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アートコラム

力強く壮大なキャンバスの宇宙。筆致に宿る静謐なるものに迫る ―
「若き巨匠・婁正綱(ろうせいこう)の世界展」が、5月23日(土)よりホワイトストーンギャラリー銀座本館にて開催

婁正綱 無題 Untitled acrylic on canvas 130cm×130cm 2019 © LZG studio
婁正綱 無題 Untitled acrylic on canvas 130cm×130cm 2019 © LZG studio

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幼い頃から父に書画を学び、1970~80年代の中国書画界の奇跡と言われた婁正綱(ろうせいこう)。1986年7月に来日して以降、長年日本を主な拠点としながら、世界的に活躍を続けている。婁正綱とは、一体どのような画家なのだろうか?

Lou Zhenggang 婁正綱(ろうせいこう) © LZG studio
Lou Zhenggang 婁正綱(ろうせいこう) © LZG studio

婁正綱は現在、眼前に水平線を一望できる伊豆のアトリエで制作を続けている。
国内外にコレクターや熱烈なファンも多い婁正綱について、ある人は、「人格者である」と明言する。

画面一杯に躍動する筆致は、力強く壮大である。しかし、そこには作品が持つエネルギーと相反するような静謐さが同居しているように思えてならない。はじめて婁の作品を見たときには、絵の表現と、絵が語るものの時差のようなものに戸惑いを覚えた。視覚に飛び込む表現の熱量に対して、慎重に作品に耳を澄ますような、普段、絵画というものを鑑賞するときに受ける感じとは少し異質の感覚であった。そこには、作者のどんな時間が留め置かれているのだろうか。

婁正綱 無題 Untitled acrylic on canvas 91cm×91cm 2019 © LZG studio
婁正綱 無題 Untitled acrylic on canvas 91cm×91cm 2019 © LZG studio

5月23日(土)からホワイトストーンギャラリー銀座本館にて「若き巨匠・婁正綱の世界展―コンテンポラリーアートとして華開く宋元画―」が開催される。最新作 50 余点が一堂に会する予定である。展覧会が開催されたら、婁正綱のキャンバスの宇宙に潜り込んで、その筆致に、何が宿っているのか、探ってみたい。

そんなことを考えていたときに、婁正網の絵画芸術についてのある論評(張保慶氏による※)に出会った。

婁の画業について、「中国の伝統的な書道という芸術から養分を吸収して、書(道)で画道を語るという書(道)と画の二つの道を一つにする大胆な試み」であるという。

「造形と表意の一体化を実現し、画家の魂と書画との融合に成功している。彼女のこのような試みと探求は、専門家等から広く賞賛を得ている。」

婁はもともと、自ら、言葉そのものに宿る精神を筆致に込めてきた卓越した書家であり、「残したい言葉」「こころの書『論語』」「心の言葉」などの言葉についての著作も多い。

© LZG studio

たとえば、この書の言葉は、「人間万事塞翁馬(じんかんばんじさいおうがうま)」。幸や不幸は予測し得えず、何が禍福に転じるかは分からない。といった意味の中国の故事にちなんだ言葉を婁が書にしたためたものである。

この書の真ん中に置かれた、線が縦に長く伸びた、万事の「事」の一文字は、人間が生きていくうえで、関わるさまざまな「事」を表している、という。

「その中にある幸福と禍は、連なる山と谷のように変化していくものです。物事というものは、現状だけ見て結果を決めるものではなく、長い目で見るべきなのです。だから、何が起こっても恐れず進んでいってほしいという願いを込め、横線の上を力強いまっすぐな縦線が突き抜けるように描いてみました。」
と書に込めた心を語っている。

もちろん絵画の作品は、書とは違い、その筆先から具体的な言葉や思考が造形化されたものではないが、婁の絵画の筆致には、何か書画にも通じる、画家の内にある静謐なものが漂うかのような、何かが留め置かれている。

それは当然作品によって響き方が違うが、はじめて婁の作品を観たときに感じた、絵の表現そのものと絵が語りだすものの時差、といった感覚の不思議さは、先ほどの論評にあった「画家の魂と書画との融合」という言葉によって解消され、婁作品の神髄に少しだけ近づけたような気がした。

宇宙空間になった渋谷のスクランブル交差点

最近、婁正綱の作品や活動を紹介しているSNSに興味深い画像が上がっていた。掲載許可を得て、こちらにも作品画像を紹介する。

無題 2019年
無題 2019年 © LZG studio

この作品は、まるで膨張していく宇宙にひろがる銀河団のような印象であるが、この作品のインスピレーションのもととなったものは、人で埋め尽くされた渋谷のスクランブル交差点を俯瞰した写真のようである。

もし実際に渋谷のスクランブル交差点に降り立てば、そこでは喧噪に包まれるはずであるが、この絵は、まるで壮大な宇宙空間の果てしのない無音の中にいるようである。耳をすませば、やがて、膨張していく宇宙のわずかな呻きが無音の中で聞こえてくる気がする、あるいは自身の細胞のうごめく、かすかな生命活動の音だけが聞こえてくるような、そんなふうに作品からの響きが感じて取れる。

新型コロナウイルス感染症拡大が心配される状況の中であるが、無事に展覧会が開催されたら(ギャラリー内でもソーシャルディスタンスを保ちながら)、婁の作品世界に浸ってみたいものである。その際には、作品が語りだすものに耳を傾けてみてほしい。静かに響き出す音(あるいは無音の)がきっと聴こえてくるはずである。

※「天下に丹青ありならば 世界の画壇にこの人あり——婁正網の絵画芸術を語る」張保慶
2009年12月号「婁正綱2010 日月之心図録」より

文・小林春日

展覧会 開催情報
「若き巨匠・婁正綱の世界展 ―コンテンポラリーアートとして華開く宋元画―」
会期 2020年5月23日(土)~2020年6月21日(日)
会場 ホワイトストーンギャラリー銀座本館
住所 東京都中央区銀座6-4-16
時間 11:00~19:00
休館日 月曜日, 日曜日
URL https://lzgstudio.com/exhibitions/detail/12
Lou Zheng Gang 婁正綱(ろうせいこう) アトリエ Ⓒ LZG studio

Lou Zheng Gang 婁正綱(ろうせいこう) 略歴

幼い頃から父に書画を学び、70‐80年代の中国書画界の奇跡と言われる。1986年渡日、海外に滞在、長期にわたり国際芸術の舞台で活躍し、中国文化を伝える。30年来、中国、日本、米国などで27回の個展と3回の巡回展を開催。中国現代精神を持つ彼女の作品は国内外の重要美術館とコレクターに収蔵されている。婁正綱は絶えず自己鍛錬し、表現力の高い材料の探求と類まれな書画技術、彼女独特の美学的見解と深い人文的素養により、「生命と愛」「日月同輝」「心」「和合」「生生」「自然」などのシリーズ作品を創作。婁正綱の創作は水墨を媒介に、「宇宙」を想像空間とし「愛」を創作のインスピレーションに、現代的・個性的な抽象を創造、中国伝統絵画と現代芸術観念の結合を体現している。

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