FEATURE

全身全霊をかけて作り上げる。
人々を惹きつける魅力と刺激にあふれた所蔵作品展

― 所蔵作品展のあり方について考える ―
アーティゾン美術館のコレクションと所蔵作品展の魅力を探る

アートコラム

エレイン・デ・クーニング 《無題(闘牛)》 1959年 油彩・カンヴァス  208.3×203.2cm 石橋財団アーティゾン美術館蔵 © Elaine de Kooning Trust アーティゾン美術館で開催中の「STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」(2021年2月13日[土] ~9月5日[日]まで開催中)出品作品
エレイン・デ・クーニング 《無題(闘牛)》 1959年 油彩・カンヴァス 208.3×203.2cm 石橋財団アーティゾン美術館蔵 © Elaine de Kooning Trust アーティゾン美術館で開催中の「STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」(2021年2月13日[土] ~ 9月5日[日]まで開催中)出品作品

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文・構成 小林春日

昨年2020年の3月から6月頃は、コロナ禍で、全国的に美術館は休館となった。6月に入ってから徐々に再開された各地の美術館は、運営体制の変化を余儀なくされて、密を避けるための日時予約制の導入、海外から作品輸送が困難なため展示企画の変更、今年2月の再びの緊急事態宣言下では美術館によっては休館の決定、開館時間の短縮、関連イベントの開催は行わないなど、他の文化施設やエンターテインメントなどと同様に、一定の制限の中で、可能な対策を図り、安全な体制で安心して来場者を迎えられるようにと様々な計らいがなされている。

欧米でも、ロックダウンが繰り返され、なかなか自由に美術館に足を運べる状況ではないようだ。日本においても数か月とはいえ、いつでも自由に美術館を訪れることができない、という状況に陥ったことは、特にアートファンにとって、美術館や博物館という場所が、人々にとってどのような意義があるか、どのような必要性をもった場所であるか、認識をあらたにする機会となったのではないだろうか。

これまでの日本における美術展は、特別展や企画展といわれる、新聞社やテレビ局などのマスメディアが美術館と共催する大規模な展覧会が多く開催されてきた。都心で開催される企画展では、2か月ほどの開催期間に30万人から多いときで60万人を超える来場者を迎え、ときには数時間の入場を待つ行列ができることも少なくなかった。

海外から借用する世界的に有名な美術作品を目玉としたり、海外の有名美術館の名前を冠した一連のコレクションを展示する展覧会など、新聞社の担当や美術館の学芸員らが交渉を重ねながら数年かけて準備を続け、ようやく開催される展覧会は、華やかさがあり、人々を惹きつける。一生のうちにそう何度も出会えない名品を鑑賞できる貴重な機会が提供される場でもある。

そういった企画展は、開催にあたる予算規模が大きいために、それなりの来場者数を見込んだ上での実施となる。そのため、1時間あたりの入場者数の制限などを伴う、コロナ感染症対策の上での開催では、採算をとることが難しくなるために、これまでと同様な形で、海外から作品を借りて、輸送や保険のコストをかけての大規模な企画展の開催は、しばらくの間は厳しい現状があるのではないだろうか。

そういった中で見直されているのが、本来的な美術館の役割でもある、作品の所蔵・研究・展示、というところに立ち帰り、それぞれの所蔵作品を活かした展示である。

当然これまでも、美術館は作品を所蔵し、それらを研究し、研究の成果としての展示を行うという役割を担っているのだが(国立新美術館やBunkamuraザ・ミュージアムなど、コレクションを持たない美術館もある)、「所蔵作品展」や「コレクション展」というと、企画展や特別展をメインとして、その隣で、こぢんまりと開催されているという印象が否めない。通常、企画展・特別展の観覧料に所蔵作品展の料金も含まれていることが多い。にもかかわらず、企画展・特別展のみ鑑賞して、所蔵作品展は観ずに帰ってしまう、ということも多いのが現実なのではないだろうか。

それは、実はとてももったいないし、残念なことである。なぜならば、各美術館が所蔵している作品には、「お宝」がたくさんあるからである。また、公立の美術館の所蔵作品においては、作品購入の財源は税金であり、われわれの公共の財産でもある。人々が、その価値に触れ、豊かさを享受できる機会をもっと積極的に提供してほしいと望む。

コロナ禍を過ごす今、所蔵作品への光の当て方が魅力的な展示を常に行っている美術館を取り上げたい。足を運ぶたび、お気に入りの所蔵作品に幾度となく出会うことができて、さらにそれらの作品や作家の魅力を増幅させてくれる。

