FEATURE

歌舞伎公演に映画祭、文化の風薫る
北九州市小倉の街で、アートを巡る旅

アート好きの心を満たす旅 / 北九州市小倉【前編】
小倉城、北九州市立美術館分館(リバーウォーク北九州)

アート&旅

(左)小倉城、(右)北九州市立美術館分館の入る、リバーウォーク北九州
1602年(慶長7年)に細川忠興によって築城した小倉城。天守閣は、南蛮造りとも呼ばれる唐造(からづくり)で、当時は全国唯一の珍しいものだった。右手に見える赤や黄色の建物は、小倉の街のもう一つのシンボル、リバーウォーク北九州。
(左)小倉城、(右)北九州市立美術館分館の入る、リバーウォーク北九州
1602年(慶長7年)に細川忠興によって築城した小倉城。天守閣は、南蛮造りとも呼ばれる唐造(からづくり)で、当時は全国唯一の珍しいものだった。右手に見える赤や黄色の建物は、小倉の街のもう一つのシンボル、リバーウォーク北九州。

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構成・文:小林春日

アート好きの心を満たす旅 / 北九州市小倉(福岡県)VOL.01
VOL.01 【前編】 VOL.02 【後編】 VOL.03 【特別編】

北九州の小倉というと、ベストセラーとなった「東京タワー」の著者、リリー・フランキーさんの自伝的小説に描かれた主人公の出身地を思い出すだろうか。あるいは、十八世中村勘三郎さんが現代に復活させた、江戸時代の芝居小屋、平成中村座小倉公演を思い浮かべる人もいるだろうか。

ちょうど、今月はその平成中村座がまさに小倉公演を迎えている。そして、リリー・フランキーさんがアンバサダーを務めることとなった、北九州国際映画祭の初年度の開催がもうすぐ始まろうとしている。

そんな今まさに旬な、文化的にも注目を浴びる小倉の街は、九州各地に通ずる街道の起点であり、かつては城下町として繁栄していた。唐造りの天守閣が美しい小倉城や北九州の台所といわれる山海の幸豊かな旦過市場、日本屈指の夜景が眼下に広がる皿倉山など見どころも多い小倉の街で、アートスポットを訪ねてみた。

勝山公園に設置された特設舞台。平成中村座小倉公演が、2023年11月1日(水)に始まり、11月26日(日)に千秋楽を迎える。『小笠原騒動』『義経千本桜 ‐渡海屋の場 大物浦の場‐』などが上演された。街中の商店街には、沢山の歌舞伎役者名の幟がはためいていた。
勝山公園に設置された特設舞台。平成中村座小倉公演が、2023年11月1日(水)に始まり、11月26日(日)に千秋楽を迎える。『小笠原騒動』『義経千本桜 ‐渡海屋の場 大物浦の場‐』などが上演された。街中の商店街には、沢山の歌舞伎役者名の幟がはためいていた。

優雅な佇まいで小倉の街を見守る、細川忠興公が築いた名城、小倉城

見事な石垣の上に建つ小倉城の天守閣は、天保8年(1837年)に火災で焼失したが、昭和34年(1959年)に再建された。
見事な石垣の上に建つ小倉城の天守閣は、天保8年(1837年)に火災で焼失したが、昭和34年(1959年)に再建された。

平成中村座小倉公演では、勝山公園に設置される特設舞台で繰り広げられる演目の借景に、実際の小倉城が登場する。その小倉城は、この街のシンボルでもあり、春になれば桜の名所としても知られる。

戦国末期の1569年、中国地方の毛利氏が現在の地に城を築いたことから始まり、1602年には、細川忠興によって約7年の歳月をかけた本格的な築城が始まった。野面積(のづらづみ)と言われる切り石を使わない小倉城の石垣は見事だ。4重5階の天守は、「唐造(からづくり)」といわれる、最上階が下層より大きく張り出した特徴的なつくりで、当時最新の建築様式であったそうだ。

小倉北区城内の界隈。左奥に見えるのが小倉城。
さらに左手には小倉城庭園があり、右手には八坂神社、右手奥には松本清張記念館が建つ。
小倉北区城内の界隈。左奥に見えるのが小倉城。
さらに左手には小倉城庭園があり、右手には八坂神社、右手奥には松本清張記念館が建つ。

