理想郷はここに。フランク・ロイド・ライトの建築に見る
自然の叡智と都市の未来
「フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」が、パナソニック汐留美術館で2024年3月10日(日)まで開催
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「開館20周年記念展/帝国ホテル二代目本館100周年 フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」がパナソニック汐留美術館で2024年1月11日(木)から3月10日(日)にわたり開催中だ。豊田市美術館に続く展示で、2024年3月20日(水・祝)から5月12日(日)には青森県立美術館に巡回する。
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フランク・ロイド・ライト―世界を結ぶ建築
開催美術館:パナソニック汐留美術館
開催期間:2024年1月11日(木)〜3月10日(日)
世界の近代建築三大巨匠として名高いアメリカの建築家フランク・ロイド・ライト(1867〜1959)は、広範にわたるキャリアにおいて数多くの名建築を残し、現在も盛んに研究が進められている。2012年、アメリカのアリゾナ州に拠点を置く「フランク・ロイド・ライト財団」が長く保存していたライトの図面やドローイング、写真、書簡等の資料が、ニューヨークの公的機関「コロンビア大学エイヴリー建築美術図書館」に移管されたことにより研究がさらに活発化したという。
本展は以下7つのセクションで構成されており、ライトの建築誕生から、自然や日本とのつながり、教育、一般家庭に向けて発案されたユーソニアン住宅、高層建築など、ライトの建築人生の全貌をひもとく内容となっている。
1:モダン誕生 シカゴ―東京、浮世絵的世界観
2:「輝ける眉」からの眺望
3:進歩主義教育の環境をつくる
4:交差する世界に建つ帝国ホテル
5:ミクロ/マクロのダイナミックな振幅
6:上昇する建築と環境の向上
7:多様な文化との邂逅
ライトは日本人にとって縁の深い建築家の一人だろう。本国アメリカと隣国カナダのほかは、日本のみに作品が残されていることからも親しみを持つ人は多いかもしれない。また、ライトにとっても日本は特別な国であったと言って差し支えないだろう。ライトの建築哲学の根幹にある「有機的建築」は、日本文化と深い結びつきがあったことは建築や発言から明らかだ。ライトは著作や建築講義において示唆に富んだ言葉を数多く残した。ライト自身の言葉を添えながら、本展の魅力を伝えていきたい。
ライトと日本を結ぶ深い縁。 浮世絵がもたらした有機的な幾何学文様
初めのセクション「モダン誕生 シカゴ―東京、浮世絵的世界観」では、ライトの初期のドローイングや設計図を観ることができる。1888年、ライトは20歳の頃にシカゴ派を代表する建築家ルイス・サリヴァン氏の設計事務所に移り、本格的にキャリアをスタートする。
ライトは、師サリヴァンや、イギリスの建築家でデザイナーのオーウェン・ジョーンズによる『装飾の文法』(1856)などの自然な文様を参照しながら装飾を手がけた。気品あふれる装飾のドローイングは実に緻密で見応えがある。
自然の造形美を作品に映し出した建築家は多数存在する。ガウディ、フンデルトヴァッサー、哲学者で建築も手がけたシュタイナーもその一人として挙げられるだろう。その中で、ライトの特徴は、幾何学的な点が挙げられる。サリヴァンは華やかで流麗な装飾を得意としていたことから、ライトは師と対照的に単純化を実践したという見方もある。
セクション2「「輝ける眉」からの眺望」においても、ライトの対象への有機的なアプローチが際立つ。ライトは、1911年にウィスコンシン州に自宅兼仕事場「タリアセン」を、1938年にアリゾナ州に「タリアセン・ウエスト」を構える。「タリアセン」はウェールズ語で「輝ける眉」を意味し、いずれも現地の気候や自然環境と調和した理想郷として築かれた。砂漠地帯にあるタリアセン・ウエストにも見られるサボテンを、1927-28年頃にライトはパターン化して描いている。一見するだけではモチーフを解読しづらいデザインだが、自然の慎ましさや温かみが宿った装飾で、心和ませてくれる。幾何学模様にありがちな左右対称でない点にも着目したい。ライトが存在そのものに対峙しながら、固有の実体をパターンへ昇華させていたことが窺える。
