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きものの壮大な歴史絵巻が繰り広げられる、特別展
「きもの KIMONO」が、東京国立博物館で開催決定!

鎌倉時代から現代までを通史的に総覧し、着物文化の未来を占う、初めての大規模きもの展

記者発表会レポート

特別展「きもの KIMONO」 東京国立博物館(トーハク)

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尾形光琳の小袖、門外不出の秀吉の陣羽織、篤姫の衣装から、人間国宝 森口邦彦や芸術家 岡本太郎の現代の着物まで。

特別展「きもの KIMONO」が、東京国立博物館(上野)にて、来年4月14日から6月7日まで、開催されることが決まった。

我々日本人が、古来より日常的に身に纏っていた着物は、明治時代以降、洋装にとって替わられ、現在では、日本人にとって、伝統衣装であり、また同時に、現代の人々にもファッションの一部として受け継がれている。

来年開催予定の「きもの KIMONO」展では、“800年以上を生き抜き、今なお新たなファッション・シーンを繰り広げる「きもの」を現代を生きる日本文化の象徴として展覧し、その過去・現在・未来を見つめる機会”としている。

きもの文化の未来はどうなっていくのだろうか? 質・量ともに世界最大のきものコレクションを有する東京国立博物館にて、鎌倉時代から現代までを通覧し、着物文化の過去と現在、そして未来について考えたい。

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特別展「きもの KIMONO」
開催美術館:東京国立博物館 平成館
開催期間:2020年6月30日(火)〜2020年8月23日(日)
※4月開幕を予定していた会期が上記に変更となっています。
※期間中、展示替えがあります。

東京国立博物館では、1973年に特別展「日本の染織」を開催して以来、47年ぶりの大規模な染織の展覧会となる。本展では、国宝、重要文化財を含む染織作品、屛風や浮世絵などの絵画作品によって、鎌倉時代から現代までを通史的に総覧し、きものの壮大な歴史絵巻が繰り広がる、空前絶後の展覧会となりそうだ。

直接、小袖に秋草図を描いた、日本画家 尾形光琳による「冬木小袖」が登場。

重要文化財 小袖 白綾地秋草模様 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵
重要文化財 小袖 白綾地秋草模様 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵

江戸時代前期から中期にかけて活躍した日本画家 尾形光琳(1658-1716)が、江戸での寄宿先である深川の材木商・冬木家に滞在中、冬木家の奥方のために、白小袖に直接、墨と淡彩で秋草を描いたものである。

呉服商 雁金屋(かりがねや)に生まれた光琳だが、彼が直接小袖に描いた真筆は、「冬木小袖(ふゆきこそで)」の名称で知られるこの1領のみであり、完全なきものの形で遺っている。

欧米でのジャポニスムの流行によって、海を渡ったきものや浮世絵が、来年、日本に里帰り。初出展作品も。

誰が袖図屛風 江戸時代・17世紀 展示期間4月14日(火)~5月17日(日) アメリカ合衆国・メトロポリタン美術館蔵
誰が袖図屛風 江戸時代・17世紀 展示期間4月14日(火)~5月17日(日) アメリカ合衆国・メトロポリタン美術館蔵

「一体、誰の衣装なのだろうか?」
― そんな意味を持つ作品名の「誰が袖図屏風(たがそでずびょうぶ)」。

こちらは、メトロポリタン美術館(アメリカ・ニューヨーク)が所蔵している作品で、来年の特別展「きもの KIMONO」で、初めて里帰りを果たす。

明治維新以後、欧米におけるジャポニスムの流行によって海外に渡った日本美術の中には、きものや屛風などもあり、来年は、この「誰が袖図屏風」のほか、安土桃山時代のきもの、浮世絵などの里帰り作品が展示される。

日本史好き・武将好きは、絶対見逃せない!戦国武将の衣装で男の美学を堪能。門外不出の秀吉の陣羽織に、鳥毛でできた手の込んだ信長の陣羽織など。

陣羽織 黒鳥毛揚羽蝶模様 織田信長所用 安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵
陣羽織 黒鳥毛揚羽蝶模様 織田信長所用 安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵

戦国時代、天下統一を目指した3武将、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康が着用したと伝えられる衣装をはじめ、秀吉の正室であったおね(高台院)、側室であった淀殿(よどどの)ゆかりの衣装や肖像画、天璋院篤姫(てんしょういんあつひめ)の衣装などが展示される。

織田信長の陣羽織(上の画像)は、腰から上の黒いふさふさした部分は、すべて山鳥の毛で覆われているという。その中央には、信長の家紋といわれる白い揚羽蝶の紋様があしらわれているが、これは、山鳥の白い羽毛を一本一本刺しこんだ上で、カッティングが施されている。

