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宇宙に浮かぶ星のように美しい輝きを放つ
「曜変天目茶碗」はじめ国宝9件を所蔵する
藤田美術館の全貌に迫る。

内覧会・記者発表会レポート

国宝 曜変天目茶碗(部分) 中国・南宋 藤田美術館
国宝 曜変天目茶碗(部分) 中国・南宋 藤田美術館

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2019年4月13日(土)から、奈良国立博物館で開催がスタートする「国宝の殿堂 藤田美術館展 ―曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき―」は、希少な「曜変天目茶碗」が出展されることで話題を呼んでいる。展覧会の開催に先立ち、先月2月19日、日本プレスセンターにて記者会見が行われた。

「奈良国立博物館は1895年(明治28年)の設立で、当初から仏教美術を中心としてきたが、藤田美術館が所蔵する2000件あまりのコレクションは奈良にゆかりのある仏教美術が多い。世界に3つしかない「曜変天目茶碗」の一つを含む国宝全9件と仏教美術を中心とした展覧会となる。あわせて、コレクターとしての藤田傳三郎の功績にも光を当てる。」

奈良国立博物館 副館長の湊 公夫(みなときみお)氏による冒頭の挨拶から、記者会見が始まった。

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特別展「国宝の殿堂 藤田美術館展  曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき」
開催美術館:奈良国立博物館
開催期間: 2019年4月13日(土)~2019年6月9日(日)
藤田 傳三郎
藤田 傳三郎(ふじたでんざぶろう)

大阪市の中心部にある藤田美術館は、国宝9件、重要文化財53件を含む世界屈指の日本・東洋美術のコレクションを所蔵する私立美術館である。

明治期に大阪で活躍した実業家・藤田傳三郎(ふじたでんざぶろう 1841~1912)とその長男 平太郎、次男 徳次郎の二代3人によって収集された美術工芸品を公開するため、昭和29年(1954)に開館した。

約2000件におよぶコレクションは、茶道具、水墨画、墨蹟、能装束、絵巻、仏像、仏画、経典、仏教工芸、考古資料など多岐にわたり、その中には奈良にゆかりのある仏教美術が数多く含まれ、今回の「藤田美術館展」では、それらの仏教美術に焦点が当てられている。

現在、藤田美術館は、施設の全面的な建替えに伴い、2017年6月より休館中であるが、2022年4月には、リニューアルオープンを予定している。

来月4月13日(土)より、奈良国立博物館で開催される展覧会は、現在休館中の藤田美術館の名品を奈良国立博物館新館の全展示室を使用して紹介するかつてない規模の展示となる。

世界に三碗しか存在しないと言われる国宝「曜変天目茶碗」をはじめ、「玄奘三蔵絵」「両部大経感得図」「仏功徳蒔絵経箱」などの仏教美術を中心に、館外初公開を含む多彩なコレクションが紹介される貴重な機会となる。

また、膨大な私財を投じて、近代以降散逸の危機にあった文化財を収集し、“国宝の殿堂”と呼ぶにふさわしいコレクションを築いた藤田傳三郎らの功績にも光を当てる。

展示作品と見どころについて、奈良国立博物館 学芸部情報サービス室長の岩井共二氏による解説があった。

展覧会の見どころは、一つ目に、国宝「曜変天目茶碗」を特殊なケースと照明装置で、ぐるり360度鑑賞できる展示であること。

二つ目に、国宝9件、重要文化財53件の全てが出品されること。※ただし前期展示(4月13日~5月12日)と後期展示(5月14日~6月9日)で入れ替えあり。

三つ目に、館外初公開の作品や、近年の調査による発見が紹介されること、を挙げている。

国宝 曜変天目茶碗(部分) 中国・南宋 藤田美術館
国宝 曜変天目茶碗(部分) 中国・南宋 藤田美術館

藤田美術館のコレクションの中でも特に有名なものが、茶碗をはじめとする「茶道具のコレクション」である。第一章では、「曜変天目茶碗と茶道具」が紹介される。

現存するものは世界に三碗しかない「曜変天目茶碗」。瑠璃色の斑文が星のように輝き、さながらお碗の中に宇宙を見る感がある。藤田美術館所蔵の本品は、徳川家康が所蔵していたもので、水戸徳川家から藤田家へと伝わった。

