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岡本太郎の“言霊”を現代に甦らせた『タローマン』
藤井亮監督が語る型破りな特撮ドラマの舞台裏

8月22日より公開の映画『大長編 タローマン 万博大爆発』に込められた岡本太郎の「でたらめ」で「べらぼう」な精神とは?

映画レポート・映画評

深夜の5分番組から上映時間105分の劇場版となった『大長編 タローマン 万博大爆発』
深夜の5分番組から上映時間105分の劇場版となった『大長編 タローマン 万博大爆発』

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インタビュー・文 長野辰次

20世紀を代表する芸術家・岡本太郎と、日本が世界に誇るエンターテイメントである特撮ドラマを融合させたアバンギャルドなテレビ番組が2022年7月に放映された。それが藤井亮監督による『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』(NHK Eテレ)だ。1話につき5分というミニ番組ながら、全10話が深夜に放映された。

1970年代に放映された特撮ドラマ『タローマン』が、NHKで再放送され、『タローマン』の大ファンだったというロックバンド「サカナクション」の山口一郎が番組後半で『タローマン』の思い出を振り返るというもの。

実は『タローマン』なる番組は1970年代には放送されていない。ほとんどの人には知られていない幻の特撮ドラマがあった ー という体裁のフェイクドキュメンタリーとして『TAROMAN』は放映されている。

「芸術の巨人」タローマンが、予測不能な活躍を見せる
「芸術の巨人」タローマンが、予測不能な活躍を見せる

NHKらしくない、型破りなこの番組は、岡本太郎の作品をモチーフにした奇妙なキャラクターたちと共にSNS上で大きな反響を呼ぶことになった。2022年12月には『日曜美術館』の司会でおなじみの井浦新がナビゲーターを務め、特撮ドラマに詳しい樋口真嗣監督らが出演した検証番組『タローマンヒストリア』(NHK総合)、2023年8月には30分の特別番組『帰ってくれタローマン』(NHK総合)が放映され、さらなる話題を集めている。

『タローマンなんだこれは入門』(小学館)や『タローマン・クロニクル』(玄光社)などの関連本も続けて出版され、番組もDVD化された。そして、ついに劇場版『大長編 タローマン 万博大爆発』が8月22日(金)から全国公開される。岡本太郎の作品のみならず、岡本太郎の生き方もリスペクトしている藤井監督に、『タローマン』誕生の舞台裏を語ってもらった。

映像作家、クリエイティブディレクターとして活躍する藤井亮監督
映像作家、クリエイティブディレクターとして活躍する藤井亮監督

藤井亮監督プロフィール

1979年愛知県半田市出身。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業。電通関西オフィスで、アートディレクター、CMプランナー、CMディレクターとしてキャリアを積む。2020年に「豪勢スタジオ」を設立。2016年に滋賀県の「石田三成CM」、2022年にガチャポンについてのフェイクドキュメンタリー映像「カプセルトイの歴史」」が話題となる。NHK Eテレで放映された『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』では、監督・脚本・構成・キャラクターデザイン・イラスト・光線アニメーション・小道具を手掛けた。

岡本太郎の代表作の数々が「奇獣」として登場する
岡本太郎の代表作の数々が「奇獣」として登場する

岡本太郎の名言が、タローマンの必殺技に

特撮ドラマ『タローマン』は、シュールレアリズム星からやってきた「芸術の巨人」タローマンが、「奇獣」と呼ばれる怪獣たちと闘うというのが基本的なストーリーだ。タローマンの顔は、岡本太郎が大阪万博の前年1969年に造った《若い太陽の塔》がモチーフとなっている。また、奇獣たちも岡本太郎の代表作である《森の掟》、パリ時代の1936年に描いた《傷ましき腕》などがベースになっている。

『タローマン』の主題歌「爆発だッ! タローマン」には、岡本太郎の名言の数々が歌詞として散りばめられている。「うまくあるな きれいであるな ここちよくあるな」など岡本太郎が発した珠玉の言葉は、常識に縛られ、採算効率に価値を求める現代人の耳に突き刺さるのではないだろうか。

そしてタローマンの必殺技は、岡本太郎が残した「芸術は爆発だ!」という肉声だ。数々の危機を、タローマンは言霊パワー溢れるこの言葉を発することで打開していく。岡本太郎が縄文式土器の美しさに感動して口にした言葉「なんだこれは!」もたびたび挿入される。岡本太郎の生き方そのものを、ユーモラスに映像化したのが『タローマン』だと言えるだろう。

