FEATURE

新たに開業をした麻布台ヒルズの注目ギャラリーで
オラファー・エリアソン展はじまる

「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」が
麻布台ヒルズギャラリーにて、2024年3月31日(日)まで開催

内覧会・記者発表会レポート

本展のメイン作品である大型インスタレーション、《瞬間の家》2010年
本展のメイン作品である大型インスタレーション、《瞬間の家》2010年

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構成・文・写真:森聖加

高さ日本一の超高層ビルの誕生を中心に話題を集める麻布台ヒルズが、2023年11月24日に東京・港区にオープンした。職・住・学・遊が近接する「コンパクトシティ」を標榜する森ビルの再開発プロジェクトにおいて、街づくりの重要な核を担う施設のひとつがミュージアムだ。麻布台ヒルズギャラリー開館第1弾となる展覧会は「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」。片岡真実氏(森美術館 館長)によるプレスツアーでの解説をレポートする。

麻布台ヒルズギャラリー開館記念
「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」
開催美術館:麻布台ヒルズギャラリー
開催期間:2023年11月24日(金)〜2024年3月31日(日)
https://www.azabudai-hills.com/azabudaihillsgallery/sp/olafureliasson-ex/

森 JPタワーのパブリックアートの理解を深める展覧会

東京都心にそびえる地上64階建て、高さ約330メートルの超高層ビル、それが麻布台ヒルズのシンボル・タワー、森 JPタワーだ。エリア全体の敷地面積は約8.2ヘクタールと六本木ヒルズに次ぐ広さを誇る再開発では、「街全体がミュージアム」というテーマが掲げられ、各所にパブリックアートが設置されている。麻布台ヒルズ森 JPタワーのオフィスロビーには、オラファー・エリアソンによるパブリックアートが配された。

《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》展示風景(部分)麻布台ヒルズ森 JPタワーオフィスロビー、
2023年 撮影:木奥 恵三/天井高約15mの吹き抜け空間に直径約3mの 4つの彫刻が吊るされている
《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》展示風景(部分)麻布台ヒルズ森 JPタワーオフィスロビー、
2023年 撮影:木奥 恵三/天井高約15mの吹き抜け空間に直径約3mの 4つの彫刻が吊るされている

展覧会のサブタイトル《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》はその作品名である。本展はエリアソンがパブリックアートで取り組んだ主題をさらに深めるものであり、パブリックアートと関連のある作品が会場には集められていると片岡氏ははじめに語った。

オラファー・エリアソン(1967年生まれ)は、アイスランド系デンマーク人の現代美術アーティストである。2020年には日本でも大規模個展が開かれた。「光、色、幾何学形態、あるいは多面体の研究を彼とスタジオは1990年代から行ってきており、代表的な作品のひとつが《蛍の生物圏(マグマの流星)》です。幼いころにアイスランドの大自然のなかで多くの時間を過ごしたこともあって、自然の力、宇宙の壮大なエネルギーについての意識が大変に高い」と片岡氏。

展示風景より。《蛍の生物圏(マグマの流星)》2023年
作品は環境負荷の高い航空輸送ではなく、海上輸送を行うことでCO2の排出を抑制した
展示風景より。《蛍の生物圏(マグマの流星)》2023年
作品は環境負荷の高い航空輸送ではなく、海上輸送を行うことでCO2の排出を抑制した

その作品は、自然の法則、宇宙の物理学がいかに私たちの体験としてアートに転換されるのかの試みである。赤く、ドロドロとしたマグマのような輝きに迎えられながら展覧会はスタートする。

麻布台ヒルズギャラリー、展示風景。全体で約700㎡の展示スペースを有する
麻布台ヒルズギャラリー、展示風景。全体で約700㎡の展示スペースを有する

世界初公開の新作を含む、日本初展示作品15点を展示

パブリックアート《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》は、複雑な軌跡を描く4つの球形で構成される彫刻作品で、これと同じ原理がドローイングマシン作品《終わりなき研究》に用いられている。

《終わりなき研究》2005年/壁の掲示がマシーンで作成された図形の数々
《終わりなき研究》2005年/壁の掲示がマシーンで作成された図形の数々

3つの振り子を用いて幾何学像を生成するハーモノグラフという19世紀の機械を再現した2005年の作品だ。互いに直交する振り子の振動を合成して得られる平面図形、リサジュー曲線を紙に記録するのだが、振り子が振れる幅や力の加減によって描き出されるパターンはひとつとして同じものが生まれない。希望者は体験付きチケットの購入でドローイングに参加ができる。