今春、その、世界で三碗しかない国宝「曜変天目茶碗」が、奈良国立博物館MIHO MUSEUM静嘉堂文庫美術館の3館で、それぞれ同時期に展示されるという、比較鑑賞が可能な、千載一遇の好機が訪れる。

◎世界で三碗しかない国宝「曜変天目茶碗」が、MIHO MUSEUM、静嘉堂文庫美術館にても同時期に展示
MIHO MUSEUM 「大徳寺龍光院 国宝曜変天目と破草鞋(はそうあい)」
開催期間:2019年3月21日(木・祝)〜2019年5月19日(日)

静嘉堂文庫美術館 「日本刀の華 備前刀」
開催期間: 2019年4月13日(土)〜2019年6月2日(日)

藤田傳三郎が長年憧れ続け、亡くなる直前に最後に入手した「交趾大亀香合(こうちおおがめこうごう)」

重要文化財 交趾大亀香合 中国・明 藤田美術館
重要文化財 交趾大亀香合 中国・明 藤田美術館

藤田傳三郎が長年憧れ続け、亡くなる直前に最後に入手した品が「交趾大亀香合(こうちおおがめこうごう)」(明時代)。千利休ゆかりの品である「交趾大亀香合」が、一番最初のコーナーに展示される。

藤田美術館の館長 藤田清氏は、交趾大亀香合について、こう述べている。
「交趾大亀香合は、江戸時代、幕末の安政2年に流布した“形物香合番付”で東大関という最高位の評価を得た品で、藤田傳三郎が亡くなる前の明治45年3月に、当時のお金で9万円を支払い、やっとの思いで手に入れた香合である。

傳三郎は、美術品を守ろうというのが第一で、収集のジャンルは多岐にわたる。そこで、通常コレクターの好みというのは分かりやすいものだが、傳三郎個人の好みは分かりづらい。ただ、念願の作品がこの交趾大亀香合だったことから、傳三郎の趣味は、意外とかわいい作品が好きだったと言えるのではないだろうか。」

第二章「墨蹟と古筆」。和歌を書写した平安時代の巻子(かんす) 国宝「深窓秘抄」、中世の禅宗文化を代表する詩画軸 国宝「柴門新月図」などが展示。

国宝 深窓秘抄(しんそうひしょう) 平安時代 藤田美術館
国宝 深窓秘抄(しんそうひしょう) 平安時代 藤田美術館

掛け軸にされた漢詩や和歌は、茶室の床の間に掛けられる“茶掛け”として用いられてきた。茶の湯を愛した藤田傳三郎は、禅僧の書である墨蹟や古筆(こひつ:特に平安時代から鎌倉時代にかけての和歌などの名筆)も数多く収集した。

第二章「墨蹟と古筆」では、和歌を書写した平安時代の巻子(かんす)である 国宝「深窓秘抄(しんそうひしょう)」をはじめとする書跡とともに、中世の禅宗文化を代表する詩画軸である国宝「柴門新月図」なども紹介展示する。

国宝 柴門新月図(部分)室町時代 応永12年(1405) 藤田美術館
国宝 柴門新月図(部分)室町時代 応永12年(1405) 藤田美術館

廃仏毀釈などにより、明治維新を機に、奈良のお寺関係から流出する憂き目にあっていた美術品を、藤田は散逸を防ぐ目的で数多く収集した。

国宝 両部大経感得図 藤原宗弘筆 平安時代 保延2年(1136)藤田美術館
国宝 両部大経感得図 藤原宗弘筆 平安時代 保延2年(1136)藤田美術館

明治維新を機に奈良のお寺関係から流出する憂き目にあっていた美術品を、藤田は散逸を防ぐ目的で数多く収集した。

国宝「両部大経感得図」は、奈良県天理市にあった内山永久寺伝来の平安時代やまと絵の特徴を示している。内山永久寺は明治時代の初めまであったが、廃仏毀釈で廃寺となっている。

