナウティルス」で修行。帰国後、県内のレストラン、ホテルでシェフを務め、2020年12月「THE PEAK/GALLERIA MIDOBARU」開業時にシェフに就任。

このレストランは、特注の白レンガ窯での高温調理が特徴で、グリル料理が目玉の一つとなっている。用いる食材は、地元産が中心で、例えば、九州産の和牛や錦雲豚(きんうんとん)や冠地鶏(かんむりじどり)、九州産ジビエの軍鶏や鹿ロース、大分姫島車海老や大分国東オイスターに、大分近海でその日に水揚げした鮮魚、椎茸や九州産塩トマトなどのさまざまな野菜。

ここ九州の大地の恵みの豊かさを存分に堪能できるレストランで腕を振るうのは、今村隆三シェフ。フレンチやイタリアンレストランで長年の経験を積むベテランシェフによる料理は、食材の滋味の豊かさを存分に贅沢に味わわせてくれる。宿泊者以外でも利用できるので、食事のみでもぜひ訪れてみてほしい。

ホテル内の随所に展示されているオレクトロニカの作品「もう一つの風景」。
オレクトロニカは2009年に結成された、加藤亮(大分市出身)と児玉順平(熊本県出身)による美術ユニット。
ホテル内の随所に展示されているオレクトロニカの作品「もう一つの風景」。
オレクトロニカは2009年に結成された、加藤亮(大分市出身)と児玉順平(熊本県出身)による美術ユニット。

レストラン「THE PEAK」から居室、居室からロビーなどに移動するホテル内の通路や階段付近でも、アート作品に出会える。

ホテル内のあちこちからふいに現れる作品は、オレクトロニカ「もう一つの風景」。人型のオブジェは、まるで我々と同様に別府の街を旅しながら、心に響いたものを静かに見つめているかのようだ。ホテル滞在中にふと、まさに日常から離れた旅の最中である自分自身を俯瞰して見つめる時間を与えてくれる。

粘菌やバクテリア・細胞などを顕微鏡で観察し、ガラス作品として表現する美術作家 青木美歌による、高さおよそ60cmの作品「Fluidity(流動性)」は、ホテルのエントランスで見られる。地中にしみこんだ雨水が、やがて温泉として湧きたって蒸発し、ふたたび雨となって還ってくることにインスピレーションを得て、ごつごつしたもの(温泉成分の結晶のような)と天と地をつなぐ水の循環を表現した作品である。

他にも参加アーティストは、泉イネ、鈴木ヒラク、中山晃子、Nerhol(ネルホル)、目[mé]の全12組。NPO法人 BEPPU PROJECT(大分県別府市)の代表理事でありアーティストの山出淳也が、コンセプト立案し、今注目すべき日本人アーティストらに作品制作を依頼し、キュレーションした。

このホテル「GALLERIA MIDOBARU」が目指した、“その土地らしさ”は、見事に12組の作家らによるアート作品に表現され、建築のコンセプト、レストランの食材に至るまで、別府らしさ、大分らしさ、九州らしさがしみ込んでいた。旅の終わりに、すっかりこの土地の印象が強く心に残り、魅了され、また訪れたいと感じたことで、あらためて旅をすることの醍醐味を感じている。

アートアジェンダ ホテルセレクション
ガレリア御堂原|GALLERIA MIDOBARU
ADDRESS:874-0831 大分県別府市堀田6組 TEL:0977-76-5303
ACCESS:飛行機 | 大分空港より別府駅まで空港バスで約50分→タクシーで約12分
車 | 別府ICより車で約3分 / 別府駅より車で約15分
駐車場:施設横に野外駐車場あり(駐車料金は無料。予約不要)
送迎:フロントにてタクシー手配可

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