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文/写真・赤坂志乃

日常生活に必要なものとしてつくられ、使われてきた民具。あらためて観察すると、造形の面白さや身近な素材を活かす知識と技、そこに宿る自然観や世界観にハッとさせられる。

国立民族学博物館で開催中のみんぱく創設50周年記念特別展「民具のミカタ博覧会―見つけて、みつめて、知恵の素」は、1970年の大阪万国博覧会のために世界各国で収集された民具（EEMコレクション）と、同時代に日本文化の多様性に着目し全国規模で収集された武蔵野美術大学 美術館・図書館所蔵の日本の民具（ムサビ・コレクション）から選りすぐりの民具と資料約1300点を、さまざまな切り口で紹介。民具の魅力を来館者それぞれが「見つけて、みつめて、知恵の素」を探る楽しさがあふれている。

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みんぱく創設50周年記念特別展
「民具のミカタ博覧会―見つけて、みつめて、知恵の素」
開催美術館：国立民族学博物館
開催期間：2025年3月20日(木・祝)〜6月3日(火)

パビリオンを巡るように楽しむ、世界と日本の暮らしの造形

展覧会は、民具の見方を手引きするガイド展示からスタート。素材や模様、手間、何が表現されているのか、誰がどう使っていたのか、想像力を働かせながら民具を観察する5つのポイントが提示されている。ここを押さえておくと、民具をめぐる旅がぐんと楽しくなる。

博覧会をイメージし、1階はシンボルタワーを中心に、放射状に「第1章 かたちと身体性」、「第2章 ユーモアと図案」、「第3章 見立てと表象」で構成。どこから巡っても構わない。

第1章かたちと身体性は、民具の造形がどのような身体性から生まれたのか、14のトピックで紹介。「雪の歩きかた」「シェアして育くむ絆」など一つひとつが博覧会のパビリオンのように独立していながら、全体としてのつながりも連想できる。各トピックにEEMコレクションが1点とムサビ・コレクション4～5点を展示。身体感覚で想像しながら「知恵の素」を探ってみよう。

第2章 ユーモアと図案は、民具の装飾性に着目し、「怖くない獅子」「マジカルな鈴」など11のトピックを展示。身近な動植物や空想上の生き物、祖先や精霊のイメージがモチーフとなっており、観察や想像力でその性格を誇張したり、大胆にデフォルメしたり、デザイン性豊か。どこかユーモラスで観察し飽きない。

第3章 見立てと表象では、儀礼や信仰にまつわる民具が登場。神や祖先、精霊との交信や交歓の媒介となる民具を「夢にみた風景」「のっぺらぼう」など11のトピックで紹介している。身近な素材に手を加えて別のものに見立てたり、異界との交信に音を使うなど創意工夫が凝らされている。世界と日本各地の民具から多様な世界観や共通して幸せを祈る姿が見えてくる。

それぞれの民具の「ミカタ」をシェアしよう

今展は、来館者それぞれに「知恵の素」を見つけてもらおうと、参加型のワークショップ・ベースを設けているのも大きな特色だ。「押しミング総選挙」と題して、トピックごとに来館者が感じた推しポイントを「表現が面白い」「模様がすてき」など5つのミカタで投票。また、自分がぐっときた民具を選んでスケッチする「ミカタアトリエ」、難しい民具の読み方に挑戦する「民具漢字ドリル」など、ぜひ参加して民具愛を深めたい。

民具コレクションは、生活文化の造形アーカイブ

続く2階では、第4章ムサビ・コレクション、第5章EEMコレクションとして、今展で取り上げた2つのコレクションについて詳しく解説している。

ムサビ・コレクションは、武蔵野美術大学 美術館・図書館が、美大生の学びのために所蔵する約9万点の民俗資料。旅する巨人と称された民俗学者の宮本常一が当時の学生や若者たちと共に活動した生活文化研究会と、近畿日本ツーリスト日本観光文化研究所で収集した民具がその核となっている。

第4章の展示では、民俗資料室の収蔵庫の一部を再現。宮本常一が1967年に創刊した雑誌「あるくみるきく」1号～263号全巻（日本観光文化研究所発行）や、宮本が確立した民具の調査手法の一つである実測図などの貴重な資料を紹介している。

もう一つ展示の柱となっているEEMコレクションは、EXPO’70のテーマ館「太陽の塔」の地下に展示するために「日本万国博覧会世界民族資料調査収集団」（通称EEM）が収集したもの。世界各国の民族資料約2500点で構成され、万博閉幕後は民族学博物館の貴重なコレクションとなった。

第5章では、EEMで大きな役割を果たした岡本太郎、泉精一、梅棹忠夫が1970年にEMMの資料集として刊行した「世界の仮面と神像」に掲載されている民具の一部を展示。EEMのメンバーが収集活動を行ったルートを表す世界地図から短期間に大移動しながら民具を収集していたことがわかる。

コレクションをデータベース化し、民具は新たな旅へ

展覧会のエピローグは「次の旅へ―発信されるコレクション」。かつて暮らしの中で使われていた民具は、研究者が世界や日本各地を旅して収集され、博物館のコレクションに発展した。次はそのコレクションをデータベース化することで新たな旅へ。来館者それぞれがデータベースを利用して興味や推しポイントに応じて民具を選んだり、編集したりできるようになっている。

今展を企画した同館の日髙真吾教授は、「展覧会名を民具の『ミカタ』とカタカナ表記にしたのは、様々な視点で民具を捉える『見方』と、民俗資料の保存と廃棄が問題となる中、民具を応援する『味方』をかけています」と説明。
「民具は大量生産の時代に入る手前にあり、手づくりの道具として最も収斂されたデザインが魅力です。国内外のローカルなものを集めて比較することで、個性的でありながら人類の普遍性も感じてもらえると思います。自分なりに面白いと思う見方を見つけたら、その写真をぜひSNSでシェアして民具を盛り上げてください」と話している。

民具は、現代の暮らしや価値観を見つめ直すクリエイティブな魅力があふれている。貴重な民具コレクションと出会い、より良い暮らしを創造する「知恵の素」を探ってみよう。

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国立民族学博物館｜National Museum of Ethnology
565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
開館時間：10:00〜17:00（最終入館時間 16:30）
会期中休館日：水曜日

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