歌舞伎公演に映画祭、文化の風薫る
北九州市小倉の街で、アートを巡る旅
アート好きの心を満たす旅 / 北九州市小倉【後編】
北九州市立美術館本館、北九州市立文学館、北九州国際映画祭
構成・文:小林春日
アート好きの心を満たす旅 / 北九州市小倉(福岡県)VOL.02
VOL.01 【前編】 VOL.02 【後編】 VOL.03 【特別編】
小倉の街では、北九州の台所と言われる「旦過市場」が有名だ。大正2~3年頃から形成されてきたといわれ100年ほどの歴史のあるその市場は、鮮魚、食肉、野菜、乾物、果物、蒲鉾、製菓など120軒ほどの店舗数があったが、昨年、2度の火災に見舞われ、現在はその復興の途上にある。その旦過市場のある魚町に建っていた、昭和14年創業の老舗映画館である小倉昭和館にも火の手が周り焼失したが、クラウドファンディングはじめとした支援もあり、12月20日には再建される予定である。
小倉の街では、JR小倉駅から、京町銀天街、魚町銀天街と続き、その先に、旦過市場がある。魚町銀天街は、「雨が降らない街を作りたい」との思いで、昭和26年に、全国で初めて、アーケードができた商店街である。旦過市場まで、魚町1丁目から3丁目まで続く約400メートルの街歩き・食べ歩きは、この街の観光の一つの醍醐味ではないだろうか。北九州名物の焼うどんや蒲鉾などのほか、お洒落なカフェもカジュアルなレストランや居酒屋も、バラエティーに富んだ店が立ち並び、活気にあふれていてお腹も心も満たされる。
景観美しい丘の上に建つ、圧倒される存在感の北九州市立美術館
腹ごしらえができたところで、小倉駅に向かう。駅前のバスターミナルから少し離れたバス停※から、製鉄飛幡門方面に向かうと、約30分ほどで到着したのは、小高い丘。バス停に降り立つと、なんとも見晴らしがよいこの場所は、北九州市立美術館である。
※いくつかの行き方があるが、西鉄バス利用の場合。小倉駅入口(JR小倉駅からモノレールに沿って行き、小倉駅前交差点を渡って左(徒歩5分)「小倉駅入口駅」から7M番(製鉄飛幡門行き)に乗車、「北九州市立美術館」下車
北九州市立美術館が設立されたのは、1974(昭和49)年。建築の設計者は、建築界のノーベル賞ともいわれるプリツカー賞を2019年に受賞した、大分出身の建築家 磯崎新氏である。「丘の上の双眼鏡」という愛称で親しまれる、ファサードから二本の筒が飛び出した様子は、まさに両目でレンズを覗き込んでいるかのようである。
その双眼鏡の眺める先は、北九州市戸畑区、若松区方面の市街地から洞海湾まで、あまりの見晴らしの良さに出会っただけでも、この美術館を訪れて良かったと思える。
館内に足を踏み入れてもまた、この建築の凄みに圧倒される。高い吹き抜けのホール空間に足を踏み入れると、この後出会える芸術作品への高揚感が増すばかり。エントランスホールの床や壁の下部は、イタリア産大理石が用いられ、展示室に向かう階段の両脇には、エミール=アントワーヌ・ブールデルの「ペネロープ」とオーギュスト・ロダンの「ピエール・ド・ヴィッサン」の彫刻に出迎えられ、歓迎されているような心持ちで展示室へ向かう。
訪問時は、企画展「石岡瑛子 I デザイン」が開催されており(11月12日まで)、その他、2023年度は「芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル」、「スイス プチ・パレ美術館展 ルノワール、ユトリロから藤田嗣治まで」などが開催されていた。企画展の内容も充実していて見ごたえがあるが、コレクションの展示もぜひ時間をかけてじっくり見て欲しい。同館のコレクションには、ルノワール、ドガ、モネなどの印象派、江戸から明治にかけての浮世絵、タブローや版画を中心とする20世紀美術、西日本地域を中心とする地元作家作品を体系的に収集しており、現在約7500点ほどを所蔵する。
訪れた際には、フランク・ステラやマックス・エルンストなど、戦後アメリカ抽象絵画やシュルレアリスムなどの現代美術も多く見られ、コレクションの多彩さは刺激的な内容で、またいずれ訪れて、じっくり鑑賞してみたい。
また、この美術館は、「美術の森公園」という緑地内にあり、遊歩道に配されたオブジェや彫刻など、散歩しながら芸術に触れられる。春には彫刻の小径沿いが美しい桜並木で彩られる。
- 美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