アーティゾン美術館の所蔵作品展示にかける情熱

現在、東京都中央区京橋にある、アーティゾン美術館では、「STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」という展覧会が開催されている。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」
開催美術館:アーティゾン美術館
開催期間:2021年2月13日(土)〜2021年9月5日(日)

本展は、新収蔵品を含むが、いわゆる所蔵作品展である。実際に鑑賞してみると、一般的な「所属作品展」に抱くイメージを、鮮やかにくつがえしており、そこがこの美術館の魅力である。

STEPS AHEAD展カタログ
STEPS AHEAD展 カタログ

まず、図録がとても所蔵作品展とは思えない、特別展や企画展と変わらない、むしろそれ以上に気合いを感じるボリューム感の図録である。表紙には、新収蔵品のひとつである、エレイン・デ・クーニングの作品《無題(闘牛)》(1959年)が用いられている。

アーティゾン美術館の学芸課長であり、本展の企画者である新畑泰秀氏(以下、新畑氏)に、アーティゾン美術館のコレクションと展示について、お話を伺った。

「今回の展覧会は『STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示』という名称にしました。収蔵品のみの展覧会ですが、外部から借用して開催する特別展と呼ばれる展覧会と同等に細部まできっちりと作り込んだ内容を志しました。展覧会のカタログもしっかりとつくりましたし、展示会場も既存の壁を応用しつつ造作を凝らし、鑑賞に相応しい贅沢な空間の創造を目指しました。」

STEPS AHEAD展 第1セクション「藤島武二の《東洋振り》と日本、西洋の近代絵画」展示風景
STEPS AHEAD展 第1セクション「藤島武二の《東洋振り》と日本、西洋の近代絵画」展示風景

一般的に、特別展を開催する場合、かなりの労力と費用をかけている場合が多いという。しかし、アーティゾン美術館の場合は、コレクションをいかに活用するかという本来の美術館活動にとってあるべき姿を大切にしており、コレクション展示にも企画展と同じように力を注いでいる。美術館によっては、特別展には、造作や宣伝、ポスターなどにかなり費用をかけるけれど、一方で、同時に開催している自館のコレクション展に関しては、あまり費用をかけられない、あるいはかけない場合もよくあるようだ。

それは、当然鑑賞者も感じるところで、企画展は観る価値のあるもの、所蔵作品展は時間が余れば観て損はない、といった受け止め方になってしまいがちだ。

しかし、アーティゾン美術館の今回の展示は違っている。2020年1月に約5年の休館を経て、ブリヂストン美術館から名称を変えて新しくオープンしたアーティゾン美術館は、開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」においても、全館で新収蔵作品を含む所蔵作品のみの展示を行った。今回もまた、新収蔵品とともに所蔵作品だけで構成された展覧会である。

「それぞれの美術館にはそれぞれの立場や役割がありますが、わたしたちは、コレクションのみで展覧会を構成する場合でも、他の展覧会と同様に、全身全霊をかけた展覧会づくりを行っています。今回の展覧会でも、展覧会のコンセプトや作品選択はもちろんのこと、会場構成、からカタログづくり、そして作品解説も全力で作っています。広報や会場デザインについては、内部のデザインチームと十全に連携しながら作り上げています。」と、新畑氏は語る。

そもそも、前身であるブリヂストン美術館の時代から、所蔵作品を軸においた展示を行いながら、一定のコアなファンを獲得してきた。

石橋正二郎氏、幹一郎氏、現館長の石橋寬氏へ
3代に渡るコレクションの変遷と方向性

ブリヂストン美術館ができたのは、1952年1月。現在の株式会社ブリヂストンの創業者 石橋正二郎(1889-1976年)が収集したコレクションをもとに、京橋に新築したブリヂストンビルの2階に美術館を開設した。1956年には財団法人石橋財団を設立し、コレクションの大半を寄贈し、美術館運営ほかを財団に委ねている。今にいたるまでコレクションの核となるのが、正二郎が収集した、坂本繁二郎、青木繁、藤島武二などの日本近代美術コレクションと、それに続く、セザンヌ、モネ、ルノワールなど、印象派をはじめ19世紀から20世紀初頭のフランス絵画を中心とした西洋美術である。

ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》1904-06年頃 石橋財団アーティゾン美術館蔵
ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》1904-06年頃
石橋財団アーティゾン美術館蔵