こうしたパターンについて、ライトは以下のように語っている。
「自然のパターンは、悠久の昔からのものではあるのですが、今、新たな価値が注目されようとしています。ようやく不可分に一体化した装飾の時代が到来したのです。つまり、自然のパターンによる実際的な建設です。これは真の存在価値を求めて精神の根源的なところから希求される、近代建築に本質的な要素です。(中略)そこに踏み込むには、より高いイマジネーションの次元へと入っていかなければなりません。なぜなら、それは詩の領域だからです。(中略)装飾とは、人間のイマジネーションを建物の表層に表わしたものであるばかりでなく、同時に建物の構造に自然のパターンを与えるものでもあります。」
(著:フランク・ロイド・ライト 訳:三輪 直美『有機的建築』 2009年 筑摩書房)
自然のパターンを「詩の領域」と表した点が印象深い。ライトはサリヴァンを詩人と呼んだという。ライトにとって大きな尊敬の対象であったことがわかる。
ライトの装飾は、心地よいシンプルさも魅力の一つだ。無駄が削ぎ落とされつつも有機的な呼吸が残されている。ライト自身はシンプリシティについて次のように述べている。
「有機的建築に欠かせない特徴の一つ、それは自然なシンプリシティです。(中略)シンプリシティは、ものに内在する本質的なクオリティの、無垢で直截な表現です。どんなものにも内在する生得的で有機的な形態のパターンは、正真正銘のシンプルなのです。」
(著:フランク・ロイド・ライト 訳:三輪 直美『有機的建築』 2009年 筑摩書房)
こうしたライトの装飾パターンは、日本の浮世絵からヒントを得たものと考えられている。ライトは1893年に開催されたシカゴ万博で日本文化に出会う。岡倉天心などが関わった平等院鳳凰堂を模した鳳凰殿は、西洋風の建築が建ち並ぶ中で大きな存在感を放った。以降、ライトは日本文化に、中でも浮世絵に魅了され、無駄が削ぎ落とされた背景や単純化された構図に着想を得ていく。ライトは日本の浮世絵を本格的に収集し、コレクター、ディーラーとして作品を広め、自ら展覧会も開催するほどの情熱を見せた。本展では、ライトが収集した浮世絵に関する関連資料も鑑賞できる。
ライトの代表作に、勾配な地形かつ滝の上に建てられた、自然と建築の融合が見事なエドガー・カウフマン邸「落水荘」(1934-37年)がある。本展では、同様に小高く勾配のある地形に考案された小田原ホテルの計画案や山邑邸(現・ヨドコウ迎賓館)の図面、また類似した構図の滝の浮世絵も展示されており、ライトが日本で得た着想がのちに「落水荘」へと結実していく流れを追うことができる。
進歩的教育の起こり。ライトと歩みを共にした女性たち
3つ目のセクションは「進歩主義教育の環境をつくる」。ライトが手がけた教育施設が取り上げられる。ライトは、民主主義の時代において教育は要になると考えていた。ライトの叔母で姉妹のジェーン及びエレン・ロイド・ジョーンズは、1886年にウィスコンシン州スプリンググリーンにて先駆的教育機関「ヒルサイド・ホームスクール」を創設しており、彼女らの進歩的な教育理論はライトに影響を与えた。「ヒルサイド・ホームスクール」が特徴的だったのは、体験を重んじた点だ。自然学習を軸とし、農地や庭園の環境やそこで生息する動物などを題材に、農学、地質学、気候学、植物学、動物学などの学習が実践された。1932年、ライトは同じスプリンググリーンの地に、建築教育の場として「タリアセン・フェローシップ」を開く。ここでも座学でなく、農業、ガーデニング、建設作業などの体験学習は重視された。展示では、タリアセン・フェローシップの当時の自然学習の様子を伝える映像も観ることができる。
こうした教育施設の建築を支えたのが才知ある女性たちだ。ライトの職場や、友人、施主には女性が多数存在した。ライトの事務所でシニアデザイナーを務めたマリオン・マホニーはマサチューセッツ工科大学を卒業し、建築の学位を取得した2人目の女性で、イリノイ州で初めて建築士免許を取得した女性だった。