《太陽のドローイング》(左)と《風の記述》2023年
《太陽のドローイング》(左)と《風の記述》2023年

気候変動問題に対して強い態度を表明するアーティストのひとりであるエリアソンには、世の中に存在する物理的な力を視覚化しアートに昇華するほか、アクティビストとして具体的な環境問題を可視化する作品も多い。カタールで2023年に開催された「オラファー・エリアソン:想像力を擁する砂漠」からのドローイングである《太陽のドローイング》や《風の記述》、2017年の作品で太古の氷山の氷の小片をつかって制作された水彩画《溶けゆく地球》はそうした一例だ。

そして本展のために新しく制作され、世界初公開となるのが《呼吸のための空気》である。

《呼吸のための空気》 2023年はマット仕上げだが、パブリックアート彫刻には鏡面仕上げのパーツも一部採用している
《呼吸のための空気》 2023年はマット仕上げだが、パブリックアート彫刻には鏡面仕上げのパーツも一部採用している

複数の結晶体がつながる作品は、パブリックアートの《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》と同じパーツで構成され、素材も同じ再生亜鉛が使われている。リサイクル素材に特化して制作した初めての作品だという。11面体のパーツは菱形と四角形、凧型という異なる3種類の面で構成されているためランダムにつながり、予想を超えたかたちが創造されるのだ。

展覧会概要について説明する片岡真実氏(森美術館 館長)
氏の背後に見えるのが《溶けゆく地球》(右)ほか 氷山の小片を使った作品
展覧会概要について説明する片岡真実氏(森美術館 館長)
氏の背後に見えるのが《溶けゆく地球》(右)ほか 氷山の小片を使った作品

「産業廃棄物などを燃焼させると煙がでますが、その煙に若干の亜鉛が混ざっています。空気中に飛散しても人体には問題がないので通常はそのまま放散されているですが、それを特別なフィルターで吸収して亜鉛で集め彫刻をつくりました。円柱の上部で風神雷神のようにまわるファンが、亜鉛が空中に舞い、われわれはそれを吸っているのだということを考えさせる作品でもあります」(片岡氏)。普段は目に見えないものに、いかにさまざまな問題が隠されているかを鑑賞者は直視することになるだろう。

水と光が描く美の軌跡

《瞬間の家》2010年
《瞬間の家》2010年

本展のメイン作品としては、大型インスタレーション《瞬間の家》が公開された。2010年発表の作品を本展のために再構成した。つまり輸送を行わず、東京で新しく制作している。天井高5m、全長20mを超える真っ暗な空間で、ホースから放たれる水が描く無限の曲線がストロボの激しい明滅によって浮かび上がる。当然ながら、水は床と壁の裏側を通して循環させているそうだ。

展示風景より。片岡氏によるオラファー・エリアソンのインタビュー動画
展示風景より。片岡氏によるオラファー・エリアソンのインタビュー動画

食で展示を体感。「スタジオ・オラファー・エリアソン・キッチン」とのコラボメニュー

ギャラリーのサテライトスペースである麻布台ヒルズギャラリーカフェは、展覧会会期中限定で、ベルリンのエリアソンのアトリエ内にある「スタジオ・オラファー・エリアソン・キッチン(SOEキッチン)」とのコラボレーションカフェ「THE KITCHEN」として営業している。普段、SOEキッチンで提供されているメニューに加えて、本展のために特別に考案された和食と発酵文化を取り入れたメニューが提供されているから、こちらも忘れずに足を延ばしたい。

「THE KITCHEN」店内。ライトはエリアソン氏のルーツであるデンマークを代表する照明ブランド、ルイス・ポールセンとの協働で誕生した「OE クワジライト」を使用。部品はすべてリサイクルが可能で、外側のフレームに再生アルミニウムを用いる。
「THE KITCHEN」店内。ライトはエリアソン氏のルーツであるデンマークを代表する照明ブランド、ルイス・ポールセンとの協働で誕生した「OE クワジライト」を使用。部品はすべてリサイクルが可能で、外側のフレームに再生アルミニウムを用いる。
写真はディナービュッフェ(4,620円/税込)。SOEキッチンのフィロソフィーを反映し、食材は東京近郊からすべて国産のものをそろえ、輸送時のCO2削減に配慮。ベジタリアン、ヴィーガンにも対応
写真はディナービュッフェ(4,620円/税込)。SOEキッチンのフィロソフィーを反映し、食材は東京近郊からすべて国産のものをそろえ、輸送時のCO2削減に配慮。ベジタリアン、ヴィーガンにも対応
麻布台ヒルズギャラリー
〒105-0001 港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MBF
東京メトロ日比谷線 神谷町駅5番出口地下1階から直結。エスカレーターでMB階より
https://www.azabudai-hills.com/azabudaihillsgallery/about.html

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