正二郎が1976年に没した後のコレクションを主導したのは、ブリヂストンを世界的企業へと押し上げた正二郎の長男、石橋幹一郎である。ピカソ《腕を組んですわるサルタンバンク》、モネ《雨のベリール》、ゴーガン《馬の頭部のある静物》、ルノワール《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》など、現在も主要なコレクションとなっている多くの作品をあらたにコレクションに加えていった。また幹一郎は、ブリヂストン美術館の収集とは別に、自ら同時代の美術に関心を持ち、大規模なコレクションを築き上げていた。フランスを中心とした戦後抽象絵画であり、スーラージュ、フォートリエ、デュビュッフェなどの幅広い作品が集められている。中でも幹一郎が一番強い愛着と作家への理解をもって収集したのが、親交のあった“叙情的抽象”で知られる抽象画家のザオ・ウーキーであった。

その後、モンドリアン、クレー、ポロックなど、20世紀の抽象絵画の発展がたどれるような作品も購入され、さらには、ヨーロッパの抽象画家ヴォルスやアルトゥング、アメリカの抽象表現主義の画家たち、ホフマン、デ・クーニングの作品がコレクションに加わった。その一方で、菅井汲や堂本尚郎、白髪一雄、野見山暁治など同時代の日本の抽象絵画も収蔵され、これによりコレクションの新しい側面として、日欧の抽象芸術の展開が見て取れるようになった。

STEPS AHEAD展 第9セクション「具体の絵画」展示風景
STEPS AHEAD展 第9セクション「具体の絵画」展示風景

1997年の幹一郎の没後、遺族より幹一郎の個人コレクション約400点が寄贈され、コレクションの性格に、コンテンポラリーと直結する新たな方向性が加えられることとなった。

2004年には幹一郎の長男である石橋寬氏が、石橋財団の理事長となり、現在アーティゾン美術館の館長を務めている。5年間の長期休館の期間には、各分野においてさらにコレクションの拡張が図られた。

ヴァシリー・カンディンスキー《自らが輝く》1924 年 石橋財団アーティゾン美術館蔵
ヴァシリー・カンディンスキー《自らが輝く》1924 年 石橋財団アーティゾン美術館蔵

2020年にあらたに開館したアーティゾン美術館では、正二郎氏、幹一郎氏が収集してきた主要な作品に5年ぶりに出会うとともに、印象派では、あらたにベルト・モリゾやメアリー・カサットなどの女性画家たちの作品が収集されたこと、抽象画の誕生にかかわるカンディンスキーやピカビアといった画家らの作品、24点のまとまったクレーの作品、キュビスム周辺の作品の充実などが図られていた。ブリヂストン美術館時代に親しんだ作品の数々に連続性のあるあらたなコレクションが加わり、既存のコレクションに違った角度から光が当てられた展示に、新鮮な感動を覚えた鑑賞者は多かったのではないだろうか。

アーティゾン美術館の収集力

STEPS AHEAD展 第5セクション「抽象表現主義の女性画家たちを中心に」展示風景 撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館
STEPS AHEAD展 第5セクション「抽象表現主義の女性画家たちを中心に」展示風景 撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館

開館記念展で、ブリヂストン美術館時代と特に大きな違いを印象付けたのは、マーク・ロスコ、ジョルジュ・マチュー、デ・クーニング、アンス・アルトゥングなどの戦後の欧米の抽象絵画の動向を代表する画家たちの作品が、既存のコレクションに加えてまとまった形で展示されていた光景だ。マーク・ロスコ(《無題》1969年)やジョルジュ・マチュー(《10番街》1957年)など、アーティゾン美術館がコレクションに加えたそれぞれの1点のもつインパクトが強烈で、アーティゾン美術館の収集力に驚かされる。続く今回の「STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」では、さらに時代とジャンルを広げ、カンディンスキーの初期の作品や抽象表現主義の女性画家たち、日本の作家らも多くコレクションに加わっている。また、アボリジナル・アートなどのオーストラリアの現代絵画の一連の展示にも目を見張るものがある。これまでのコレクション全体の連続性を感じさせながら、バランスの良い景色が会場に広がっている。

STEPS AHEAD展 第5セクション「抽象表現主義の女性画家たちを中心に」展示風景 撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館
STEPS AHEAD展 第5セクション「抽象表現主義の女性画家たちを中心に」展示風景 撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館