福岡県企救(きく)郡板櫃村(現、北九州市小倉北区)に生まれ、「或る『小倉日記』伝」で、第28回芥川賞を受賞した松本清張の文学館「松本清張記念館記念館」も小倉北区城内にあり、小倉城、小倉城庭園、松本清張記念館の3施設をめぐる共通券などもあり、小倉城界隈の散策でゆっくり1日過ごすのも良さそうだ。

もう一つの小倉の街のシンボル、リバーウォーク北九州

リバーウォーク北九州。北九州市立美術館分館は、この中の黄色い建物の4階・5階にある。
リバーウォーク北九州。北九州市立美術館分館は、この中の黄色い建物の4階・5階にある。

小倉城と並び立つのは、趣の全く異なる商業施設のリバーウォーク北九州である。1枚目(メイン画像)の写真にも、小倉城の右手にこの施設がまるで現代の城のようにそびえたつような存在感を放っているのがお分かりいただけるのではないだろうか。

小倉の街を流れる紫川の水辺に建つリバーウォーク北九州の外観は、大地を表す「茶色」、日本瓦を表す「黒」、漆喰壁の「白」、漆の「赤」、そして収穫前の稲穂を表現した「黄色」を表しているという。

この施設には、ショッピングモールなどのほか、北九州芸術劇場、北九州市立美術館分館、北九州市民劇場、NHK北九州放送局、朝日新聞西部本社、西日本工業大学 小倉キャンパス、ゼンリンミュージアムなど、文化施設からテレビ局、新聞社に大学のキャンバスまでが入っている特異な複合施設となっている。

さて、今回はもちろん、美術館に向かいたい。この魅惑的な複合施設の黄色の建物の5階に位置する、北九州市立美術館分館は、「分館」と名づいているだけに、本館が別にあり、こちらについては後編でお届けする。

都市型ギャラリーとして、北九州市立美術館分館が2003年に開館

北九州市立美術館分館は、2003年にリバーウォーク北九州内に都市型ギャラリーとして開設された。今年度は、「面構 片岡球子展」「アルフォンス・ミュシャ展」そして、小倉出身の洋画家・挿絵画家、松野一夫の展覧会「没後50年 松野一夫展」(11月12日に終了)など、多彩なジャンルの企画展が開催されている。

先日まで開催されていた「没後50年 松野一夫展」では、1920年の創刊から1950年まで続いた雑誌『新青年』に掲載された、江戸川乱歩、小栗虫太郎、横溝正史ら多くの連載小説に描いた挿絵、そして1921年5月号より1948年3月号までの約27年にもわたりほぼ一人で描き続けてきた表紙絵などが展示された。また、翻訳小説における西洋の人物や風俗の描写は、心情描写や躍動感を感じさせ、一瞬で読者を物語の世界に引き込むリアリティーがあり、見事なタッチである。松野自身も国籍に応じて人物の顔を描き分けることができると自負していたという。

挿絵のほか、書籍の装丁や絵本の出版、またこれまであまり紹介される機会のなかったパリ滞在期のスケッチや油彩画、晩年の水墨画なども含めて、その多岐にわたる画業の全貌が展観できる。

各地にある美術館を訪れたときの楽しみの一つが、こうした地域ゆかりの芸術家らの画業に触れられることだ。それまで詳しく知る機会のなかった芸術家らの画業について、こうした展覧会の開催によって知ることができ、新しい世界の扉を開いてくれるようだ。

12月2日からは、カンヌ国際映画祭をはじめ、国内外で高い評価を受けながら、昨年3月に57歳の若さで逝去した北九州市門司区出身の映画監督・青山真治の映画関連資料を集めた展覧会 青山真治クロニクルズ展 が開催されるので、ご紹介しておきたい。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
北九州市立美術館 分館|Kitakyushu Municipal Museum of Art
803-0812 福岡県北九州市小倉北区リバーウォーク北九州5階
開館時間:10:00〜18:00(最終入館時間 17:30)
休館日:年末年始(12月29日~1月3日)及び館内整理日(展覧会開催の会期中は無休です)
※ただし、展覧会によって休館日が異なる場合があります

アート好きの心を満たす旅 / 北九州市小倉【後編】
北九州市立美術館本館、北九州市立文学館、北九州国際映画祭 に続く

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