衿や裾には南蛮風の襞が施され、外国趣味だった信長の趣向が伺える。戦国武将たちは、珍しい素材で突飛な技術を用いて比類ない衣裳を誂え、その雄姿を誇示した。

重要文化財 振袖 白縮緬地衝立梅樹鷹模様 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵
重要文化財 振袖 白縮緬地衝立梅樹鷹模様 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵

江戸時代中期、友禅染の技術が最高潮だった時代には、若衆たちもこのように派手な振袖で着飾ったという。

こちらは、衝立に留まる雄雄しい鷹が、絵画のように繊細かつ華やかに染められた開放的なデザインの振袖。

文明開化の後、大量生産ができるようになった時代、庶民も華やかな着物がきられるようになった。日本女性の日常着に、前代未聞の華やかさが到来。

振袖 淡紅綸子地宮殿模様 昭和時代・20世紀 千葉・国立歴史民俗博物館蔵
振袖 淡紅綸子地宮殿模様 昭和時代・20世紀 千葉・国立歴史民俗博物館蔵

文明開化のあと、西欧風のモダンな模様を染めた友禅やアール・デコ調のデザインなど、ヨーロッパのモードに連動した模様のきものが登場した。

特に銘仙(めいせん)は、まさに殖産興業によって絹の生産に力を入れた近代日本の象徴と言える。安価な絹を用い華やかな模様を化学染料で染めて織った銘仙は大量生産され、庶民が流行模様のきものでお洒落を楽しむ時代が訪れた。

この着物の模様に見覚えありませんか? ー
フランスに留学し、グラフィック・アートを学んだ森口邦彦の現代的なデザインの着物は、ショッピングバッグのデザインに用いられている。

友禅訪問着 白地位相割付文 「実り」 森口邦彦作 平成25年(2013) 前期展示4月14日(火)~5月10日(日) 東京・株式会社三越伊勢丹蔵
友禅訪問着 白地位相割付文 「実り」 森口邦彦作 平成25年(2013)
前期展示4月14日(火)~5月10日(日) 東京・株式会社三越伊勢丹蔵

戦後、きものは日常着として着られることが少なくなったものの、現代のグラフィックデザインを志向するきものや、インスタレーションとしてきものを制作する染織作家も現れるようになった。岡本太郎のような個性的な作家の作品や、人間国宝が制作するきものなど現代における「きもの」の多様な展開も紹介される。

森口邦彦作、《友禅訪問着 白地位相割付文「実り」》(2013)の模様は、三越のショッピングバッグのデザインに用いられている。

フランスに留学しグラフィック・アートを学んだ森口邦彦は、友禅染の重要無形文化財保持者(人間国宝)であった父・森口華弘が生み出した「蒔糊」の技法を用い、現代的なデザインを着物に構成した。森口邦彦も2007年に重要無形文化財「友禅」の保持者に認定され、親子二代に渡り、人間国宝となっている。

芸術家の岡本太郎も着物に強い関心を持ち、「絵画」を身に付けるものとして、着物デザインを手掛けた。

TAROきもの 岡本太郎原案 昭和49年頃(1974頃) 東京・岡本太郎記念館蔵 撮影:堤 勝雄
TAROきもの 岡本太郎原案 昭和49年頃(1974頃) 東京・岡本太郎記念館蔵 撮影:堤 勝雄

きものは、現代に至るまで多様に展開しながら成長し続ける日本独自の美の世界を体現している。

本展は、信長・秀吉・家康・篤姫など歴史上の著名人が着用したきものや、尾形光琳直筆の小袖に加え、「観楓図屛風(かんぷうずびょうぶ)」「婦女遊楽図屛風(ふじょゆうらくずびょうぶ)(または、松浦屛風(まつうらびょうぶ))」など、きものが描かれた国宝の絵画作品、さらに現代デザイナーによるきものなど200件以上の作品が一堂に展示される。

本展の記者発表会で、東京国立博物館 学芸研究部調査研究課工芸室長の小山弓弦葉氏は、「本展を通じて、日本人の誇るべき着物の文化が将来どのように変わっていくのか、ということへの考察のきっかけとなってほしい」といった本展の目的と、「着物は今もアップデートし続けているファッションである」という着物に対する思いを語っていた。

また、男性にも関心を持ってほしい、とも。本展では、「男の美学」を紹介する章もある。

日本の歴史の中で、我々日本人が、日常着としての着物を手放してから、まだ100年ほど。日本人の美意識が色や紋様、織りや染めの技術となって表れ、それを身に纏ってきたという、極めて固有な衣裳文化であり、今日では伝統衣装であり、ファッションの一部でもある。

日本人にとって、着物とは?

鎌倉時代から現代までを通覧できる、大規模きもの展で、あらためて着物の歴史や芸術性に触れながら、着物の過去や現在、そして未来を考えてみたい。

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特別展「きもの KIMONO」
開催美術館:東京国立博物館 平成館
開催期間:2020年6月30日(火)〜2020年8月23日(日)
※4月開幕を予定していた会期が上記に変更となっています。
※期間中、展示替えがあります。

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