大阪万博のシンボルタワー《太陽の塔》が大暴れすることに
大阪万博のシンボルタワー《太陽の塔》が大暴れすることに

「これがやりたい」という純粋な気持ちでの提案

大学時代に万博公園を訪ね、そびえ立つ《太陽の塔》の巨大さに驚き、感銘を受けたという藤井監督に、『タローマン』誕生の経緯を語ってもらった。

藤井「2022年に『展覧会 岡本太郎』が開催されることから、NHKで何か番組ができないかというのが始まりでした。岡本太郎に関するドキュメンタリーやドラマはすでにちゃんとしたものが作られていたので、新しく面白いものは何ができるか悩みました。5分間という放送枠もあり、これは難しいなと。そこで大学時代に観た《太陽の塔》などの岡本太郎の巨大な作品を動かしてみたら楽しいんじゃないかと思い、特撮ドラマにすることを考えたんです。岡本太郎をモチーフにした特撮ドラマができればすごく面白いだろうなとは思ったのですが、さすがにNHKでは難しいかなとも感じていました。でも、『僕はこれがやりたいんです』と純粋な気持ちで提案した企画です」

これまでにも戦国時代の武将・石田三成の功績を讃えた「滋賀県CM」、クレイアニメと2Dアニメを組み合わせた『別冊オリンピア・キュクロス』(TOKYO MX)など、奇抜な映像作品を藤井監督は手掛けてきた。NHKでの『タローマン』放送の反響はどうだったのだろうか?

藤井「賛否両論かなと覚悟していたのですが、厳しい声は思ったよりも少なかったですね。割合にすると1%くらいでしょうか。実在しない架空の番組をさもあったかのように伝える『フェイクドキュメンタリー』スタイルの番組だったため、途中から観た人は勘違いしてしまうなどの指摘もあり、その点に関してはきちんと対応させてもらいました。岡本太郎は『好かれるヤツほどダメになる』とも言っていましたが、自分が監督した作品が酷評されるとやはり精神的なダメージを受けますから、『タローマン』が受け入れられてよかったです(笑)」

「サカナクション」の山口一郎と岡本太郎の壁画《明日の神話》
「サカナクション」の山口一郎と岡本太郎の壁画《明日の神話》

芸術とロックとのコラボレーション

人気バンド「サカナクション」の山口一郎を解説者に起用した経緯も気になるところだ。

藤井「架空の番組について語ってくれる人は誰にするのかも、かなり考えました。俳優の方に頼むと演技っぽくなってしまいますし、芸人の方だとお笑い寄りになってしまうかもしれない。それで、俳優でもなく芸人でもなく、岡本太郎が好きな人を探したんです。山口さんは岡本太郎の著書(『強く生きる言葉』『壁を破る言葉』『愛する言葉』)を影響を受けた本として挙げていたこともあり、『これはもう山口さんしかいない』とお願いしました。ふざけるなと怒られないかと心配だったんですが、快諾してもらえました(笑)」

『帰ってくれタローマン』のエンディングでは、山口が主題歌「爆発だッ! タローマン」をフルコーラスで熱唱してみせている。岡本太郎が残した宝石のような言葉の数々と「サカナクション」山口一郎との素晴らしいコラボレーションとなっているので、機会があればぜひ視聴してみてほしい。

TVシリーズでおなじみの鷲野社長と部下は、劇場版にも出演
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物づくりしている人間の心に刺さる岡本太郎の言葉

岡本太郎は戦前のパリで多くの芸術家たちと交流し、パリ大学で民族学を学び、戦時中は従軍経験という芸術家としての凍結期間も味わっている。戦後は前衛芸術の第一人者となり、さらにパブリックアート、壁画、写真、商業デザインなどの分野でも大いに活躍した。特撮映画『宇宙人東京に現わる』(1956年)では宇宙人「パイラ人」のキャラクターデザインを手掛けている。さまざまな知見や体験に基づく岡本太郎の言葉は、彼の作品と同様に生命の躍動を感じさせるものが多い。

藤井監督は『タローマン』をストーリーからではなく、まず岡本太郎が残した名言の数々をセレクトし、その言葉が生きるような形の物語を考えたという。

数ある岡本太郎の名言の中でも「同じことを繰り返すくらいなら死んでしまえ」という言葉に、藤井監督は惹かれるそうだ。

藤井「仕事をしていると、どうしても同じようなことの繰り返しになってしまいがちです。岡本太郎の言葉のようには、なかなかできません。それでも、少しでもそれまでとは違ったものになるように努めています。物づくりをしている人間にとって、岡本太郎の言葉は心に刺さるものがあります。励まされるというか、自分の心を奮い立たせてくれるものがありますね。岡本太郎は『マイナスに飛び込め』とも言っています。どうしても、仕事をしていると安全なものをつくろうとする自分を戒めてくれる言葉でもあるように思うんです」