日本においても、ライトと弟子の遠藤新が手がけた教育施設が「自由学園」明日館として東京池袋に現存する。本展では、立面図や書簡などの資料に加え、機能的で温かみのある木製の椅子も展示されている。
自由学園は羽仁もと子・吉一夫妻により設立された女学校で、遠藤新から紹介を受け、ライトは夫妻の思いに共感して実現に至る。建物は屋根を低くし水平線を強調するプレーリー・ハウス(草原様式)で、「簡素な外形のなかにすぐれた思いを充たしめたい」という夫妻の思いが込められている。1957年、羽仁もと子夫人の訃報にライトは次のような追悼を寄せた。
「敬愛する尊き羽仁夫人はわれわれ全てにとって一つの霊感であった。
私は東京で遠藤さんとともに羽仁さん方のために自由の精神の小さな学校を建築していた。一方でミカドのために帝国ホテルを建てながら。
建物が出来上がって落成式に遠藤さんとともに列したときに羽仁夫人の多勢の生徒たち――りんぼくの実のような目をした、黒檀の髪を持った若い少女たちは、私の決して忘れることのできない一幅の絵を作り出していた。
羽仁夫人がその式を司っていた。その時、今もそう思うと同じように、私は彼女を時代に先駆する賢い教育者であると感得した。彼女はその祖国の文化的思想を悟り、愛し――一層重要なこととして――彼女の手に委ねられた若き人々のうちに美を愛する心をどうして植えつけるかを知っていた。」
(訳:遠藤 楽『婦人之友』1957年10月号、婦人之友社)
自由学園は1925年に敷地の広い東久留米市へと移転したが、ライトと遠藤新が手がけた作品は「明日館」として重要文化財となり、現在も講座やコンサート、結婚式などの催事に使用されている。
ライトの才能が結集した帝国ホテルが3Dプリンタで再現
4つ目のセクションは「交差する世界に建つ帝国ホテル」だ。ライトの代表作として名高い帝国ホテル二代目本館は、キャリアの中でも最大規模といえる建築で、1913年より約10年にわたる長期プロジェクトとなった。一般に、当時はライトにとって不遇の時代とされており、タリアセンで起きた不幸な事件が影響したと考えられている。その中で、帝国ホテルの成功はライトにとって重要なプロジェクトだった。
本展では、3Dプリンタで再現された帝国ホテル二代目本館の模型が展示されている。ピラミッド状の屋根を冠し、中庭を囲って左右対称の棟が前方に迫る荘厳な佇まいを見せる。東洋と西洋のイメージの統合が試みられており、ライトは日本の寺院のほか、メソアメリカやインドネシアの遺跡、建築など、多国籍な文化に学んで設計したという。
帝国ホテル二代目本館は、不運にも竣工日の1923年9月1日に関東大震災に見舞われるが、ほぼ外的な損傷を受けずに地震に耐えたことは現在まで語り継がれている。展示では、振動を吸収して揺れを分散する独自の「浮き筏基礎」などが解説されており、耐震構造についても理解を深めることができる。鉄筋コンクリートを型枠として支えたライトデザインの大谷石のブロックも展示されている。
また、ライトがデザインしたテーブルウェアや椅子、建設当時の写真や現場の職人たちを描いたアートニン・レーモンドによるスケッチなど、当時の世相を知る上で貴重な資料も豊富に並ぶ。
「ユーソニアン・オートマチック」の可能性。安価に開かれた建築を届けるために
「手頃な価格で建てられるユーソニアン・ハウスには、大地の延長上に低く平らに伸びていく感じはあっても、仰々しさはこれっぽっちもありません。この住宅は、つねに地平線とともにあるのです。維持費がそれほど高くならないとして、床暖房を施したこのような家が大地とともにさらに伸び広がっていったとしても、そこにある心地よさや調和の美が損なわれることはありません。」
(著:フランク・ロイド・ライト 訳:三輪 直美『有機的建築』 2009年 筑摩書房)
5つ目のセクションは「ミクロ/マクロのダイナミックな振幅」。ライトのユーソニアン住宅が紹介される。ユーソニアとは、「アメリカ合衆国」の頭文字を取ったライトによる造語で、特に北米の文化先進的な地域を示す言葉として使われている。ユーソニアに住む市民に低価格住宅を届けるためにライトが発案した。本展ではユーソニアン住宅の一部が再現されており、椅子やベンチに座ることもできる。
