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かくして詩は彫刻になった。
カール・アンドレの国内美術館初個展が開催

「カール・アンドレ 彫刻と詩、その間」が、DIC川村記念美術館にて2024年6月30日(日)まで開催中

内覧会・記者発表会レポート

《メリーマウント》(1980年)米杉の角材21本、展示風景より
《メリーマウント》(1980年)米杉の角材21本、展示風景より

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1960年代後半にアメリカで興ったアートムーブメント、ミニマル・アートを代表する作家カール・アンドレ(1935〜2024年)の国内美術館初個展が2024年3月9日〜6月30日までDIC川村記念美術館で開催中だ。2024年1月24日、この会期目前にカール・アンドレは88歳で亡き人となったが、だからこそこの個展が貴重な機会となったことは言うに及ばないだろう。

今回の展覧会のタイトルは「カール・アンドレ 彫刻と詩、その間」である。このタイトルはカール・アンドレの創作スタイルに由来している。カール・アンドレは木・金属・石といった素材を同じフォルム、同じサイズに加工し、床に直接置くという彫刻で有名だが、彫刻と並行して多くの詩を制作してきたことはあまり知られていない。

今回は全く異なるジャンルに思える彫刻と詩が作家自身の中でどう繋がり、影響を与えあってきたのか、個人の中にひろがる豊かな小宇宙を垣間見るような展覧会である。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「カール・アンドレ 彫刻と詩、その間」
開催美術館:DIC川村記念美術館
開催期間:2024年3月9日(土)〜6月30日(日)

反復、そして再構成。詩に浮かび上がる思考の道筋

<ユカタン>(1972年/1975年)タイプライター用紙にコピー、展示風景より
<ユカタン>(1972年/1975年)タイプライター用紙にコピー、展示風景より

詩と彫刻がどのように結びつくのか、興味をそそられると同時に表現手段の大きな違いに茫漠とした想いを感じる人もいるかもしれない。けれども実際に展示されている彼の詩を一目見れば、そこに共通性があることに気づかされるだろう。

彼の詩の特徴は単語・アルファベットを断片的に使い、紙上に構成することである。タイプライターで単語を円、四角、階段上といった形に構成している様子は、1950年代に興った言葉の造形性に着目したコンクリート・ポエトリー(具体詩)を彷彿とさせ、同じ形のエレメントを積み上げたり並べたりと構成する彼の彫刻との確かな繋がりを発見することができる。

<セブン・ブックス>(1969-1979年)ファイルに入ったゼロックス・プリント、展示風景より
<セブン・ブックス>(1969-1979年)ファイルに入ったゼロックス・プリント、展示風景より
展示風景より
展示風景より

1957年22歳でNYに移り住んだアンドレは、1958年に友人であるフランク・ステラのスタジオを借り、彫刻作品の制作を開始する。そして同じ頃1958年〜1965年に2000編以上の詩の創作も行っているのである。

なぜアンドレは詩と彫刻に興味を抱き、そして今のような作品群が生まれたのか。その理由は彼の出自を知れば納得ができるだろう。

アンドレは詩を愛する両親の元に生まれ、幼い頃から詩の読み聞かせを受けていた。彼自身も詩に興味を抱き、中学生の時にはすでにT.S.エリオットや、エズラ・パウンドなどを読んでいたという。さらに彼が生まれたマサチューセッツ州クインシーは、入江に造船工場があり、さらに山には御影石が採れる石切り場があるような工業都市である。彼の父親もまた造船技師であり、工房にはアンドレが彫刻で使用しているような木材や金属片が転がっていたそうだ。生まれ育った環境の中に、詩と彫刻、彼の創作に通じる素材が揃えられていたのである。

展示風景より
展示風景より

詩と彫刻の間。水平に広がる彫刻作品

このような出自から、詩と彫刻を巧みに行き来する彼の創作スタイルが確立されていったと言えそうだ。そして今回の展覧会もまるで彼の頭の中に入り込んだように、詩と彫刻の間を渡り歩くような構成がなされている。

まず展覧会は録音されたカール・アンドレの肉声による詩の朗読から幕を開ける。そして最初の展示室の中に入ると、大空間に10個の彫刻作品が並べられているのだ。

彼と親交があったフランク・ステラは、アンドレの素材そのままを生かす彫刻表現にこそ個性を見出していたという。まさにその通りで、アンドレの作品は同じくミニマル・アートを代表するアーティストであるドナルド・ジャッドのつるりと均質な表面を持った作品群とは違い、テクスチャーに自然素材ならではの乱雑さが残る。