2019年まで電通関西オフィスに勤めていた藤井監督だが、子どもが生まれる3日前に会社を退職し、映像クリエイターとして独立している。「子どもの顔を見たら、リスクのあることはできなくなるんじゃないかと思ったんです」と藤井監督は笑って語ってくれた。岡本太郎の生き方と言葉は、藤井監督に強い影響を与えたようだ。

タローマンを演じる岡村渉はスーツアクターではなく、マイム俳優として知られている
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伝統芸能化した日本の特撮ドラマ

1979年生まれの藤井監督は、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』(TBS系)などの特撮ドラマをリアルタイムで視聴していた世代ではない。『ウルトラ怪獣大百科』(講談社)や『ウルトラマン大百科』(勁文社)といった図書から、特撮ドラマに親しんだという。

藤井「僕が子どものころは特撮ドラマは放送していませんでした。いろんな特撮ドラマを紹介している大百科シリーズなどを読み、自分が観たことのない特撮ドラマを頭の中で妄想して楽しんでいたんです。存在しない番組をフェイクドキュメンタリーにした『タローマン』の原点だと言えるかもしれませんね」

手間のかかる特撮ドラマの制作だが、藤井監督はさらに細かい演出を見せている。完成した映像を一度ビデオ化してエイジング処理を施し、キャストの声はあえてアフレコで録音するなど、1970年代の特撮ドラマらしいレトロな雰囲気が出るようこだわっている。

藤井「大変さが99ですね。でも、残り1の楽しさがあるので、できるんです。自分の頭の中で想像していたものが、次第に形になっていく過程は面白いです」

世界的に大ヒットした映画『ゴジラ』(1954年)以降、日本では数多くの怪獣映画、特撮ドラマが制作されてきた。藤井監督いわく「着ぐるみの怪獣を操演するスタイルは、日本の伝統芸能である文楽などにも通じるものがあるように思います」とのことだ。昭和期に進化を遂げた特撮ドラマは、もはや日本の伝統文化のひとつになっているのかもしれない。

劇場版のタローマンは、1970年代から「昭和100年」へとタイムトリップする
劇場版のタローマンは、1970年代から「昭和100年」へとタイムトリップする

タローマンは何と闘っているのか?

劇場公開される『大長編 タローマン 万博大爆発』では、タローマンは「昭和100年」となる2025年にタイムトリップすることになる。常識を守ることが最優先される「未来社会」での闘いをタローマンは強いられる。タローマンの仲間「でたらめ8兄弟」が登場するなど、劇場版らしい「べらぼう」な展開が待っているのも見どころだ。

藤井「僕としては『帰ってくれタローマン』でやり切った感はあったのですが、映画会社のアスミック・エースさんから『ぜひ劇場版を』というお話をいただき、今年は昭和100年であり、大阪万博が再び開催されることもあったので、そこから新しいものができないか考えたんです。岡本太郎記念現代芸術振興財団の方たちはテレビシリーズを喜んでくれました。『映画業界のしがらみにとらわれずに、藤井監督が本当に面白いと思うものを作ってほしい』と劇場版も許可をいただき、後押ししてもらったんです」

最後に「タローマンは何と闘っているのか?」という問いに、藤井監督はこう答えてくれた。

藤井「……常識でしょうか? それとも、タローマンは何とも闘っていないのかもしれません。もしくは岡本太郎的に考えれば、自分自身と闘っているのかもしれませんね」

岡本太郎ファンも、特撮ドラマ愛好家も、劇場で「なんだこれは!」と思わず叫ぶことになるだろう。そして、自宅への帰り道、タローマンの主題歌を口ずさみながら、常識から少しだけ解放された自分がいることに気づくはずだ。

「でたらめな巨人」タローマンは、命懸けで遊ぶことをポリシーとしている
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映画『大長編 タローマン 万博大爆発』
監督・脚本 藤井亮
音楽 林彰人
出演 タローマン、太陽の塔、地底の太陽、水差し男爵、縄文人、明日の神話
解説 山口一郎(サカナクション)
配給 アスミック・エース 8月22日(金)より全国公開
©2025『大長編タローマン万博大爆発』製作委員会
『大長編 タローマン 万博大爆発』公式サイト
https://taroman-movie.asmik-ace.co.jp/
映画『大長編 タローマン 万博大爆発』本編〈冒頭〉映像【8月22日(金)公開】

長野辰次

福岡県出身のフリーライター。「キネマ旬報」「映画秘宝」に寄稿するなど、映画やアニメーション関連の取材や執筆が多い。テレビや映画の裏方スタッフ141人を取材した『バックステージヒーローズ』、ネットメディアに連載された映画評を抜粋した電子書籍『パンドラ映画館 コドクによく効く薬』などの著書がある。

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