国宝 紫式部日記絵詞(部分) 鎌倉時代 藤田美術館
国宝 紫式部日記絵詞(部分) 鎌倉時代 藤田美術館

また、国宝「紫式部日記絵詞」は鎌倉時代の作で、その後いくつかに分断されて現存する。王朝の雅を華麗に表現している。

これらの作品が展示されている第三章は、「物語絵と肖像」をテーマとしている。

仏師 快慶の晩年の作である、極彩色に彩られた繊細で優美な「地蔵菩薩立像」が、CTスキャンによる断面図の確認により、新発見がもたらされた。

重要文化財 地蔵菩薩立像(部分) 快慶作 鎌倉時代 藤田美術館
重要文化財 地蔵菩薩立像(部分) 快慶作 鎌倉時代 藤田美術館

第四章は、「仏像」がテーマである。鎌倉時代を代表する仏師 快慶の晩年の作である極彩色に彩られた重要文化財の「地蔵菩薩立像」は、興福寺伝来である。彩色も制作当初のもので、繊細かつ優美な作品である。

学術調査の一環としてCTスキャンによる断面図を確認したところ、新発見がもたらされた。

鎌倉時代の仏像は、一般的に寄せ木造りというのが常識であったが、CTスキャンの結果、この地蔵菩薩立像は完全な一木造りであることが判明した。

第五章では、「尊像と羅漢」をテーマに、藤田美術館のコレクションのうち、主に仏画の名品が登場する。

仏像彩画円柱(部分) 鎌倉時代 藤田美術館
仏像彩画円柱(部分) 鎌倉時代 藤田美術館

西大寺伝来と伝えられる「仏像彩画円柱」は、全長3メートルの鎌倉円柱で、館外では初公開となる。

仏教美術のなかの工芸品の紹介をするのは、第六章「荘厳と法具」。

国宝 花蝶蒔絵挾軾 平安時代 藤田美術館
国宝 花蝶蒔絵挾軾 平安時代 藤田美術館

挾軾(きょうしょく)とは、体の手前に置く肘つきで、国宝「花蝶蒔絵挾軾」は平安時代の作品として蒔絵の初期の作例である。

薬師寺に伝来した、奈良時代の「大般若経」全600巻のうち、実に387巻もが藤田美術館には所蔵されている。第七章では、「仏典」を紹介

国宝 大般若経 奈良時代 藤田美術館
国宝 大般若経 奈良時代 藤田美術館

薬師寺に伝来した、奈良時代の「大般若経」全600巻のうち387巻が藤田美術館には所蔵されている。

藤田傳三郎は茶道とともに能を愛好した。第八章「面と装束」では、藤田家が愛した芸能に関わる品々として、伎楽面・舞楽面・能面・能装束を紹介する。

藤田傳三郎は、自らのコレクションについて、古代から近代に至る各分野を体系的に収集したと語っている。また、収集した美術品を一般に公開することを希望していた。

第九章「多彩な美の殿堂」では、藤田家に伝えられた工芸品や考古資料などの、多彩なコレクションが紹介される。

以上の全九章からなる展示構成となる。

「大名旧家や寺社に伝えられてきた文化財の多くが、明治維新を機に、海外へ流出したり、国内で粗雑に扱われたりすることに危機感を覚えた」という藤田傳三郎。

長年に渡り、膨大な私財を投じて文化財の収集に尽力した藤田によって、わが国にとっての貴重な宝である美術品の数々が散逸を免れ、今に守り伝えられてきたことは、藤田傳三郎の偉大な功績といえるのではないだろうか。

藤田が美術品を深く愛好する想いは、嗣子らに受け継がれ、「これらの国の宝は一個人の私有物として秘蔵するべきではない。広く世に公開し、同好の友とよろこびを分かち、また、その道の研究者のための資料として活用してほしい」と、1954年に開館されたという藤田美術館。

その藤田美術館のコレクションである、国宝9点、重要文化財53点を含む、名品の数々を一堂にできる貴重な機会を、ぜひ堪能したい。

※参考:藤田美術館 公式ウェブサイト

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