果たしてその収集力は、どのように培われているのか、新畑氏に伺った。

「石橋幹一郎氏は美術館運営とは別に、自らは戦後のフランスの抽象美術に関心を持って作品を収集しました。それらは氏の没後、石橋財団に寄贈されて今は、アーティゾン美術館のコレクションになっていますが、これは結果として既存のコレクションを戦後美術に繋げる役割を果たしました。その後、現在の理事長の時代には、日本の美術はもちろんのこと海外の美術については、フランスのみに止まらずヨーロッパ各国、あるいは大西洋を渡って、アメリカの抽象表現にも目を向けてみよう、ということになったのです。

ただ、言うまでもなくアメリカの抽象表現主義などは、作品が限られているほか、価格も高騰しています。そんな中で今の市場にある作品を徹底的に調査し、アーティゾン美術館に相応しいコレクションの構築を考えているのです。われわれ学芸員は、様々にアンテナを貼って情報収集して理事長・館長をはじめ内部の会議に提示し、可能性のある作品を内部で様々に議論を繰り返して収集につなげ、それを集められた作品を皆様に展覧会という形で効果的にお見せすることを心がけています。」

理事長・館長はじめ、作品収集に関わる学芸員やスタッフの強い意志と熱意が、特別かつアーティゾン美術館らしさをもつ作品を入手するチャンスを引き寄せ、魅力的なコレクションの形成につながっていることがわかる。

美術館とコレクション

STEPS AHEAD展 第3セクション「カンディンスキーとクレー」展示風景  撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館
STEPS AHEAD展 第3セクション「カンディンスキーとクレー」展示風景  撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館

2020年12月8日時点で、2812点のコレクションを有する石橋財団のコレクション(芸術家の肖像写真コレクション他を除く)は、石橋家3代に渡ってあらたなコレクションの性格を加味しながら、魅力的な収集を積み上げて、現在に至る。コレクションを軸に、展覧会を継続してきたことで、アーティゾン美術館は、とりわけどのような作品を所蔵しているかが明確にイメージしやすい美術館なのではないだろうか。セザンヌ、ピカソ、マティス、ルノワール、カイユボット、藤島武二、青木繁など、幾度となく出会った代表的な所蔵作品の記憶はいつでもよみがえる。本来の美術館の「収集し、保存し、展示する」という基本的な役割が果たされ、鑑賞者と芸術作品の理想的な出会いと再会の場を与えてくれる美術館の一つである。

「アーティゾン美術館は、石橋財団のコレクションによる展覧会をずっと大事にしてきた美術館です。今はもちろん、特別展にも力は入れていますけれど」と新畑氏が語っているようにアーティゾン美術館は、特別展・企画展においても、所蔵作品に違った角度から光を当てる趣向が展覧会を魅力的にしている。昨年11月から開催されていた「琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術」では、開館以来、コレクションの中心となっている印象派に、とりわけ近年、収集に力を入れてきた琳派のコレクションをぶつける、ということで、これまでと違った見せ方を試みたという。このときは、俵屋宗達の作品を建仁寺から《風神雷神図屛風》、醍醐寺からは《舞楽図屛風》を借りて、印象派と琳派の競演による、より刺激的な展示が実現した。

2020年6月23日から開催された、石橋財団コレクションと現代美術家の共演シリーズ、「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり」では、動物の毛皮モチーフとした作品に、収蔵品であるクールベの《雪の中を駆ける鹿》が合わせて展示されるなど、意欲的な試みによる刺激的な展示が、大きな話題を呼んだ。

「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり」展示風景 鴻池朋子《オオカミ皮絵キャンバス》(左)、ギュスターヴ・クールベ《雪の中を駆ける鹿》1856-57 年頃 石橋財団アーティゾン美術館蔵(右)/ ©Nacása & Partners
「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり」展示風景 鴻池朋子《オオカミ皮絵キャンバス》(左)、ギュスターヴ・クールベ《雪の中を駆ける鹿》1856-57 年頃 石橋財団アーティゾン美術館蔵(右) 撮影:Nacása & Partners

いずれも、特別展として充実した内容であったと同時に、所蔵作品を違った観点から照らし出し、そのあらたな魅力や価値を鑑賞者に伝えた展覧会である。

所蔵作品についてのお話を伺っていると、学芸課長はじめ学芸員の方々が、いかに所蔵作品を愛しているかがひしひしと感じられる。当たり前のことであるが、美術館というところは、単に作品展示の会場ではなく、学芸員やスタッフの方々全員の力量や思いが発揮された場であり、その磁力は、美術館の建物や地域性だけが持つものではないだろう。