- 北九州市立美術館|Kitakyushu Municipal Museum of Art
804-0024 福岡県北九州市戸畑区西鞘ケ谷町21番1号
開館時間:9:30〜17:30(最終入館時間 17:00)
休館日:月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は翌日が休館日)、年末年始
アーチ状の美しい空間美の中で、
森鷗外や林芙美子など北九州ゆかりの文学にたっぷりひたる
北九州市立美術館の本館から、再び小倉の街に戻って向かった先は、ちょうど平成中村座の特設舞台が建てられていた勝山公園内にある、北九州市立文学館である。
北九州にゆかりのある、森鷗外や杉田久女、橋本多佳子、林芙美子、火野葦平、宗左近など、小説家、詩人、俳人などの作品、資料などを展示する北九州市立文学館は、およそ12万点の資料を収蔵し、そのうち、約300点を常時展示している。
こちらの施設も、北九市立美術館と同様に、建築家の磯崎新の設計によるもので、さらに、建てられたのも1974年と時を同じくする。緑青の銅板の屋根を持つ蒲鉾のような半円筒の建物が、まるでパイプのように2本並んだかと思ったら、途中から長さを変えて湾曲し、それぞれ違う箇所で途切れたような、個性的な外観を成す。施設には、文学館のほか、カフェも併設する中央図書館や子ども図書館が入居する。
館内は、1階から2階にかけて、アーチ状の高い天井がゆったりとした美しい空間を創り出している。ゴシック建築のバラ窓を思わせる丸形のステンドグラスは、時間や天気により表情を変える。建築家の磯崎新が、出身地大分県の江戸時代の思想家・三浦梅園の著書に描かれる図を参考にデザインしたという。
現在、常設の展示のほか、「写真と文学でたどる日本の世界文化遺産」が2024年1月14日(日)まで、1階企画展示室にて開催されている。日本にある世界文化遺産全20件を有名写真家の美しい写真と文学のことばで紹介する展示である。日本の風土や文化をテーマに撮影を続け、写真界に大きな足跡を残す17人の写真家による写真が展示されている。また、北九州市の世界遺産「明治日本の産業革命遺産」も合わせて紹介されている。
アーチ状の美しい空間美の中で、好きなだけ文学に触れながら、企画展示なども楽しめる、そんな時間をぜひ堪能してほしい。
同館のサイトで紹介している「小倉文学散歩道」では、小倉ゆかりの文学スポットを多数紹介したマップが掲載されており、参照しながら小倉の街を散策するのも楽しそうだ。
- 北九州市立文学館
〒803-0813 福岡県北九州市小倉北区城内4-1
開館時間:9:30~18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜日(月曜日が休日の場合はその翌日)、12月29日~1月3日
https://www.kitakyushucity-bungakukan.jp/
北九州を映画の街に。北九州国際映画祭が、初開催
北九州市立文学館の常設展示では、冒頭で触れたリリー・フランキーさんによって2015年に寄贈された、小説「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」の直筆原稿も展示されていた。そのリリー・フランキーさんが、アンバサダーを務める北九州国際映画祭が、2023年12月13日から17日まで北九州市で、初開催されるので合わせて紹介したい。
前編でご紹介したリバーウォーク北九州(小倉北区)にあるJ:COM北九州芸術劇場の中劇場および小劇場、旦過市場のエリアにある小倉昭和館、チャチャタウン小倉内(小倉北区砂津の商業施設)にあるシネプレックス小倉の4会場で30作品以上を上映する。
J:COM北九州芸術劇場 中劇場では、福岡県小倉(現在の北九州市)を舞台に描かれた岩下俊作の小説が映画化された「無法松の一生」、小倉昭和館では、北九州市門司区出身で昨年3月に亡くなった青山真治監督の「共喰い」や「空に住む」など、シネプレックス小倉では同市ゆかりの漫画家・松本零士さん原作の「銀河鉄道999」などの上映を予定している。
※詳しくは公式サイトを参照
https://kitakyushu-kiff.jp/
歌舞伎や映画で盛り上がり、北九州市立美術館や文学館、松本清張記念館などの文化施設も充実した北九州市小倉の街を、アートを巡りながらご紹介した。北九州を訪れた際には、ぜひアート巡りを堪能しながら、小倉の街歩きを楽しんでほしい。