ライトは生涯にわたり、全体が部分のために、部分が全体のためにあることを重視した。そして、両者を結びつける手段として、幼少期の頃に手にした積み木の存在を挙げている。ユーソニアン住宅では、コンクリート・ブロックが建築界のオープンソースとも言える発想で用いられており、ライトの先見性を感じさせる。
ライトは自然を尊びながらも工業による省力化や、工業により自然の魅力を引き出すことに果敢に取り組んだ。そうして生まれたのが、素人でも利用できる単純で自由度の高いセルフビルドのシステム「ユーソニアン・オートマチック」だ。
自然が建築哲学の根底にあるライトには意外かもしれないが、ライトは民主主義の原動力として、工業を評価していた。また無機質に見えがちなコンクリートの機能性にも着目し、自然の風合いを添え装飾も加えながら拡張性を伴うテキスタイル・ブロック・システムを発案する。「テキスタイル」には、「織るように施工する」という理念が込められている。ミラード夫人邸「ミニアトゥーラ」はテキスタイル・ブロック・システムの初期の例だ。緑の生い茂る中に、コンクリートブロックが慎ましく並び、心地よいリズムを生み出している。
原始的な手法にとらわれず、ライトは新しいものに中立的に接し、必要な技術は適宜取り入れている。それは、標準化が自然の叡智の一つであることを知っていたからだろう。標準化について、ライトは日本建築を例に次のように言及している。
「現代の標準化というプロセスは、いまやあらゆる方面で我々が直面し、それにより去勢されて服従させられるものとなっていますが、日本では何世紀も前から選択の自由によって知られ、芸術的な完成度を持って実践されており、それはいま検討しているこの住居にも見られます。この日本建築における可動式(掃除のため)の床マット、あるいは「畳」はすべて、九十センチ×百八十センチという一つのサイズになっていました。あらゆる住居の形は、このマットの組み合わせの大きさと形で決まっていたのです。」
(著:フランク・ロイド・ライト 訳:山形 浩生『フランク・ロイド・ライトの現代建築講義』 2009年 白水社)
6つ目のセクション「上昇する建築と環境の向上」では、ライトの高層建築に焦点が当てられる。
歴史を振り返れば、高層建築は長らく権力の象徴として建立されてきた。現在もなお、バベルの塔さながら、各国が競り合うように高層建築が生まれ続けている。そうした建築は、水平を重んじたプレーリー・ハウスを手がけ、有機的建築を謳ったライトの作品とは縁遠く感じる人もいるかもしれない。しかしながら、ライトによる高層建築は際限ない欲望の境地とは異なり、一貫して有機的建築が実践される。
ライトの垂直に対する思想を窺える言葉が残されている。少し長くなるが以下に引用したい。
「人間の到達範囲や移動の自由、したがって行動範囲としての人間の地平は、機械がもたらした新サービスのおかげで、たった十年で計り知れないほど広がりました。水平性は人間活動を計り知れないほど広げる勢いを得たのです。したがいまして、もともと都市を造った集中の必要性は終わりに近づいています。でもこうした移動設備――機械の我々への贈り物は、いまのところ、古い活動を強化しただけです。
我々は実際、機械主義的な因子の避け難い衝突を目撃しているのです。
闘争は始まっています。これで生じた追加の人間圧力は、宙に高く積み上がることで浅はかにも捌け口を見いだします。どんな緊急事態でも、人間の浅はかな傾向は、じっとしているか、逃げ出すかです。確かに我々は、その場にじっとして上に積み上がるか、あるいは衝突から逃げ出して、生き延びて戦いは別の日にまわそうとします。じっと動かないという人間の性癖に対応するために摩天楼が生まれ、そして見てきたように、それは圧政となっています。しかし摩天楼は、逃げだそうとする人間にも同じくらい役に立ちます。」
(著:フランク・ロイド・ライト 訳:山形 浩生『フランク・ロイド・ライトの現代建築講義』 2009年 白水社)
高層建築は、圧政すなわち権力と容易に結びつけられやすい存在だが、都会に住む人間にとって逃げ場、シェルターとしての機能を果たす場合がある。