《メリーマウント》(1980年)米杉の角材21本、展示風景より
《メリーマウント》(1980年)米杉の角材21本、展示風景より
《メリーマウント》(1980年)米杉の角材21本、展示風景より
《メリーマウント》(1980年)米杉の角材21本、展示風景より
手前:《鉛と亜鉛のスクエア》(1969年)鉛板50枚、亜鉛板50枚、奥:《フェロックス》(1982年)風化した熱延銅板91枚、展示風景より
手前:《鉛と亜鉛のスクエア》(1969年)鉛板50枚、亜鉛板50枚、奥:《フェロックス》(1982年)風化した熱延銅板91枚、展示風景より
《鉛と亜鉛のスクエア》(1969年)鉛板50枚、亜鉛板50枚、展示風景より
《鉛と亜鉛のスクエア》(1969年)鉛板50枚、亜鉛板50枚、展示風景より

例えば、今回の展示のポスターやフライヤーにも使われている《メリーマウント》(1980年)は米杉の角材を階段上に詰んだもので、近づくと木の匂いがふわりと鼻に届くほど素材の生々しさが迫ってくる作品である。さらに木材を良く見てみるとひび割れやささくれ、そしてシミまであり、繰り返しのパターンである形態に反してテクスチャーはひどく無秩序だ。自然素材ならではのこうした表面の色の違いやたわみなどは、360度ぐるりと作品の周りを回った時にまるで別の作品を複数鑑賞したかのような多彩な表情を見せている。

その他、冒頭でも述べた通り垂直方向に立った彫刻とは違い、水平に広がる形態も彼の作品の特筆すべき点である。第一展示室に展示されている《鋼鉄のスクエア第4番》(2008年)、《鉛と亜鉛のスクエア》(1969年)、《フェロックス》(1982年)という3つはどれもスクエア形に切られた金属の板が床に並べられた作品で、鑑賞者が上を歩くことが可能だ。(その他L字の熱延銅板を並べた《上昇》(2011年)と別室に展示された《亜鉛と亜鉛のプレーン》(1969年)、《鋼鉄のカーディナル第22番》(1974年)も上を歩くことが可能)

《上昇》(2011年)直角の熱延銅板21枚、展示風景より
《上昇》(2011年)直角の熱延銅板21枚、展示風景より

ユニット同士は接合されていないが、上を歩いても自重によってずれることはない。実際に乗ってみると ”作品を踏む” ということから芽生える静かな背徳感とともに、個を超えた不思議な感覚が芽生えてくる。ずっしりとした素材の重さやそこに働いている重力など目では捉えられないが物事を成り立たせている背景が、まるで詩の行間にある “何か” に触れたときのように浮かび上がってくる気がするのである。

フランク・ステラとの交流

最後に、この展示がDIC川村記念美術館で行われる意義について紹介したいと思う。

この美術館が多く所有しているアーティストに、フランク・ステラがいる。今回彼の作品<ブラック・シリーズ>の絵画作品1点・版画17点も今回のカール・アンドレの展示に合わせて展示されているのである。それはなぜか。ステラの名を世に知らしめた1959年のニューヨーク近代美術館「16人のアメリカ人」展に出品する際に、カタログの序文の執筆をした人物こそが、カール・アンドレだったからである。

“ フランク・ステラの絵画は何かを象徴していない。彼のストライプはカンヴァスの上を通った刷毛の跡である。これらの跡がただ絵画を成立させている”
カール・アンドレ著。ストライプ・ペインティングへの序文より引用

二人の出会いは1958年当時まで遡る。前述の通りステラのアトリエを借りていたアンドレとステラは徐々に親交を深め、時には熱い芸術談義を繰り返していたそうだ。深い会話を通して彼の考えに触れ、さらに制作過程まで知っていたアンドレだからこそ、ステラの手から一体何が生まれたのか、それがどれほどアートの歴史上意義のあることであったか理解していたに違いない。

常設展では、19世紀の終わりから近代までの作品が展示されている。印象派、キュビスム、エコール・ド・パリ、ロシア・アバンギャルド、シュルレアリスム、抽象表現主義と時代を追っていき、そしてミニマル・アートのフランク・ステラから企画展のカール・アンドレへと続く。

このように歴史に沿ってアートが辿った軌跡を体験できる構成となっており、さまざまな時代を見比べることでミニマル・アートの特異な点も引き立つことだろう。そしてフランク・ステラとカール・アンドレの作品を一度に見られるこの機会に、ミニマル・アートというムーブメントに内包された豊かな多様性もぜひ感じて欲しいと思う。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
DIC川村記念美術館|Kawamura Memorial DIC Museum of Art
285-8505 千葉県佐倉市坂戸631
開館時間:9:30〜17:00(最終入館時間 16:30)
休館日:月曜日、4月30日(火)、5月7日(火) ※ただし4月29日、5月6日は開館

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