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モードの帝王、イヴ・サンローランの歴史を余すことなく体験

「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」が国立新美術館にて、2023年12月11日まで開催中

展覧会レポート

「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」  展示風景より
「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」 展示風景より

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1958年にクリスチャン・ディオールの急死をうけ、ディオールのデザイナーとして鮮烈なデビューを飾ったイヴ・サンローラン。1962年に自身のブランド「イヴ・サンローラン」を発表して以来、2002年の引退まで約半世紀にわたって世界中の女性のファッションに革命を起こしたサンローランの展覧会が、六本木の国立新美術館にて開催中だ。

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イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル
開催美術館:国立新美術館
開催期間:2023年9月20日(水)~12月11日(月)
オフィスでのイヴ・サンローラン、パリのマルソー大通り5番地のスタジオにて、1986年 
© Droits réservés
オフィスでのイヴ・サンローラン、パリのマルソー大通り5番地のスタジオにて、1986年 
© Droits réservés

本展はイヴ・サンローラン美術館パリの全面協力を得て、没後日本で初めて開催される大回顧展。クリスチャン・ディオールに認められて愛弟子として経験を積み、わずか21歳で衝撃的なデビューを果たして以来、美術作品や舞台芸術、日本にも影響を受けながら独自のスタイルを確立する40年にわたる歴史を110体のルックやアクセサリー、ドローイング、写真を含む262点によって、12章構成で余すところなく紹介。サンローランの半生のみならず、革新的なスタイルを提案した彼のクリエーションの全貌と、現代女性のファッションの変遷をたどることができる内容だ。

現代へと続く女性の普遍的なスタイル

サンローランがもたらした変革のうち1つが、当時まだ男性のものという認識が根強かったパンツスタイルを積極的に取り入れたことだ。共にブランドを立ち上げ、公私ともにサンローランのパートナーでもあったピエール・ベルジェは、「ココ・シャネルは女性に自由を与え、イヴ・サンローランは女性に力を与えた」と二人の偉大なるデザイナーへの賛辞を送っている。

ボーティング・アンサンブル ファースト・ピーコート 1962年春夏オートクチュールコレクション 
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger
ボーティング・アンサンブル ファースト・ピーコート 1962年春夏オートクチュールコレクション 
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger

1966年にはパリにプレタポルテ(既製服)の初のブティックをオープン。サファリ・ルックやパンツスーツ、ピーコート、トレンチコートといったアイテムを定着させ、衣服が持つジェンダーのイメージを超越したデザインによって、時代が求める新たな女性らしさを先駆的に生み出した。展覧会の第2章「イヴ・サンローランのスタイル アイコニックな作品」では、サンローランが提案したタイムレスなルックが並び、現代の私たちの馴染みあるスタイルがその手によって生まれたことがわかる。

「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」  展示風景より
「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」 展示風景より

芸術作品から着想を得たスタイルの確立

また、サンローランはモンドリアン・ルックに代表されるような美術作品とファッションの融合を提案することで、伝統的なオートクチュールモードの世界に新風を吹き込んでいる。時には自身が好んだ芸術家と作家たちとの対話を確立し、彼は様々なコレクションで彼らを「引用」した。1965年から1969年のコレクションでは画家であるモンドリアン、ポリアコフ、ウェッセルマンを参照し、1979年から1989年の間にはピカソ、マティス、プラック、ファン・ゴッホ、そして詩人であるコクトー、アポリネール、アラゴンへ敬意を表したコレクションを発表。サンローランは作品を引用したファッションについて、「なぜなら、彼らと私の作品には、非常に多くのつながりを感じていたからです。」と語り、デザインのなかで彼らに親愛の念を示した。芸術作品とオートクチュールにつながりを作ることで、ファッションは絵画や彫刻、建築といった芸術分野と同様に価値あるものだとし、作品から受けたインスピレーションを生き生きとしたファッションによって表現したのだ。

カクテル・ドレス―ピート・モンドリアンへのオマージュ 1965年秋冬オートクチュールコレクション
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger。
カクテル・ドレス―ピート・モンドリアンへのオマージュ 1965年秋冬オートクチュールコレクション
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger。

第4章「想像上の旅」には、ロシア、スペイン、モロッコ、南アフリカといった国々からインスピレーションを得たルックが並び、様々な国のエキゾティックなエッセンスがサンローランのデザインの形、素材、布や大胆な色合いへと影響を与えたことがわかる。さぞかし色々な国を旅していたのだろうと思いきや、意外にもサンローランはモロッコのマラケシュにいく以外の旅行は好まず、彼にとって最も美しい時間を超えた世界旅行は美術作品の熱心な収集やリビングでの読書を通じた、机上のものだったという。想像上の遥か遠い国のデザインを、幻想で表現したとも言える。編み込みのキルティングジャケットや、ファーブーツ、身体に巻きつけるケープ、スカーフやターバンなどは、時代を超越したサンローランのスタイルをより豊かなものにし、作品に不可欠な要素となっている。

「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」  展示風景より
「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」 展示風景より
アンサンブル 1989年春夏オートクチュールコレクション © Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger
アンサンブル 1989年春夏オートクチュールコレクション © Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger

展覧会のはじまりである第0章「ある才能の誕生」では、幼いサンローランと母の肖像や、若きサンローランが16歳ごろに作成したペーパードールと、その人形のための紙でできたワードローブなどが並び、この頃から服に対する情熱と、輝くような才能の片鱗が見られた。20世紀後半、ファッション界に革命を起こしたサンローランが青年時代からどのようにその才能を育み、成長していったのか。大量のスケッチとそれぞれの部屋にずらりと並ぶルックから、そのクリエーションの変遷を辿ることのできる展覧会となっている。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
国立新美術館|The National Art Center, Tokyo
106-8558 東京都 港区六本木7-22-2
開館時間:10:00〜18:00 ※毎週金・土曜日は20:00まで 
休館日:火曜日

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