ライトは、オクラホマ州バートルズヴィルにあるプライスタワーを「密林から抜け出た樹」と呼んだと言う。ライトにとって高層建築とは、都会の人間が山を目指す境地と地続きの発想だったのかもしれない。
樹木になぞらえた高い柱が印象的な「ジョンソン・ワックス・ビル」。オクラホマ州バートルズヴィルにある「プライスタワー」。実現には至らなかった「マイル・ハイ・イリノイ」計画案や「ゴールデン・ビーコン・アパーメント・タワー」計画案。特に計画に終わった「マイル・ハイ・イリノイ」は、プレーリー・ハウスとは対照的な程に鋭く屹立し、どこか近未来に迷い込んだかのような異様さを放つ。気高く立ち上がるこの建築が実現していた未来を想像するのも面白い。本建築と形状が酷似している「花入れ」も飾られているため、併せて楽しみたい。
最後のセクションは「多様な文化との邂逅」だ。ここでは、イラクのバグダッドやイタリアなど、諸外国で進んでいたライト建築の計画案が展示されている。王政の崩壊により実現には至らなかったが、バグダッドの計画案は8世紀の円城都市に着想を得た壮大なスケールのもので、オペラハウスや大学を含む文化拠点を提案したという。また、イギリスやオランダで催されたライトの展覧会や出版書籍などの資料が並び、ライト建築が世界に与えた影響を伝える。加えて、タリアセンを訪れたフィンランドの建築家でデザイナーのアルヴァ・アアルトがライトに寄せた書簡や、イタリアの建築家カルロ・スカルパとの写真など、著名なアーティストとの交流も認められる。
らせんが伝える生命の美。自然こそ、建築が生まれる源泉
最後に、ライトの代表作として名高いアメリカ・ニューヨークのグッゲンハイム美術館に象徴される、らせん状の建築を取り上げたい。グッゲンハイム美術館の流線がカタツムリの殻に着想を得ていることは有名な話である。館内のスロープを歩いていくと、人々は自然と街へと出る構造になっている。直線を有機的に扱う幾何学文様の名手だったライトの建築において、自然の影響が顕著に現れた建築であり、その穏やかに弧を描く姿は観る者を惹きつけてやまない。
展示では、同じくらせん状の建築である「ゴードン・ストロング自動車体験娯楽施設とプラネタリウム計画案」を目にすることができる。なお、これらの作品は、セクション5の「ミクロ/マクロのダイナミックな振幅」にて展示されている。
ライトは晩年、タリアセンの講義で生徒たちに数々の貝殻を見せ、以下のように語った。
「この美しい、無限の変化に富んだたくさんの小さな「家」をよく見てごらん。確かに貝という下等生物の家ではあるけれど、このささやかな例証は、生命の驚くべき発露だとは思わないかね?目眩がするほどの多種多様なフォルム、その着想はどこから来るのだろうか?それは着想というよりは、一つの原理ではないだろうか?この多様性に限界はあるのだろうか?いや、ないのだ。」
(著:フランク・ロイド・ライト 訳:三輪 直美『有機的建築』 2009年 筑摩書房)
これらの言葉には、ライト建築の本質がシンプルに表現されているように思われる。
本展を訪れると、自然と建築の関係や、教育、都市の行方について、自ずと思い馳せることだろう。あるいはライトに影響を与えた日本文化に対し、新鮮な関心が芽生える人もいるかもしれない。ライトは日本の影響を認めなかったという見方もあるが、キャリアの全貌を見通せば、生活様式を含めて日本に深い感銘を受けていたことが見えてくる。理想郷は、日本の中にすでに存在するのかもしれない。日本で暮らす人々が、自然と共に発展した長年の生活様式を見つめ直すきっかけとしても本展は意義を持つだろう。
そして何より、ライト建築の魅力を体感しに出かけたくなるはず。幸い日本にはライトの建築が複数保存されている。本展にてライトの建築や思想に触れ、実際に足を運び、よりライト建築の魅力を堪能してほしい。
- 美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
- パナソニック汐留美術館|Shiodome Museum
105-8301 東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
開館時間:10:00〜18:00(最終入館時間 17:30)
休館日:水曜日 ※ただし3月6日(水)は開館