FEATURE

人を幸福にするシャガールの彫刻作品を
紹介する「シャガール 三次元の世界」が開催

「初めて粘土を触った子供が楽しみながら作っているような作品が多い。その楽しさが伝わって、
人に幸福感を与えるのではないか」(東京ステーションギャラリー館長 冨田章氏談)

内覧会・記者発表会レポート

シャガール 三次元の世界  東京ステーションギャラリー
シャガール 三次元の世界 東京ステーションギャラリー
© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2017, Chagall ® E2707

内覧会・記者発表会レポート 一覧に戻るFEATURE一覧に戻る

シャガールが彫刻!?

これまで日本でほとんど紹介されることのなかった、シャガールの優れた彫刻作品を紹介する日本初の本格的な展覧会「シャガール 三次元の世界」が、東京ステーションギャラリーで、2017年9月16日(土)から開催されている。

美術館・博物館情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「シャガール 三次元の世界」
開催美術館:東京ステーションギャラリー
開催期間:2017年9月16日(土)~2017年12月3日(日)

シャガールの彫刻は、ピカソ、マティス、ダリ、ミロなどの20世紀の巨匠たちの手掛けた彫刻作品とも全く異なる、独自の作品世界である。

シャガールといえば、愛しあう恋人たち、花束、ニワトリ、ギター、牛、といったモチーフが、思い浮かぶのではないだろうか?それらが、愛や優しさが込められたタッチで、夜空や部屋の中を浮遊するように自由な構図と美しい色彩で描かれている。

シャガールが1915年に描いた「誕生日」と題した作品(ニューヨーク近代美術館蔵)がある。シャガールの誕生日に花束を抱えて彼の部屋を訪れた恋人のベラに、シャガールは体をふわりと宙に浮かせ、首を捻じ曲げてベラに口づけをする、愛しあう二人の高揚感が色彩豊かに描かれている。そして、1915年7月7日のシャガールの誕生日からほぼ2週間後、二人は正式に結婚している。

1923年、再びシャガール自身によって、この作品は、原画に忠実に模写されている。それから半世紀近くを経た1968年、「誕生日」は立体作品となる。花束を抱えたベラと首を捻じ曲げて口づけをするシャガールが、大理石の白肌に優しく浮かび上がる。展覧会場には、1923年に描かれた絵画作品と立体となった彫刻作品が並べられている。

シャガールの彫刻をあらわす3つの特徴

東京ステーションギャラリーの館長 冨田章氏によると、シャガールの彫刻作品には、主に以下3つの特徴があるという。

一つ目に、大理石などの石彫の彫刻が多いこと。画家が彫刻を作る場合には、比較的造形のしやすい粘度を用いた塑像が一般的で、造形の難しい彫像、それも石彫を選ぶのは珍しいことなのだそうである。シャガールは、63歳にして彫刻はじめたにも関わらず、造形が難しく、高い技術を要する石彫に挑戦したことは特徴的である。

二つ目に、他の巨匠たちが、人物でも動物でも絵画の中のモチーフをひとつ取り出して彫刻に造形する傾向にあるのに対して、シャガールは絵画全体を彫刻にする。つまりひとつの彫刻の中に複数のモチーフが混在しており、時にはその背景となる空間までも彫刻の中に取り込んでいる。展開すると一枚の絵になるような造型は、中世ロマネスクのような、プリミティブな感じもあり、20世紀の彫刻作品においては珍しいものである。

三つ目に、石彫は、塑像のように素材を追加することができないため、元々の石そのものの形を用いて、彫刻を仕上げていく必要があり、制約のある素材で作品を完成させている、という点である。素材のもつ形の制約、枠組みを活かして造型することをシャガールは好んでやっていたそうである。

二次元と三次元を行き来するモチーフ

会場に展示されている作品で、石膏とブロンズのそれぞれの素材による「空想の動物」という2体の彫刻作品がある。中型犬ほどの大きさの四足動物で、ゆっくりとしながやに歩みを進めようとしている体躯。ふわっとした先は細めに伸びた長めの尾を持ち、胴体は、ふっくらとした丸みを帯びる。その動物の胴体には、お尻から頭部に掛けて、抱き合う恋人たちの姿が横たわって浮かんでいる。

付け足すことのできない制約ある素材の中で二次元の世界が三次元になったシャガールの彫刻作品ゆえに、抱き合った恋人たちは、動物のお腹の部分にしか登場し得なかった。絵画と彫刻を行き来するシャガールのモチーフが、二次元と三次元にそれぞれどう表れているか、という点を見比べることのできるのは、この展覧会の醍醐味のひとつである。

日本初公開作品を多数含み、油・水彩70点、彫刻・陶器60点、素描・版画等40点が公開されている。聖書を題材にとった一場面や愛の喜びを奏でる牧歌的な一場面など、シャガールが作品の中に重層的に表現してきた様々なモチーフが、絵画や版画と三次元の世界を行き来しながらも、立体作品においてどのような物語を紡ぎ出していくのかが見どころである。心が満たされるシャガールの作品世界をぜひ堪能してほしい。

美術館・博物館情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「シャガール 三次元の世界」
開催美術館:東京ステーションギャラリー
開催期間:2017年9月16日(土)~2017年12月3日(日)

参考文献:
「シャガール 三次元の世界」展図録 キュレイターズ発行

FEATURE一覧に戻る内覧会・記者発表会レポート 一覧に戻る

FEATURE一覧に戻る内覧会・記者発表会レポート 一覧に戻る