組織のカタチと柔軟さ

アーティゾン美術館では、石橋財団の理事長であり館長である石橋寬氏が、組織を率いて全体を統括し、その指示を受けながら、作品を収集し、展覧会を開催しているという。

2018年には、東京都写真美術館で事業企画課長を長年勤めた笠原美智子氏を副館長に迎え、より良い美術館活動の追求に一層の力を入れることとなった。コレクションと現代美術家の共演シリーズ「ジャム・セッション」も笠原氏発案の元、学芸員が企画提案を行う形で実現している。

STEPS AHEAD展 第10セクション「オーストラリア美術-アボリジナル・アート」展示風景 撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館
STEPS AHEAD展 第10セクション「オーストラリア美術-アボリジナル・アート」展示風景 撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館

学芸員の中には、オーストラリア美術、現代美術を専門とする若い世代も近年加わり、新しい戦力となっている。彼らの世代の感覚や意見をどう取り入れるか、あるいは調査力や感覚をいかに育てて、それらをどう活用するかを考えながら、コレクションや展示に反映しようとしているという。今回の「STEPS AHEAD」におけるオーストラリアの現代絵画は、彼らの研究の成果が多分に反映されているそうだ。

石橋財団アーティゾン美術館の組織としてのカタチ、柔軟さが伺える。時代に即した魅力的な展覧会が続けられる理由は、そういうところからも来ているのかも知れない。

ルーヴル美術館やオルセー美術館も、時代が変わるごとに展示室の使い方、見せ方を変えて、所蔵作品の魅力を増幅させている。

「日本の美術館は、世界的に見ても美術館が多いし、それぞれが素晴らしい所蔵品を持っています。フランスやアメリカの美術館に比べても、かなり多いのではないでしょうか。それぞれの美術館はそれぞれのポリシーを持って運営していますから今後はそれぞれが様々に収蔵品に注力した展覧会を開催していけば限りない可能性があるのではないか、と感じます。」と、新畑氏。ただ、特別展だけにお金をかけて、常設展はほどほどに、というのはおかしなことだ、と。

公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館 学芸課長 新畑泰秀氏 Photo : Yoshiaki Tsutsui
公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館 学芸課長 新畑泰秀氏 Photo : Yoshiaki Tsutsui

「フランスの例を見れば、ルーヴル美術館やオルセー美術館にしても、自分たちのコレクションを、定期的に展示室の使い方や見せ方を変えて、その作品の魅力を存分に伝える努力を続けています。そういった努力はわたしたち日本の美術館は、これまで以上に力を入れて取り組んでいくべきことか、と思っています。」

学芸課長の新畑氏にとって、所蔵作品に限らず、仕事上、日々浴びるように芸術作品の数々と出会うことは「恐ろしく楽しい」と表現する。今回の展覧会の表紙を飾るエレイン・デ・クーニング(1918-1989年。まだ女性がかなり苦労した時代に、自らの画風を探求し、自分の様式を模索した抽象表現主義を代表する女性の画家。ウィレム・デ・クーニングと結婚し創作を共にするが、その後別居し、さらなる自己の表現を求めました。展覧会図録の表紙となっている作品はその頃の作品である。)の作品にしても、“新しい時代を生きる人間の姿”は、多くの人に刺激を与えるし、我々もそういった刺激を与える場でありたい、と話す。その思いは、まさに展覧会場で実現されているのではないだろうか。

STEPS AHEAD展 第4セクション「倉俣史朗と田中信太郎」展示風景
STEPS AHEAD展 第4セクション「倉俣史朗と田中信太郎」展示風景 撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館

「所蔵作品展」をテーマにして開催しているアーティゾン美術館の展覧会を取り上げた。 「所蔵作品展」「常設展」「コレクション展」、どんな言葉であろうと、そこにあるのは、芸術作品であり、光の当て方を変えれば、それまで見えなかった新たな姿が浮かび上がってくることがわかる。芸術作品について、その作家について、より理解を深めたり、魅力を再発見できるような展示に触れて、作家の精神性に近づいたり、生きたエネルギーが感じられたりするような時間は至福の時である。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
アーティゾン美術館|ARTIZON MUSEUM
〒104-0031 東京都中央区京橋1-7-2
開館時間:10:00〜18:00(最終入館時間 17:30)※毎週金曜日の夜間開館は、当面の間中止
定休日:月曜日(祝日の場合は開館し翌平日は振替休日)
※最新情報は公式ウェブサイトでご確認ください

参考文献:「STEPS AHEAD展カタログ」「アーティゾン美術館 ハイライト200 石橋財団コレクション」(ともに編集・発行公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館)

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