常設展示が新たな平安仏を加えて進化
。特集展示では至高の彫刻、絵画、経典を初披露
「初公開の仏教美術―如意輪観音菩薩像・二童子像をむかえて―」
半蔵門ミュージアムにて2024年4月14日(日)まで開催

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構成・文・写真:森聖加
半蔵門ミュージアムが、特集展示「初公開の仏教美術―如意輪観音菩薩像・二童子像をむかえて―」を開催している。あわせて、これまで鎌倉時代に活躍した天才仏師・運慶作と推定される重要文化財《大日如来坐像(だいにちにょらいざぞう》を中心に展開してきた常設展示「祈りの世界」もリニューアルされた。初公開となった至高の仏教美術を紹介する。
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- 初公開の仏教美術 ―如意輪観音菩薩像・二童子像をむかえて―
開催美術館:半蔵門ミュージアム
開催期間:2023年11月22日(水)〜2024年4月14日(日)
区切りの年に初公開される秘蔵の仏教美術
半蔵門ミュージアムは、真如苑真澄寺(東京・立川市)が所蔵する仏教美術を一般に公開することを目的とした文化施設だ。2018年の開館から5周年の今年は、実はさまざまな節目と重なっていると館長の山本勉氏は説明する。ひとつは、同館を代表する仏像で、運慶作と推定される重要文化財《大日如来坐像》の存在が世に明らかになって20年目。このとき個人が所蔵していた像を初調査したのが山本氏であった。さらに、像が真如苑の所蔵となったのが2008年で、15年の年月が流れた。さまざまな節目にあわせて開催されるのが「初公開の仏教美術―如意輪観音菩薩像・二童子像をむかえて―」であり、秘蔵の仏教美術が展示される貴重な機会である。

展覧会タイトルに掲げられ、常設展示リニューアルで新たに加わった《如意輪観音菩薩坐像(にょいりんかんのんぼさつざぞう》《二童子立像(にどうじりゅうぞう)》は、いずれも京都・醍醐寺(だいごじ)から2019年に真如苑に寄贈されたもの。修理を経て、満を持しての今回のお披露目となった。

醍醐寺の開祖聖宝が最初に安置した二尊のうちのひとつと伝えられ、同寺にとってきわめて重要な仏が、如意輪観音菩薩である。初公開の《如意輪観音菩薩坐像》は、通常の如意輪観音に見られる輪王坐(りんのうざ※)とは異なり、右足を左のももの上にのせ、さらには左足を踏み下げており、飛鳥時代の金銅仏、菩薩半跏像(ぼさつはんかぞう)に通じる姿だと山本氏は指摘する。展示に先立つ修理では、髻(もとどり※)の内部から舎利(しゃり※)と舎利容器が発見された。また、顔の部分に後世に盛られていた木屎漆(こくそうるし)を除去し、造像された当初の中国風の表情も明らかになっている。
※輪王坐=右足を立膝にして、左の足裏に右足をのせて坐る
※髻=仏像の髪型で、頭上に髪の毛を束ねる
※舎利=お釈迦様の遺骨のこと

かつて仕えた不動明王と再会した二童子
一方の、制吒迦童子(せいたかどうじ)と矜羯羅童子(こんがらどうじ)の《二童子立像》は、1624(寛永1)年に醍醐寺にもたらされたといわれるもので、従来より半蔵門ミュージアムの地下1階常設展示「祈りの空間」に陳列され、同じく醍醐寺に由来する《不動明王坐像》の脇侍だった時期もあるという。このたびの公開で、《不動明王坐像》との再会が果たされたのだ。
《二童子立像》は、《不動明王坐像》とは作風が異なっており、修理による汚れの除去によって彩色と切金がよりよく見えるようになった。ガラスケースなしでの展示なので、細部にじっくりと目が凝らせるのがありがたい。その優雅な姿から、造像は京都の一流仏師の手によるもので、制作年代は《不動明王坐像》からさかのぼる11世紀末から12世紀初め頃と山本氏は推定している。写実を極めた鎌倉時代の運慶作《大日如来坐像》とつくりの違いを比べるのもまた楽しいだろう。

模型が明かす、運慶造像のひみつ
常設展示のリニューアルでは、《大日如来坐像》の像内納入品原寸模型が同じく初公開となった。《大日如来坐像》は運慶が考案し、造像に取り入れた上げ底式内刳り(あげぞこしきうちぐり)という方法で制作され、像の内部に心月輪(しんがちりん)という仏像の魂が納められている。しかし、それを眼で観ることは叶わない。X線断層撮影やボアスコープ画像撮影という最新の科学的調査に基づいて制作された模型によって、運慶が仏像内部で仕掛けた工夫が誰の目にもわかりやすく紹介されることになった。

上部に五輪塔形にかたどった木札が立ち、中ほどに水晶でできた珠、心月輪が留められている。
特集展示の経典、彫刻、絵画の見どころ
今期は、いずれも初公開となる彫刻、絵画、経典を集め、力の入った展示となっている。特に絵画の展示で希少なもののひとつが、《当麻曼荼羅(たいままんだら)》だ。当麻曼荼羅とは、奈良の當麻寺(たいまでら)に原本が存在することからそのように称され、鎌倉時代以降、多くの人々が阿弥陀浄土への往生を願って原本を写し、各地に普及した。

展示作品は縮小サイズの写本で、中央に大きく阿弥陀浄土(極楽)を表し、これを囲んで左に「釈迦説法図」、右に「十三観」などのように『観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)』の所説が描かれている。そして、下部右側には、原本の当麻曼荼羅の本願(制作を志した人物)として言い伝えられる中将姫(ちゅうじょうひめ)の肖像が加えられている。これが他の写本にはない珍しいポイントという。
進化した常設展示とひとつながりで構成される空間で、心静かに仏に触れる時間を楽しみたい。

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https://www.artagenda.jp/feature/news/20231015